閃いた日 ⑦-2-1
私は蜥蜴幼女に園芸の初歩を指導後まっすぐ家の中へ。
――前回は色々思うところがあってカレーをやめたが、もういいだろう。
今日はなんだか私もカレーを食いたい。農業大臣に就任させた蜥蜴幼女に対し今更情報漏洩を危惧するというのも馬鹿馬鹿しい話だ。アレには今後、私の代わりにたくさん野菜を作ってもらわなければいけないのだから。
――李雫の実効果かもしれないな。
蜥蜴幼女と半分に分け(?)試食した李雫の実。口の中に残るかすかな後味が私の食欲を刺激していた。
そういえば蜥蜴幼女にはしばらくカロリーメイドだの
――今日は本格カレーを作ろう。
蜥蜴幼女は何を出しても喜んで食べるのでレトルトカレーでも事は足りるだろう。しかしハンバーグを出した時アレは腰を抜かすほど喜んでいた。それを見てしまったからだろうか、私は蜥蜴幼女が本格カレーにどんな反応を示すのかを知りたくなってしまっている。
ルーから作る。私の知りうる最高のスパイス調合術をもって最高の仕上がりにして見せる。そう意気込んで始めた調理。
そのさなか。私は農作業で汚れている自分に気が付いてはっとした。
先に風呂に入ればよかったという後悔。と同時に――ふと自分が、自分の想像以上に料理をしたがっていた事実に気がついた。
私は何故、蜥蜴の人間擬きの為に料理に取り組んでいるのだろう。それも鼻歌交じりで。
苦笑を禁じ得ない。悔しいけどもしかすると、私は自分で思っている以上にチョロインだったのかもしれない。くっそ、くっそ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夕方。
私は今、異世界で超常現象を目にしている。
「これはなかなかに美味であるな」
「激しく同意であります、すごくおいしいのであります!」
蜥蜴幼女を風呂に入れて、夕食を用意して、そういえば福神漬けを忘れたなと思って台所へ移動して皿に盛り付けた福神漬けを持って戻ってきたら食事が始まっていた。
蜥蜴幼女が一人でフライングした感じではない。
たぶんアイツの性格的に、もう一人が食事を開始したのを見て釣られたのだろう。
もう一人というのは、今私の席に座って現在進行形で飯を食っている人型のことだ。
ちゃんと行儀よく座りちゃんとスプーンを使いちゃんとカレーを口に運び咀嚼なんかしている人型。
小学生か中学生かって感じのおめめパッチリ若干釣り目なちょっと意地悪そうで悪戯好きっポイ顔をしている人型。
お声はいつか聞いたことのあるハスキーボイス。
私の脳裏によみがえるのはいつか夢で見た一人ハッスル祭りの喘ぎ声。
デジャヴかな? でもその姿は、どう見てもラブドール。赤と白基調神楽ダンス用巫女服ベース仕立てなファンタジー風ワンピース衣装は胸元が広く露出していて、そこにタグがチラチラとこちらに向かってこんにちは。
「こんな美味な供え物は初めてじゃ。お主は料理の天才じゃな」
「あ、コスギ殿! お先にいただいているであります!」
「え、ア、……うん」
私は何事もなかったかのように福神漬けをテーブルへ。
「それは何でありますか?」
「え、と、これは漬物と言ってですね、カレーのアクセントとして食べるんです」
「どれどれ」
テーブルに置いた皿に手を伸ばすラブドール。福神漬け用のスプーンを掴み福神漬けを取り、自分のカレー皿に福神漬けを投入。
その後福神漬け用のスプーンを戻し、自分のスプーンで少し福神漬けを食べる。
「甘じょっぱいのう。しかしこのやや辛い食べ物に合う。うむ。素晴らしい」
「あ、私も貰うであります」
何事もなく進む自然な食事風景。
私はテーブル横に置いてあるワゴンの上のカレーの入った鍋と炊き立てのご飯が入ったお櫃から、それぞれを予備の皿に盛り付けカレーライスを完成させる。
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