無かったことにしたい日 ⑥-2-3

――待って。今、エルフって言った?


お前、私を庇ってくれるというのか、散々お前のことを無碍に扱ってきたこの私を――。というちょっとイイ感じ風な感慨も確かに湧いた。


だが私の耳は、それ以上にインパクトある言葉を蜥蜴幼女のセリフの中に見出してしまった。


「少なくともこの見た目をしてハイオークと認識できないのはお前たちが森の引きこもりだからでありましょう。己の愚を棚上げしてコスギ殿をオーク風情と同一視するなどお前たちは滑稽極まる道化であります」


おい。なんでお前もオーク縛りなのだよ。オークから離れろよ。色々台無しだよ。お前を見直しかけた私のトキメキを返せ。


「なっ! 言わせておけば人族の幼生体が! 少し痛い目を見なさい! 彼の者に裁きを――《金弾ライトニングボルト》」


金髪ロリ碧眼美少女改め生理用品みたいな名前の女がまた魔法をぶっ放した。


ちょっとあんまりなフォローだったから私も蜥蜴幼女は痛い目を見ればいいと同意し黙って見てた。ら、蜥蜴幼女は金の弾を片手で横に弾き飛ばした。


「はぁっ?!」


「っ…………」


うん。私も驚いた。吹き出すのをぎりぎりでこらえたが――あれって触れるんだ? ――と頭の中はクエスチョンマークでいっぱいであった。


「あんた……何者?!」


「私はここにいるコスギ殿のオンナであります。お前がオーク呼ばわりしたのは私の旦那様でありますよ」


「あの雲雀さん? そういうのは虚言と言ってですね――」

「お前たちは今から皆殺しにしてやるから覚悟しろであります」


私の反論を待たず前へ歩み出る蜥蜴幼女。


たいして後ずさる生理用品みたいな名前の女。


この世界のエルフってばこれがスタンダードなのか。出会い頭にイケイケでかましてくるところなんてb級ヤクザ映画の冒頭にでてくるチンピラさながらだ。エルロンドとは似ても似つかない名前負けエルフだ。


そもそも今にして思えば魔物だの人同士のチャンバラだのこの世界は初めから殺伐としていた。もしかしてこの世界ってファンタジーの皮をかぶった任侠世界なのでは。いきなり唐突に濡れ場シーンとか挿入されちゃう系世界だったりするのでは。そう思わざるを得ない。もう進行が乱暴すぎて筋がわからない。僕の頭ン中はもうぐるぐるさこの両手から零れそうなほど君に貰った愛はどこに捨てよう?


「あ、あんたたち! ぼやっとしてないで! このガキをひっとらえなさい!」


生理用品みたいな名前の女の号令で洞窟の外から一斉に飛び込んできたのはエルフの成人男性たち。


狙いは蜥蜴幼女。絵面はまさに幼女に群がる危険なロリコン。なのだがあれおかしいぞ。エルフの成人男性の顔が良いからかぱっと見幼女を性的に追い詰めるといった陰湿な構図のはずなのにそういった雰囲気がまるでない。


あぁこれが「イケメンだから許される」というやつか。


はは。


ふざけんなよイケメン。


死にてぇのかイケメン。


ぶちのめすぞイケメン。


と私が内心でドロドロの溶岩のようなイライラを燻ぶらせていたら。


「おまえたちエルフの魔法がごっこ遊びだという事を教えてやるであります――《雷弾トロン》」


蜥蜴幼女のワンアクションで五つの煌めく小さな玉が現れたかと思うと、そこから迸った稲光が成人エルフらを貫いた。


遅れて空気を引き裂く渇いた雷の落ちる音が洞窟内に響く。


「はぁ?! は、わわわ……」


その一瞬の出来事に腰を抜かした生理用品みたいな名前の女が地面に尻もちをついた。


そんでやや遅れて、ロリがケツを置いてる座標を中心にみるみる小さな水たまりが出現。


あららー。うん、南無です。

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