無かったことにしたい日 ⑥-2-2
「魔法使いではないですね。多分どなたかと勘違いされているのではないかと。ですので私たちは見逃していただけませんでしょうか」
魔道具の質問には触れない。断固として触れない我が信念にかけて。
「馬っ鹿じゃないのあんた! あんたみたいな怪しいオーク見逃すわけないでしょうが。その魔道具を置きなさい。そうしたら苦痛なく殺してあげるわ」
「えぇっと?」
なんてことだ。私を殺してまで奪いたいというのか【俺の如意棒】を。見た目美少女なのに大人のオモチャにご執心とか残念が過ぎる。もはや悪夢だ。
確かに私は会社員時代によく「死ねばいいのに」と陰口を叩かれていた。しかしこんなに包み隠さないド直球な殺害予告は初めてだ。黙って命乞いをしておくべきかもしれない。
「いやそれは困りますのでご勘弁ください。それとあの、さっきからすみません。私オークじゃないです。こう見えて人間なんですが」
「はぁ?! あんたみたいな禿げちらかした黄色いデカブツが人間なわけないじゃない! そんな嘘で騙そうとするなんてこれだから低能種族は! このハゲェ!」
「…………」
おうふ。
やらかした。火に油を注いでしまった。
そうですよね。この世界での私の風貌は既に人間認定されない域に達しているのですよね今更理解したわ。
なんだろねこのハードすぎる設定。某女性衆議院議員Tバリの一声に我が心某政策秘書の如し。にわかにブロークンマイハート。私はもう色々散々過ぎて反論する気力もなくなってしまった。もう無理だ。もう駄目だ。僕はもう疲れたよパトラッシュ。
私がすべての思考を放棄し、体から力が抜けきったその時。スっと何かが私の前に出た。
「低能種族はそっちでありますよ? エルフ風情が何を粋がっているでありますか」
そこへ出てきたのは蜥蜴幼女だった。
――待って。今、エルフって言った?
お前、私を庇ってくれるというのか、散々お前のことを無碍に扱ってきたこの私を――。というちょっとイイ感じ風な感慨も確かに湧いた。
だが私の耳は、それ以上にインパクトある言葉を蜥蜴幼女のセリフの中に見出してしまった。
「少なくともこの見た目をしてハイオークと認識できないのは、お前たちが森の引きこもりだからでありましょう。己の愚を棚上げしてコスギ殿をオーク風情と同一視するなど。お前たちは滑稽極まる道化であります」
おい。なんでお前もオーク縛りなのだよ。オークから離れろよ。色々台無しだよ。お前を見直しかけた私のトキメキを返せ。
「なっ! 言わせておけば人族の幼生体が! 少し痛い目を見なさい! 彼の者に裁きを! ――《――
金髪ロリ碧眼美少女改め生理用品みたいな名前の女がまたバスケットボール大の金玉をぶっ放した。
ちょっとあんまりなフォローだったから私も蜥蜴幼女は痛い目を見ればいいと黙って見てた。ら、蜥蜴幼女は金の弾を片手で横に弾き飛ばした。
「はぁっ?!」
「っ…………」
うん。私も驚いた。吹き出すのをぎりぎりでこらえたが、私の時とは違って玉は、湾曲した重い鍋をでかいハンマーで叩き落としたかのような音を立てて霧散した。――私の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいである。
「あんた……何者?!」
「私はここにいるコスギ殿のオンナであります。お前がオーク呼ばわりしたのは、私の旦那様でありますよ」
「あの雲雀さん? そういうのは虚言と言ってですね――」
「お前たちは今から皆殺しにしてやるから覚悟しろであります」
私の反論を待たず前へ歩み出る蜥蜴幼女。
たいして後ずさる生理用品みたいな名前の女。
この世界のエルフってばこれがスタンダードなのか。出会い頭にイケイケでかましてくるところなんてb級ヤクザ映画の冒頭にでてくるチンピラさながらだ。エルロンドとは似ても似つかない名前負けエルフだ。
そもそも今にして思えば、魔物だの人同士のチャンバラだのこの世界は初めから殺伐としていた。もしかしてこの世界ってファンタジーの皮をかぶった任侠世界なのでは。いきなり唐突に濡れ場シーンとか挿入されちゃう系世界だったりするのでは。そう思わざるを得ない。もう進行が乱暴すぎて筋がわからない。僕の頭ン中はもうぐるぐるさこの両手から零れそうなほど君に貰った愛はどこに捨てよう?
「あ、あんたたち! ぼやっとしてないで! このガキをひっとらえなさい!」
生理用品みたいな名前の女の号令で洞窟の外から一斉に飛び込んできたのはエルフの成人男性たち。
狙いは蜥蜴幼女。絵面はまさに幼女に群がる危険なロリコン。なのだがあれおかしいぞ。エルフの成人男性の顔が良いからか、ぱっと見幼女を性的に追い詰めるといった陰湿な構図のはずなのにそういった雰囲気がまるでない。
あぁこれが「イケメンだから許される」というやつか。
はは。
ふざけんなよイケメン。
死にてぇのかイケメン。
ぶちのめすぞイケメン。
と、私が内心でドロドロの溶岩のようなイライラを燻ぶらせていたら。
「おまえたちエルフの魔法がごっこ遊びだという事を教えてやるであります――《――
蜥蜴幼女のワンアクションでバチバチとアーク放電している五つの煌めく小さな玉が現れたかと思うと、それらから迸った稲光が成人エルフらを貫いた。
遅れて、空気を引き裂く渇いた雷の落ちる音が洞窟内に響く。
「はぁ?! は、わわわ……」
その一瞬の出来事に腰を抜かした生理用品みたいな名前の女。地面に尻もちをつき、やや遅れてロリがケツを置いてる座標を中心にみるみる小さな水たまりが出現。
あーららー。うん、南無。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます