無かったことにしたい日 ⑥-2-2

「おぉっと!」


迫ってくる光る丸い何か。慌てて私は腰に下げていた護身用の棒でその塊を打ち払う。


光は棒に触れると消滅した。


「はぁ? なによそれ……」


――何よそれ、はこっちのセリフだわ! 今の何? 手品?


急だったので思わず打ち払ってしまったが今のはなんだったのか。まぁエリーちゃんが選んだえっちグッズ【俺の如意棒】で壊れてしまうくらいだからただのいたずらだったのだろうとは思うが、何かを叩いたような手ごたえはなかった。プロジェクションマッピングなら叩くことで消えはしないだろうし、何なのか全く見当がつかない。


「あの、私たち急いでいるのでもう失礼してもよろしいでしょうか?」


いきなりマジックしてくるとか押し売りサプライヤーかな。この後霊験あらたかな壺でも売りつけようという算段なのかな。確かに初めて見る手品には驚かされたけど、悪いがそんなものでは私は騙されない。いやこれで騙される人間は少ないのではないかと思う。だってこのロリってば終始上から高圧的な態度のままなのだもの。


目の前の美少女はこちらと友好的な関係を結びたいという態度ではない。むしろ割と敵意満々に見える。これでコロっといっちゃうのはロリコンくらいなものだ。世の中にはそれがいいという変態紳士もいるだろうからまぁ策としては悪くはあるまい。だが、私はソレではない。そういうのにはなんの萌も感じはしない。むしろ不快である。つまりツボを外したということだ。色々考えたのだろうが敵を見誤ったな小娘。


「……あんた、魔法使い? それとも何かの魔道具?」


金髪ロリ碧眼美少女が私の持っている棒を凝視する。


そのセリフそっくりお返ししたい。マジシャンはそっちだろと。――そしてあんまりこの棒を見ないで欲しい。


いやエリーちゃんに言われるがままこれを持ってきた自分にも非がないわけじゃない気もするけどこれLEDライトがついてるから暗闇で便利かなって思っちゃったのだよ。Gを殺処分するないし追い払うくらいには使えるかなと思って持ってきたのだよ。つまり自衛用と言うことなのだよ。だってまさか鉱山で少女に会うなんてかけらも予測しないではないかJK。だから私に非はないはずだ常識的にJ考えてK。私は無罪。私は潔白――だのに君がそんなにまじまじ見てしまうとだな、あら不思議まるで私がそういう意図で持ってきたいやらしい中年に早変わり。どう言い訳しても周りからはそう見えてしまう構図です。これはもうどこからどう見ても私ったら悪の変態中年ですね本当にありがとうございました。興味津々なお年頃なのは察して余りあるところだけれどこの棒はちょっと思春期の乙女が凝視するようなものではないので本当にやめてください死んでしまいます。


「魔法使いではないですね。多分どなたかと勘違いされているのではないかと。ですので私たちは見逃していただけませんでしょうか」


魔道具の質問には触れない。断固として触れない我が信念にかけて。


「馬っ鹿じゃないのあんた! あんたみたいな怪しいオーク見逃すわけないでしょうが。その魔道具を置きなさい。そうしたら苦痛なく殺してあげるわ」


「えぇっと?」


なんてことだ。私を殺してまで奪いたいというのか【俺の如意棒】を。見た目美少女なのに大人のオモチャにご執心とか残念が過ぎる。もはや悪夢だ。


確かに私は会社員時代によく「死ねばいいのに」と陰口を叩かれていた。しかしこんなに包み隠さないド直球な殺害予告は初めてだ。黙って命乞いをしておくか。


「いやそれは困りますのでご勘弁ください。それとあの、さっきからすみません。私オークじゃないです。こう見えて人間なんですが」


「はぁ?! あんたみたいな禿げちらかした黄色いデカブツが人間なわけないじゃない! そんな嘘で騙そうとするなんてこれだから低能種族は! このハゲェ!」


「…………」


おうふ。


やらかした。火に油を注いでしまった。


そうですよね。この世界での私の風貌は既に人間認定されない域に達しているのですよね今更理解したわ。


なんだろねこのハードすぎる設定。某女性衆議院議員Tバリの一声に我が心某政策秘書の如し。にわかにブロークンマイハート。私はもう色々散々過ぎて反論する気力もなくなってしまった。もう無理だ。もう駄目だ。僕はもう疲れたよパトラッシュ。


私がすべての思考を放棄し、体から力が抜けきったその時。スっと何かが私の前に出た。


「低能種族はそっちでありますよ? エルフ風情が何を粋がっているでありますか」


そこへ出てきたのは蜥蜴幼女だった。

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