無かったことにしたい日 ⑥-2-1

今の若い子らはファンタジー小説というものを勘違いしている。


ファンタジー小説というのは冒険物語である。ないし少年が冒険を通して成長していく叙事詩である。


それは断じて若い美少女を侍らせて子作りする話などではない。好きとか嫌いとか最初に言いだしたのはときメモであってそれはファンタジーにカテゴライズされるべきものではない。ファンタジーとは決して無双して一方的な主観で他者を懲らしめようとする話などではないのだ。


ファンタジー物語というのは主人公が道を見つけ道を探索する姿を通して人の在り方の真理を説く人類への教訓。それが私の持論である。


何事もまず行き先をしっかり決め、そこへ行きたいという願いを行動を以ってはっきりとさせていくことの大切さ。それに気付かせるのがファンタジー小説であり、物語で語られるべき主題キモなのだ。だからこそ【幻想】の名を冠しているのだ。畢竟人生こそが夢幻なのだから。


チートとか言って苦難から逃げるんじゃない。剣だの魔法だのでドタバタして達成感を装うんじゃない。冒険者ギルドなる装置で簡単に認められて褒賞を貰って得意になっているんじゃない。子供のお使いか。ママとパパに褒められて凄いね凄いね言われる子供の日記か。そういうのはやめたまえ。今すぐやめたまえ。今日からやめたまえ。ファンタジーは伊達ではない。


探そうぜドラゴンボール。


手に入れろ天空の城。


この世はでっかい宝島。そうさ今こそアドヴェンチャー。私の心は燃えている。さぁ明日へ飛び出そう! ファンタジー世界で僕と悪手いや握手!


と、私が意気揚々と洞窟から出ようとしたところでだ。


「魔王討伐に来たら薄汚いオークが居るなんてね」


待っていたのはいきなりの罵声。


声の主は洞窟の入り口をふさぐように仁王立ちしている金髪碧眼お肌真っ白美少女。


「おとなしく投降なさい。さもなくば処断するわ」


ここで私はピンときた。相手は美少女。即ちブサメンを舐め切る高飛車生物。おっさんに対し自分が絶対なる存在だと妄信する狂信者。


アレからはお話ししただけで防犯ブザーをちらつかせながらお金を請求してくる現代のならず者らと同類の匂いがする――私の表情も一気に凍り付く。


「えぇっと、どちら様で?」


「あら、私を知らないというの? この地を治める辺境伯リトルフォレストにしてエルヴン皇国の巫女がひとりサラ=サーティ・サラリエとは私のことよ!」


我が人生にこんな嬉しくない出待ちが訪れようとは。エッヘンと言わんばかりに胸を張った金髪ロリ碧眼美少女――サラサーティとやらが不敵に笑う。


あぁこれヤバい奴だ。このロリはさしずめオヤジ狩りを生業とする狩人といったところか。私の第六感が言っている、ここで関わったら死ぬと。アレはおっさんを社会的に殺しに来たバーバリアンであると。


「あ、そうですか。すみません急いでいるので」


先手必勝。私は逃亡の構え。


「ちょっ! バッカじゃないの? 私から逃げられる訳ないじゃない」


無理やりエスケイプしようとする私にロリが激高した。それでも私は全力で見なかったフリ。どうせこの手の女は肯定しても否定しても殺しにくる。ならばもう逃げるしかない。


と、その場を強引に立ち去ろうとする私に対して、金髪ロリ碧眼美少女は指揮棒らしきものをこちらに向けて、呪文の詠唱っぽいなにやらを口から発し始めた。


途端、彼女の周りに金色の光が集まり出す。


「彼の者に裁きを! ――《金弾ライトニングボルト》」


一声大きく張り上げた金髪ロリ碧眼美少女。同時に杖から拳大の金色の塊が放たれた。

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