無かったことにしたい日 ⑥-1-2

「マスター、座標はこのあたりだぞ。だがあの道幅にあの斜面ではそーこーしゃで進むのが難しくなるが、行ってみるか」


「いえここまでで大丈夫です。洞穴が見えますしちょっと歩くだけですから。どんな感じなのか見てきますのでマキちゃんはここで待機していてください」


「あぁ待って欲しいでありますコスギ殿! 私もご一緒するでありますよ」


「いえいえ、雲雀さんもここで――」

「私の体調ならもう大丈夫であります! この身体でもこの辺の獣に後れを取らないまで回復しているでありますよ」


聞き捨てならない事を言う蜥蜴幼女。


最初から五体満足だったように思うけど時間が経つと何かが回復して強くなるの? ここで始末した方がいいのか?


いや待て私。その前に戦力評価をすべきかもしれない。ここでうかつに殺しにいって反撃で怪我なんかしたら藪蛇だ。何もないとは思うが連れて行ってみるか。


「わかりました。それではお手並みを拝見させていただいても?」


「勿論でありますよ!」


そう言った蜥蜴幼女は得意げな満面の笑み。


かわいい。


素で思ってしまった。こいつ、今気づいたけど地味にかわいいぞ、変態でなければ。

コアラ的な意味で。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆




洞穴に入ると奥から規則的な音が聞こえてきた。


ピッケルで石を叩いているような音だ。


音の発生源を求めて歩くと小さな明かりを発見した。


奥へ行くにつれ明るくなっていく。誰かいるのは確実だろう。


私は警戒しつつ歩を進める。


「オークだ。オークがおる」


そこにいたのは工事現場などでよく見るつなぎの作業服をきた人型。ただし背格好は子供。


そして発せられたのも子供の声。


「はて、人間によく似たオークだ。おまけに女の子の竜までおるわい」


「コスギ殿、兎人ラビットでありますよ」


身長一メートル強。ヘルメットをかぶったつなぎ作業服の子供は露出部が白い毛に覆われていて、どう見ても人間の子供ではない。いや、種族が違うから子供かもわからない。フルフェイス型防塵マスクを着けているからわかりにくかったが顔も多分兎だ。


「あの、私たちは鉱石がほしくてここまで来たのですが、もしかしてこの山はあなた方の持ち物だったりするのでしょうか」


「ほぉっほっほ。そりゃあ豪気だなぁ」


「……はぁ?」


兎人は持っていたつるはしをその場に置くと、ランプの置かれている方向へと歩く。


そこにはたくさんの荷物が置かれていて、兎人はその中のカバンをまさぐると中から何やら取り出した。


「さあ。おあがりー」


兎人が何かを二つ投げてよこす。私はそれを受け取った。


「これは?」


「コスギ殿、それは李雫りだの実でありますよ! すごくおいしいのであります!」


私ははしゃぐ蜥蜴幼女に実を一つ渡す。


「このまま食べるでありますよ!」


勝手に食べ始めるトカゲ幼女。毒見係の反応を少し見てみるが、特に苦しむようなそぶりはない。


「…………」

「…………」

「…………」


トカゲ幼女に毒の反応が出ないかを見ていた私。気が付くと兎人とトカゲに期待したようなまなざしで見つめられていた。


――なんだその期待のまなざしは。食べろというのか?


これが同調圧力と言う奴なのか。


雰囲気で、私は何となく果実を一口かじってみる。


りんごほどの大きさの李雫りだの実。かじるとみずみずしく薄味のスモモのようなあんずのような味がした。実の内側はかためのジェルのような食感になっており外側よりも甘さが強い。中心部の味はプラムに近いかもしれない。

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