無かったことにしたい日 ⑥-1-1
洞穴に入ると奥から規則的な音が聞こえてきた。
ピッケルで石を叩いているような音だ。
音の発生源を求めて歩くと小さな明かりを発見した。
奥へ行くにつれ明るくなっていく。誰かいるのは確実だろう。
私は警戒しつつ歩を進める。
「オークだ。オークがおる」
そこにいたのは工事現場などでよく見るつなぎの作業服をきた人型。ただし背格好は子供。
そして発せられたのも子供の声。
「はて、人間によく似たオークだ。おまけに女の子の竜までおるわい」
「コスギ殿、
身長一メートル強。ヘルメットをかぶったつなぎ作業服の子供は露出部が白い毛に覆われていて、どう見ても人間の子供ではない。いや、種族が違うから子供かもわからない。フルフェイス型防塵マスクを着けているからわかりにくかったが、顔も多分兎だ。
「あの、私たちは鉱石がほしくてここまで来たのですが、もしかしてこの山はあなた方の持ち物だったりするのでしょうか」
「ほぉっほっほ。そりゃあ豪気だなぁ」
「……はぁ?」
兎人は持っていたつるはしをその場に置くと、ランプの置かれている方向へと歩く。
そこにはたくさんの荷物が置かれていて、兎人はその中のカバンをまさぐると中から何やら取り出した。
「さあ。おあがりー」
兎人が何かを二つ投げてよこす。私はそれを受け取った。
「これは?」
「コスギ殿、それは
私ははしゃぐ蜥蜴幼女に実を一つ渡す。
「このまま食べるでありますよ!」
勝手に食べ始めるトカゲ幼女。毒見係の反応を少し見てみるが、特に苦しむようなそぶりはない。
「…………」
「…………」
「…………」
トカゲ幼女に毒の反応が出ないかを見ていた私。気が付くと兎人とトカゲ幼女に期待したようなまなざしで見つめられていた。
――なんだそれ。こっちのアクション待ち? 食べるまで待つつもりか?
これが同調圧力と言う奴なのか。
雰囲気で、私は何となく果実を一口かじってみる。
りんごほどの大きさの
――うまいな……想像以上だ。
「これは良いものをありがとうございます。あなたは、この辺りで暮らしている方ですか?」
「ふふっふ。まさかなぁ。そんなことはないなぁ。ワイはぁ、石達が妙に騒ぎおるからぁ、見にきたやがぁ。てばぁ、こういう時にくるなぁは好きやがなぁ」
「岩が、騒ぐ、のですか?」
「ふっほっふ。石達の声は小さぐてなぁ。ふぅー。どれぇ、見せてやるがぁなぁ」
雲雀が兎人と呼んだ小さな人型が、そう言うとつるはしを取りに行く。
手につるはしを持った兎人は、その先端で洞窟の石の壁を打った。
はじけ飛んだ石が青く光る。アイドルコンサートなどでオタクらが振り回すサイリウム程度の光量だ。
「きれいであります!」
「……しかし、一瞬で消えてしまいましたね」
「んむぅ。空気に触れるとすぐにただの石になってしまうがやなぁ」
「空気ですか」
真空なら光り続けるのだろうか。
もしそうなら燃料のいらない光源として利用できるのではなかろうか。
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