無かったことにしたい日 ⑥-1-1

◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇◇◇ リンダ視点 ◇◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆◆


翌日。


集められたのは女性ばかりの騎士隊だった。


その名も、姫騎士直属百合の騎士中隊リリーリッター


実戦投入予定のなかった形だけの貴族の子女で構成された儀仗兵隊をそのまま私につけたようだ。


父上。兵隊は、オークを威圧するための抑止力だったのではないのですか?


どうして淑女ばかりを。


もしかしてこれって、力でオークをねじ伏せるのではなく、えっちな方法で組み伏せろってことなのでは……。


自分の娘をそういう風に使う的なお考えなのでしょうか。


まさかですよね?


「姫様、ご安心くださいませ。妊娠を避ける薬も多数に馬車に積み込んでおります」


出発時、侍女がそんな報告を上げてきた。


えー。


そういうの、男尊女卑だと思うんですけど。


我が子を千尋の谷に突き落とすどころの話ではない。冒険ナニソレオイシイノ? 的所業。


そうですか。まだまだ私の扱いはちょっと豪華な孕み袋程度のものなのですね。


ははは。


はぁ。


もうやだこんな家。


悲報。


我が父、やはり鬼だった。




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東へ向かうこと暫く。ドローンから空撮した映像を手掛かりに装甲車は進む。


悪路の長距離運転はなかなかにきつい。レーダーやら地図やら計器を見ながら、これで運転までしなきゃならなかったらしんどかったなぁ、と私はしみじみ思った。


人形になんでえっちに関係ない機能がついているのかは知らないが――マキちゃんは騎乗位が好きなのでそれに関連する機能なのかもしれない――ケチらず最高級モデルを選択しておいてよかった。


「ところで雲雀さんは南から来られたようですが、南に人間の街はないのですか? もし近くにあるのなら寄ってみたいと思うのですが」


「人間は北にいると聞いてここまで来たのでありますよコスギ殿。途中で見つけていたら多分滅ぼしていたと思うであります」


「あぁ、そういえばそんなようなお話もされていましたね。失念していました。となると、南には人はいないと」


「うーん、どうでありましょう。見かけなかったではありますが」


このあたりを飛んできていたという自称ガイドのトカゲ幼女に話を振ってみたけれど反応はかんばしくない。物語のドラゴンは総じて知能が高いという設定がされているのでちょっと期待していたのだけれど、人間虐殺目的で飛んできたという行動を考えるとそのお約束は当てはまらないかもしれない。むしろ「この幼女は主人公引き立て役の邪竜ポジションなので頭が悪い設定である」と言われたほうがわかりみが深い。


「もし南に人型がいるとすればエルフでありますね」


「え……エルフ?」


エルフって、あのエルフだろうか。エルロンド的な。森に住まう弓の扱いにたけた人種的な。


だとしたらなんかすごいぞ。だってそれって定番じゃないですか。ファンタジーの王道じゃないですか。このままビルボとかスマウグとかガンダルフとかでてきちゃうんじゃないの? 遠くからこっそり見てみたい。もちろん見るだけだ。


「途中で巣を見かけたでありますよ? ここから南にいったところでありますね。だいたいの位置ならわかるでありますが、案内するでありますか?」


「ちょっと興味はありますが……。では、鉱山の件が終わってから案内を頼めますか?」


「任せてほしいであります!」


頭はアレだけど思わぬところで役にたった蜥蜴幼女に私は内心で称賛を送る。ナイス野球少年。エルフの集落発見の折には褒美としてキャッチボールセットを買う権利を与えよう。壁に向かって一人で投げ遊んでほしい。

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