冒険の日 ⑤-3-3

東へ向かうこと暫く。ドローンから空撮した映像を手掛かりに装甲車は進む。


悪路の長距離運転はなかなかにきつい。レーダーやら地図やら計器を見ながら、これで運転までしなきゃならなかったらしんどかったなぁ、と私はしみじみ思った。


人形になんでえっちに関係ない機能がついているのかは知らないが――マキちゃんは騎乗位が好きなのでそれに関連する機能なのかもしれない――ケチらず最高級モデルを選択しておいてよかった。


「ところで雲雀さんは南から来られたようですが、南に人間の街はないのですか? もし近くにあるのなら寄ってみたいと思うのですが」


「人間は北にいると聞いてここまで来たのでありますよコスギ殿。途中で見つけていたら多分滅ぼしていたと思うであります」


「あぁ、そういえばそんなようなお話もされていましたね。失念していました。となると、南には人はいないと」


「うーん、どうでありましょう。見かけなかったではありますが」


このあたりを飛んできていたという自称ガイドのトカゲ幼女に話を振ってみたけれど反応はかんばしくない。物語のドラゴンは総じて知能が高いという設定がされているのでちょっと期待していたのだけれど、人間虐殺目的で飛んできたという行動を考えるとそのお約束は当てはまらないかもしれない。むしろ「この幼女は主人公引き立て役の邪竜ポジションなので頭が悪い設定である」と言われたほうがわかりみが深い。


「もし南に人型がいるとすればエルフでありますね」


「え……エルフ?」


エルフって、あのエルフだろうか。エルロンド的な。森に住まう弓の扱いにたけた人種的な。


だとしたらなんかすごいぞ。だってそれって定番じゃないですか。ファンタジーの王道じゃないですか。このままビルボとかスマウグとかガンダルフとかでてきちゃうんじゃないの? 遠くからこっそり見てみたい。もちろん見るだけだ。


「途中で巣を見かけたでありますよ? ここから南にいったところでありますね。だいたいの位置ならわかるでありますが、案内するでありますか?」


「ちょっと興味はありますが……。では、鉱山の件が終わってから案内を頼めますか?」


「任せてほしいであります!」


頭はアレだけど思わぬところで役にたった蜥蜴幼女に私は内心で称賛を送る。ナイス野球少年。エルフの集落発見の折には褒美としてキャッチボールセットを買う権利を与えよう。壁に向かって一人で投げ遊んでほしい。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「マスター、座標はこのあたりだぞ。だがあの道幅にあの斜面ではそーこーしゃで進むのが難しくなるが、行ってみるか」


「いえここまでで大丈夫です。洞穴が見えますしちょっと歩くだけですから。どんな感じなのか見てきますのでマキちゃんはここで待機していてください」


「あぁ待って欲しいでありますコスギ殿! 私もご一緒するでありますよ」


「いえいえ、雲雀さんもここで――」


「私の体調ならもう大丈夫であります! この身体でもこの辺の獣に後れを取らないまで回復しているでありますよ」


聞き捨てならない事を言う蜥蜴幼女。


最初から五体満足だったように思うけど時間が経つと何かが回復して強くなるの? ここで始末した方がいいのか?


いや待て私。その前に戦力評価をすべきかもしれない。ここでうかつに殺しにいって反撃で怪我なんかしたら藪蛇だ。何もないとは思うが連れて行ってみるか。


「わかりました。それではお手並みを拝見させていただいても?」


「勿論でありますよ!」


そう言った蜥蜴幼女は得意げな満面の笑み。


かわいい。


素で思ってしまった。こいつ、今気づいたけど地味にかわいいぞ、変態でなければ。

コアラ的な意味で。

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