まるっと異世界の日 ④-3-2
私は一通り皿をなめ終えた蜥蜴幼女声をかける。
「いかがですか。お腹は満たされましたか」
「はい。こんなおいしいご飯を食べたのは初めてであります! えぇっと、あなたのおかげであります」
この世界の人らって皿舐めるのがデフォなんだろうか。姫も皿舐めてたしもしかしたらそういう文化なのかもしれない。
ともあれ私は尋問を開始する。
「それはよかった。さて、お互い自己紹介をしていませんでしたね。私は小杉と申します。あなたのお名前をお伺いしても?」
「コスギ、殿! 覚えたであります。私はヒヴァリであります」
笑顔で胸を張る蜥蜴幼女。凄く自信に満ち溢れている。
なんだよそのポーズ。挨拶なの? あとひばりってなんだよ。ドラゴンは恐竜で恐竜は鶏のご先祖様ってのは聞いたことあるけど、名前から鳥類に寄せてくるの狙いがベタ過ぎではなかろうか。大きくなったらポコポコ無精卵とか産んでしまったりするのだろうか。だとしたら献立のバラエティが広がって喜ばしい。と思ったけど次の瞬間にはコイツが卵産む姿を想像してしまい食欲が失せた。
「雲雀さんですか。ところで雲雀さんは、どうしてそのようなお姿に?」
「え?」
「あ、いえ、最初お見かけした時は竜の姿だったと記憶しているのですが」
「あぁそれは、それが私の真の姿でありますから。この身体は仮初のものなのであります。大昔の名残であります。その昔私の一族は竜人と呼ばれる種族だったと母上が言っていたであります。実は私はこうみえて、
「ほう、左様でしたか。ではその、リュウオウ族? の方が、どんなご用件でこちらへいらしたのですか?」
「それは、北にある人間の巣へ向かう所であったのであります」
「なるほど? ちなみに、人間の巣へ赴いて何をなされるおつもりだったのですか?」
「皆殺しでありますよ? 人間を滅ぼそうと思っていたのであります」
「……ほうほう、そうでしたか」
何言ってんだこいつ。
やはり害獣か。屠殺不可避じゃん。
――でもなぁ。
この姿の生き物を殺すのはどうしても抵抗がある。害獣なのに人型生物というところが憎らしい。まるでお手軽スマホゲーム世界の敵キャラのようだ。もっと本格派MMOPCゲームのリザードマンのようにトカゲトカゲしているとか最新型家庭用ゲーム機のヴァイオハザードのように体がいい感じに腐っているとかしてくれていれば即射殺もできたのだが。
――知能はあるみたいだし、話し合いで解決できるかを探ってみるか。
殺すのはやはり最終手段としたい。あぁそうとも私は腰抜けだ。日和ってる自覚はある。でもね、この見た目の生物を殺すのはどう考えてもきつい。人類皆殺しが竜世界において善行か悪行かはわからないが、とりあえず思いとどまることを諭してみたい。だってコイツの動機が子供の我儘的な理由なら、それを教育するのが大人の役割だと思うくらいにして。
「なかなか興味深いお話ですね。ちなみに、なぜそんなことを?」
「人間が私を不意打ちして私の母の形見の首飾りを奪って逃げたからであります。私たちが人間には手を出さないようにという言いつけを守って暮らしているのに、人間はこっちを害してもいいなんて卑怯でありますよ。なので母の形見を返してくれるまで、私は人間を殺すと決めたのであります」
――…………。
おうふ。
このドラゴン、人間に連帯責任を要求されておられる。
蜥蜴に人間の区別なんかつかないという言い分か。コイツ等から見れば全ての人間が悪いって話になるわけか。とすると、このままお帰り頂いたらどこかの人間の国が滅ぶかもしれないと――残念だが、やはりここで殺さざるを得ないのか。
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