まるっと異世界の日 ④-3-3
「ふむ。さようですか。そうしますと、私もお殺しになられますか? 私も人間ですので」
「えぇ!?」
蜥蜴幼女が椅子から転げ落ちるのではないかというオーバーアクションで驚く。幼女がクワっと目を見開くの、不覚にもちょっとかわいいと思ってしまった。
「なっ! コスギ殿はオークでは? オークでありますよね?」
「いえ? 私は人間ですが」
「まさか! 人間はそんな禿げ散らかした頭はしてないでありますよ! 肌の色だって黄色いでありますし! それに顔も肉厚で平たいでありますのに!」
「…………」
こいつ。ナチュラルでディスってきおる。やはりここで始末すべきか。
「コスギ殿は私が母に聞いた人間の特徴とは違いすぎるのであります。むしろオークそのものでありますよね? コスギ殿はオーク、いえ、ハイオークでありましょう?」
「それは、雲雀さんの御母上があまり人間と接点がなかったからなのではないでしょうか。世の中は広いですから、私のような人間も……数は少ないかもしれませんがいるのですよ」
もしここがファンタジーオブファンタジーズな世界なら東洋人なんていないだろう。いても数は少ないに違いない。でもだからといってオーク扱いは行き過ぎなのではなかろうか。明らかなブサメン差別だ。ブサメンレイシャルディスクリミネーション極まりないと思う。
「っ。なんと……確かに、母は、というか私たちはあまり人間と近しくはなかったでありますが……」
信じられない、という表情を崩さない蜥蜴幼女。
信じられないのはこっちだよクソガキ。人間の男はみんな禿げるんだよ。禿げてない奴は自己中とか病的なアホとかサイコパスとかそういう心労少ない系の輩だけなんだ覚えとけ。という魂の吐露を私はすんでのところで飲み込む。
「雲雀さんの思い違いはともかく、雲雀さんは人間を皆殺しにするようですし、私も黙って殺されるわけにはいきませんので、ここでお別れですかね」
私はにっこり笑って席を立つ。
その動きに雲雀は慌ててのけぞり今度こそ椅子から転げ落ちた。
「ま、待って欲しいであります! 確かに人間は殺すといったでありますが、コスギ殿は別でありますよ! 私はコスギ殿に負けた身でありますからコスギ殿の子を産むであります!」
「……は?」
ん?
んん?
――なんて?
「今、なんとおっしゃいました?」
「子を産むであります! 私はコスギ殿に負けた身でありますから! 人間を殺すと言った事は撤回するであります!」
「ぃぇ……あの、ですね。人を滅ぼす話の撤回はありがたいのですが、私に負けるとどうして私の子を産むことになるのでしょう?」
命乞いの文句にしては斜め上過ぎる。いやそもそもなんでそれが助命の理由となりえると思っているのか。生き残りたいがためだけに私の子供を産もうとしないでいただきたい。子供かわいそうだろ。
「……え? どうして、と、言われましても……そういうものでありましょう?」
「いやいや。こちらとしては全く聞いたことのないお話なのですが」
「コスギ殿……ではどうやって種は繁栄するでありますか? どうやってせっくすの相手を選ぶでありますか?」
「え。それは、例えば、互いに恋する男女が気持ちを確かめ合って、とか、親しい男女の間に愛が芽生えた結果、とかでは――」
「なんでありますかそのよくわからない曖昧な基準は。メスを負かして子を産ませるのがオスの甲斐性でありますよ。オスはそうやってメスに自分がどれだけ優れているかを証明するであります。確かめるべきは気持ちではなく何ができるのかでありましょう。優れた力を引き継げないで生まれてくる子供のほうが余程可愛そうというものでありますよコスギ殿」
「…………」
そう主張する蜥蜴幼女の瞳には一片の曇りもない。迷いのない力強い言動だ。むしろこいつ何を当たり前な事についてとんちんかんな事を言っているんだと批判じみた表情すら浮かべている。
――……んー?
それだとレイパー至上主義になると思うんですよね。私の価値観だとちょっと受け入れがたいのですが。自然界だとそうですとかいう理屈を人間に当てはめるのはかなりの暴論なのでは。でもそんなことを言うと「人間とて動物であるというのに神にでもなったつもりか!」みたいな議論が始まってしまうのだろうか。
郷に入れば郷に従えという言葉はあるが、堂々とそう言われるとそうなのかなという気がしてくる不思議。この世界的にはそれが普通なのだろうか的な。
わからない。ファンタジーを理屈で解き明かそうとすること自体無理な話で野暮な話なのかもしれないが。なにが正義なのか私の持つ常識ではおよそ計り知れない。
この世界の性概念ってばまるっと異世界過ぎると思います。
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