まるっと異世界な日 ④-1-3

「殺さないとまずいですかね? 私としては、できれば穏便に済ませたいと言うのが正直なところなんですが」


「いや殺さないと言うなら私はそれで構わないぞ。ソレは人類の天敵ではあってもそれだけだ。マスターに一度殺されているから逆らうこともできまい。本能に刻まれた恐怖は消えないからな。見たところ古代種のようだし飼うのも一興だろう」


「飼うですか……裏切られそうな予感しかしないんですが」


「それならばエリーに言って勅紋ゲッシュコードでも刻めばいいんじゃないか? まぁ倒したのはマスターだ。ソレの生殺与奪はマスターの思うがままだが……ただし解放するのは愚策だぞ。飼うか始末するか――いやそうか。ここで殺しておいた方が後々面倒がなくていいかもしれんな。よし、ならば私が処理しよう」


「あ、いえ! 殺すのはちょっと! 殺さなくて大丈夫です。とりあえず害がないなら連れて帰って、細かいことはそれから決めましょう」


「そうか。まぁマスターの好きにしたらいい。それよりもなマスター。この抜け殻だが、私が貰ってもいいだろうか」


「え。焼肉にするのでは?」


「そう思っていたのだが状態がな」


「はぁ……別に構いませんが」


状態。もしかして傷つけてはいけない組織を傷つけてしまったとかなのだろうか。確かに体の四、五分の一が削られている。私の位置からはよく見えないが、内臓もぐちゃぐちゃになっているのかもしれない。とすると、ふぐの内臓的なアレがどばっとしてお肉台無しってことなのかな。テトロドトキシン的な毒で汚染されているとかだと食べるのは危ない。あれ過熱じゃ消えないから。


「すまないなマスター。どうなるかはわからないが何とかしてみよう。今エリーに連絡した。派遣されてくる兵隊共とともに私はこれを運ぼう」


「はぁ。……あの、無理そうなら捨ててしまっても――」


毒塗れの害獣を無理して食べる必要はないと思う。


竜のお肉に興味がないわけではないが所詮蜥蜴の肉だし、無理に食べたいとも思わない。ワニ肉みたいなものなんじゃなかろうか。


「駄目だった場合は素材にするさ。マスターに損はさせないから安心してくれ」


「えっと? ……わかりました」


「あと、これは邪魔だから持って帰ってくれ。もう行っていいぞ」


竜の死体から少年を持ち上げると、そのまま後ろにいる私に向かって放り投げるマキちゃん。私はそれをとっさに受け取る。竜少年、完全に荷物扱いである。


なるほどマキちゃんはこの少年を人間とは思っていないようだ。確かにこの子ったら背中の皮が爬虫類っぽいから人間ではないってのはわかるのだけれど、前から見ればやはり人間にしか見えないワケで、物として扱えるほど割り切れないっていうのが私の正直な気持ちだ。


「とりあえず、ここでは話もなんですので、私の家までいらしていただいてよろしいですか?」


「はい! いくであります!」


この少年を解放するというのは愚策らしい。エリーちゃん曰く殺気をまき散らして森を荒らしていたそうだし、最低でも事情を確認するまでは監視下に置くべきだろう。後に厄災になられたら目も当てられない。


――念のため電磁手錠をかけておくか。


「あ、えっと、これはなんでありますか?」


「いえいえ、道中揺れますので馬車の椅子に身体を固定するための器具ですよ」


「なるほど、そうでありますか。ありがとうであります!」


この子見た目通りの知能なのかな。余計な手間がかからない分こちらとしては馬鹿でありがとうなのだけれど。


私は竜少年を装甲車の後部座席に放り込むと家まで連行した。

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