メッシーアッシーな日②-1-3

「どうした? 何か問題でもあるのかマスター。私の力が必要なら当然手伝うが」


「あ、いえ、それには及びません。その子を見ていてもらわないといけませんし」


「なにをいう。私が怪我人を見ていても仕方があるまい、役に立たないぞ。私はマスターの元にいてこそその真価を発揮するのだ、私がマスターの元から離れることなどあり得ない。大丈夫だマスター。目覚めの儀には私も立ち会おう。案ずることは何一つない。私も多忙な身ではあるがマスターの手伝いをすることはやぶさかではない。マスターに求められることもやぶさかではない。だからさぁ早く行くぞ。ぐずぐずしてると血の匂いで害獣が集まってくるかもしれないしな」


「え、あ、はい……」


マキちゃんさぁ。ドールだけどすっごいアレだよね。いや、ドールだからすっごいアレなのか。とは私の脳裏に浮かんだ心の声だ。


私の最近の睡眠不足の理由は病気のせいではなく彼女とのアレのせいであるからにして。だから二体目を目覚めさせたくなかったりしたりしているわけで。


――君ちょいちょい自分はマスターの元を離れないとか言うけど結構単独行動してるよね。勝手に露天風呂に入ってたり勝手にマッサージチェアで寝てたり勝手にジュース飲みながら漫画本読んだりしてるよね。少しは戦闘と夜の営み以外で役に立ってほしいとボクは願ってやみませんやぶさかどころではなく。


とはいえドールにアレ以外の機能を望むほうが間違っているのだろう。だってオリエンス工業のドールはアレように特化させたドールであるわけだから。


でも彼女(ドール)がその少女の世話をしてくれたら私はすごく安心できるというのも本音なワケで。だって私のようなおっさんが少女なんか連れ帰ってみたまえ、変態のそしりを受けること間違いなしだ。変質者って叫ばれるよ、助け損甚だしいよ。


――あぁもうほんと、あのおっさんにしてやられたわ。はぁまじはぁ。


私の名誉よりも冤罪のリスクよりも人命は大事。


理屈ではわかってる。


わかっているけど、じゃあ一体誰が私を精神の苦痛から助けてくれると言うのか。


私だけが苦しい思いをし続けなければならないのか。


私は助けを求めてはいけないのか。苦痛から逃れてはいけないのか。


色々と思うところはあるものの、だからと言って少女をここに置いてけぼりにしたら狼もどきが美味しくご賞味してしまうだろう。


認めたくはないがそれはそれで後味が悪い。


結局私は、少女を家に連れ帰ることにした。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◇◇◇ リンダ視点 ◇◇◇◇◇◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆




目を覚ますと私は奇妙な部屋にいた。


ベッドの上、ではない。


緑色の、草らしきものが編みこまれた床にベッドの布団部分だけが敷かれており、私はその上に寝かされていた。


――え?


私は体の違和感に気づき、掛け布団をはねのけ体を確認する。


と、左手首と右足首の先が無くなっていた。


「あぁ、なんてこと……」


そうだ、私は魔物に襲われて手足を……あまりのショックに涙が出た。


私が近道を強行したばかりにあんなことになるなんて。


皆はあれからどうなったのだろう。


私はどうやって助かったの?


現状を確認しなければ。泣いている場合ではない。


私はまだ生きている。こんなところで足を止めてはいられない。私は早く王都へ戻らなければならないのだ。城へ戻ってヴァルマス家の謀反を父上に伝えなければ。


自分の置かれた状況を確認するためふと辺りを見渡した時。私はそこで初めて、私を見下ろしている大男の存在に気が付いた。


「オーク!?」


――あぁここまでか!


私は死を覚悟した。


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