転移した日①-3-3

家へと戻る途中で私は足を止める。


「なぜ立ち止まる。どうかしたのかマスター?」


それに対し疑問を口にするマキちゃん。


彼女には人助けをすべきという思いは特に無いようで、先ほどの事件には全くの無関心であった。


――やはり、助けるべきだったのか。


トラブル現場から離れ少し安心したからなのだろうか。私は、一度答えを出したというのに先ほどのことについてずっと思考を巡らせている。


彼らは人殺し同士だ。助けてもしっぺ返しを受ける可能性がある。


でもどちらかが加害者でどちらかが被害者で、被害者側がやむを得ず正当防衛をしていたという可能性もあったかもしれない。少なくとも両方が悪人であったという証拠はない。


ではどちらに正義があるというのか。


それを見極めるため話を聞くのか?


あんな大勢と話をするなんて考えただけで吐き気がする。


両方が悪人であったとしてもマキちゃんなら私を守ってくれるだろう。


だがだとしても、リスクであることに変わりはない。


――どうしよう。


このままでは狼が勝って人は躯となり選択肢が消滅する。取り返しがつかなくなることを考えるならここはまず助け、それから後の事をまた考えるべきか。


結局私は狙撃銃ドラグノフの残弾を確認し現場へと急行した。


「マスター。魔物は片づけるとして、賊はどうするのだ?」


残念ながら、時間を使い過ぎたようだ。どうやら狼もどきは人にとってなかなかの強敵だったらしく、戻った現場にはもう人間が二人しか残っていなかった。


数頭の狼もどきに包囲されている二人。背の大きい人間が背の小さい人間をかばいながら剣をふるっている。だが決して守り切れているわけではない。背の小さいほうは手と足を二匹の狼もどきにかじられていた。


それを何とかしようと背の大きいほうが威嚇を兼ねて大きく剣を振り上げた直後、横から飛び出してきた狼もどきがその人間の首に噛みつく。


覗き見るスコープに映る大きな男の首から吹き出す血。中心点を僅かにずらし狼の頭部に合わせ、私は引き金を引いた。


ズダン。

ズダン。

ズダン。


精密射撃に自信があったわけではないが、私は何とか狼擬きらにヘッドショットを決めていく。まず大きい方の人間の首に噛みついていた狼もどきが地に落ち、近くにいた狼もどきらもその場に倒れた。


無心で狼もどきらを次々と一方的に駆逐する。分が悪いと悟ったのか、狼もどきらは私がマガジンを交換している隙に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


それを確認し気が抜けたのか、首を噛まれた人間がその場に剣を落とし崩れ落ちる。


私は急いでその人間の元へと走りよった。


「大丈夫ですか」


大丈夫ではない。そんなものは一目瞭然だ。前空きヘルムから見える顔はおっさんであった。


おっさんは、背中側の人間を一瞥すると私を見つめる。


そしてそのままこと切れた。


あの人を頼むって事だろうか。


私はそのまま背の小さいほうの人間に視線を這わせる。前空きヘルムからわずかに覗く顔は童顔だ。年若い人だ。中学生くらいかもしれない。


「そっちの少女はまだ息があるな」


「へ?」


マキちゃんの一言に、私は反射的に後退った。

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