転移した日①-3-3

その日。森の中を走る集団を見かけた。


普段は人っ子一人いない森なのに珍しい。


そう思って覗きに行ったら、走っていた人々は追いついてきた人々とチャンバラをしていた。


あららファンタジー世界に似つかわしくない生々しいやり取り。


そう思って眺めていると、今度はそこへ狼もどきが乱入した。


血の臭いに誘われてやってきたハイエナどもによってその場は三つ巴の戦いに。だが狼もどきの増援が到着すると三つ巴は人対害獣の構図となる。


さて。私はどう動くべきか。


正直に言うと、人間不信な鬱病マンとしては見なかったことにしたい気持ちで一杯だった。


人側を助けるべきなのかもしれないが、彼らが善良かどうかなんてわからない。だって彼らは今さっき互いに殺しあいを演じていた輩だから。


ここはスルーするのが最善と思われる。


よし帰ろう。


私はその場を後にした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



家へと戻る途中で私は足を止める。


「なぜ立ち止まる。どうかしたのかマスター?」


それに対し疑問を口にするマキちゃん。


彼女には人助けをすべきという思いは特に無いようで、先ほどの事件には全くの無関心であった。


――やはり、助けるべきだったのか。


それにひきかえ私は、一度答えを出したというのに先ほどのことについてずっと思考を巡らせている。


彼らは人殺し同士だ。助けてもしっぺ返しを受ける可能性がある。


でもどちらかが加害者でどちらかが被害者で被害者側がやむを得ず正当防衛をしていたという可能性もあったかもしれない。その後害獣に襲われてよくわからない事態になっていたが、両方が悪人であったという証拠はない。


ではどちらに正義があるというのか。それを見極めるすべはあるのか。


それを知るために互いの言い分を聞くか。


今更そんなことはできない、物理的に。ならどうすれば――。


――でもなぁ。でもなぁ。助けた後、なんて会話したらいいのかって問題もあるわけで。


あんな大勢と話をするなんて考えただけで吐き気がする。助けた人間が悪人でもマキちゃんなら俺を守ってくれそうな気はするが、そもそもなぜ私がリスクを取らねばならない。


ええいどうしよう。時間もない。


ここは助けた後に考えるか。


結局私は狙撃銃ドラグノフの残弾を確認し現場に戻った。


「マスター。魔物は片づけるとして、賊はどうするのだ?」


現場は狼もどきの圧勝だったようで人間は二人しか生き残っていなかった。


数頭の狼もどきに包囲されつつも、背の大きい人間が背の小さい人間をかばいながら剣をふるっている。だが決して守り切れているわけではない。背の小さいほうは手と足を二匹の狼もどきにかじられている。


それを何とかしようと背の大きいほうが威嚇を兼ねて大きく剣を振り上げた直後、横から飛び出してきた狼もどきがその人間の首に噛みついた。


大きな男の首から血が吹き出す。私はスコープを覗き狼擬きを狙った。


ズダン。ズダン。ズダン。


精密射撃に自信があったわけではないが、私は何とか狼擬きにヘッドショットを決めていく。大きい方の人間の首に噛みついていた狼もどきが地に落ち、近くにいた狼もどきもその場に倒れた。少し遅れて人間の方もその場に崩れ落ちる。


私は無心で狼もどきらを一方的に駆逐した。分が悪いと悟ったのか、狼もどきらは私がマガジンを交換している隙に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


私は急いで剣を振り回していた人間の元へと走りよる。


「大丈夫ですか」


大丈夫ではない。そんなものは一目瞭然だ。前空きヘルムから見える顔はおっさんであった。


おっさんは、背中側の人間を一瞥すると私を見つめる。


そしてそのままこと切れた。


あの人を頼むって事だろうか。


背の小さいほうを見れば年若い人だ。中学生くらいかもしれない。


「そっちの少女はまだ息があるな」


「へ?」


マキちゃんの一言に私は反射的に年若い人から一歩引いた。

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