転移した日①-2-3
「これはそのなんというか儀式的な? この衣装にはあたりまえというか選択肢はこれしかないというかせいぜい変えるなら色を赤くするくらいというかむしろゴスロリ服の下着が幼女パンツだとバランスが取れない的なあれでして――」
めっさ早口な私、挙動不審も甚だしい。あぁわかってる。君の目には私がさぞかし怪しいハゲデブキモオタヒキニートに映っていることだろう。
だが説明させてほしい。
人の世では、人の世の対他的関係の規律にかかわる法的な価値を正義と呼びます。
人の世では、自分の利益をかえりみずつくすことを献身と呼びます。
パンティを差し出したのは、ひとえに私の正義に基づく献身なのです。
もちろんグローバルな視点からそれらを俯瞰して見た場合、世の中にはソレに否を唱える輩もいることでしょう。そしてそれはきっとおそらくメイビー決して少なくはないのかもしれません。私だって自分が絶対だなどとは思っていませんし私の思想を押し付けるつもりは露ほどもないのですが、だけどだけれど今一度冷静に考えてみてほしいのです。
私の献身を否とした場合――君、全裸の上にいきなり服を着る事になるのですよ?
その選択はどうでしょうか。
私は、私の提案こそこの事態の最適解であると自負するところですが、それを嫌って覆した時もたらされる結果は果たして世論を納得させうるものとなりましょうや?
その昔先人は言いました。「衣服と全裸に下着という出会いを求めるのは間違っているだろうか」と。
「…………」
「…………」
わからない。
私にはわからない。
じっと息を殺して野口英世先生の有名なお言葉をただただ脳内で唱え続けることしばらく。
「…………」
「…………」
見つめあう二人。
いや正確には一方的にジト目で見下されている私。
構図がもはやお巡りさんを呼ばれる五秒前ですお願い誰か助けて。
「儀式……これが儀式礼装だというのか……。ふむ……そうか」
ややあって。勝手に何かを自己解決しようやくおパンティをご装着あそばされた少女騎士様。
どうやら意思疎通に成功したようだ。ギリギリのところでハゲデブ中年は変態のそしりを免れた。首の皮一枚つながった感満載である。
「ご納得いただけたようで、何よりです」
「いやなに、そういえば我が友マリンも意味の分からない儀式をたくさんやっていたのを思い出したのだ。私を召喚したマスターも魔術師なれば、さもありなんという事だろう」
「は?……あ、そうですね、ははは」
意味不明なことを言うラブドール。
魔術師とはなんぞやと心の中で唱和すること三度ばかり。
――このドール……まさか、お約束違反をすると痛いプレイをするという『SMモード』設定になっていたりするのか?
思考の海から自身を引き上げたのはホームページのカタログスペック表に記載されていたドール搭載目玉機能のひとつ『シチュエーションモード』という情報。
――ロールプレイング機能が、起動と同時にスイッチオンされてしまった?
っていうかご主人様は魔術師ってどんなプレイなのか。奥様は魔女的な? 昭和コメディドラマ的な?
――ふうむ困ったこれは完全に情報不足。コレ勢いで家電を使ったらあさってな挙動を始めて収拾がつかなくなったパターンだわ。
ここは何とか穏便な空気を作りつつ彼女には別室にてリラックスなどしていただいて、その間に彼女の取り扱い説明書を読破せねば。
あとついでに隙あらば「私は痛みに快楽を感じない種のプレイヤーです」とも主張しておきたい。
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