転移した日①-2-2
「武装を解除せよというのか。……いや、そういうことか。さすがは我がマスター。私のコンディションまで見据えているとは。了解した。そういうことなら私としてもやぶさかではない」
独り言を言いながら何かを得心する
「…………」
モロ見えになるのに、果たして光る意味はあったのか。
いや多分意味とか理屈とかではないのだろう。様式美的な何かか。
そもそも何が流石なのかすらわからない。家の中では帽子は脱ぎましょうみたいな話をしただけじゃん。
――どういうことだ。突っ込み待ち、というわけではなさそうだけど……わかりにくい。
スルー安定か。私の突っ込みスキルレベルでは対処できそうにない。
事態の深刻さに早々と見切りをつけた私は思考を停止し頭を切り替えるためいったん深呼吸。
そしてその後少女が入っていた箱のところまで移動する。
「あった!」
予想通り、箱の中にはビニールで梱包された衣装が残っていた。
見本は衣装を着ていたんだ。服は別売りです、とは書かれていなかったんだ。なれば常識的に考えて、業界最高峰の老舗企業が最高品質ドールを裸で送りつけたりなどするまい、という閃きにすがりアクションしてみたのだけど、小生、ナイス判断。良い波に乗っている。
――これ、写真に載っていたゴスロリ服かな。
紹介ページの衣装はどうやら標準装備品だったようだ。
衣装を取り出しつつ私は、オプション衣装を同時購入しなくて本当によかったと心から思った。ドールが見ている中看護婦衣装や体操服衣装とか手にしていたらジト目で勘ぐられること間違いなしだったろう。
「これ、これを着てください!」
危ない危ない。そういうプレイが私の趣味と誤解されるところだった。と、服を差し出す私に、
「マスター……」
「はい」
「……それを私に着ろと?」
「え?…………――」
なんて事だ。
ゴスロリもアウトだというのか。
「と、とりあえず。今はこれしかなくて――」
「私は騎士であって魔術師ではないのだが」
「はい? 魔術師? ……いや、あの、そういう服では無いですが? 割と普通な普段着でして――」
「普段着だと?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
わかってる。
これが普段着などではないことくらい。
しかしここはあえて押し通させてもらおう。
これは普通だ、と。
だって手持ちの服はこれしかないのだ。拒否したらあなたこの先全裸ですよ。
「あ、その、ここ、お城じゃないんで。家の中ではこれを着てほしいなぁと思いまして、その、鎧姿だと家具とか傷むので」
「そうか。マスターがそういうのなら私に否はない。まぁ確かにここならば鎧はいらぬだろう」
そういってマキちゃんは私の手から服を受け取る。
その直後――
「あ、まって、ください。先にこっちからお願いします」
慌てて私は一枚の布を差し出した。
そう。私はそれをかなりの勇気を振り絞って差し出した。
「……マスター……なんだそれは……そんなものどうするのだ」
「履きます。普通に。こんな風に」
私はそれの履き方をジェスチャーする。
まるでシャレードをするかの如く。
「な!? こ、こんな薄っぺらい小さなものを、履くのか?! ドロワーズではなくこれを履けというのか?! 正気かマスター!」
マキちゃんが凝視しているのは黒いレースのおパンティ。
おうふ。まさかAI制御であろうラブドールにリアル女性並みの霊圧をかけられるとは思わなかった。
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