4月8日(水)

元の世界に帰ってきたわたしたちは、あまりにもふらふらしていたので、とりあえず病院に移された。極度の疲労だと言われた。あの世界で過ごした時間の疲れが一気に吹き出したんだろう。


何日か眠ったり目を覚ましたりを繰り返しているうちに元気になってきた。目を覚ました瞬間にお母さんとおばあちゃんが駆けつけてきて(ずっと病室の外でそわそわしていたらしい)、泣いたり怒ったり笑ったりしていた。心配かけてごめんね、と謝った。


時折訪ねてくる先生たちや警察の人には、正直に「真っ暗な旧校舎でお化けから逃げてました」と話した。警察の人と病院の人が病室の外で「記憶のコンダクが……」なんて言ってるのが聞こえて、少し笑った。本当のことを話してるのに。


ただ、担任の先生だけは全部聞いてくれた。何があったのか全部全部話したら、「……話してくれてありがとう」とだけ言われて、頭を撫でられた。あとでお母さんにこっそり聞いてみたら、なんと、先生はこの小学校の出身だったのだ! お母さんと歳も近い。あの子のことも知っていたのかもしれない。



すっかり元気になっても、退院するにはもう少し検査が必要らしかった。みんなと同じ病室にしてくれたので、毎日いろいろなおしゃべりをして過ごした。前はうるさくて苦手だなんて思ってた五人ともすっかり仲良くなった。


ときどきみんな黙り込むことがあった。きっとみんな、考えていたのだ。あの旧校舎やロッカーについて、あれが本当に起こった出来事だったのかどうか。あるとき、玲ちゃんが「ねえ……」とおずおず話しかけてきたので、わたしは黙って肩をすくめた。怖くて悲しい経験だったのは間違いない。夢だと思って忘れられるなら、それがいいのかもしれない。


ようやく退院できたとき、二月だったはずのカレンダーは四月になっていた。わたしたちはまったく実感のないまま小学五年生に上がっていたのだ。




退院祝いのお寿司でお腹いっぱいになり、部屋に戻って、ランドセルから日記帳を取り出した。自分の部屋で書く久しぶりの日記。読み返してみると、あの旧校舎で起きた出来事が全部書いてある。暗闇で書いた少し乱れた字が、嘘じゃないよって言ってるみたいだった。


新しい学年、新しい教室、新しいクラス。明日は久しぶりの登校だ。

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