2月28譌・譛?邨らォ?5
暗闇の中で長い長い時が流れ、とうとう何もわからなくなって……いつしか、わたしたちは例の男子更衣室の中にいた。
床には掃除道具が散乱していて、うっすらと塩素のにおいが立ち込めていて、目の前には扉が開け放たれたロッカーがあった。ロッカーの内部には何本も何本も、黒ずんだ線が見えた。出ようとして引っかいたんだろう。血が出るまで。その血が跡になって残るぐらい、強く、何度も。
入ったときに感じたあのひんやりとした雰囲気は、どこかに消えてしまっていた。ただ、とてつもなく悲しかった。わたしは自分の顔に手を当てて、涙が流れていることを知った。他のみんなも泣いていた。暗闇の中の寒さがまだ身体に残っていて、わたしは手をこすり合わせて身震いをした。
わたしたちは今、体験したのだ。ここに閉じこめられた、あの子の記憶を。ロッカーに閉じこめられてから、あの子が意識を失うまでの、永遠にも思える時間を。
「これ……どうなったの?」
美世ちゃんがおそるおそる訊いてきた。
「今のって……このロッカーに閉じこめられてたっていう子の……」
「記憶、だと思う。おばあちゃんが言ってたの。強い強い感情がこもった記憶は、その人がいなくなったり死んだりしても、その場所に残り続けるんだって」
ロッカーの扉は開けた。あの子の記憶は、自分が死を迎えたロッカーの中にとどまり続けるのだろうか。それとも。
更衣室の外に出ると、真っ暗だった空はいつしか深いオレンジ色に染まっていた。わたしたちは持っていた懐中電灯の明かりを消した。
夕焼けの中、空を見上げていると、わたしたちの傍らを何かが走り抜けていった。小さな子だった。すごく、すごくちいさな男の子が、転がるように、足がもつれるのも構わずに、校門に向かって駆けていった。ああ、家に帰るんだな、と思った。ようやく出られたんだ。ずっとずっと閉じこめられていたロッカーの中から。
「わたしたちも、帰ろうか」
その後、わたしたちは校舎裏に座り込んでいるところを先生たちに発見されて大騒ぎになった。わたしたちが消えてから現実世界では一ヶ月以上経っていたらしい。
校舎裏のロッカーは、影も形もなくなっていた。
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