2月11日(火)

今日の朝、乗っている電車が急に止まった。線路の中にイノシシが入り込んだらしい。この時期は食べ物が少ないからか、山から下りてきてるのを見かけることがある。


この町は海も山も近くて自然が豊かだ。わたしはそんなところを気に入っているけど、こういうときはちょっとうんざりする。電車は三十分ぐらいしてから動き出したけど、学校にはしっかり遅刻してしまった。


一時間目は体育で、みんなが校庭で鉄棒をしてるのが教室の窓から見えた。教室にはみんなの着替えだけがぽつんと残っていた。本当ならわたしもすぐに着替えて外に行かなきゃいけないのに、たったひとりで教室にいるのがなんだかすごく不思議で、結局わたしは一時間目が終わるまで自分の机でぼうっとしていた。


机に座って目を閉じると、教室が見えないシャボン玉に包まれているみたいだった。クラスのみんなの声、隣のクラスの授業の声、学校の外で車が走る音、横断歩道が青のあいだだけ鳴るメロディ、全部がそのシャボン玉の外側から小さく聞こえてくるみたいだった。安心するような、さびしいような、楽しいような、すごく変な気持ちになった。きっとあのとき、わたしはちょうどよくひとりぼっちだったのだ。


二時間目の前に先生のところに行って遅延証明書を見せたら、全然疑われなかった。あのときわたしが教室にいたことは、わたししか知らない。

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