第9話 訪問者
村からやや離れた小丘で、ジョードはペペドナを傍に置いて巨人の試運転を行っていた。
「よし―これーでーやーるー」
「ナニイッテルカワカンネエ」
「シニズギヨ」
4つの球を握ったジョードは、巨人たちの現在には成功したものの死亡頻度が高すぎてまともに立っていられず痙攣し続ける様を呆れられるばかりであった。
特に黄色の巨人は顕著である。細身でどこか無機質で印象の他の巨人と違い、彼はずんぐりした体躯で太く短い手足と巨大な角を有していた。本来あるべき場所にない頭は胴体に浮きあがり、その場所を常に変えていた。
「コイツ、アホ。オデデモワカル」
「ソウカモシレンガ、オレタチノシュジンダ」
青のリアンドルがそう言って黄色の巨人を説得した。
ジョードが青のリアンドルを手から離して消したのは、4体を同時には操れないと確認したことと、否定してくれなかった怒りもあった。
「ふう……3人が限界―」
「オデ、ハラヘッタ」
「アシヲヨコセ」
「アタマガイイワ」
「わー! 待って! ひいい!」
八つ裂きにされて巨人に肉を貪られる様を眺めながら、ペペトナは爪を整えていた。新たな巨人の入手と量産の計画を察知しながら、それを未だに報告していなかった。
肉片から再生して頭を振りながら、ジョードは巨人たちに抗議する。
「クロ、アカ、キー、きみたちは礼儀がなってない!」
「ナマエノツモリ?」
赤の巨人だけが答えた。
「そうだよ、本当はしっかり考えてあげようと思ったけど、そういうことするならやってあげない」
「そんなことより黄色の力を見るんじゃないの」
「あ、そうだった」
ペペトナに言われてジョードは我に返る。常時死と再生を繰り返しているせいか、巨人を出していると思考力が墜ちるらしい。
「それで、キーはなにができるの?」
「ヴァー」
黄色の巨人、キーは角を発光させた。その周囲に雷が走り回っている。
「シビレサセル、ソノアト、ケシトバス」
「動きを止めるのかな?」
「まあ、不死者相手なら何でもいいんじゃない?」
ジョードは球を手から離してしまい、村へと歩き出した。ペペトナも続く。
「不死じゃなきゃなあ」
「でも、100年もすれば終わるよ」
「うん?」
「精神の不死はないってこと、心がもたない」
虚を突かれたとジョードは思った。英傑たちは未来永劫生き続け世界を荒らすだろうと思っていたが、精神面での不死と言うのは盲点であった。確かに数百年も生きた人間はいない、精神に寿命がないと何故言えるのだろうか。
そして、戦乱を繰り広げる理由の一端にも行き当たる。あとは野となれ山となれ、望ましい第2の生でもないのだろう。
最もジョードからすれば、その優れた力を現世のために使って欲しいと憤りもあったが。
「そんなに待てない、終わらせないとね」
「あんたにできるかねえ」
「やるだけやるんだよ」
ペペトナのからかいにもジョードは動じない。暗に反旗の意志をこちらが握っているという意味を込めていたが、彼が気づいていないので彼女もそれ以上はしなかった。
村に戻ったジョードをニスキルが出迎えた。
珍しいことだと思ったジョードだが、傍に見慣れぬ老人が立っていたのを見て察する。この技師は『代役』なのだろう。
「話がある」
相も変わらぬ言葉少なさに肩を竦めながら、ジョードは老人に一礼する。
「お茶……はないんでお湯なんですけどいかが?」
「あ、いただけますなら……」
老人は幾分緊張をほぐされたように微笑む。
ジョードは頷くと自分で湯を用意しようとしたが、村人が先んじて持ってきてくれていた。
「立ち話もなんですからこっちに、入村だったらまあ自由にすれば……」
「いえ、実はお力をお貸しいただきたく……不死英傑についてなのです」
老人を案内しながらジョードは眉を吊り上げた。果たしてその意図は何なのだろうか。
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