第8話 反抗

 故郷たる廃村に戻った一同は今後について相談した、ジョードはシュラサイドと違い勝ちに奢らない。兵力では圧倒的に不利であり、巨人と言う切り札も種が割れてしまえばいくらでも対策されるとわかっていたからだ。

 村人たちは廃村に家を構えた。二スキルは少々渋ったものの、ジョードのそのまま放置するわけにもいかないと言う説得に折れたのだった。元が崩壊寸前であるから雨風を多少は防げるというだけの家々だが、村人には戦争のない地に来れたことが喜びでありジョードに平伏していた。

 二スキルは、ジョードや巨人と家の修復を手伝いつつ、ある提案を持っていった。

「もう少し、巨人を作れるかもしれない」

「本当に? すごいな流石だ」

 二スキルは照れを隠すためわざとしかめ面して手首を強く握った。

「材料がいる」

「わかった、探してくるよ」

 シュラサイドは二スキルの態度が何となく気に入らなかった。自分が見出したのにジョードに心を開いているようだし、大体主導者は自分ではないか。

「わたしの家も作るのよ! 『白銀』にふさわしい家を!」

「くっちゃべってないで手伝いな」

 ペペトナには最早小言ですらない呆れの言葉を吐かれた。ジョードも緊急時ならともかく拗らせてややこしくするよりは、尊重して見せて味方にしておいた方が得だと言われるままに家を作ろうとする。

「他より大きくするのよ! わたしの家なんだから!」

 結局、その真意を見透かせるだけの見識を持っていたことが彼女の不幸であった。誤魔化すために大言し、傲慢になり、結果として前世と同じ過ちを繰り返す。最善策を自ら潰してしまうのだった。

 一同は夜半までかけてどうにか家を建て直し、新たな巨人の材料について話し合っていた。茹でた馬肉が皿に盛られている。村人が感謝のために差し出したものだが、ジョードは食糧にされた心傷から肉が受け付けず、二スキルもペペトナとシュラサイドがジョードの手足を齧っているため食欲が湧かなかった。

「巨人って呪術でしょ? どうやって作るの?」

「念じて固める。それだけだ」

 相変わらず二スキルは言葉少ない。しかし、それ以外に言いようがないからである。呪術に関しては不明瞭なことが多く、彼も英傑が村を壊滅させた後復讐心のままに動いたら造り出せたというだけだった。

 区切りがついたところでシュラサイドが何かを発言しようとしたが、そこへガーナ下の英傑が顔を出して遮った。

 ジョードは彼があまりにも自然に入ってきたので、妙な緊張を覚える程だった。見知った相手でなく名前も出てこないのも大きい。

「デヨンとこじれてる、お前らか?」

「そうよお」

 ペペトナが気怠く答えた。

 英傑は頷くとジョードへ体を向けた。

「公は大変に喜んでおられた。特にリアンドルを討ったとは誉れだ」

「あ……えっと……」

「よい、手段は問わぬ。今後とも精進するようにと。また、近々デヨン天、ヤスーン公とも大きな戦になる。自在に動くようにと」

「このシュラサイドについては?」

「? いや、特には。ともかく、このまま励むようにと。では」

 英傑は礼節をわきまえていたが、帰り際に刀でジョードの足を切り取って抱えて齧りながら退出した。あくまでも食糧なのだ。

 ジョードは怒ったが、シュラサイドがひどく傷ついた顔をしているのに気づいてそれを冷ました。その瞬間だけは、年相応の女性に見えたのだった。相手にされぬ、脅威とみなされる屈辱を彼女も抱えているのだと、初めて気づいた。

 しかし、シュラサイドはその痛みを誤魔化していつもの不敵で自信家の顔を露わにする。

「聞いたわね! このあたしの腕の見せ所よ!」

 二スキルは寡黙に応じ、ペペトナは相手にしない。ジョードだけが、再生しつつある足をいたわりつつ小さくだが相乗した。


 数日後、新たな巨人作成の素材集めに勤しむジョードたちの傍では、廃村が新たな動きを見せていた。

 村人らが親戚や知人を呼び寄せて、大所帯を形成しつつあったのだ。二スキルは渋り追い出そうとしたが、ジョードが説得することで保留とした。少なくとも攻撃や妨害はしてきていない。

 開墾を始める者も多かったが、作物が飢えを慮ることは少ない。必然的に村人たちは狩猟や死体漁り、戦場漁りでその日を食いつないでいた。

 豊と言えない村で育ちながら、それまで無縁だったその行為はジョードには忌むべき光景だったが、その少ない糧から自分に献上してくる彼らを邪険にはできなかった。不死英傑とその仲間にしか見えないはずなのに、感謝を示している。

英傑たちがどれほど過酷に世界を蝕んでいるかが良くわかった。屈辱と救世への意地が静かにジョードの中で燃え上がる。

作業途中で工場から出て来た二スキルにジョードは水を差しだす。自宅も兼ねた彼の家には何人も入れない。

 二スキルは無言であったが感謝をしめし水を受け取り、黄色の球を彼に差し出した。新たな巨人である。

「少し、変わった奴だ」

「うん、ありがとう……最大でどれくらい作れる?」

「お前の、命が持たない。手で握れるだけにしておけ」

「たくさんあるに、越したことはないでしょ? ……ガーナ公やヤスーン公も相手なら」

 ぎょろりと二スキルはジョードを見た。

 ジョードはたじろがずにそれを見返し、やがて二スキルから視線を逸らしてかぶりを振った。

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