第7話 ささやかな勝利

 呆気に取られるジョードに二スキルが説明した。

「これが青の巨人の呪術だ」

「はあ……! いやあ……!」

 感嘆の声をあげるしかない。生命を吸い取られて絶命による意識の途絶を繰り返しながら、ジョードは素直に彼の技術に賛辞を抱いていた。

「まったく……すごいものを作ったんだね」

「欠陥品だ」

 二スキルはそっぽを向いて呟いた。照れ屋なのだろう、僅かに頬が赤く口元が緩んでいる。

 ペペトナはリアンドル、すなわち青の巨人をしげしげと眺めて回った。

「これで不死者を消せる呪術は使えるの?」

「あ、いや、それは無理だ」

「はあ⁉ 何よそれじゃ意味ないじゃ―」

「シュラサイド!」

 ジョードに怒鳴られて、思わずシュラサイドは身を硬くした。青年から初めて聞いた怒声であったため、ペペトナも顔には出さないが少々怯んだ。

「いい加減にしろ! これだけすごい呪術なのに何が不満なのさ⁉ 大体、きみだって二スキルのおかげで復讐を果たせそうなんだろ⁉ 少しは敬意を見せろ!」

「な、なによ!」

「英傑だからとか関係ない! 二スキルは―」

「うるさいのよ!」

 言い負けそうになって、雪の呪術でジョードを押しつぶす。

 黒の巨人が掘り起こして、礼を言おうとする前に彼をかみ砕いた。

 最早気にも留めなくペペトナは青のリアンドルに喋りかけ今後を協議する。

「不死者を倒せないんなら、囮しかできなくない?」

「ワタシニハツウジナイ、アラタナタイショウニノリウツルダケダ」

「それについてはまず逃げよう」

 肉片から再生しながらジョードが主張する。

「ここじゃ次々デヨンの部下が来るよ、潜伏して各個撃破するしかない」

「まあ、それは賛成―」

「はあ⁉ 駄目よそんなの! そんなんじゃあいつを悔しがらせられないじゃない!」

「そういうこと言ってるから負けたんだよ、汚すぎない手段で勝たなきゃ……」

 肩をペペトナに素早く叩かれ、ジョードは懸念していた危機が来たのだと直感した。

 十名ほどの英傑が森から出て村へ迫ってきている。先頭に立つのは片腕が消失した男で、先ほど赤の巨人の一撃を受けた者だった。リアンドルの遅れに感づいたのだろう。

 ジョードは深く息を吐いて3人の巨人を前に立たせる。

「どんな英傑が聞く、っていうのは暢気すぎるよね?」

「当たり前でしょ」

 予想していた答えであるが、未練がましく苦虫をかみつぶしたような顔をしながらジョードは二スキルへ指示を出す。

「村人と下がってて、危ないから」

「わかった」

 素直に二スキルは従った、シュラサイドへ怒ったことが好印象で、この青年なら信じられると思ったのだろう。村人も従順であったが、いずれも馬の肉を切り取って抱えることを忘れてはいなかった。

 シュラサイドは性懲りもなく巨人の前に飛び出て不敵に笑う。

「この『白銀』シュラサイドが相手よ! かかってらっしゃい!」

 ジョードは無視して巨人らに指示を出した。

 青のリアンドルが一直線に英傑たちに駆け寄っていく。皆が立ち止まる中、片腕を喪った英傑だけが脇に飛びのいた。

 彼の行動は正しかった、かつての上司は大鎌を振るって仲間の胴を寸断し後方へ退避する。入れ違いに黒き巨人が半円からの黒光線で、再生よりも早く英傑たちを消滅させる。

 片腕の英傑はそのまま逃走を選んだが、今度はジョードが逃がさなかった。

「赤の巨人!」

 先回りした赤の巨人が髪で英傑を捕らえていた。そのまま赤光線を発して、呪詛を喚く彼を滅した。

「一先ず―がががががっ」

「おいしいワ」

そのまま赤の巨人は腕を伸ばしてジョードを捕食した。黒き巨人と青のリアドルも参加して、二つに裂いて中身を啜る。

「見た? わたしの牽制で奴らは恐れをなしたわ!」

「逃げるよ~、今が好機、目撃者はいないし」

「さ、賛成……」

 シュラサイドを無視したペペトナの意見にジョードの断片が支持を示し、二スキルも黙って頷いた。

 村人の一人、頬のこけた男が恐る恐る二スキルに接近して耳打ちする。

「連れて行って欲しいと、残っても戦に巻き込まれるし、このことについて尋問される」

「仕様がないね」

 見殺しにできなかったゆえに、この騒動を起こしてしまったのだとジョードは思い起こした。ならば、最後まで面倒を見てやろうと判断を下したのだった。

「黒き巨人は馬、赤の巨人は皆を乗せて! 二スキルの村まで戻る!」

 シュラサイドを除いて全員が従った、特に村人は迅速に赤の巨人に乗り込み、ペペトナが首を傾げる程だった。

「勝手に決めるんじゃないわよ! このまま―」

「こんなの大金星だよ! 勝ちたいなら見極めて! 置いていくよ!」

 唯我独尊のようでいて、シュラサイドは案外意気地に欠けている。少数派になると脆く、ナーガら歴史に燦然と名を遺した英傑に比べると意志が弱かった。

「わ……ま、まあ今日は様子見ね!」

 さも、仕方なく応じたと言う態で赤い巨人に乗り込んだ。

 ペペトナは『白銀』が戦闘力はともかく戦には向いていないと判断した。反対に、ジョードは不死身と巨人があるとはいえ判断力に優れている。これまで傍にいたが気づかなかった才能だった。

 デヨンとの初戦は、重鎮であるリアンドルを排除したと言う文字通りの大金星を挙げた。

 だが、後々により大きな意味を持つ成果があった。生身の人間の味方である。

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