第6話 傀儡

 英傑リアンドルは困惑しきっていた。対決や恭順ならわかるが、青年は玩具を前にした子供のように跳ねまわっているからだ。

「お、おい? お前たちどちらの兵だ?」

 ガーナかヤスーンか、報告を得たリアンドルは『そのどちらかが不死を滅する呪術』を持って攻めてきたのだとしか思っていなかった。

 早速シュラサイドがしゃしゃり出る。

「ガーナ公の誇る勇士シュラサイドよ! 覚悟しなさいよね!」

「シュラサイド?」

 リアンドルがその名に覚えがない様子なのを、ジョードは不思議に思った。デヨンに討ち取られたのに、その腹心と面識がないものなのだろうか。

 偶然だが、二スキルがその疑問を代弁した。

「顔見知りじゃないのか?」

「? ああ」

 リアンドルはすっかり調子を狂わされている。

 ジョードは間近で『帝虎』を見れて満足し、ぼうっと見ていたペペトナへと説明をしてやった。

「デヨン公の右腕で、戦でも政でも中核だったのが『帝虎』リアンドルだよ。異名は一国を食い尽くした虎を一人で討伐したから、デヨン公が『天座』を名乗る前に病死しちゃったんだ」

「病死ではない、ヤスーンの手の者だ」

「あ、じゃあ暗殺説が本当なんだ⁉」

 英傑の多くがその死に異説を持っている。リアンドルも時期が時期であるだけに暗殺説があったのだった。

 その真実を知れて、否が応にもジョードは興奮した。小説や考察でなく、本人から歴史を聞いたのだ。

 その態度が気にくわないのか、呼んでいないのにシュラサイドが割り込んできた。

「わたしはデヨンと戦い、100は打ち倒して奴の卑劣な手に堕ちたのよ。あと少しで勝っていたわ」

「あー、はいは……うげっ」

「なによその態度!」

 あしらおうとしたジョードであるが、雪を喉に発生させられて激しくせき込んだ。

 リアンドルは苦笑する。余程の危機かと思えば道化にしか見えない一団であったからだ。

 馬の死体に群がっている村人たちは無視しても構わない。

「貴殿、ガーナ公の『尽きない馳走』でないか?」

「え? なに?」

 困惑するジョードにペペトナが助け舟を出した。

「あんたの異名よ『尽きない馳走』」

「ええ? 嫌な名前だなあ……」

「『白銀』とは比べ物にならないわね」

 シュラサイドを睨みつつ、ジョードはそれを認めねばならなかった。食物に例えられていることは名誉でない。

 と、二スキルがジョードの肩を叩いてきた。

「青い巨人だ」

「え?」

「青い巨人を使え」

 それきり二スキルは黙り込んだ。

 寡黙である以上に、口下手で恥ずかしがり屋なのではとジョードは思いつつ青い巨人に指令を送った。

「えっと……お願い?」

「マカセロ」

 リアンドルは素早く反応して、柄が虎皮の巨大な鎌を取り出した。優に身長の二倍はあろうかという鎌で、張りぼてであれ片手で振り回せるものでないのに軽々と扱っている。

 ジョードはまたもはしゃいだ、彼を代表する得物であったからで、かつ本人が担いでいる光景などここ以外で絶対に見ることはできない。

 わざわざ指さして、仲間どころか村人にすら説明し出さん有様だった。

「これで虎を倒して―」

「さっさとしな」

「なんだよお」

 リアンドルは呆れつつも『帝虎』を振り上げる。そもそもの目的は不死を砕く呪術とそれがどこの陣営のものかの確認、まずは出方を伺おうとした。

 が、それが彼が冒した最大最後の過ちとなる。

「?」

「ん?」

「青い巨人は英傑を操れる」

 二スキルが述べる通り、リアンドルはその場から動けなくなっていた。冷静だった顔が歪み、死人であるのに血の気が引いていった。

「な、なに⁉」

 そのまま青の巨人がリアンドルに飛び掛かった、潰されるだろうと思われたそれは、彼の口へ体を変形させて侵入していく。

 リアンドルの体色は青く変化していき、全身が服装を含めて染まり切ると漸く動き出した。

「セイコウシタゾ」

 だが、すでにそれは英傑でなく。それを乗っ取った青の巨人であった。 

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