第35話【五月六日~都祭真理~】

 この部活を続けられるのも、残り三日。いや、今日はもう終わるから、残り二日。窓から差し込む夕日を見て、文字通りたそがれる。

 ただでさえ少ない部員が今日は私一人しかいない。仁美ちゃんは映画研究会に行ったし、加水は零細部活の代表会に行ってしまった。もう救われる方法はないのだから、代表会なんかで時間を潰してないでこっちにくればいいのに……。

 あほたれ。

 下校時間間際になって、ようやく変態加水が戻ってくる。

「いや。まいったね」

ニヤニヤとした苦笑いと変態笑いの混じった笑みをたたえていて不快。こっちは、こんな時間まで一人で部室にいたのに楽しいことでもしてきたの?

「なにがまいったのよ」

返事の内容に応じて、いじめてやろうと心に決めてから質問をする。無視するよりも積極的な嫌がらせをすることに決めた。

「内藤ちゃん」

「内藤がどうかしたの?いい人じゃない」

内藤は、人畜無害で一般人で優しい、いい人の見本のような人じゃない。参る必要はないわ。変わっているところといえば、あの上原香織と一緒にいることくらい。上原香織が変わりすぎるくらいの変わり者だから、内藤まで変に見られることが多いけど、むしろ内藤が上原香織の暴走を止めてる減速剤になっていると思う。

「いやぁ。内藤ちゃん。かわいくてさー。参っちゃったよー」

ニヤニヤ笑いレベルが上がって、しかも情報量は増えてなくて会話の意味を成してない。

「はっきり言いなさい。変態」

「内藤ちゃん。かおりんとなにかあったみたいだよ。って言うと、まつりはイラっとしちゃう?」

いらっ☆

「イラッとしたけど、それは変態が変態笑いをしてるからよ」

「まつりが内藤ちゃんと産婦人科に来たって聞いたけど?」

「行ってねーわよ。整形外科よ。内藤の足首がドムみたいになってたから連れて行っただけ。つーか、はぐらかさないで、ちゃんと説明しなさい。死なすわよ」

机の上のティッシュボックスと、お菓子の空き箱を投げつけ終わって、半分飲んだペットボトルを投げつけるべくフタをきつく閉めたところで、変態の顔つきがある程度真剣になる。

 よし。話を聞いてやろうじゃないの。

「内藤ちゃん。覚悟決まってたよ。かなり本気で零細部活を救おうとしてる。今日からは……だけどね」

「それが、どうして上原香織と内藤がデキたって話になるのよ」

そういいながら、半分くらい納得していた。内藤は、ふわふわした男だ。でも、上原香織が窓から落ちそうになれば、窓から飛び降りるのだ。

 上原香織が便所飯を食べていれば、上原香織が昼食を摂る部室を死守するのだ。

 それだけの話だ。

「わかんないの?」

イラッ☆

 見透かした顔しやがって。変態。

「うるせーわよ。変態。今日の下着はトランクス?それとも女性用?」

「まつりが色を教えてくれたら、教えてあげるけど」

紺色だけど誰が教えるかアホタレ。ヘンタイ。

「うるせーわよ。下校時間だから帰るわよ」

投げつけたモノの掃除は変態に任せて部室を出る。

 階段を降りながら思う。

 内藤が本気になったの?

 上原香織のために本気になったの?

 内藤の本気なんてつまらないけれど、内藤が上原香織のためになにかをするなら、本気以上のなにかかもしれない。なにせ、あいつは二階の窓から飛び出して、同じ二階の窓から落ちる上原香織を捕まえられるくらいなのだ。

 階段の踊り場で上を見る。

 早く降りて来きなさいよ、ヘンタイ。部室に来るの遅れたんだから、帰りくらいとっとと追いついてきなさいよ。

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