第29話【四月三十日放課後~内藤省吾~】
香織は来ないだろうなと思いつつ、部室へ行く。ドアに張り紙をする。
《香織と部員のみんなへ、零細部活緊急集会へ出てきます。中に入って待っているか、4―Aの教室へきてください。―内藤》
そして、零細部活代表の集まる集会へと行く。今日も話はまとまらないのだろうか。まとまったところで、なにか解決策があるのか?
会場の教室に少し遅れて到着する。
「あれ?なんか少なくないか?」
ぼんやりと座っていた夏実ちゃんを見つけて話しかける。
「少ないね」
夏実ちゃんの目がほとんど死んでいる。夏実ちゃんだけじゃない。教室に集まっている各零歳部活代表メンバーたちの目は一様に負け犬だ。
くそっ。
「みんな!気持でだけは負けないでいこー!」
声を張り上げてみる。
「おーし!声だしていこー!」
「こぉーっ!」
「せっおーっ!」
乗ってくれたのは、ほとんどが零細部集団においてはマイノリティの運動部、エクストリームアイロニング部だ。
ノッてもらっておいて申し訳ないが、なんか違うとぼくも思った。そういうことではない。その証拠に、ほとんど死んでいた零細部活代表たちの目が、完全に死んで霊細部活になっている。戒名をつけてくれ。
「なー。俺、部室もどっていいかな?私物そろそろ持って帰らないと…」
「あー。俺もー」
おわた。
「ちょちょちょ…ちょっと待て!あと一回!あと一回だけ集まろう!」
教室を出て行こうとするみんなに声をかける。
「えー」
「ぶー」
非難と不平不満が反応。
我々が助かる空気が一つも感じられない。それでも、なんとかゴールデンウィーク明けの五月七日にあと一度だけ集まる約束を取り付ける。
それでどうにかなるものでもないけれど、最後に《この学校にはこんなに小さな部が沢山乱立していたことがありました》みたいな集合写真を撮りたいなと思ったのだ。
◆◆◆◆
「まぁ、仕方ないよ内藤くん。それより、どこと統合するか考えたほうが建設的じゃないかな」
部室に向かう道すがら慰めてくれる夏実ちゃんの提案は、ある意味で建設的で現実的。一方で、敗北宣言。現実と言うのはこういうものなのだろうか。
げんじつこわい。映画の世界がいい。
とぼとぼと、まだやや片足を引きずり気味に部室に向かう。ぼくも部室の私物を今日あたりから持って帰ったほうがいいんだろうか。dvdプレーヤー代わりのゲーム機と液晶テレビが一番の大物だな。液晶テレビがでかい。三十二インチもある。
そんなことを考えながら、部室のある半地下へと降りる階段へ到着する。
「あ…」
そこで、階段に腰掛ける細い背中を見つける。
「香織」
すいっと、なめらかに香織が顔をめぐらせてぼくを見上げる。
「省吾。部室にいたんじゃないのね」
ドアの前までも行っていないんだ。行けば、張り紙に気づいたはずだから。香織は、本当に映画研究会を辞めてしまうのだろうか。
「香織。映画研究会やめないでくれよ」
見上げる香織の目が見開かれる。そんなに驚くようなことを言っただろうか。そのまま香織がフリーズする。
「映画研究会をやめないで欲しいんだ。他の誰が入らなくたっていいよ」
ブラウザがフリーズしたときに更新ボタンを押すように、同じ言葉をリロードする。
「わかった。辞めないわ」
香織が立ち上がる。背中を向けて歩き始める。向かう先は部室。ドアの前で立ち止まり、張り紙を剥がし、ドアを開ける。
ほどなく、ぼくはパイプ椅子に座ってポメラを開く。
香織は、バタリアンのdvdをセットする。いつも通り。
「香織?」
「なぁに?」
「なんでもない」
斜め前の香織のいつも座る席が空いている。今日の香織はぼくのとなり。
いつもと同じ、いつもと少しだけ違う部室。
なんとかできないものだろうか。
なんとか、この場所を守れないものだろうか。
ぼくは、まだあきらめていない。あきらめられない。
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