第7話 【四月十八日深夜~内藤省吾~】

 眠れなくて目を覚ます。窓の外が、やけに明るい。カーテンを開けると、向かいの家に明かりが灯っていた。 時計を見ると午前二時三十五分。向かいの家、上原家はそんなに宵っ張りじゃない。毎晩、日付が変わる前にはいつも明かりが消えて、寝静まっている。

「香織……」

つぶやく。

 きっとまた、香織にフラッシュバックが起きたのだ。なにかの拍子にフラッシュバックが起きる。誘拐されたときの恐怖がよみがえる。

 そして吐く。

 十年以上、ランダムに上原家に起きる災難だ。きっとご両親が香織の面倒を診ているだろう。明日、香織は学校を休むのだろう。

「香織……」

ぼくは、なにもできない。明かりのついた上原家を眺めるだけだ。


 ぼくには、なにもできない。香織に、なにも。


 一階の明かりが消える。二階の一部屋だけ、明かりが残る。

 香織の部屋。

 香織。

「香織。その部屋で、どうしているの?」

つぶやく。

 お母さんか、お父さんが、付き添っているのだろうか。


 二階の明かりが消える。

 再び静かな暗闇に沈んだ家を見る。


 耳を澄ます。


 香織の叫び声が聞こえたりしないか。

 すすり泣きが聞こえたりしないか。


 遠くを走る自動車の音。蛍光灯のインバーターの音だけが聞こえる。

 時計を見る。

 午前三時十八分。


 布団にもどる。

 香織の顔を思い浮かべる。無表情で、ゾンビ映画を見る香織の横顔。ぼくを見て「助けに来なかったくせに」と言う、香織の顔。

 香織の顔。

 整った。表情の薄い。

 香織の顔。


 ぼくを責める。

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