第18話 二人の結末

「ふぅ〜ん、それで?結局どうする事にしたんだ?」

「どうなんだ!?」


 余程気になっていたのか、宗次郎と話し合いをした夜、一人になった私の部屋に睦美と娘の樹里亜がやって来た。


 宗次郎がいない事で、話は悪い方向に向かったと思ったようで、思い切りメンチを切られたけれど、話はある意味良い方向に進んだと話すと、家の中に入り、聞く姿勢を取ってきた。


 睦美は缶ビールを開けジョッキに注ぎ、樹里亜は何かのお菓子のような物を小さいジョッキに入れた後、それに水を注ぐ。すると、ビールのような飲み物が出来上がった。


「え?ジュリ、それって?」

「ヒャッハー!母ちゃんとお揃いのビールだよ!」

「クックック、子供ビールってやつだよ。」


 そう言う駄菓子があるらしい。

 二人は乾杯をすると、同じ様にジョッキを口にする。


 ジョッキの大きさもあるけど、縮尺的にほぼ同じ位の位置まで一気に飲むと、同時にジョッキをテーブルに置いた。


「「ぷはぁ〜!この一杯の為に生きてるなぁ!」」


 4歳児になんて言葉を教えるのだと呆れながら、私も睦美に貰ったビールに口をつける。


 何だかんだ言って、睦美は姉妹思いだ。


 良くない事があったなら、言葉は厳しいけど、心配してくれるし、こういう時一番に駆け付けてくれる。


 買ってきたという焼き鳥を、樹里亜は美味しそうに頬張っている。私もそれに手を伸ばし、ぽつりぽつりと話し始めた。


「えっとね、取り敢えず離婚する事にしたよ。」


 そう言うと、勢い良く扉が開いた。


「ミイ姉!離婚おめでとう!」


 勢い良く入ってきたのは萌衣だった。


 いつもふざけて軽いこの子も、本当は優しいのを知っている。

 こうやって会いに来てくれるんだから。


 でも、離婚おめでとうにはカチンときたなぁ。


「てめぇ空気読め!このダッチ○イフが!」


 私が何か言う前に脊髄反射で、睦美が怒鳴る。


 空気読め→空気嫁→ダッチ○イフという事なのだと思うけど、樹里亜の前でやめて欲しい。


「そうだそうだ!げっとわいるど!」


 ……?


 良く分からない4歳児だなぁ。


「何よ!暗くなってると思って気を使ったのにさ!」

「お前頭わいてるのか!どんな励まし方だボゲェ!」

「ねえあねご!くにおくんやっていい?」


 まぁ大人の話なんてつまらないだろうね。

 家から持参したファミコンのカセットを掲げて、私に許可を求めてくるから、宗次郎が樹里亜のために買ったミニファミコンを出してあげた。


「ねぇ二人とも、話を聞きに来た訳じゃないの?」


 ぎゃあぎゃあと言い争っている二人に辟易しながら、ビールを飲みそう話しかけると、二人はお互いに睨み合いながら椅子に座った。


「で?話してみろよ。」

「そうそう、どうなったの?」


 漸く大人しくなった三人を見て、私はため息を着くと、話し始めた。


「うん、あのね…」



 あの後、私は本当に死んでしまおうと思った。

 でもその思いは、優しく笑いかけてくれた後、一緒に死んでくれるという覚悟を見せた宗次郎を見て、雲散霧消した。


 今迄一緒にいた修司さんと比較するのは、宗次郎に失礼だと重々承知しているけれど、私と一緒にいるという覚悟が、天と地程の差がある事が分かってしまった。


 修司さんは一緒に居た間、何の覚悟も見せてくれなかった。全ての責任を私に押し付け、深い話をしようとすると、誤魔化してばかり。


 宗次郎は違った。

 身体目当てとは言いながら、私の事を知っていたにも関わらず、リスクを負ってまで一緒に居てくれた。

 そして、躊躇なく一緒に死んでくれると迄言ってくれた。


 私はそんな人を死なせたくなかったし、出来ることならこれからも一緒に居たいと思ってしまったのは仕方ないと思う。


 それでも、私にはこんな歪な関係を続けて良いのか、それが分からなかった。


 私が包丁をテーブルに置いて泣き崩れていると、宗次郎は優しく抱き締めてくれて、ずっと考えていたというもう一つの話を始めた。


『 なぁミイコ、俺もそうだし、お前もそうだと思うけど、この結婚っておかしいと思ってるよな?だったらさ、離婚しよう。』

『 ソウくん…でも!』

『 うん、分かってる。最初からやり直してみる気はないか?』

『 最初から?』

『 そう、最初から。一度離婚してさ、ちゃんと恋人として付き合ってみないか?それから、お互いに必要だと思えばもう一度結婚すればいいんじゃないかな?』

『 ソウくん…』

『 俺たちは人の好意が分からなくなってしまっているよな?』

『 うん…そうだと、思う。』

『 丁度いいじゃん。そんな壊れた者同士、一緒にやっていってみないか?』

『 う、うん…』

『 ミイコ、俺と付き合ってくれ。』

『 は、はい!喜んで!』


 そうやって、私達は離婚した後、恋人としてやり直してみるという話になった。


「えぇ〜、お兄さんと付き合うって話?」

「そ、そうだけど?」

「つまんない〜!私も突き合ってみたいぃ!」

「萌衣!あんた今のつきあうって、絶対違う意味でしょ!」

「そうだよ!エッチしたいって言ったの!」

「すげぇなお前。仮にも姉の旦那に対しての言葉じゃねぇぞ?」

「本当よ!どんだけ尻軽なのよ!」

「違うよ!ミイ姉がお兄さんのエッチが凄いとか言うから!ムツ姉だって興味あったでしょ?」

「お前と一緒にすんな。このビッチが。」

「へぇ…そう言うところで誤魔化すんだ。何時も男前とか言われても、ムツ姉だって所詮ヘタレだよね!」

「なっ!ざけんなよ!あぁ言ってやる!興味?あるに決まってんじゃねーか!旦那と出来なくなってからどんだけ時間経ってると思ってんだ!あたしは尼さんじゃねーんだぞ!」

「ほらねー!」

「しゃあー!リキを倒した!」

「おぉ!樹里亜、一面クリアか!」


 あぁ、うるさい。


 それにしても、離婚するのだからこれからはこう言う人達も気にしていかなければいけないんだよね。


 それでも私は、こんな事を言われる彼氏を持つ事が出来るという優越感で、心は満たされている。


 私の人生で初めて、ちゃんとした彼氏が出来て、離婚をする事になった。

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