第15話 結婚とは?
休みの前日、久しぶりに飲みに来た。
メンツは俺、涼平さん、千花夏、後から碧も来るらしい。
「涼平さん、悪いな。」
「あ?有給か?どうせ消化しないといけないし、夫婦の大事な話し合いだろ?」
「まぁ、そうなのかな?」
休みの日とその翌日に有給を使い、連休にした。
明日は碧に借りを返さないといけないから、明後日の休みに話し合いをする事になった。
「そうなのかなって…そうなんでしょ?」
「どんな話になるか分かんねえからな…」
「何よそれ。大体さ、なんでこんなに早く離婚する訳?」
結婚した理由が、ミイコとエッチしたかったからなんて、碧以外には言えなかった。
千花夏は、本当に不思議そうに訪ねてくる。
「しゃあないだろ?好きな人がいるからって事なんだから。」
一々離婚理由を聞かれるのも面倒になっていたから、思わず真実がポロッと出てしまった。
それを聞いた涼平さんと千花夏は目を大きく見開いて絶句している。
おっと不味いな…
まじまじと見られる視線に耐えられなくて、目の前にあるビールを飲み干し、次の飲み物を注文しようとしていると、碧がやって来た。
「お疲れ〜。涼平さんも千花夏も久しぶり〜。」
「ちょ、ちょっと碧!宗次郎の奥さんってあんたの親友じゃなかったっけ!?」
来た早々千花夏の勢いに飲まれた碧が、苦笑いをしながら俺の隣に座り、俺にチラチラと視線を向けてくる。
「碧、俺も一応宗次郎の保護者がわりとして、話を聞きたいんだが?」
「えーっと…」
涼平さんにまで詰め寄られ、困った碧は俺にツンツンと肘をぶつけてくる。
仕方ない。
俺が口を滑らせたのが悪いからな。
「もういいんだよ。大した事じゃない。」
そう言って顔を伏せると、二人はそれ以上聞かれたくないと分かってくれたのか、難しい顔をして口を噤んだ。
「大丈夫!私がちゃ〜んと慰めてあげてるから!」
碧が余計な事を言うものだから、俺が落ち込んでいると勘違いされたようだ。
「ねぇ宗次郎、今日は私が慰めてあげるよ。」
千花夏が俺の手を握り、キラキラとした瞳でそんな事を宣う。
その手をバシッと叩き落とし、碧が俺に抱きついてくる。
「それは必要ありませ〜ん。私が予約済みです。」
「いやいや、碧だけじゃ心配だからね。いっつもあんたに自慢されてたし、一度くらい私だって確かめたかったんだから!」
「二ヒヒ。世の中には知らない方が幸せな事もあるんだよ?」
「し、知りたい!今なら慰めるって建前もあるんだし、未知との遭遇は浪漫だと思う訳。宗次郎だって、いっつも同じブラックホールよりは、私のような未知の超新星に興味があると思うし!」
「だ、誰がブラックホールだ!」
「碧に決まってるでしょ?宗次郎と付き合ってる時でも浮気するとか、真っ黒じゃん?」
「あれは…て言うか、千花夏には分からないわよ!」
一体何の話をしているんだか。
ただの離婚話が、ユニバース的な話になっている事に呆れていると、俺の正面に座っている涼平さんも呆れた顔をしている事に気がつく。
「なぁ涼平さん。結婚ってなんなんだろうな?」
「宗次郎…それを俺に聞くか?」
あぁそうだった。
この人は結婚なんて出来ないんだったな。
隣で碧と千花夏がヤイヤイ言い合っているのを無視して、涼平さんと話す事にした。
「なんかさぁ、好きとか愛情とか、俺には分からないんだよ。」
「はぁ?じゃあなんで結婚したんだ?」
「まぁ…色々?」
俺の答えに、涼平さんはため息をついた。
「俺にだって好きな感情くらいは分かる。と言うか、世間様から見れば特殊な人間だからな。だからこそ、その感情は強いと思っている。一人の人を大事にしたいと思うし、護ってやりたいとも思う。」
え?
そうか…そうだったのか。
「護ってやりたいか…」
「お前は嫁さんを護ってやりたいと思わなかったのか?」
どうなんだろう。
護るも何も、夫婦としての形を成していなかったから、俺がミイコに対して抱いていた感情なんて、情欲しかないと思っていたが。
「答えの出ない顔をしているな?まぁその為の話し合いなんだろうし、自分の気持ちを整理して話し合う事だな。まぁ離婚届にもサインをしている事だし、碧との関係も何も言うつもりはないが。」
涼平さんはチラリと未だ言い合っている二人を見て、俺にいい笑顔を向ける。
「ブラックホールだ超新星だと上ばかり見ていないで、宗次郎もたまには下を見てみるのもいいんじゃないか?」
「下?足元を疎かにするなとかそう言う…?」
「下にあるマンホールもたまにはいいんじゃないか?」
それってつまり…
「お断りします。」
マンホールって
本っとぉぉぉに、ごめんなさい!!有り得ませんから!
「残念だ。まぁ、冗談だがな。それに
冗談だといいながら、非常にガッカリとした表情で酒を飲んでいる涼平さんを見て、手を出さない約束を取り付けた母さんに感謝した。
「そうだ、琴音さんの事を思い出せばいい。あの人は、間違いなくお前を愛していた。」
志摩琴音、享年37歳
俺が物心ついた時には親と呼べる存在は母さんしかいなかった。
何時も働いていて、顔を合わせるのは夜遅くだけ。
それでも寂しいと思わなかったし、俺は疲れた母さんを癒したかった。
手伝いをすると喜んでくれたし、マッサージをすると、幸せそうな顔をしていつの間にか眠ってしまう事もあった。
ああいうのが家族。
結婚したら家族になるんだもんな。
夫婦としての男女の仲ってのが身近になかったから実感がなかったが、俺はミイコにも同じようにしてきたような気がする。
色々と悩んでいる間に女二人の話し合いは終了していて、翌日、と言うかここを出たら三人でホテルに行く事になっていた。
涼平さんのトボトボと帰る後ろ姿を眺めながら、俺は二人の女に脇を抱えられ、引きづられるように拉致された。
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