第13話 無駄に考える男
閉店時間は20時だけど、早番と遅番があり、今週早番の俺は仕事が終わるのが19時位で、碧の帰宅時間とほぼ被る。
恋人でもなければ、まして夫婦でもない俺達は、交代で夕飯を作る事になった。
夕飯が終わると一緒に風呂に入り、上がってから一発。その後晩酌をして、酔った勢いでまた一発かまして、寝る。
風呂上がりの一発が終わって晩酌をしている時、碧は何時も楽しそうにしている。
「はぁ〜、やっぱり宗次郎と結婚したいなぁ〜。毎日こんな生活してたら、絶対幸せじゃん?」
「バカ言ってんじゃねえよ。子供欲しいんだろ?」
「まぁそれはそうなんだけどね…」
結局はそういう事なんだ。
結婚イコール子供ではない事は知っているし、子供は作らないと言う夫婦もいる事は当然知っている。
ただそれは作らないだけであって、作れない事を良しとしてくれている訳では無い。
夫婦生活の中で、やっぱり子供欲しいなと思った時、俺が夫ではそれが出来ないという不安は当然あると思う。
だから俺はミイコにプロポーズをした。
相手が子供を作れないならば、俺のそういう後ろめたさみたいなものも、キレイさっぱり消えてなくなる。
ただミイコとセックスをしたくて結婚を迫った代わりといっては何だが、俺との生活にストレスを貯めないでいいようにしようと思ったし、俺も楽しむ為に行為自体も全力を尽くそうと思っていた。
まぁそれでも、やっぱり本当に好きな人には勝てない訳で、結婚というスパイスを利用するというならそれでも構わなかった。
「そう言えば、美衣子が店に来たんでしょ?何だって?」
「離婚止めようって。どうしたのかな?」
「ええ〜、戻るの?」
「何でお前がそんな顔すんだよ。」
「だって、出来なくなるでしょ?」
「あのなぁ、碧は結婚するんだろ?俺はお前専用の肉バ〇ブじゃねーんだぞ?」
「そんな事思ってないけどさぁ、結婚かぁ…」
結婚はしないといけないが、俺とセックスもしたいとか、ただのクズだな。
人の事は言えないが…
「て言うか、借りは二つだった筈だろ?何で毎日ヤルはめになってんだよ。」
「貸しとは別に、家賃的な?でもヤルはめってさ、宗次郎はハメるの嫌?」
「何だそれ。シャレのつもりか?」
「二ヒヒ…宗次郎ぉ〜ハメよう?」
ダメだこいつ。
もう酔っ払ってやがる。
その晩は、碧から酔った勢いに任せたような行為をされ、終わった後は俺の胸にもたれかかったまま眠った。
年々激しくなっていくなコイツは…
「どうすっかなぁ〜。離婚してあげた方が良いんだろうけど…あ、そうか。」
別に結婚に拘らなくても、もうしちゃった訳だしな。多分ミイコだってまたしたいとか思ってくれたから離婚しないって話だと思うんだ。
セフレとしてならいけるんじゃないの?
相性最高だし、俺だってミイコとまたしたい。
どうせ相手は既婚者だし、遠慮要らないんじゃないか?
「……でもなぁ〜。」
折角育てたのに、不倫野郎に良いようにされるのも気に食わないよなぁ。
いやまぁ、横から手を出した俺の方が悪いのかもしれないが…
いや待てよ、先ず本当に不倫野郎の事を好きなのか?て言うか、どうなれば好きって事になるんだ?
「マジ訳分からんな…」
俺の胸で眠っている碧は、陸上の試合で良い成績を収めた時の様な、やり切った顔をして眠っている。
「入れたまま寝るんじゃねぇってーの…よっと。」
チュポンと抜くと、碧はビクンと体を震わせる。
まぁあれだ、安心安全とでも思ってるだろうな。
出来ないんだから生でも問題ないし、何よりゴムありと無しでは感覚が違うとか何とか言ってたし。
「俺もいつまでこんな事してるんだろうな。」
数日後の話し合いで、ミイコがどんな話をしてくるか、それによって対応は変わってくるだろうけど、基本方針が決まっていない。
離婚するのか、しないのか。
俺はどうしたいんだ?
そう考えた時、俺の心臓が少しだけ跳ねた。
結婚って、そんなに簡単にするものではなかったかもしれない。
結婚に希望なんて見出していなかった俺は、自分の欲望を満たす為の手段としてその制度を利用したに過ぎない。
しかし半年の間、俺はミイコの事だけを考え、疲れて帰ってくると元気を出してもらいたくなり、落ち込んだ顔を見ると、笑顔を見たくなった。
全ては最高のセックスの為。
でもそれは、一緒に居て彼女を見ていられるから出来た事だ。離婚するという事は、そんな相手を手放すという事になる。
離婚して別居すると、もう最後にしたようなセックスは出来ないと思う。
今更ながら、夫婦と恋人の違いがジワジワと分かってきて、俺は困惑する。
彼女なら簡単に別れられたのに、一度体験してしまったあの感覚が、離婚すると失われてしまう訳だ。
…あれ?こういうのが、夫婦と恋人の違いだっけ?
何か違和感を感じながらも、碧から搾り取られた事による疲労感によって、考える事が面倒になった俺はゆっくりと目を閉じた。
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