第12話 病み?

「てめぇ!まだ別れてなかったのか!」


 遊びに来た妹が、宗次郎がいない事を私に問い詰め、事情を話す事となった。


 妹、『睦美むつみ』は昔レディースの総長をやっていた事もあり、怒るととても怖い。


 細い眉をピクピクとさせながら仁王立ちしている睦美の隣には、娘の『樹里亜じゅりあ』(4歳)がつまらなそうな顔で立っている。


「あねごぉ、おじきは?」


 樹里亜は私の事を宗次郎の事をと呼ぶ。

 宗次郎は意外と子供好きで、樹里亜が来た時は嬉しそうにしていたし、よく構っていた事で、樹里亜に好かれている。


「あぁ、うん。ごめんね。ちょっと暫く帰ってこないの。」


 私がそう言うと、樹里亜は明らかに残念そうな顔をして肩を落とした。


「折角ゲーム教えてやろうと思ったのに…」


 そんな樹里亜の頭を、私は撫でてあげる。


「チッ!そりゃあ兄貴に愛想尽かされるわなぁ!」


 睦美は宗次郎の事を兄貴って呼ぶ。


「もぅ…ちゃんと話し合いするって言ってるでしょ?」


「あぁ!?んなもんムリに決まってるじゃねーか!大体なんで結婚してるのにあのクズと繋がってんだよ!」


 睦美は浮気とか大嫌いで、旦那さん一筋。

 旦那さんはこれまた気合いの入った人で、何とか言う数百人規模の暴走族の頭だったらしい。


 らしいって言うのは、旦那さんはもう亡くなってる。睦美は私と違って明るくてサバサバしてるから、それなりにモテるんだけど、再婚する気は無いと言っている。


「おっ邪魔しま〜す!」


 そんな話の中、突然の来客が。


 もう一人の妹『萌衣めい』が遊びに来た。


「あれ?どうしたの?」


 その場の雰囲気を感じ取って、私と睦美の間に視線を彷徨わせる。


「このバカ姉が、まだあのクズと繋がってて、兄貴と離婚するかもってよ!」


 大声で萌衣に説明すると、説明された萌衣は目を輝かせる。


「マジで?!じゃ、じゃあさ、私がお兄さん貰ってもいいよね?!」


 何となく気がついてたけど、萌衣は宗次郎が気になっているようだった。

 萌衣は可愛いタイプで、非常に男ウケがいい。


「だ、だめ!」


 私は慌ててしまう。


「なんでよ〜、いいじゃん。ミイ姉は好きな人いるんでしょ?離婚したならもうお兄さんは自由じゃない?」

「萌衣もバカだけど、言ってる事は間違いじゃないよね?今更兄貴が誰と付き合おうが関係ないだろ?」

「まだ!まだ離婚してないもん!」

「もんっ!じゃねえーぞゴラ!あんな良い旦那貰って、何が不満なんだあ”ぁ”!」

「そうだよ!もう自由にしてやりなよ。そして私にちょうだい!!」

「や、やらない!ソウくんは渡さない!」

「てめぇ!じゃああのクズはどうすんだ!?今更兄貴に拘る理由はなんだ?!」


 そう言われても、私は言葉を濁す。

 だって、セックスがこの世のものとは思えない程良かったなんて、言えない…


「うそっ!マジで?!お兄さん最高じゃない!ちょうだい!」


 口に出ていたようだった。


「バカか!不倫の次は体目当てかよ!我が姉ながら、情けねえ…だからって、萌衣とってのも兄貴が可哀想だろ。しゃーねぇな、兄貴は樹里亜にも良くしてくれてるし、あたしが保護してやるか!」


 そんな事聞き逃せるわけがない。

 だって睦美の顔は少しだけ赤くなってニヤニヤしているのだから。


「ちょ、ちょっと!結局あんたもソウくんの体目当てじゃないの!」

「はぁ?そんな訳あるか。お前と一緒にしないで貰いたいね。あたしは樹里亜の面倒を見てくれるお礼として…」

「きったない!ムツ姉汚いよ!まぁ、子供産んだ体より、ピチピチの私の方が有利だけどね?」

「んだとゴラァ!」

「ヒャッハハイ!おじきはあたいが貰うよ!」


 頭が痛くなってきた。

 もうみんな帰って欲しい。

 樹里亜まで参戦してもう収取がつかない。


 宗次郎は渡さないし、色々考えたい事もあるし。


 修司さんの事はどうすればいいの?

 もう訳分からないけど、本当に長い間過ごした彼と切れるなんて、出来そうもない。


 じゃあ何があるから私は修司さんと一緒にいるのだろう。


「自分は硬派だって顔して親子丼企むとか、ムツ姉も相当だよね!」

「ざけんなぁ!樹里亜を勘定に入れてんじゃねぇぞこのビッチが!」

「違いますぅ〜。私はちゃんと彼氏と別れてから次に行きますぅ〜。その周期が早いだけですぅ〜!」

「十分ビッチだろうが!」

「そうだそうだ!親子丼は美味しいよ!」

「ジュリは黙ってようね?」


 あ〜もぅ!


「帰れ〜!ソウくんは渡さないし、暫く来るな!このバカ妹共!」

「てめぇが一番のバカだろうが!この腐れが!」

「本当にバカだよね〜。もう帰ろう。お兄さんは私が貰うけどね。」

「おじきと遊ぶのはあたいだよ!」

「うるさぁーい!」


 三人を追い出して、コーヒーをいれた。


 一週間あるから、それ迄に色々と考えなきゃ。

 修司さんとも会わないといけないけど、会うのが億劫になってきている。


 どうしたものか…


 取り敢えず修司さんと話をして、結果如何によっては、殺して私も死のうかな。


 あ、それだと宗次郎が妹に取られるかもしれないし、修司さんを殺した後宗次郎も殺して、宗次郎の傍で死のうかな。


 取り敢えずの方針は決まったところで、良く切れる包丁を物色する。


「これかな?」


 完熟トマトに潰れることなく、スっと刃が入っていく。


「よし!おっけいー!」


 さて、修司さんと会う日に備えなきゃ。

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