第2話 一目惚れ
お互いに二十五歳で、共通の友人、
俺が口説き続けて付き合って貰ったと言うのが本当の所だから、美衣子が俺の事を好きなのかどうかはよく分からない。
そんな事は二の次だし、どうでもいい。
この状況になる事が大事で、優先してやってきた。
夫婦にさえなれば、セックスをするのは普通だ。
俺は美衣子とどうしてもしたかった。
彼女は見た目が地味で、黒髪を一つ結びにして垂らし、前髪は長くメガネをかけている。身長は平均的で、体の線が出ないような野暮ったい服装をしている。
周囲にいる人達は、一緒にいる碧の方に目が行くだろう。碧は栗色のショートヘアで、露出度の高い服装をしている。学生の頃は陸上をしていただけの事はあり、引き締まった脚はとても魅力的と言える。
顔もパッチリとした大きな瞳で、ぷっくりとした唇は、異性の視線を集める。
ではどこで美衣子に一目惚れしたかというと、碧とホテルに行った帰り、ご飯でも食べて帰るかと寄ったイタ飯屋で、先に居た美衣子と男が食事をしている所に出くわしたのが始まりだった。
碧は驚いて美衣子に声をかけたけど、美衣子とその男は居心地悪そうにやり過ごそうとしていて、邪魔しちゃ悪いと言いながら、碧を引っ張って離れた席に着いた。
俺達が食事をしていると、先に居た二人は席を立ち、男は支払いをしていて、美衣子はおずおずとコチラに近づいてきた。
後で碧に聞いたところ、二人は付き合っている事を隠していて、美衣子は、上手く誤魔化しておけという男の言葉で、こちらに来たと推測されるそうだ。
残念ながら碧は美衣子の親友で、全ての事を知っていたらしいが、秘密にしろという男に、碧は全て知っているとは言えず、それに従った。
「彼は?帰っちゃったの?」
碧が席をずれて、隣に美衣子を座らせながら聞くと、美衣子は前髪で隠れた目をチラチラと俺に向け、小さく頷いた。
「碧は今彼氏がいないって聞いてたけど、何時の間に出来たの?」
俺とは目を合わせないようにしながら、碧に話しかけ、注文を取りに来た店員に、飲み物を注文をした。
「あぁ、違うよ?元彼だけど、今は付き合ってる訳じゃないよ?」
そう言って俺に目配せをすると、美衣子は俺に視線を移した。
「…どうも。」
俺が軽く頭を下げると、美衣子も頭を下げた。
「邪魔してごめんね…もう少ししたら、帰るから。」
「いいって。事情は察しているから。でもねぇ…」
「うん、分かってる。でも…好きなの。」
何かしらの事情がある事は察したし、それが道ならぬ恋である事も、簡単に想像できたが、俺はそれを聞く権利も興味もなかった。
しばらくすると、店員が飲み物を持ってきて、美衣子がそれを飲み始めた。
その時、俺に衝撃が走った。
グラスを持つ手、ストローを持つ指、ストローをくわえる唇を見て、コクリと息を飲むのと同時に、目が釘付けになってしまった。
そんな事は生まれて初めてだった。
先程まで碧といたしていたにも関わらず、性欲が湧き上がった。
二人の会話には全く興味がなく、美衣子がどのような事情があるかも関係なく、ただその身体を貪りたいと思った。
俺の性欲は、人並みだと思っている。
だけど、それを向ける相手は誰でも良かった。
飲み会の流れ等で雰囲気に流される時は、初めから遠慮なくやる。そういう時の相手は、しつこく俺に言い寄るけど、俺はその相手に縛られたくないから、お断りをする。
でも、俺の事が好きだと言ってくれる相手には、丁寧に対応した。初めの五回で身体を馴らし、六回目以降の行為は、とても強い快楽を得るらしい。
碧がこのパターンだった。
学生時代に告白され、まだ処女だった碧に、セックスの良さを教えたのは俺だったと言われた。
別れた原因は、碧だった。
酔った勢いとはいえ、他の男に抱かれた。
気づいたのは、碧と行為をしようとして、俺以外とした事が分かってしまったからだ。
俺は彼女が出来たら、他とはしない。
そして、相手が浮気をしたらそれが分かってしまう。身体の張りや呼吸など、それまで俺が育ててきたものに手が加えられているのは簡単に分かってしまうのだから厄介だ。
当時、行為をしようとして、それに気づいた俺は、途中でやめ、別れを切り出した。
『碧、別れよう。』
『え?な、なんで?!』
『浮気したよな?』
『し、してない!』
『誤魔化すな。俺には分かる。お前を彼女にはしておきたくない。』
『い、いやぁ、宗次郎!』
その後、言い訳を聞かされた。
飲み会で、男に言い寄られたと。俺としかした事がなくて、その言い寄って来た男は、しきりに自分が上手いのだと売り込んで来た。碧の事が好きだと言われ、彼氏の事を忘れてしまうくらいにしてやると言われ、誘いに乗ったそうだ。
そう、俺には恋愛感情が理解できない。
女は気持ち良くなれば好きだといい、男は気持ち良くなる為に好きだと言う。
所詮行き着くところは、セックスだ。
だから俺はセックスに全力を尽くす。碧はそんな俺の愛情というのが薄く感じていたらしい。
結局碧の期待は裏切られ、その男との行為は、良くなかったと。ニヤニヤとしながら、気持ちよかっただろ?と自信まんまんの顔で言われ、自分を好きだと言いながら、自分の反応すら真面に見ていなく、俺とその男の行為が、子供の三角ベースと、メジャーリーグくらいの差があると言い放ち、帰ったそうだ。
何度も復縁を迫られたが俺は断り続けた。
確かに碧には、俺よりもっと碧を満足させてやれる愛情を注いでくれる男の方が良いと感じたからだ。
色々と話し合った結果、碧に彼氏が出来るまで、セックスフレンドとして会うという事になった。
俺もそれなりにモテると言われる部類に入る。
身長も180はあるし、冷たい目をしていると言われるが、それが好きな人は一定数いるようで、言い寄ってくる女は少なくない。
だから、女には困らなかったし、今まで欲しいと思った女はいなかった。
それなのに、今の俺はどうなっている?
初めて会った女に性的な魅力を感じ、何としても抱きたいと欲している。
俺は美衣子の手や唇から、目が離せない。
二人の会話など全く入ってこず、今すぐにその指や唇を舐め回したいと考えてしまい、何時の間にか勃起していた。
二人が話し終え、美衣子と碧が手を振りあい、美衣子が店を出て行くまで、視線が外せなかった。
食事を終えると、俺は碧の手を握り、外に出た。
「え?どうしたの?」
「…ホテルに行こう。」
「本当に?さっき迄してたのに?」
「ああ、今物凄くしたいんだが、嫌か?」
「ううん!そんな事ない!宗次郎から誘ってくれるなんて珍くて驚いただけ。私は何時でも宗次郎としたい!」
俺達はホテル行き、お互いの欲望をぶつけ合った。
俺の上に乗り、程よく汗をかいた胸に碧は頭を預け、寝息をたてている。
碧が起きたら、美衣子の事を聞いてみようと思いながら、目を閉じた。
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