第0094話 串焼き屋台の店主

えずよかったじゃないですか? 火災で亡くなった人はいなかったという話でしたから……」

「はい……ですが、妻の行方ゆくえを誰も知らないだなんて……」


 マルルカとガザマンの会話を聞いていたユリコが口を開く……


「都会というのは人間関係が希薄きはくになりがちですからね、どうしても……」

「確かにそれもあるんでしょうが、な~んかなぁ……

 ユリコさん。近所の人たち、みんななんか変じゃなかったですかぁ?

 視線を合わせてくれないっていうか、おどおどしてるっていうか……

 なんとなくですが、なんか隠しているような気がしたんですが……」


「マイミィもそう思った? 最初はニコニコしていたのに……

 火事の話、特に、ガザマンさんの奥さんの話を切り出した途端とたんに、なぜかみんなの表情がくもってしまって……」


「そうそう、マルルカさん! そうなんですよね~。 私たちとはかかわりたくない、一刻いっこくも早く立ち去りたい! っていう感じになっちゃうんですよね?」


「なるほど。そう言われてみればそんな感じだったわね……

 そうなると……どうやらこの件の裏にはなんかありそうね?

 あれ? そういえば、火災の原因ってなんだったのかしら? 誰か聞いた?」


「いいえ。何度か聞いてみたんですが、なぜかみんな、『分からない』の一点張いってんばりでした」


「そうなんですよ、ユリコさん。 私も聞いてみたんですが、マルルカさんが言った通りの反応はんのうでした。 とにかく火事のことは話したくないって感じです」


 ガザマンはひどく落ち込んでいる。

 肩を落として地面をボーッとながめながら、ユリコたち3人の話を聞いている。



 ガザマンとユリコたちは火災現場の近隣きんりん住民じゅうみんたずねてまわったのだが……


 火災そのものは、おおよそ2年前に起こったらしく、大火傷おおやけどった者は何人かはいたのだが死者は出なかったという話まではみんな話してくれる。だがしかし……


 ガザマンの妻がどこへ行ったのかは誰もが知らないと言うだけだったのだ。


 それどころか、ガザマンの妻、マウィンの名前が出た途端とたんに、みなくちおもくなり、関わり合いたくないというような態度を露骨ろこつに表して……

 みな早口はやくちで『知らない』とかえしながら、強引ごういんに話を切り上げてしまうのだ。


「さぁ、ガザマンさん。今日はもう日も大分だいぶれてきましたし……

 続きは明日にしましょう!」

「はい……」


「あせる お気持ちは分かりますが、勇者様が言ったように明日にしましょう!」

「はい……」


「あ。今夜の宿やどは心配しなくてもいいですよ? まるところはありますからね。

 ダーリンが神殿前の広場にあなたがまるテントを用意してくれていますから」

「はい……」


 ガザマンは、こころここにあらず といった感じだ。


 4人は神殿へと向かって歩き出した……

 しばらく進むと、肉の焼ける美味おいしそうなにおいがただよってきた。が……


「……なんて不味まず串焼くしやききなんだ! ……もぐもぐ……」

「本当だな! こりゃぁ、金を返してもらわねぇとなぁ……あふん、はふん……」

「くちゃくちゃ……いは(いや)、んぐっ、賠償金ばいしょうきんを払ってもらわねぇとなぁ?」

「さぁ、オヤジ! ありがね全部差し出しな! ……もぐもぐ……」

「んぐんぐ! おうよ! 今回はそれで勘弁かんべんしてやるから、さぁ金を出しな!」


 その美味しそうなにおいがただよってくる先で何やらむさい男どもが大声を上げながら誰かを恫喝どうかつしている?


 どうも串焼き屋台やたい店主てんしゅおどして金をげようとしているようだ。


 男どもは全部で5人。

 不味いだのなんだの言いながらも美味そうに串焼きの肉を頬張ほおばっている……


「勇者様! あれ! あいつら絶対に悪者ですよ! やっつけましょうよ!」

「ユリコさん! 小っちゃな女の子が! ほら!」


 黄昏時たそがれどきだ。少々薄暗うすぐらくてよく見えないのだが……

 串焼くしやの店主の後ろで獣人? の小さな女の子? が目にいっぱい涙をめながらふるえている。 店主の子供なんだろうか、かわいそうに……


「マルルカ! マイミィ! いくわよ!」

「「はいっ!」」


「ガザマンさんはあの女の子を守ってやってね!」

「あ……はいっ! 分かりました!」


 この事態じたいにようやくガザマンの目にもちからが戻ったようだ。


「マルルカ! マイミィ! いい!? 街中まちなかですから攻撃神術は禁止ね!

 血の海は見たくないから、剣の使用も禁止! いいわね!?」

「「はいっ!」」


「まずは彼等に恐喝きょうかつをやめてすぐにるように言うけど……

 素直すなおしたがわなかったら、その時はデコピンで始末しまつするわよ!」

「「はいっ!」」


 なんかまた『デコピン勇者伝説』が増えそうである。


 4人は高速移動で串焼くしや屋台やたいへと向かい……


「あなたたち! いい加減かげんにしなさい! 今すぐ大人おとなしくればよし……

 さもないと後悔こうかいすることになるわよ!」


 むさい男どもはいっせいに振り返る。


「もぐもぐ……ごっくん。

 なんだなんだぁ~? ねぇちゃん、お前らには関係ねぇ! すっこんでろ!

 ……お? おお! いい女が3人! こりゃぁいい! ひひひっ!

 分かった! やめてやってもいいがなぁ、ひっひっ! ただし条件がある……」


「うひょひょ! ああ、そうだ。 串焼くしや勘弁かんべんしてやるわりになぁ……」


「おう! そうだとも、そのわりにお前ら3人、一晩ひとばん俺たちの相手をしな!

 そうしたら、コイツらのこたぁ見逃みのがしてやらぁ。 クックックッ!!」


「はぁぁぁーーっ! ったく! この世界のクソ野郎どもといったら!」


 ユリコは大きく長~い "ため息" をき、てるかのように言うと……


「マルルカ! マイミィ! やるわよ! 手加減無用てかげんむようよ!」

「「はいっ!」」


 一瞬、ユリコの脳裏のうりに、手加減てかげんなしでデコピンをはなったらあたまがちぎれ飛ぶ映像えいぞうよぎる……


「あ、訂正! 頭がちぎれ飛ばない程度に手加減てかげんしてね! あと面倒めんどうだから!」

「「はいっ! 承知しょうち! えいっ!」」


 男どもは、ユリコたちのことを女性だと思ってなめくさっていた!

 下卑げびた笑いを浮かべながら、余裕よゆうぶっこいている!

 が! 次の瞬間!


 ぺち! ぺち! ぺち! …… ぐはっ! ぐふっ! うがっ!

 ズガガガン! ズガガガガン! ザザザザザザーーッ!

 ぺち! ぺち! …… どはっ! うぶっ!

 ズガガン! ズガガン! ザザザザーーッ!


 もうお分かりのことだと思う……そう! いつものあれである!

 デコピン一発! → バック宙1回 → 地面で2回バウンド……

 最後は顔から着地して、そのまま地面で顔をけずりながらしばらく進んで止まる!


 クソ野郎どもは全員が白目しろめをむき、口からあわいて気を失っている。

 皆、顔にひどきずっており、傷からは血がにじみ出て……??

 いや、ドバドバと流れでている!?


「もう大丈夫ですよ! ご主人、娘さんも、怪我けがはありませんか?」


「ああ、大丈夫だよ。 まぁ、べつに俺はこまってなかったんだがなぁ……

 まっ、えず、一応いちおうれいだけは言っておく。 ありがとよ」


「と、取り敢えず? 一応? って……え?」


 マルルカが驚く……


「いやなに……あの程度のクソ野郎どもの"5人や10人"をぶちのめすなんざ、俺にとっちゃぁ、わけもねぇことなんでなぁ。

 ハッキリ言わせてもらやぁ~、いらんお節介せっかいってやつだ」


「おっ、お節介っ!? あなたねぇ! それはないんじゃ……」


 マイミィが串焼くしや店主てんしゅろうとするのをユリコは止めた。


 たしかに店主からは助けを求められていない。


 人助けだと……よかれと思ってやったことだが、結果的には『親切の押し売り』のようになってしまったらしい……。 もうこれ以上は何か言うべきではない。


 たのまれてもいないのに、勝手かってに助けたつもりになっていた。その上、さらに恩着おんきせがましい態度をとるのは最悪だ。 みっともない……

 ユリコはそう思って、お節介せっかいびて、すぐにるべきだと考えたのだ。


「あらあら。お節介せっかいでしたか? ごめんなさい。 おおきなお世話おせわでしたとは……

 あの状況じょうきょうでは、あなたに"助けが必要かどうか"をたずねている余裕よゆうがなかったものですからね。 これはこれは、どうも大変失礼致しつれいいたしました!」


 ユリコらしからぬ物言ものいいだ。な~んか、いやみっぽい。 少々ご立腹りっぷくのようだ。

 ユリコの口もとだけを見れば笑っているのだが……目の方は笑っていない。


「さ、みんな! お節介者せっかいものの私たちはお邪魔じゃまでしょうから、さっさとることにしますよ! さぁさぁ、行きますよ!」


「「はい……」」


 ん? ガザマンが動こうとはしない?

 串焼くしや店主てんしゅそばで彼の横顔よこがおを見ながら、なにやらブツブツとつぶやいている?


「……隊長……ガルゴイル隊長……ああ、よかった……ご無事でしたか……」

「ん? お前さんは……」


 屋台やたい店主てんしゅ背後はいご幼女ようじょまもっていたガザマンは屋台やたいに近づくと……


 屋台やたいげられているランプに顔を近づけて、顔が店主に"ハッキリ"と見えるようにした。 屋台の店主に自分の顔を確認させようとしたのだ。


「……ガザマン!? お前、ガザマンなのか!? お前も無事だったのか!?

 そうか! 生きていたのか! そうか、そうか! よかったぜ!

 3年も、どこをほっつき歩いていやがった!? 音沙汰おとさたなしだったから、てっきり死んだものだとばかり思っていたぜ!」


「はい! 隊長たいちょうもよくぞ ご無事ぶじで……」


 そう言いながらガザマンは屋台やたい店主てんしゅ、ガルゴイルの全身を見て絶句ぜっくした……


 ガルゴイルには左腕ひだりうでがない! 左目ひだりめは閉じられている? どうやら左目ひだりめうしなってしまっているようで、『無事ぶじ』と言っていいものなのか逡巡しゅんじゅんしたのだ。


「ああ……これか? 左腕と左目はあの戦いでな。 名誉めいよ負傷ふしょうってヤツだぜ!

 ん? あれ? あの戦いのさなか、負傷したお前を医療いりょうテントへはこび込んだ時は、確か右足はちぎれていたし、右目もつぶれていたんだが、いったいどうして……」


「はい。私はあの戦いで右足と右目を失ったのですが……

 実は先ほど、こちらの方々……上様うえさまのお后様方きさきさまがたに治していただいたのです」


 ガザマンはそう言うと何かに気付いて『はっ!』としたかのようだ。


 ユリコたちにはこの状況じょうきょうがよく理解りかいできず、どうしたものかと困惑気味こんわくぎみの表情をかべながらこちらを見ているのが、ガザマンの目に入ったようだ。


「あ! お后様方きさきさまがた、ご紹介しょうかいれて申し訳ございません。

 このかたは、3年前のシオン神聖国によるニラモリア国侵攻しんこう時に、私たち特別部隊の指揮しきをとっておられた "ガルゴイル隊長" です」


 ユリコたちの方を見ながらガルゴイルを紹介しょうかいしたガザマンが、ガルゴイルの方へ顔を向けながら……


「隊長。この方々かたがた上様うえさまのお后様きさきさまです。 ニラモリアからここへ向かっている途中とちゅうで盗賊に襲われたのを助けてくださった上、盗賊と戦ってった傷と共に、失った右足と右目までをも治してくださった、大恩人だいおんじん方々かたがたです」


「あっ! ガーゴイル!」

「いえ、マイミィさん。 この方の名前はガルゴイルさんです。

 ガーゴイルではありませんよ?」


 ガザマンが、隊長と呼ばれる屋台の店主の名前を間違まちがえていることをただしているのだが、マイミィはにまったく耳に入らないようだ。


「ユリコさん、マルルカさん! 私ちょっと行ってきます!

 すぐに戻りますから、ちょっと待ってて下さい! …… 転移てんい!」


 そう言うとマイミィはどこかに転移していった。


「ちょ、ちょっとマイミィ! どこに行くのよ……って、行っちゃった……」


「勇者様、マイミィはどうしたんでしょうね?

 ガルゴイルさんの顔を見てなんか思いだしたようですが……なんでしょう?」


「さぁ……ま、でもすぐに戻るって言っていたからここで帰るのを待ちましょう」


「はい」


「えーと。 は・は・は…… ということで、これでご紹介しょうかいんだものと思ってもいいですよね? あれ? 隊長?」


 ガルゴイルがひざまずいている?


「先ほどは『いらんお節介せっかい』だなんて申しまして、大変失礼しました。

 心からおび申し上げます」


 ユリコたちは にっこり と笑う。

 ユリコが口を開く……


「あらあら。 たとえ私たちじゃなくても人の厚意こういには感謝かんしゃしたほうがいいですよ。

 あ、そのままじっとしていて下さいね! …… 修復!」


 すると、ガルゴイルの身体があわい緑色をした半透明な光のベールに一瞬つつまれた。

 が、すぐにその光のベールは消える。


 ユリコはガルゴイルが失っていた左腕と左目を修復したのだ。

 その他のこまかな刀傷かたなきずなども すべて綺麗きれいに治ってしまっている。


 ガルゴイルは30歳である。


 おおきな怪我けがっていたせいか、当初とうしょ老人ろうじんのようにも見えるほどんでいたのだが、ユリコに修復神術をほどこされて、精悍せいかんな顔つきになった。


 これが彼本来の姿なんだろう。


 ガルゴイルは左腕と左目が元に戻ったことに驚愕きょうがくした! この場に鏡があったのなら、若返った自分の姿を見てさらに驚くだろうに……残念だ。


「ああ……なんと……」


 ガルゴイルはあふれ出る涙を必死にこらえているかのようだ。

 『なんと』と言った後、涙声なみだごえになってしまうため言葉がうまく続けられない。


「うふふ。お節介せっかいついでに、もうひとつだけお節介せっかいいておいたわ!

 感謝かんしゃしなくてもいいけど、おおきなお世話せわだとか……文句もんくは言わないでね。

 うふふふふ!」


 ユリコは彼女を見ている者をとりこにしてしまいそうなくらいの素敵すてきな笑顔を浮かべながらそう言った。


「お、お后様、ううっ……あ、ありがとうございます。 なんとお礼を申し上げればよいのか……うぐっ……ううう……」


 ガルゴイルは涙声にならないように、ゆっくりとした口調くちょうれいを言う……


「ち、違うわ! 勘違かんちがいしないでよ! わ、私はま、まだシンのきさきじゃないわ!」


『あらあら……またまためんどうくさいユリコさんが出たわ……ふぅ……』

 ユリコの言葉を聞いてマルルカが心の中でつぶやいた。


「え!? では! どうか俺の嫁になって下さい! 俺はあなたにほれました!」

「はぁあっ!?」


 ユリコは驚きのあまり絶句ぜっくする! マルルカはその横で苦笑にがわらいしている……

 いやはや、いきなりあい告白こくはくとは驚きだ……ひとめぼれってヤツなんだろうか?


「もしもあなたが上様うえさまのお后様きさきさまであらせられるのなら、俺は"すっぱりと"あきらめますが……そうじゃないんなら、俺にも まだチャンス がありますよね?

 不肖ふしょうながら、このガルゴイル、全力であなたを幸せにしてみせます!

 俺の嫁になって下さい! どうかお願いします!」


「あわあわあわあわ……」


 ユリコは真っ赤だ。

 どうしたらいいのか……いや、というか、どうことわろうかとオロオロしている。


 それを見かねたマルルカが口を開く。


「ガルゴイルさん。あなたでは無理です。 あきらめて下さい。

 さっき、ユリコさんが言った言葉をちゃんと聞いていましたか?」


「え!? なんですかっ!?」


「ユリコさんは 『私はまだ・・きさきではないわ』 と言いましたでしょ?

 ユリコさんは、今はまだ・・『后』ではありませんが、ダーリンの……

 つまり『 かみ婚約者こんやくしゃ 』なんです。 これ以上の求婚は不敬ふけいですよ?

 天罰てんばつくだされますよ?」


「……」


 ガルゴイルは見るからに落ち込んでいる。


 マルルカの言葉に、ユリコは『婚約者でもないわ!』と言いたかったが、この場をうまくおさめるためには しょうがない と思い、言葉をんだ。


「隊長。ユリコさんは無理ですよ。 上様うえさまを心から愛しておられるし、上様うえさまも同じく心から彼女のことを愛していらっしゃいます。

 ユリコさんが、"あわや奴隷どれいにされそうに!" って、ことがあったんですが……

 その時の上様うえさまのおいかりと言ったら……そりゃぁ、もうすごくて……ぶるぶるっ!」


 ガザマンは、商隊しょうたいまぎんでいた盗賊、ジャギャンが落雷らくらいい、爆殺ばくさつされた時の様子ようすを思い出して、"ブルブルッ" と身震みぶるいした。


 ガルゴイルの横恋慕よこれんぼをなんとしても止めなければ……と強く思ったのだ。


「とにかく! 上様がユリコさんをこころそこからものすごく愛していらっしゃるのを俺もこの目ではっきりと見たんです!

 隊長! 死にたくなかったら、どうか、すっぱりとあきらめて下さい!」


「……ま、まだユリコさんからは、返事へんじをもらってないだろ!?

 ひょっとしたら、OKしてくれるかも知んねぇじゃねぇか!? そうだろう?

 そ、それで……ど、どうでしょうか? ユリコさん!?」


 ユリコは、ここはきっぱりとことわらないとダメだと思った。


「はぁあ!? 何を勝手なことを言っているのよ? 私があなたを好きになるなんてことがあるわけないじゃないの! 未来永劫みらいえいごうないわ!

 だからすっぱりとあきらめて! 私はシン一筋ひとすじよ! 私たちは相思相愛そうしそうあいなの!

 今は正式な婚儀こんぎっている段階だんかいなだけなの! 私がフリーだと勘違かんちがいしないで!

 それに……私には他の男なんてみんな "ゴミ" よ! "ゴミ" にしか見えないの!

 あははははっ! ごめんなさいね~」


 ユリコは一気いっき早口はやくちでまくし立てた!


 一気いっきすかのようにえたユリコはかたいからせながら上下させている。

 『 はぁはぁ 』といきあらい……どうやら、必死に言い切ったって感じだ。


 ユリコの側でマルルカは "ニヤニヤ" している。


「……ご、ゴミ!? は・は・は……そ、そんなぁ……(しょんぼり……)」


 そこへマイミィが転移で戻る……


「あれれ? どうしたんですか? なんかありましたぁ?」

「ま、マイミィ! あなたいったいどこへ行ってきたのよ?」


「あはは……あのう……あれですよ、あれ! ほら、ユリコさん。

 盗賊との内通者ないつうしゃしらった時に、うごかぬ証拠しょうことしてきつけようとした使い魔のガーゴイル……彼を ほったらかしに していたのを思い出しちゃってぇ。 えへへ」


「え? マイミィ? こっちに転移してくる前に解放かいほうしてあげてなかったの?」

「でへへぇ~、そうだったんですよぉ」


「ひ、ひどい……」


「マルルカさん、そんなこと言わないで下さいよぉ~。

 ガザマンさんを一刻いっこくはや奥様おくさまわせてあげようとあせっていたんですからぁ」


「それでマイミィ? ガーゴイルはどうしてたの?

 魔物だから泣いてたりはしなかったでしょうけど……」


「いえ、ユリコさん。それがね、ガーゴイルくんは、私が行ったら目をうるうるさせながらきついてきたんですよ。

 で、おいおいと声を上げて泣くんですよぉ。 信じられますぅ?」


「ちょ、ちょっと想像そうぞうできないわね……。 で、どうしたの? 解放してきたの?」


「はい。一応いちおう解放かいほうは してきたんですがぁ……

 どうもえさとなる動物や魔獣まじゅう豊富ほうふなので、あの森が気に入ったらしくって、群れを全部あの森にせてしいって頼まれちゃって……」


「え? 群れを全部あそこへ招喚したの?」


「そうなんですよ、マルルカさん。

 ひとりぼっちにしておいたもありましたので、そうしてあげました」


「大丈夫? 林道りんどうを通る人たちをおそったりはしない?」


「あ、ユリコさん、その心配は全くありませんよ!

 『あそこを通る旅人たちを襲うな!』『旅人たちを盗賊から守れ!』

 って、命令めいれいしてきましたから、その点は大丈夫です!

 ぬかりはありません! むふーっ!」


 マイミィは得意とくいげにふんぞりかえり、むねっている! なんとなく鼻息はないきあらい。



 のちにその林道は『 ガーゴイル林道りんどう 』と呼ばれるようになる。


 旅人たびびと安全あんぜんひとなつっこいガーゴイルたちがまもってくれるということからその名がつくようになり……

 非常ひじょう安全あんぜん林道りんどうとして、神国とニラモリア国で広くわたることになるのだ。


 一方いっぽうで盗賊たちには "林道りんどう" として恐れられるようになる。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「動くな! さもねぇと このガキの命は ねぇぞ!」


 ガルゴイルの失恋をガザマンがなぐさめ……

 ユリコたちがマイミィに、どこへ、なんのために転移していったのかをたずねているそのスキをつき……

 先ほどユリコたちがデコピンで倒して、気絶しているはずだった"クソ野郎"どものひとりが、ガルゴイルの子供を人質ひとじちに取ったのだ!


 クソ野郎は治癒魔法が使えるのか、あるいは、ポーションでも使ったのか、顔面がんめんきずが治っている!?



 きかかえられた "幼女ようじょ" のはらには剣がきつけられていた!!


「さぁ、ありがねをすべて出してもらおうか?

 で、女たちは俺の性奴隷せいどれいになってもらおうか!? おっと! 動くな!

 動くとこのガキの土手どてぱら風穴かざあなをあけるぞ! それでもいいのかっ!?

 さぁ! 大人しく言うことを聞け!」


 クソ野郎にきかかえられている女の子は "犬族いぬぞく" で6歳。

 くち横真一文字よこまいちもんじむすんで、必死に涙をこらえているかのようだ……


「チャミィ。 いいかい。 ギュッと目を閉じていてくれるかい?」

「うん、パパ。 分かった……うう……」


 ガルゴイルの言葉に娘、チャミィはしたがって ギュッ と目を閉じた……その刹那せつな


縮地しゅくち!」 シュンッ!

「うぐっ……」


 ガルゴイルは『 縮地しゅくち 』と呼ばれる "瞬間移動魔法" を使ったようだ!


 瞬時にクソ野郎の背後に回ったかと思うと……

 どこからか取り出した短剣でクソ野郎の首をったのだ!


縮地しゅくち!」

 ……ゴロン! …… ブシューーッ! …… ズサッ!


 ガルゴイルはクソ野郎にきかかえられていた幼子をうばると、再び縮地しゅくちによりユリコたちのそばへと瞬時に移動する……


 その直後! クソ野郎の首は胴体から離れて地面へと落下!

 その首からは脈動みゃくどうするかのように大量たいりょうがったのだ!


 その直前に幼女とガルゴイルは、ユリコたちのもとへと移動したため、血を浴びることはなかった。


 この時、ユリコたちはガルゴイルの実力じつりょく理解りかいした。


 ガルゴイルが、ユリコたちの手助てだすけを『お節介せっかい』だと言ったのも納得なっとくできたのだ。


「ねぇねぇ、ガザマンさん。『しゅくち』? ってなんでしょうか?」


「あ、マルルカさん。『縮地しゅくち』っていうのは、隊長が得意とする魔法で、お后様方がお使いになる『転移』の簡易版というか、そんな感じのものです。

 瞬間移動できるのは、見えている範囲内はんいないに限られる点が『転移』とは違います」


 『転移』の方は、管理システムのコンピューターが移動元と移動先の2点間を結ぶ最適さいえき最短さいたん亜空間内あくうかんない経路けいろを自動的に計算してくれた上で、管理システムが空間に穴をあけて移動させてくれるため、見えない移動先にも瞬間移動可能であるのだが……


 『縮地しゅくち』の方は、瞬間移動しゅんかんいどうする人の "基本システム" がその役割やくわりになう。


 基本システムの計算能力は、管理システムよりもかなりおとっていることと……

 瞬間移動に使えるエネルギーが、その人の魔力だけであることから、視界に入っている範囲内でしか "瞬間移動" できないのである。


「へぇ~。そうなんだぁ。 ということは私たちも練習するとできるようになるかも知れないですね、ユリコさん?」


「ええ、そうね。おぼえると便利べんりそうなので、あとでみんなで練習しましょうか?」


「「はいっ! そうしましょう!」」


 ガルゴイルが子供の頭をいとおしそうになでているのを見ていたガザマンが、ふとあることに気が付く……


「あれ? そういえば隊長は未婚みこんでしたよね? えーと、そのお子さんは?」


 その子、チャミィが不思議そうな顔をしながらガザマンの顔を見る。


「ああ。この子はあのたたかいで両親りょうしんくしているんだよ。

 たまたま、この子の両親がいきろうかという居合いあわせた俺は、この子の両親にたくされたんでな。 それで引き取ったんだよ。 だからこの幼女ようじょは俺の養女ようじょだ」


「パパ……」


こわかったな? だがもう大丈夫だよ。 悪いやつはやっつけたからな。安心おし。

 あ! あっちは見ちゃダメだよ」


「う、うん。パパ……」


 チャミィが地面に転がっているクソ野郎の死体の方を見ようとしたのだが、急いでガルゴイルの胸に顔をうずめた。


 その様子を見たユリコは、死体をなんとかしなくては……と考える。


『ここは街中まちなかだから……できれば、火属性神術は使わない方がいいわよね。

 あ、そうだ! フェイザーじゅう消滅しょうめつさせるがあったわ!』


 ユリコはフェイザーじゅう起動きどうし、出力しゅつりょくレベルを"6"にセットして、クソ野郎の首も胴体どうたい一気いっき蒸発じょうはつさせたのだった。


「「す、すげぇ……」」


「あ! その手がありましたね! さすがは勇者様!

 ダーリンの "フィアンセ・・・・・" ですわね!」


「え? マルルカさん、それはどういうことですか?」

「あ。さっきユリコさんがね……ごにょごにょごにょ……というわけなのよ!」


「なるほどぉ! そうでしたか! むふふ!

 ユリコさぁ~ん。 もうすぐ私たちの仲間入りですねぇ~。むふふふふっ!」


「あ、あのねぇ……ったくぅ……」


 ガルゴイルの手前てまえ、ユリコは反論はんろんできない……

 いや、どうやら、無理むり反論はんろんしなくてもいいとさえ内心ないしんでは思っているようだ。


 ハーレムの件さえなければ、今すぐにでもシンの后になりたい…と思っているからなんだろう。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「そういえば、ガザマン。 お前、"マウィンちゃん" とは再会さいかいできたのか?」

「いいえ、隊長。 それがつまが今どこにいるのか、さっぱり分からなくて……」


 ガザマンはこれまでの経緯いきさつを語った……


「ああ。なるほど。 多分だが、マウィンちゃんを守ろうとしてみんなくちざしているんだな……

 マウィンちゃんなら、となりにある『 黄色きいろいハンカチ 』って食堂しょくどうにいるぜ。

 そこで、みではたらいているぜ。 それでなぁ……」


「隊長! ありがとうございます! 会いに行ってきまーーすっ! ではぁぁぁ」


「あ! おい! こら! まて! 話は最後までき……

 かぁ~っ!? あのあわて者がっ! すっ飛んで行っちまいやがった!」


 ガザマンは すごいスピード で遠ざかっていく……


「なんかわけありのようね? 違う?」


「ええ。そうなんですよ、ユリコさん。

 実はマウィンちゃんが、ちょっと面倒めんどうなヤツに目をつけられちまってね……

 ちょっと色々ありましてねぇ……

 あいつ……落ち込まなけりゃいいんですがねぇ……」


「落ち込む? えーーっ!? ま、まさか、他の男と一緒いっしょらしているとか?」

「マイミィ! 滅多めったなことを言うもんじゃないわよ」

「そうよ! マルルカの言う通りよ!」


「いや。それがユリコさん。実はマイミィさんが言うように、マウィンちゃんは今、男と一緒いっしょらしているんですよ。

 その相手あいては『 黄色いハンカチ 』の店主てんしゅなんですがね……」


 ユリコ、マルルカ、マイミィは、ガルゴイルのくちからかたられた内容ないようおどろいた!


「ああ……ガザマンさん。 大丈夫かしら?」


 ユリコは、ガザマンが "かるはずみなこと" をしなければいいのだが…と危惧きぐする。


えず私たちも後を追いましょう! いいわね? マルルカ、マイミィ?」

「「はいっ! そうしましょう!」」


 ガルゴイルに『黄色いハンカチ』の場所を聞き、3人もガザマンのあとった。


 たして、ユリコたちを待っているのは "修羅場しゅらば" なのか!? それとも……?


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