第0092話 内通者

 惑星ディラック周回軌道上しゅうかいきどうじょうにある巨大宇宙ステーション……

 その中のある会議室で行われている管理者会議に視点してんを移す。


 まぁ、会議といっても "しゃっちょこばった" もんじゃなくて おたがいフラットに、自由に発言し、意見交換いけんこうかんをしているから、はたから見ると、まるで"雑談ざつだん"でもしているかのように見えるかも知れないが……一応、会議だ。


 俺が日本人だった頃につとめていた会社で開かれていた会議とは "えらい違い" だ。



「それでは、第二の議題に移ろうと思う」

「第二の議題とは……新しい国を創る話でしたね? でも、なぜ?」


「シオリ、お前さんも、そして、みんなも知っての通りなんだが……

 なんだかんだ色々あって、今、ハニーたち全員をエフデルファイの神殿に、人族の中央神殿に集めているような状況になっちまっているだろう?」


 全員が首肯しゅこうする。


「で、その状況ってのが、どうやら人族以外のヒューマノイド種族の神殿関係者たちには面白くねぇみたいで……

 俺が人族を贔屓ひいきしているんじゃねぇか…という不満ふまんこえがチラホラと上がってきているってことだったんだよなぁ?」


 エルフ族担当助手のシホが複雑な表情をしながら口を開く……


「はい。そうです。 それに、ただ不満ふまんを言っているだけならまだしも……

 こまったことに、私が担当しているエルフ族では、ダーリンがクビにした元神殿幹部会議の者たちがその点をあげつらって、現体制とダーリンを批判していまして……

 反体制組織はんたいせいそしきまでをも、作り上げようとかげ画策かくさくしているようなんです」


 他の管理助手たちは驚きの表情を浮かべている。


「なるほど。ヤツらはそんな動きをしているのか? 困ったもんだなぁ」

「はい……」


「ということでだな。不満ふまん火種ひだねは、早いうちに消しとかねぇといけねぇよな?

 で、それは俺たちがどっかの国に集まっているのが原因になっているわけだ」


 シオリを含む全管理助手が『うん、うん』とうなずいている。


「そこでだ! それじゃぁってことでな……

 どこの国にも属さず、知的生命体ちてきせいめいたい知的魔物ちてきまものをもふくむ、全種族ぜんしゅぞく垣根かきねぱらった全く新しい国をつくろう! ってぇことにおもいたったってぇワケだ! どうだ!?」


「なるほど。そうすればどこも文句もんくは言えなくなるとは思いますが……

 でもいったい、その新しい国をどこにつくられるおつもりなんですか?」


「シオリ。お前さんなら薄々うすうす気付きづいているかとは思うが……」

未開みかい砂漠地帯さばくちたい、プレトザギスですね?」


「おお! さすがはシオリだな! そうだ! プレトザギスだ!

 あそこなら、新しい国をつくっても誰も文句もんくは言わねぇだろうからな。

 実は、会議が始まる前は『オミタ』もその候補地こうほちだったんだが、シオンの話じゃ、魔王まおう領地りょうちってことに( 地球へ旅立つ前の俺が )決めちまったらしいからな……」


「え? プレトザギスって……いつも攻撃神術の練習をしてるところ?」

「ああ、さゆり。その通りだ。あの砂漠地帯だ」


「えーーっ!? あんなところぉ? …… とてもじゃないけど、人はめないよね?

 いったいどうするつもりなの?」


 マップを空中に表示させる……


「ほら。プレトザギスの北には海があるだろう?」

「うん。 あっ! そっかぁっ!」


「ああ、多分、お前さんが今思いついたのと同じだと思うが……

 そこから海水を取り込んで "真水化まみずか" して、砂漠地帯さばくちたい緑化りょっかするつもりなんだ」


 プレトザギスという砂漠地帯さばくちたいは、地形的要因ちけいてきよういんにより……

 亜熱帯砂漠あねったいさばくであり、冷涼海岸砂漠れいりょうかいがんさばくでもあり、大陸たいりく内部ないぶ砂漠さばくでもある!


 もぉ~、どう転んでも、砂漠地帯にしかないような場所なのである!

 ここを緑化りょっかして、人が住めるようにしようと考えているのだ。


「なるほど。技術的には問題無いですね……

 しかし、気温分布きおんぶんぷや、気流きりゅうに変化が生じるでしょうから、気候変動きこうへんどう要因よういんとなってしまいませんか?」


 魔族まぞく担当たんとうのシズがちょっと心配そうにたずねる……


 彼女が担当している魔族の国、"ハオインガック"はプレトザギスの西側にしがわに位置している。 緑化りょっかによる気候変動きこうへんどうで、上空じょうくう気流きりゅうとかに変化が出ると、自然災害が増加したりしないかと心配になったんだろうと思う。


「おっ! さすがはシズだな。その通りだ。 もちろん、その点も考えてるぜ。

 実は今、全知師ぜんちしめいじて、そのてんふくめて色々シミュレーションさせているところなんだ」


「シミュレーションですか?」


「ああ、シズ。地形操作ちけいそうさによって山脈さんみゃくやらなんやらを、新たに生成することも許可して、気候変動きこうへんどうが最も軽微けいびとなるような『造成ぞうせいプラン』を、今、立案りつあんしてもらってるところなんだよ。

 だからな、お前さんが危惧きぐしているようなことは起こらないような"緑化りょっかプラン"が全知師ぜんちしからは提案ていあんされると思うから安心してくれ」


「そうでしたか。愚問ぐもんでしたね。大変失礼しました。

 僭越せんえつながら……さすがはダーリンです。 まんひとつもぬかりはありませんね」


 『僭越せんえつながら……』をつけるところが、この子のかわいいところだよな。


「いや。シズ、謝ることなんてねぇよ。これからも思ったことは、なんでもどんどん言ってくれ。 俺はその方が嬉しいからな、頼むぜ? 遠慮えんりょはなしだぜ?」


「はい」


「あー。みんなには事前に相談しなくてわりぃとは思ったんだがなぁ……

 まぁ、管理システムの演算リソースは"1%"ほど使うだけだってんで、俺の一存いちぞんでやってもらうことにしたんだよ。すまん。

 でな。それがあと5日ほどで出来上がるらしいんだが……」


 シオンの方を向いて、彼女の目を見つめる。

 シオンは俺と視線が合うと微笑み、ポッとほおめる……


「それで、シオン。 お前さんに、その新しい国の管理担当者になってもらいてぇと思っているんだが……どうだろう? 引き受けてくんねぇだろうか?」


「え!? わ、私がですか!? 私なんかでいいんでしょうか!?」


「ああ。復帰早々で悪ぃんだけどな、頼むよ。 どうだろう?」

「はいっ! 是非ぜひ! よろこんでお引き受けいたします!」


「おおっ! そうか! そうか! ありがとう! 助かるぜ!」


 かつてのシオンのポジション、人族の管理担当には現在、"地球"から転移して来たさゆりがいている……

 シオンが管理助手に復帰したからといってすぐにさゆりをはずして、シオンをふたたびそのポジションに復帰ふっきさせるわけにもいかない。


 どこも担当しない状態では、シオンも肩身かたみせまいだろうし、きわめて有能ゆうのうな彼女にはそれなりのポジションで活躍かつやくしてもらいたいと思ったのだ。


「それで……シオン。 さっき助けた女性な。 あの子は俺たちほどじゃねぇんだが、そこそこ科学技術が進んだ惑星のヒューマノイド種族なんだよ。

 しかも宇宙艦うちゅうかん機関主任きかんしゅにんをやってたくれぇの技術者らしいんだよ」


「はぁ。そう・なん・で・すかぁ……それで……?」


「でな、あの子にお前さんの仕事を手伝ってもらおうかと思っているんだよ」

「え? 私の手伝い?」


「ああ、そうだ。お前さんの直属ちょくぞくの部下になってもらおうかと思っているんだ。

 で、後で紹介するから、ちょっとそのへんのこともふくみおいといてくれるかな?」


 シオンがちょっと不安そうな顔をした。

 セヴォ・ブナインの、あの俺にグイグイせまる性格が気になったのかも知れない。

(→第0088話、第0089話参照。)


「ああ……もちろん、直接会って話をしてみて『 こりゃ馬が合わねぇな 』ってことだったら、無理強むりじいはしねぇから、その点は安心してくれ。

 まぁ、まずはえず彼女に会ってみてくんねぇかな?

 結論は会ってみてからでいいからさ。 どうだろう?」


「はい。 承知しょうちしました」



 うまう、合わないってのは、どうしてもあるだろうからなぁ。

 無理矢理チームを組ませることだけはしたくないと思っている。


 いずれにせよ、会って話をしてみないと分からないだろう……と思う。



「新しい国が、国家としてある程度軌道きどうに乗るまでは、お前さんとハニーたち全員の協力きょうりょくて、俺がメインで動くからな。 その点も安心してくれ。

 もちろん、お前さんに国をいでからも、俺は全力でサポートするぜ!」


 シオンは "にこっ" と笑った。


「まぁ、管理助手で、ハニーでもあるお前さんたちも、他のハニーたちも一緒いっしょに住むことになるから、お前さんをリーダーとして、俺とお前さんたちハニー全員で新しい国を創り上げていくことになるだろうけどな! よろしくな!」


「はいっ! なんかわくわくしますね! 私たちの国!」


 他の管理助手たちも満面まんめんみ……大きく何度もうなずいている。

 俺は全員に視線を送りながら……


「それでだが……全知師ぜんちしにやってもらっているシミュレーションが終了した時点で、もう一度みんなに集まってもらってさ、新しい国の"名前"や国造くにづくりの方法とかを話し合おうと思っているから、みんなそのつもりでいてくれねぇかな?

 みんなも、その時までに、どんな国にしてぇとかのアイディアを色々と考えといてくれるとありがてぇんだが……どうだろう? みんな頼めるかな?」


 "はいっ! 承知しました!"



 ◇◇◇◇◇◇◇



「では、第三の議題『八百万やおよろずかみ計画けいかく』についてなんだが……

 シオンの話を聞いて分かったように、シオン教をつくったことが、まさにこの計画の一部いちぶみたいなものだったようなんでなぁ……

 これはちょっと、一旦いったん保留ほりゅうにしようかと思うんだが。 どうだろう?」


「はい。シオンが先ほど語ったように、かつての上様も、その『八百万の神計画』を検討けんとうされていたようですから、まずはシオン教をどうするかを先に……

 つまり、上様が理想としていた宗教団体に矯正きょうせいするのか?

 ……あるいは、この世界から綺麗きれいさっぱり消してしまって、新たに別の宗教団体を作り上げるのか? を、先に検討けんとうした方がよろしいかと愚考ぐこう致します」


 シオリはキッチリしているからなぁ……


 俺のことを『ダーリン』とは呼ばず、『上様うえさま』と呼ぶようになっちまったな?

 フラットな議論をするためにも『 ダーリン 』って、呼んでもらった方がいいんだけどなぁ。


「そうですね。 私もシオリさんに賛成です! 今のシオン教は看過かんかできかねます!

 絶対にこのまま "のさばらせて" は いけません!」


 めずらしいことに、獣人族担当のシノの口調くちょういかりにちている?


「私たちが休止状態きゅうしじょうたいなのをいいことに……

 うちの子たちの領地りょうち侵攻しんこうして、大事だいじな子たちを大虐殺だいぎゃくさつし、生き残った者たちを奴隷化して……じょ、女性たちを…女性たちを性奴隷せいどれいにして凌辱りょうじょくしています!」


 シノはわなわなとふるえながらも、ちからのこもった口調くちょうで、なおも話を続ける……


「そんなヤツらは絶対に! 絶対に許せません!

 今回はダーリンの御蔭おかげまれずに、戦争にならずにすみましたが……

 このままでは、また何時いつうちに攻め込んで来ないとも限りません!

 いっそ、この世からヤツらをすべて消し去ってやりたいです!」


 シノはこぶしかたにぎり……いかりにふるえながら強い口調くちょうくくった。


「うちの子たちもさらわれて、人族の貴族きぞく性奴隷せいどれいとして売り飛ばされたり……

 この世界のトラブルの多くに、シオン教徒がふかかかわっている印象があります。

 たとえ多神教たしんきょう導入の判断材料としてのデータを収集するために、テスト用宗教団体として残すにしても……

 私は、教皇きょうこうやその側近そっきんたちを全部排除はいじょしてしまう必要があるかと思います」


「そうですね。エルフ担当のシホの言うとおりだと私も思います。

 シオンの、これまでの努力を無駄むだにはしたくはないので、シオン教自体は存続そんぞくさせたいと思いますが……

 我らの大切たいせつな仲間、シオンにひどいことをしてきたヤツらは絶対にゆるせません!」


 ダークエルフ族担当のシタンが発言した。力のこもった眼差まなざしである。


「おいおい、ちょっと待った!

 話の流れで、どうやら第四の議題の方に入っちまったようだし……

 それじゃぁ『八百万やおよろずかみ計画けいかく』についての議論は、シオン教への始末しまつをつけてからということにしようかな? それまでは保留ほりゅうって事で?」


 "はいっ!"


「じゃぁ、今からはシオンの身体の奪還だっかんと、シオン教をどうするかについて話し合うことにしよう。 それでいいな?」


 "はいっ!"



 ちょうどその時である!


『ダーリン! おいそがしいところをもうわけありません』

『ん? マルルカかい? ハニー、どうした?』


 マルルカから念話が入った。 どうもあわてているかのように感じられる。


『実は盗賊とうぞくおそわれてしまって……』

『なに!? つかまっちまったのか!? 今すぐ助けに行くから待ってろ!』


『い、いえいえいえ! 大丈夫です! 盗賊は殲滅せんめつしましたから!』

『ふぅ~、よかったぁ。 ものすごくあせったぜ!』


『それで、その盗賊たちが襲おうとしていた商隊しょうたいの中に どうやら内通者ないつうしゃがいるようなんです。 これからそいつをあぶり出そうと思っているんですが……』


『なるほど。 それで、俺にどうして欲しいんだい?』


『はい。盗賊たちの死はかくしておいて、街道かいどうの先でそいつらがせしているのを知らせに来たかのように商隊しょうたいには思わせて、迂回うかいさせようと思うんですが……

 マップがないものですから、周辺しゅうへんの状況を教えていただきたくて……』


『おお。かしこいな! 商隊しょうたい進路しんろ変更へんこうさせれば内通者ないつうしゃが盗賊たちと連絡れんらくをとろうとするとんだわけだな!? そこを押させて、動かぬ証拠しょうことするってことか?』


『はいっ! そうです!』


『なかなかやるなぁ、お前さん! えーと、ちょっと待ってなぁ……』


 マップでマルルカのいる場所を確認する……


 お! ユリコとマイミィも一緒だな! ん? 男の反応!? 誰だ!?

 気になるなぁ……。 おっと、その前に迂回路うかいろ、迂回路っと……あった!


『えーとなぁ。今お前さんたちがいる場所、北の方に迂回うかいできる道があるから…… そこから北へと続いている林道りんどうを、森をって北へと向かいな!

 そうだなぁ……おおよそ2kmくらい進むと大きな道に出るはずだから……』


『ダーリン、ありがとう! うふ、愛してる! じゃぁねっ!』


『お、おい! 一緒いっしょにいる男は誰だ!? ……』


 ああ……ようんだら、さっさと切っちまいやがったか!?

 一緒にいた男のことが……き、気になるぅ~!



 ◇◇◇◇◇◇◆



「ダーリンに聞きました! ほら! こっちの道です。 この林道りんどうを北へ2kmほど進むと迂回うかいできる大きなみちに出るらしいです」


「いいなぁ~、マルルカさん。 私たちもダーリンとお話ししたかったなぁ~。

 ねぇ、ユリコさん? そう思うでしょ?」


「わ、わわ、私は……そ、そんな気はサラサラなかったわ! ほ、本当よ!」


『『やっぱりめんどうくさいわ~、この人……』』


 マルルカもマイミィも同じことを考えた。


「あっ! ほらっ! 商隊が来たわよ!

 マイミィ、使つか気配けはいがないか監視かんしをしてね!

 さぁ、みんな! あわてているかのように演技えんぎしてね!」


 ユリコが指示を出す。


 しばらくすると商隊しょうたいがやって来た。 幌馬車ほろばしゃ5台、内1台が神殿しんでんのもののようだ。


 ユリコたちが商隊しょうたいの進路をふさぐと商隊しょうたいは止まり、先頭と最後尾の馬車の中から冒険者風の者たちが10人ほど出てきた。 その中には女性もひとりいる?


 護衛ごえいおぼしき冒険者風ぼうけんしゃふうの者たちの中に"女性"がひとりいることに、なぜだか分からないがユリコはっかかりをおぼえた……


 どうやらその女性は冒険者風の者たちのリーダーのようだ。 すごい美人である。

 彼女はこしげたけんつかに手をえ、警戒けいかいしながらたずねる……


「なんだい、あんたたちは?」


「私たちは神のきさきであり、冒険者をしている者です!

 街道のこの先で、盗賊の一団いちだんかまえているので知らせに来ました!

 このまま進むと危険です! どうか私たちの指示にしたがって下さい!

 こっちの林道りんどうを北に進むと迂回路うかいろに出ますから、こっちへ進んで下さい!」


あやしいわねぇ~。 あなたたちが盗賊じゃないでしょうね?

 あなたたちが盗賊じゃないって証拠しょうこはあるの?」


「証拠なんてものはありません。でも、本当に……本当に私たちは神の后なんです。どうか信じて下さい!」


「分かったわ。 信じることに……」


 "信じることにする"と言おうとしたリーダーとおぼしき女性の言葉を、男がさえぎる!


「おっと、姉御あねご! どうもあんたはお人好ひとよしでいけねぇな~。

 おい、おじょうさんたち! お前らのリーダーは誰だ? その男か?」


「いいえ。 この男の人は、この商隊を止めるために、盗賊によって道にころがされていた方です。 私たちのパーティーメンバーではありません」


「リーダーは私よ! それがどうかした?」


 ユリコが前に出て言った。


 男はイヤらしい、まわすかような目つきでユリコの全身を見ながら……


「クックックッ! お前さんがリーダーか……

 じゃぁ、念のためにお前さんには、一時的に俺の奴隷になってもらおうか?」


「なっ……バカなっ! 私たちは神の后だと言ったよね? あなた死にたいの?」


 マイミィが威圧いあつしながら、強い口調くちょうで警告した! だが男にひるんだ様子ようすはない。


 ユリコはブラックドラゴンに精神支配された時のことを思い出したのか……

 顔色は真っ青だ! 目には涙が! 身体もガタガタとふるえだした!


『クックックッ! 3人ともすっげぇ美人だなぁ~。 こりゃついてるぜ!

 信じてしくば、一時的に俺の奴隷になれ…とかなんとか言って、隷従れいじゅう首輪くびわめてやるか。 そうすりゃぁ、もう、こっちのもんだからな! クックックッ!』


 男は下卑げびた笑いを浮かべている。

 心の中で思っている嫌らしいことが、表情ににじみ出ているかのようだ。


『まずは、リーダーだというこの女を奴隷にして……クックックッ!

 この女をおもちゃにされたくなかったら、お前らも隷従の首輪をめろって言ってやることにしようか。

 そうすりゃぁ、この俺にしたがわざるをないだろう。ククッ!

 3人ともそのまま俺の性奴隷にして……クックックッ! たまらんなぁ!』


「お前さんは黙っていろ! 俺はそこのリーダーに言っているんだ!

 盗賊じゃねぇとは言ってるがなぁ……口ではなんとでも言えるからなぁ?

 なにもやましいところがねぇってんなら……、信じて欲しいってんなら、大人しくこの隷従れいじゅうの首輪をめてみろや! さぁっ!? さぁ、さあっ!」


 その時である! 一天いってんにわかにかきくもりっ!


 カリカリカリカリカリカリカリ……ズッガァーーンッ!

 ぎゃあぁっ! ……ズサッ!


 突如とつじょ、男にかみなりが落ちたのだ! シンのいかりのいかづちである!


 ユリコたちを奴隷どれいにしようとした男はかみなりに打たれて数メートルび、地面でヒクヒクしている!


 マルルカから念話を受けてからというもの、シンはユリコたちのことが気になり、ずっと様子をうかがっていたようだ!


 大切なハニーたちが対峙たいじしている相手には受信専用じゅしんせんよう念話ねんわ回線かいせんをつなげて、モニタリングしていたのだ!


 だから、クソ野郎のこころこえはシンに筒抜つつぬけだったのである!


 落雷らくらいの直後、この場にいる全員に対してシンから頭が痛くなるような強烈な念話が送られてきた!


『おい! てめぇらっ! 調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!

 はぁあっ!? 俺の大事なつまたちを奴隷にするだとぉ!?

 てめぇら、全員、どうやら俺にぶっ殺されてぇようだなぁ!?』


 商隊しょうたいの全員が馬車からりてきて、神殿関係者を先頭にユリコたちの前まで来ると一斉いっせいにひれした!


「も、申し訳ございません! まさか本当に神様のお后様きさきさまとは!

 我がパーティーメンバーが、た、大変失礼しました!

 う、上様うえさま! どうかおゆるしを!」


 冒険者パーティーの、リーダーらしき女性はてんに向かってゆるしをう!

 ユリコたちの方を "チラチラ" と見ながら、天に向かって大声でびたのだ!


『よし! えず他の者はゆるしてやろう……

 だがな! 今かみなりとした あのクソ野郎 だけは絶対に許さねぇ!

 俺の妻たちを性奴隷せいどれいにしようとしてたんだからなぁ……ぶっ殺す!』


 シンがそう念話でげた直後に、かみなりたれて数メートル飛ばされて気を失っていた男が、ふわふわと空中に浮かび上がる!


 どうやらシンは、はん重力じゅうりょく神術しんじゅつを使っているようだ。


四肢粉砕ししふんさい!』


 ……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!


 男はあまりの激痛げきつうに意識を取り戻し、絶叫ぜっきょうした!


 だがっ! その程度ていどばつを与えただけでは、シンのいかりはおさまらなかった!


爆殺ばくさつ!』


 ボムッ! ブシャッ!


 ひぃぃぃぃぃっ! きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!

 うわぁっ! …………ざわざわざわ……ざわざわざわ……ざわざわざわ……


 シンは相当いかっていた!


 男の魂の色が、"赤黒かった" のもあってか、躊躇ちゅうちょなく男を爆殺したのだ!


 男が落雷らくらいによって数メートル吹き飛ばされたからなのか、爆殺ばくさつしょうじたあめがその場にいた人々に直接ちょくせつりかかることはなかった。


 あたりには、強烈きょうれつてつさびしゅうただよいだす……


 見ると、爆殺ばくさつによってった血は、人々からはなれる方向に広がっていたので、恐らくシンは指向性しこうせいのある爆殺ばくさつ神術しんじゅつ発動はつどうしたにちがいない。


 人々は目の前でひろげられた惨劇さんげき恐怖きょうふした!


『てめぇら! ごちゃごちゃ言ってねぇで、俺の嫁たちにしたがって行動こうどうしろ!

 いいな!? 俺はちゃんと上から見ているからな!

 くれぐれもおかしなまねはすんじゃねぇぞ!?

 分かったら嫁の話をちゃんと聞け! それじゃぁな!』


 そう言うとシンは念話を切った。


 商隊しょうたいの者たち、警護けいご冒険者ぼうけんしゃたち、そして、神子みこたちまでもがすごいいきおいで首をたてに振っている!


 人々は、神がいかに恐ろしい存在であるかを……、

 そして、神がいかにきさきたちを大切にしているのかを強烈に思い知ったのだった!



 ちなみに……このことはのち色々いろいろひれがついたうわさとなり神国全土に広まり、男に襲われそうになった女性はみな『 私は神のきさきよ 』と言うようになる。


 その言葉は、多くの女性を凌辱りょうじょくの危機から救ったという……



「あーあ。だから言ったじゃない? 私たちは神の后だって。バカな男よね」


「みなさん。ダーリンの言葉が聞こえたでしょう? もうお分かりだと思いますが、今マイミィが言ったように、私たちは本当に神の后です!

 ですから、どうか私たちのことを信じてしたがって下さい!

 この先では本当に盗賊が待っているのです! このまま進むと危険きけんなんです!

 だからこっちの道を北に進んで、この街道かいどう迂回うかいしましょう! いいですね!?

 さぁ! 急いで下さい!」


 マイミィとマルルカがそう話すと、みなは急いで立ち上がり、馬車ばしゃへともどる。


 ユリコは青い顔をしてまだ震えている。 ブラックドラゴンに奴隷にされたつらい記憶、恐怖は思った以上に、ユリコの心に深い傷跡きずあとを残したようだ。

(→第0077話参照。)


「……ユリコさん、ユリコさん! 大丈夫ですか?

 私たちは神殿関係者の馬車に乗ることになりましたよ。さぁ、まいりましょう!」


「えっ? ああ、マルルカ。分かったわ……」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 盗賊の内通者ないつうしゃは北にある街道へとつながる林道を進みながらくやしがっていた。


『チッ! くっそう! まさか神のきさき遭遇そうぐうするとはなぁ……

 こりゃまずいな……計画は中止だな?

 おかしらにもすぐに逃げるように伝えないと、こりゃマズいよなぁ。

 北の街道に出たら、なにか理由をつけてすぐに休憩きゅうけいをとらせて……

 使つかをお頭のもとへ使いにやらせて、この状況じょうきょうを知らせないとな!

 しかし、もったいないなぁ! 神子みこたちもみんな器量きりょうよしだから、いいで売れるだろうし……お宝もいっぱいだっていうのになぁ……くっそう!』


 しばらくすると森をけ、今進んできた林道りんどうばいぐらいの道幅みちはばがある街道かいどうに出た。

 内通者がどうやって休憩きゅうけいをとらせようかと思案しあんしていると……


「みなさん! えずここまで来れば安心でしょう!

 あそこの草原そうげん一旦いったん休憩きゅうけいをとりましょう!

 この先が安全かどうかを私たちが見てきますので!」


 神の后、マルルカがそう言ったのを聞いて、内通者ないつうしゃは ほくそんだ。


『お! ついているな!? 休憩きゅうけいをとらせるために色々と考えてそんしたな。ははは』


 休憩に入ると内通者は『ようす』ために森に入っていく者たちにざって、森の中へと入っていった。


 ユリコと、ユリコたちが助けた男、ガザマンの二人が商隊ととものこり、マルルカとマイミィが街道の東の方へと偵察ていさつに出た。



 しばらくすると、皆がいる場所からちょっと離れた森の中から……

 上空じょうくうに向かって1匹の "ガーゴイル" が飛び立っていく……


 内通者ないつうしゃは、ガーゴイルが誰にも見つからずに南東なんとう方角ほうがくへと……盗賊たちがいると思われる方角ほうがくへと飛び立っていったと思っていたようだが……


 その機会をずっと待っていた者がいたとはつゆぞ思ってはいなかっただろう!

 そう! その待っていた者とはマイミィだ! この世界最高の魔物まもの使つかいである!


『ユリコさん! 魔物使いが誰だか分かりましたよ! でも驚かないで下さいね?

 それがなんと! 神殿神子しんでんみこでした!

 あ、魔物まもの使つかいがはなった魔物は、予定通り、私の支配下しはいかくことができましたから安心して下さい!』


『マイミィ、ありがとう! 順調ね!

 でも、なんていうことなの! まさか神殿しんでん神子みこ内通者ないつうしゃだったとはね!

 すえね……シンが落ち込まないといいんだけど』


『はい……暗い表情をするダーリンの顔が目に浮かぶようです。

 あ! 魔物使いの女がそっちに戻っていきますので、私も後を追います!

 それでは後ほど!』


『うん。 気をつけてね!』

『はい!』


『マルルカ。 マイミィが魔物使いを特定したわよ。 だからすぐに戻ってきて!』


『分かりました! 一応いちおう偵察ていさつのテイで商隊しょうたいはなれましたので、ねんのためにこの先を調べてみましたが、こっちは安全です。 誰もいませんでした。

 事件が解決したら、もとの道に戻らなくてもこのまま先に進んでいけそうです』


『そう。それはよかったわ、ありがとう。

それじゃぁ、てきめるからすぐに戻ってきてね!』


『はいっ!』



 ひとりの神殿神子の後を追うようにしてマイミィが森から戻ってきた。

 ほどなくしてマルルカも戻った。


 ユリコは神殿関係者たちに声をけた。


「神殿関係者のみなさん! シンからの伝言があります!

 すみませんが、こちらに来ていただけませんか!」


 神殿神子が2名。 彼女たちの側仕そばづかえの女性たちが計4名。 神子たちの警護をしていると思われる男性神官が3名、ユリコのもとへとやって来た。


 商隊の者たちと護衛の冒険者たちも何事なにごとか? と近づいてくる……


 マルルカとマイミィもユリコの横にやって来て……

 マイミィがユリコに耳打ちする。


「あの女性です。 あの神子が魔物使いです。 彼女は、ガーゴイルを招喚して手紙のような物を持たせて飛び立たせていました。 どうします? 成敗せいばいしますか?」


 ユリコはその神子の様子が変なことに気が付いた。


 彼女の首には、神子にはつかわしくない豪華ごうかなネックレスをしている!?

 彼女は、目には涙をいっぱいめていて……目はうつろだ!


 ユリコにはその表情には、充分じゅうぶんすぎるほどの心当こころあたりがあった!


「待って。 彼女おかしいわよ。 彼女は奴隷化どれいかされているんじゃない?」

「「え?」」


 3人は神眼を使う……奴隷だ!

 魔物使いの能力を持っている目の前の神子みこは、何者かの奴隷にされている!


「マルルカ。 シンに頼んで彼女を奴隷から解放してもらって」

「分かりました。……でも、勇者様がご自分で頼めばいいのに……」


「なんか言った?」

「い、いえ! すぐに頼んでみます!」



『……ということで、彼女の奴隷契約を破棄はきして欲しいんですが……』


 マルルカが、再び会議中のシンに念話をつなげて事情を説明し、奴隷契約の破棄はきを頼んだ。


『ああ。分かった。 ターゲットを確認した! 今から奴隷契約を破棄するが……

 周囲の警戒をおこたるなよ! その神子を支配しているヤツが多分、近くにいるはずだからな! 油断ゆだんするなよ!』


『はい。分かりました。

 勇者様とマイミィにも伝えます。 それではよろしくお願いします』


『おう! まかせておけ! ターゲット指定完了っと……

 よし! それじゃぁ、神である権限けんげんにおいて、この者の奴隷契約どれいけいやく強制的きょうせいてき破棄はきする!……加えて隷従れいじゅう首輪くびわ除去じょきょ消滅しょうめつめいずる!』


 シンが念話でそのように唱えると……

 神子の首もとをかざっていた、豪華ごうか綺麗きれいなネックレスがはずれて、地面に落ちる前に粉々こなごなになりながら消え去る。 その直後……


「うわぁーーーん!」


 奴隷にされていた神殿神子は、大声をあげて泣き出したのだ!


「さあ、シンが……神様が奴隷契約を破棄してくれたからもう大丈夫よ!

 だからもう泣かないで。 あなたを奴隷にしていたのは誰か教えて?」


「はい……私を奴隷にしたのは……」


「「あぶない!!」」


 ゴォォォォォォォーーッ!


 神子が、奴隷だったときの主人の名をげようとしたその時!

 彼女とそばにいるユリコに向かって高威力こういりょくのファイヤーボールがはなたれたっ!


 マルルカとマイミィが、いちはやくそれに気付き……

 神子とユリコの前に高速移動こうそくいどうしたかと思うとせまるファイヤーボールの前に立ちはだかった!


 だが! 奴隷だった神子は彼女たち3人がたてになったので守れるだろうが……

 その他の神殿関係者たちは全くの無防備むぼうびだっ! ふせぎようがないっ!?


 ファイヤーボールの威力と大きさからして、このままでは無事にすまないだろう!


 きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ! うわぁーーっ! ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!

 ドッゴォォォォォォーーンッ!


 ファイヤーボールは当たった! 大きな音を立てて爆発的ばくはつてきがったのだ!


 "はっ!? …… !"


 その様子を見ていた商隊の者たち、護衛の者たちはいきみ、目をおおった!

 ただひとりをのぞいてだが……


 そいつはほこったかのように大声で笑う……


「クックックッ! くぁあーーっはっはっはっはっ!」


 誰だ! いったいファイヤーボールは誰がはなったんだっ!?

 たしてユリコたちは!? 彼女たちの命運めいうんやいかに!?


 ……な~んてね。 まぁ、きっと無事に違いないんだけどねぇ~。


 え? なんでかって?


 だってさぁ、あのシンが彼女たちの様子ようすを見てないわけないでしょう?

 ふっふっふっ! きっと見ているにちがいないんだから……


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