第0089話 マザーを瞬殺せし者の正体

「私は『セヴォ・ブナイン』っていうの。 惑星ソラリスのコロニー……

 えーとねぇ、 超銀河団 局部銀河群 レム銀河系 タルコフスキー恒星系 第三惑星『ソラリス』の周回軌道上しゅうかいきどうじょうにある、『スペースコロニーL3』の生まれなの。

  宇宙歴うちゅうれき……あっ! 生まれた年は内緒ないしょ! うふふふふっ!

 もうこの身体なんだから、今さら 実年齢じつねんれい は言わなくてもいいわよね? うふふ」


 スペースコロニーだって? 結構けっこう高い科学技術力を持った種族なんだな?


惑星連邦わくせいれんぽう宇宙うちゅう艦隊かんたい所属しょぞく宇宙艦うちゅうかんヴィジャーの機関主任きかんしゅにんをやってたんだけどね……

 5年間の深宇宙探査しんうちゅうたんさの途中で、集合体しゅうごうたい形成けいせいする機械生命体群きかいせいめいたいぐんの攻撃を受けて、宇宙艦うちゅうかんをまるごと、中のヒューマノイドも全部まとめて同化どうかされちゃったんだよ。

 ひどいとは思わない? それでサイボーグにされちゃったってわけよ」


 ん? 機械生命体の集合体? ボーグかっ!? スター○レック!?


「ひょ、ひょっとして、その機械生命体の宇宙船ってのはキューブ型とかスフィア型じゃねぇのか?」

「うん。 そうよ。 よく知ってるわね? ったことあるの?」


「い、いや。 ねぇけど……ちょっとな」


 やっぱり、ス○ートレックに出てくるボーグそっくりじゃないかっ!?


「つらかったんだよぉ。意識はあるのに身体の自由がかなくって、隷属れいぞくさせられているっていうか……違うな。 なんかねぇ、機械の一部分、"部品"にでもされたって感じね、100年?それとも200年くらいなのかな? もう分からなくなるくらいずーっと、ずーっと無理矢理かされて……」


 セヴォ・ブナインはここで絶句ぜっくした……


 よっぽどつらかったんだろうなぁ。

 しかし、聞けば聞くほど……ボーグそっくりだよな。


「つらかっただろう……逃げ出せてよかったな。ホント」

「うん……」


 100年? 200年?……彼女がいた世界の『時間』の定義が気になる。


「そういえば、お前さんたち惑星連邦わくせいれんぽうが使っている"時間の定義"について教えてくんねぇかな?」


 彼女は物憂ものうげな表情だったのが一転して、ほがらかな表情に戻る。


「え? あ、そっかぁ! 100年と言っても、それがシンさんたちのそれとは違うかも知れないものね?

 えーとねぇ。 基本単位の『秒』というのがね、55個の陽子ようしと78個の中性子ちゅうせいしけい133の "核子かくし" からなる "原子核げんしかく" を原子げんし基底きてい状態じょうたいのねぇ……

 2つの "超微細準位間ちょうびさいじゅんいかん" の "遷移せんい" に対応する放射ほうしゃの、 9,192,631,770 周期しゅうき継続けいぞく時間じかんなんだけど……。 言っていることが分かるかなぁ?」


 バージョン違いの"同じ宇宙開発キット"を使って創造された宇宙だから、恐らくは物理法則ぶつりほうそく等も互換ごかんがあるだろうからな……

 多分、地球で言うところの "セシウム133原子げんし" を利用して秒を定義している。


 この世界の、そして、地球の国際単位系こくさいたんいけいにおける『秒』の定義と全く同じだ。


 ひょっとしたら、地球とこの惑星ディラックがそうであるように、彼女が所属しょぞくする惑星連邦わくせいれんぽう拠点きょてん惑星わくせいも、宇宙空間内の相対的そうたいてき位置いちが、ここディラックと全く同じ惑星なのかも知れない……。


 もしそうだったとしたら、ちょっと信じられないくらいの偶然ぐうぜん一致いっちだよな。


「ああ、分かるぜ。 それ以上の説明は不要だ。 驚いたことにこの惑星での『秒』の定義と全く同じだぜ」


「へぇ~、ほんと! それは都合つごうがいいわね!」


「ああ。そうだな。 時間の "直感的なイメージ" が共有できるのはありがてぇな。

 あとなぁ、こっちの宇宙での物理法則は、空間の等質性とうしつせい等方性とうほうせいを仮定して理論化可能なんだが、お前さんのいた宇宙ではどうだ?」


 バージョン違いの"同じ宇宙開発キット"で創造された宇宙のことだから、同じとは思うが一応聞いておく。 これらの仮定が成り立たない空間に彼女がいたとすると、彼女が身につけている科学の知識がこの世界では役に立たない可能性が高いからだ。


等質性とうしつせい? 等方性とうほうせい?」


「ああ。簡単に言うと、物理法則ぶつりほうそく宇宙空間うちゅうくうかん局所的きょくしょてきな一部でのみ成り立つのではなくて、どこでも同じように成り立つ…っていうのが "等質性とうしつせい" ってやつで……

 宇宙空間のどの方向でも、同じように成り立つってのが "等方性とうほうせい" ってやつだ。

 この宇宙では、それを仮定かていして理論りろん構築こうちくできるんだが、お前さんのいた宇宙ではどうだった? 同じか?」


 セヴォが "宇宙艦うちゅうかん機関主任きかんしゅにん" だったと聞き、今度建国けんこくしようと思っている新しい国のインフラストラクチャー建設等々に、彼女がいた"あっちの宇宙の科学技術力"を活用かつようしてもらえないかと、ふと思ったからの質問でもある。


 彼女がこの世界で生きていくための "居場所いばしょ" を確保してやろうと思っている。


 彼女はいぶかしげな顔というか、あきれているかのような顔というか……

 『なにをワケの分からないことを言っているんだろ?』というような、そんな変な顔をしながら、こちらを見ている。


「シンさん、さっきからちょっと気になっているんだけど。 妙なことを言うのね?

 まるで私が別の宇宙からやって来たみたいなことを言っちゃって……笑える~。

 もちろん、あなたと同じ宇宙なんだから『私の宇宙』だって、同じに決まっているじゃない? それらの仮定の上で理論構築可能よ? 変なシンさん。うふふふふ」


 あぁ、そうか!? 彼女はまだ "宇宙間転移うちゅうかんてんい" によってこっちの宇宙にやって来たことを知らないんだな? なるほどな、説明してやらないとな。


「そうか。 わりぃ、言ってなかったか?

 お前さんは、べつの宇宙から、"宇宙間転移" でこの宇宙にやって来たんだぜ?」


「えっ!? うそっ……」


 セヴォは驚愕きょうがくし、絶句ぜっくする。 顔面蒼白がんめんそうはくだ。


「う、宇宙間転移!? べ、別の宇宙に私はやって来ちゃったってことぉ?」


「ああ。そうだよ。 ここは俺たちがアファインと呼んでいる第10911宇宙空間だ。

 残念ながら、お前さんがどの宇宙空間からここにやって来たのかが分からねぇからなぁ、お前さんをもとの宇宙に戻してやることはできねぇんだが……

 お前さんとこの『神』というか、『惑星管理者』にお前さんがいた宇宙の番号とか名称めいしょうを聞いたことは……ねぇだろうなぁ、その様子ようすじゃぁ?」


 またまた……


 『へっ? なにをワケの分からないことを言っているんだろう?』


 というような顔をしながら、セヴォは俺の顔を見つめていたが……


「はぁあっ!? 神っ!? あははははははっ!

 ふっ! そんなもんいるわけないじゃんっ! やだなぁ、シンさん!

 私をからかっているのよね?」


 あらら。 彼女は高度な科学技術力を有するヒューマノイド種族なんだから、神の存在を否定するのはしかたないのかも知れないわなぁ。


 医務室いむしつかべそと様子ようすうつす。

 そこには、俺が管理している惑星 "ディラック" の様子が映し出されている。


「え? ここは宇宙船の中なの? ん? それとも……ステーション?」

「今俺たちがいるのは宇宙ステーションの中だ」


綺麗きれいな惑星ね……」


「実は俺もあの惑星の管理者だ。『神』とはそういう意味だ。 この惑星に存在する全生命体を創造し、管理している存在っていう意味での『神』だな。

 ヒューマノイドが存在する惑星なら、普通は『神』、つまり『管理者』が見守みまもっているはずなんだよ。 多分、お前さんがいた惑星にもいたはずだぜ」


 セヴォは固まっている? いや、何か考え込んでいるかのようだな?


 話を続ける……


「まあ、俺みたいに積極的せっきょくてき人々ひとびとかかわっていこうとするかどうかは、その管理者次第しだいなんだがな。 基本的には過干渉かかんしょうは禁止されているから一切いっさい顔を見せねぇことも考えられるからなぁ……。

 多分、お前さんとこの『神』は、姿すがたを見せたくねぇと思っているんだろうな」


論理的ろんりてきにはあり得る話だわね……。 あーっ! もう考えるのも面倒めんどうくさいから、えずそういうことにしておいてあげるわ! ほれた男の言っていることだから信じてあ・げ・る! うふふふふふ!」


 えずってなぁ……どうも調子ちょうしくるうな。


「それで、質問の答えなんだけど、神に……その管理者には会ったことがないんで、私がいた宇宙がいったい何番なのか、なんていう名前なのかは知らないわ」


「そうか。 それが分かりゃ、もとの宇宙へ送り返してやれるんだがなぁ……」


「んーーーーーーっ。 もういいよ。帰してくれることを考えなくてもね。

 サイボーグ化されてから、少なくとも100年は絶対にっているからね、戻ったところで、知り合いもいないからさ、ここにいるのとあんまり変わんないのよね。

 それに別の宇宙空間へ転移させるとしたら、ものすごいエネルギーが必要になるんでしょう? 助けてもらったあなたたちに、そんなことまではさせられないしね」


 なんとなく悲しげな表情を浮かべたが、すぐに "にかっ" と笑い……


「私はこの宇宙で、シンさんとの子供をいっぱいんで、幸せにらしていくことに決めたわ! だからぁ~、よ・ろ・しく・ねっ! うふふっ!」


 は・は・は……。 まいったなぁ、こりゃ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「それで、どうやって機械生命体きかいせいめいたい集合体しゅうごうたいからせたんだ? 普通に考えると絶対に不可能に思えるんだが?」


「それがねぇ……我々われわれ同化どうかされてサイボーグ化された者たちと、機械生命体たちとを一括管理いっかつかんりしているマザーと呼ばれる存在がいたんだけどね……

 そいつが、突然転移して来た"何者なにものか"に殺されちゃったんだよね……っていうか、破壊はかいされちゃったんだよね……って、言った方がいいのかな? 機械だから?

 ま、どっちでもいいかっ!?

 で、その瞬間にね、しばりがけたっていうのかなぁ?

 自分の身体を思うように動かせるようになったんだよ。

 でねでね! みんなで逃げよう! ってことになったのよぉ……まあ当然よね?」


「そうだな。逃げるには絶好ぜっこうのチャンスだもんな」

「でもねぇ、タイミングは非常に悪かったんだよねぇ~、ホントついてないわ」


「タイミング?」


「そうなのよ。 ある惑星の生命体せいめいたい文明ぶんめいまるごと同化どうかしようとしている最中さいちゅうでね、その惑星の生命体たちと交戦中こうせんちゅうだったんだよね~、これがまた!

 ね? 最悪のタイミングだったでしょぉ?

 統率とうそつが取れていた軍隊が、いきなり烏合うごうしゅうになっちゃったんだから……

 結果はさぁ、るよりあきらかだよね! 我々は圧倒的あっとうてき優勢ゆうせいだったんだけど、いきなり攻撃をやめちゃったんだから、形勢けいせい大逆転だいぎゃくてんよ、もうボッコボコよ!」


「なるほど……それであんなボロボロにされちまっていたのか?

 でも、あの身体じゃぁ、脱出だっしゅつポッドに乗り込むこともできねぇだろう?

 誰かが助けてくれたのか?」


「ええ、そうなの……私が乗っていた宇宙艦うちゅうかん艦長かんちょうが、ね……」


 セヴォの表情がくもる……


「艦長……艦長は、私なんか見捨みすてちゃえばいいのに、ボロボロの私を脱出ポッドに乗せて発射させてくれて……ううう……」


「亡くなったのか?」


「多分ね……私が乗ったポッドが発射された直後に、母艦ぼかんが大爆発を起こしちゃったからね。 その直後のすごい衝撃で意識を失っちゃったから分かんないんだけどね、多分生きていないと思う……」


 彼女の表情はとても暗い……ここに来て初めて見せる表情だ。


 そうか。 母艦ぼかん爆発ばくはつしたときの衝撃しょうげきにより彼女が乗ったポッドは強制的に宇宙間転移をさせられたってことなのかな? 可能性としては考えられるな。


 四肢ししと身体の大部分を失った彼女が、脱出ポッドで脱出できたこと、脱出ポッドが宇宙間転移できたことの理由がこれで分かった。


 なるほどな。

 これでなんとなく "もやもや" していたことが、すべてハッキリしたぜ。


「ところで、ちょっと聞きてぇんだが……

 はなれた場所の機械生命体きかいせいめいたいのマザーが破壊はかいされたことが分かったってのは、やはり、お前さんたちも…機械生命体たちも、たがいに経験したことを瞬時しゅんじに共有できるようになっていたからなのか?」


 スタートレッ○に出てくる"ボーグ"そっくりだったので、そうじゃないかと思ったのである。


「え? よく知っているわね? そうだよ。

 あ、もちろん、行動情報の全部が全部を共有していたら頭がパンクしちゃうから、瑣末さまつな情報にはフィルタがかかるんだけどね~。

 シンさん、我々われわれについてよく知っているわよね? やっぱり、この宇宙にも我々のような存在がいるの?」


「いや、それはちょっと分からねぇんだ」


 自分のことをまだ『我々』と言っているな……

 同化されていた期間が長かったからなぁ。 集合体としての意識がまだまだ強いんだろうな。 まあ、その内にその感覚もけるだろう。


 彼女の顔が人を食ったような表情に変わった。……なんだ?


「えーーっ!? 分かんないのぉ~っ? 神を名乗っているのにぃ~?

 あはっ! 笑えるぅ~っ! あははははははっ!」


 かーーっ! 頭にくるぅ~~っ!


 なにか言い返してやろうと思っていると、俺以上に怒りを覚えた"シズ"がセヴォに食ってかかる……


「あ、あなた! ダーリンを侮辱ぶじょくするつもりっ!? だとしたらゆるさない……」


「シズ。 俺のために怒ってくれてありがとうな。 うれしいぜ。

 でも、いいんだよ。 許してやってくれ」


 人が怒っているのを見るとなんか冷静になっちまうんだよね、不思議なことに。


「ごめん、ごめん! 私の悪いクセなのぉ。 思ったことをすぐに口に出しちゃうのよねぇ~、ごめんね、シンさん、それにシズさん」


「思っただけでも重罪です! そんなことを考えるようなあなたに、ダーリンが振り向いてくれるとでも思っているのですか?」


 セヴォは、シズの言葉がこころさったかのような、ダメージを受けたような表情を一瞬いっしゅんだけした。


「んぐっ! あたたぁ~、痛いところを突いてくるわね!? こりゃまいったわ。

 あははっ! でも、私、あきらめないからね! 神ってのは心がすっごく広いのよ!

 この程度のことで私を怒ったりしないわよねぇ? シンさん。うふふ」


「あ、あなたねぇっ! あなたって人はもう……」


 さすがにシズもげない……


 うっ……こ、こいつ、なかなか言いやがる! これじゃ文句は言えないな……

 大した子だ……あれ? 100歳以上なんだよな? 子ってのは不適切ふてきせつかな?


 ん? そうか! セヴォは100年以上生きているんだな?

 そりゃぁ、俺たちじゃ太刀打たちうちできないわなぁ、としこうちがうからなぁ……。


 道理どうり老獪ろうかいなはずだぜ! 納得なっとくだ!


「あ……ああ。 も、もちろん怒ってねぇよ。 あは・あはは……。

 色々事情があってなぁ。今、他の惑星の管理者たちとは連絡が取れねぇんだよ。

 今はこの惑星ディラックのことぐれぇしか俺には分かんねぇ、残念ながらな。

 だから、ボーグが存在するかどうかをハッキリとは答えられねぇんだ」


 あ! 思わず『ボーグ』って言ってしまった……


「ボーグ? 機械生命体の集合体のこと? この宇宙に存在するかどうか、はっきりしないのよね? 分からない生命体なのに名前はあるの? 変なのぉ~」


「いや、そのう、実はなぁ、ちょっと前まで視察しさつに行っていた別宇宙べつうちゅうの惑星で人気があった"SFドラマ"に出てきたんだよ、お前さんたちを同化どうかしたのと同じような機械生命体の集合体がさ。 で、そいつらの名前が『ボーグ』ってんだ。

 俺の大好きなドラマだったんでよく見てたんだよ。 だからつい口からその名前が出ちまった…って、わけだ」


「ふ~ん、なんかよくわかんないけど……そうなのぉ。

 じゃぁさぁ、呼びやすいからさぁ、私たちもボーグって呼ぼう!

 機械生命体の集合体なんてのは長ったらしくって言いにくいからさ。 ね?」


「あ、ああ。そうだな」

「うん。じゃ、決まりっ! これからはボーグっていうことでね!」


「そういえば、ボーグってのは強えのか?」


「信じられないくらい、バカみたいにめちゃくちゃ強いよ。

 私が乗っていた宇宙艦うちゅうかんヴィジャーは当時、連邦一れんぽういちの攻撃力をほこっていたんだけど、全くヤツらには歯が立たなかったんだもの。 あっさりと同化どうかされちゃったからね」


 となると、それほどの強敵の親玉とも言える『マザー』を、一瞬で殺せるヤツってのが気になるなぁ。 ボーグを一瞬で "ほふる" ことができるような強敵かぁ……


 まあ、こっちの宇宙には転移して来ないとは思うんだが、万が一のことも考えて、マザーを瞬殺したヤツが、いったいどんな攻撃をしたのかを分析しておいた方がいいような気がするな。


 セヴォの魂の履歴を確認しておくか。


 そうだ! 俺が知らない攻撃手段でも、管理助手のハニーたちなら分かるかも知れないから、彼女たちにも一緒に見てもらおう!


「あのさあ、悪ぃけど、お前さんの魂をのぞかせてもらってもいいか?

 そのめちゃくちゃ強え『マザー』を一瞬で殺したヤツが気になってなぁ……

 どうだ?」


「いいよぉ。どうぞどうぞ。 って、魂!? 魂って本当にあるの!?」


「ああ、お前さんたち生命体は、基本的に魂と肉体とで構成されている。

 だからお前さんはこうして、こっちの世界の肉体に転生できたんだぜ。

 お前さんの魂を、前の肉体から切り離して、今の身体にくっつけたってわけだ」


「な、なるほどね~。そっかぁ、そんなことができるんだから、やっぱりシンさんは神様なんだね? いやぁ~驚いたよぉ~」


「じゃぁ、ちょっと魂に記録されている映像えいぞうをのぞかせてもらうな」

「うん、どうぞ」


『ハニーたち、聞こえるか? 俺だ。ちょっと時間をとってもらってもいいかな?

 今から、今回助け出した女性の魂の履歴に記録された映像を流すから、それを見て欲しいんだが?

 強敵を一瞬でほふることができるような、特異な存在が映ると思うから、その攻撃方法を見て分析してもらいてぇんだよ。 どうだろう?』


『はい。承知しました。 みんなも、よろこんで協力すると言っています』


 シオリがみなを代表して答えた。


『そうか! 助かるぜ!

 じゃぁ、そっちのスクリーンにもうつすようにするから、よろしく頼む!』


『"はいっ!"』


 医務室いむしつの何もない空中に、セヴォの『魂の履歴』に記録されている映像を映し出すと同時に、管理助手たちがいる部屋の空中にも映像を映す……


「な、なにこれ!? 私が体験したことがそのまま映像になっている!?」


「ああ。お前さんが経験してきたことがそのまま記録されているんだぜ。

 えーと……ここに来る前だからぁ、このあたりかな?

 おっと、これはボーグから解放された直後みたいだから、もう少しだけ前だな?」


「うん、この少し前だよ。 でも、ホントびっくりしたよぉ。 私たち生命体の魂にはこんな情報が記録されているんだね? こんな情報を取り出せるなんて……

 シンさんが神様だってことをしんじざるをないよね、もう。

 でもまさか、ホントに神様が存在してたとはねぇ……びっくりだよ!」


「あ、でも今まで通りに接してくれていいからな。 妙な気は使うなよ?」


「うん、分かったよ。 心配しなくても私はきらいになったりなんかしないからさぁ、安心してね! ちゃんとあなたの子供をたくさんんであげるからね!」


「い、いや。それは結構けっこう……」

「え!? 結構! いいってことね? やったぁ!」


「ち、違うっ! それはおことわりだってことだ! ったくもう……」


「あらあら、分かっているわよ! 奥さんの前だから、すなおにOKだって言えないのよね? うふふ、かわいいっ!」


 ああ……ダメだ、こりゃ。


 そういえば、詐欺さぎまがいの"勧誘かんゆうの電話"に対して、絶対に『結構です』で断ってはいけないんだったな。『結構な話だ』と了承りょうしょうしたことにされてしまうんだとか……


 きっぱり『必要ありません』と答えないとだめだったんだっけな。


 こりゃやられたな。しまった。 『お前さんを妻にするつもりはありません』ってちゃんとハッキリ言うべきだったぜ! ふぅ~。


「おっと、ここだな!」


「あ、そうそう! これよこれ!

 これがマザーとの接続が切れる直前に送られてきたイメージ!

 あっ! あの女よ!」


 ん!? マザーを瞬殺しゅんさつしたのは女性なのかっ!?


『ダーリン! 大変! あの女よ!』


 突然、さゆりがあわてたような様子で強烈きょうれつな念話を送りつけてきた!


『うっ! さ、さゆり! す、すごいパワーの念話だなぁ、いったいどうした?』


『今転移して来た人間の女! あれが私の前任者、ユウガヲなの!

 地球の元日本担当者よ! ダーリンの記憶をうばった女よっ!』


『えっ!? なんだって!?』

(→第0036話参照。)


 映像を巻き戻して、女の顔がハッキリ見える状態で映像を止めた。


『間違いないわ! この女よ! この女がダーリンとユリコさんにひど仕打しうちをして、指名手配しめいてはいされているユウガヲよ! 私の前任者! いったいどこの宇宙なの?』


『それがなぁ、さっき助けた女性、セヴォがいた宇宙なんだが……

 残念ながら、どこの宇宙なのかはちょっと分からねぇんだよ』


『そっかぁ……くやしいわね! 折角せっかく見つけたと思ったのになぁ。

 どこなのか、わからないなんてさぁ。

 でもどうしてあんなことをしたのかなぁ? 逃亡中とうぼうちゅうなのに目立めだっちゃうよね?』


『そうだよなぁ。 目的がいまいち分からねぇだけに、ちょっと不気味ぶきみだな』


『自分がめちゃくちゃなことをしたくせに、彼女、ダーリンを逆恨さかうらみしているからさぁ、ちょっと心配だなぁ。

 まさか!? あの機械生命体の集合体を乗っ取って、この世界に攻めてくるつもりじゃないの!?』


『可能性としてはあるよな。 こりゃ用心しておかねぇといけねぇなぁ……

 わりぃが、お前さんから他のハニーたちにも説明しておいてくんねぇかな?』


『うん、分かった! みんなに説明しておくね』



「……ねぇ、シンさん。シンさんってばぁ?」


「ん? ああ、ごめんごめん。 俺がかたまっているかのように見えたかも知んねぇが今ちょっと念話で話をしてたんだ……あの女の正体が分かったんでな」


「念話?」


 あれ? 女の正体よりも念話の方が気になるのか? ちょっと意外だな。


 まあ、そうかもな。 女の正体を聞いたからといって『ふぅ~ん、そうなんだ』で終わるのが落ちだもんな。 彼女はそれを理解しているからなんだろうな、きっと。


 彼女の話しぶりからはとても想像がつかないが、"宇宙艦の機関主任"にまでなれるくらいの優秀なエンジニアなんだから、思考はきわめて論理的なのかも知れない。


『ああ。 今こうしてお前さんの心に直接語りかけているんだが、これが念話というものだ』


「うわっ! す、すごいね! こんなこともできるのね!? さすがは神!」


「まあな。 ちなみにだが、俺の嫁たちは全員これが使えるんだぜ? これが使えるのが俺の嫁になるための最低条件だ。 お前さんは使えるか?」


 うそっぱちである。 こう言っておけばあきらめるかも知れないからうそ方便ほうべんだ!


「が、がんばって……シンさんのためにもがんばってマスターするよ!

 ねぇねぇ、どうやってそれを習得しゅうとくするの? 修行しゅぎょう方法を教えて!」


 ダメか……そんなに俺のことが好きなのか?


「悪ぃ、お前さんにあきらめてもらおうと思ってとっさに嘘をついた。

 逆なんだ。 俺が嫁と認めた女性たちには念話能力を与えるようにしている。

 だから、使えるのが嫁の最低条件ってのは嘘だ。 すまん。

 念話は、生まれたときから使えるヤツはもちろんいるんだが、修行でどうこうなるようなもんじゃねぇんだよ。 うそを言ってすまねえ」


「な~んだ。そっかぁ。よかったぁ~! どうしようかと思ったよぉ~。

 『念話』能力は、シンさんに好きになってもらえればもれなくついてくるのね?

 一所懸命いっしょけんめいに修行して、嫁となる最低条件『念話』をマスターしようと思ったけど、そんなことをしなくていいってことよね!?

 嫁になるにはシンさんの愛情を勝ち取ればいいのよね?

 ふぅ~、よかったよぉ~」


 ネチネチと文句もんくを言われるかと覚悟かくごしていたが……

 この子、結構いいかも? って、いかん! いかん!


「あ、ああ。まぁな。 念話は、俺がお前さんを嫁にしてぇと思うようになったら、俺の力で使えるようにしてやるよ。 そうなったら……だけどな」


「私、がんばるよ! あ、『念話』が使えるようになりたいからじゃないよ。

 あなたを "モノ" にしたいからがんばるのよ!

 だって、人生でこんなに好きになった男は初めてなんだもん! うふふ!

 だからあきらめないわ! あなたには絶対に私を好きになってもらうの!」


 うわぁ~、またまたパッシブスキル"魅了"の所為せいなのかなぁ……


 あれ? な、なんかこういったやり取りが苦痛に感じなくなってきているぞ??

 ひょっとして……れっぽい人仕様の基本システムプログラムの影響なのか!?


「押して! 押して! 押しまくって! 押し倒してでも "モノ" にするわっ!

 覚悟してね! うふふふふ!」


「だ、だからぁ! 俺はグイグイ来られるのはイヤだって言ってんだろうが!」


 ま、まいった。先が思いやられるぜ……とほほ。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 ボーグのマザーを瞬殺しゅんさつできたのは当然だな。


 なんといってもユウガヲは、地球の元日本担当管理助手だったんだからなぁ。

 たとえ宇宙が異なっていても管理される側の生命体が管理助手にかなうはずがない。


 しかし、レプリケーターの機能を使ってマザーを一瞬で消滅させちまうとはなぁ。

 なかなかやりやがるな! ユウガヲって女は!


 別の宇宙の話といえども、同意を得ないで同化するようなヤツら、ボーグはどうも許せないんだよなぁ……

 敵なんだけど、ユウガヲにはマザーをぶっ殺してくれた礼を言いたいくらいだ。


 俺には関係のない宇宙の話なんだが……。


 ユウガヲは、結果的にだが、マザーを倒したことで、セヴォを含む同化されていた者たちを解放したことになる。

 そのことに関して"だけ・・"は、よくやったとほめてやりたい気分だし、礼を言いたいくらいだと思ったのだ。


 まぁ、だからといって絶対に許さねぇけどな!

 ユウガヲを見つけたら、絶対に成敗せいばいしてやる!



 しかし、バージョンが違うとはいえ、同じ開発キットを使って創造された宇宙にボーグのようなヤツらが存在していたとはなぁ……


 この宇宙にも存在するかも知れないってことなんだよな?


 もしも、この世界にも、ヤツらのような存在がいて、この惑星ディラックをねらってきやがったとしたら……

 過干渉かかんしょうだと言われようがなんだろうが、躊躇ちゅうちょなく、直接俺がそいつらを殲滅せんめつしてやろう!


 惑星ディラックだけじゃなく、宇宙に対する監視も強化しないとな!



「ねぇねぇ、シンさんってばぁ! また念話中?」

「いや違う。ちょっと考え事をしてただけだ。で、なんだ?」


「あのさぁ、技術者として、すっごくこのステーションに興味があるんだけどぉ~、この中を見せてもらってもいいかなぁ?」


「悪ぃが、それは許可できねぇな。 この宇宙ステーションは本来ならお前さんたち創造された生命体を入れちゃいけねぇ場所なんだよ。

 救助のために、やむを一旦いったんここに収容したお前さんを、この医務室から外へは出すことができねぇんだよ。 すまねぇな」


「そっかぁ。残念だけど、仕方ないよね。とほほだよぉ」


「悪ぃな。お前さんを後で、あのディラックに連れて行って、寝泊ねとまりできる場所へ案内するから、退屈かも知んねぇがしばらくこの部屋で待ってて欲しいんだ」


「えーっ! こんな何もない部屋で待てって? で、どれくらい待てばいいの?」

「今から会議があるんでな。そうだなぁ……3時間くらいかな?」


「無理無理無理! なんにもやることがなくて、ヒマすぎて死んじゃうよぉ~」


 ふぅ~。困ったなぁ。何か彼女のヒマつぶしになるようなものは……

 そうだ! 加護かごしてやって神術しんじゅつの練習をしていてもらおうかな!


『シェリー。聞こえるか?』

『あ、はい! ダーリン! 嬉しいです! なんでしょうか?』


『今から3時間ほど時間が取れねぇかなぁ? またひとり神術の訓練をしてもらいてぇ女性がいるんだけど……たのめねぇかな?』


『ま、また嫁が増えたんですか!?』


『ち、違う違う! ボロボロになっていた女性を助けただけだ。 嫁じゃねぇけど、今度俺の計画を手伝ってもらうつもりなんだよ。 だから、加護しようと思ってな』


『そうでしたか。なるほど。訓練の件、うけたまわります。

 私の任務にんむはダーリンの警護けいごですので、ダーリンがご不在ふざいの今は、時間的には余裕がありますから。大丈夫です。

 それでは、ダンジョンで"新しく仲間になったハニーたち"にも参加してもらったらどうでしょうか? 彼女たちにはもう少し訓練が必要かと思いますし……』


『おお、それはいいな! だが、ハニー、お前さんの負担にはならねぇか?』

『はい! 大丈夫です! お任せ下さい!』


『ありがとうな。助かるぜ。 なんといっても指導力はお前さんが一番だからなぁ。頼りにしているぜ、ハニー!』


『はい! そう言ってもらえると嬉しいです! がんばりますっ!』


『おおぉ! 頼もしいなぁ! あ、きたえて欲しい女性は今から加護かごするんでな、もう少し後になっちまうけど……頼むな』


『はい。分かりました。お待ちしています。 練習はいつもの砂漠地帯ですか?』


『そうだな。あそこがいいな。 後で俺が送っていくから、悪ぃけど、訓練する他の者たちにも声を掛けて、マンション1階ホールに集まってもらってくれ』


『はい。承知しました。では、後ほど!』


『ああ。よろしくな』


 セヴォには俺が念話をしていることが分かったのだろう、だまって、じっと俺の顔を見ている。


「セヴォ。あのな。 俺は今からお前さんを加護かごして、俺の庇護下ひごかに置くからな。

 そうすると……」


 加護によってどうなるかを詳しく説明していく……

 すると、話を聞いていく内に、彼女の目はキラキラと輝きだした!


「うわぁ~。私魔法使いになれるの!? 夢みたい!」


「ま、まあ、そんなようなもんだが、魔法よりも上級の神術使いだけどな。

 その練習をひまつぶし…って、言っちゃぁなんだがなぁ、会議が終わるまでの間、練習をしてもらおうかと思っているんだが……それでいいか?」


「もちろん! きゃーーうれしいっ! 最高! 神術使い! かっこいいわ!

 この世界だーいすきっ! ワクワクするわっ!」


「は・は・は……そ、そんなにうれしいのか? よかったぜ。

 それじゃぁ、今から早速加護するからな、さっき説明したようにそのベッドに横になってくれ!」


 セヴォは、ベッドの上に仰向あおむけに寝転ねころぶと目を閉じだ。


「わ、私、初めてなの……や、やさしくしてね」


 な、なんか意味深いみしんだなぁ? ホントこの子の相手はつかれるなぁ……

 ん? でも……なんかそれほどいやではなくなってきている??? えーーっ!?



 ◇◇◇◇◇◆◇



 セヴォは、加護して俺の庇護下に置き、ハニー装備一式も与えた後……

 彼女を連れて、神都にあるマンション1階ホールへと行き、そこでシェリーたちと合流し、みんなを "未開みかい砂漠地帯さばくちたい" にある "いつもの訓練所くんれんじょ" へと送り届けた。


「それじゃぁ、ハニー。後はよろしく頼むな。

 いつものように、"野営用テント" の中の風呂にはお湯を張っておいた。

 で、そこのドリンクディスペンサーには冷たい飲み物を各種用意してあるからな、みんなで自由に飲んでくれ」


「はい。分かりました。 あとはこの私におまかせ下さい!」


 彼女たちの訓練はシェリーに任せておけば安心で間違いない。

 ホント頼りになるハニーだぜ!



 ◇◇◇◇◇◆◆



「お待たせ。 それじゃぁ、今度こそ会議を始めよう!」

「"はいっ!"」


 セヴォの神術訓練指導をシェリーにたくすと俺はすぐに司令部へと戻ってきた。

 管理助手のハニーたちはすでに全員が会議室に集まっている。 俺の到着をずっと待っていてくれたようだ。


「それじゃぁ、第一の議題から始めようか。 シオン、説明してくれ!」


 いよいよ、俺が地球へと旅立つ前に、シオンに対して出した指示しじける。


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