第0087話 ザックレイ、錐刀を以て泰山を堕つ

「……だから! 早くフィル様のところへ案内しなさいと言っているんです!

 フィル様がみずから命をたれたことはちゃんとわかっているんですからな!」


「お、落ち着いて下さい……」


 シオン神聖国のニシズネ町から救出してつれてきた奴隷だった者たち。

 彼女等が宿泊しゅくはくするための野営用やえいようテント10りを生成&設営してから、シオンとシノにその場をたくして、少し遅れて統括神官の執務室しつむしつにやって来たのだが……


 執務室しつむしつの中からは、ワッドランド大使のザックレイの大きな声が聞こえてきた。


 執務室で待っているザックレイのもとへ、一足先ひとあしさきに行って、ひとりで応対おうたいしている統括神官は、ヤツのすごい剣幕けんまくにタジタジといったところのようだ。


「あなたがたのイジメが原因でフィル様が……」

 トンッ! トンッ!

「統括神官様! 失礼します! 入ってもよろしいでしょうか!?」


 勢いに乗って、さらに統括神官のシーモアをてようとしているザックレイの機先きせんせいするために、執務室のドアを少し強めにノックして入室の許可を求める。


「は、はいっ! どうぞ!」


 統括神官、シーモアの声には『 助かった 』というような安堵あんどの気持ちがこもっているかのようだった。


 執務室の中へ入ると目をうるうるさせているシーモアが、祈るかのように胸の前で両手を組み、安堵の表情を浮かべながら俺をむかえ……

 一方、ザックレイの方は、まくし立てようとしていたところに水をさされてしまい『チェッ!』と舌打ちでもしそうな表情を浮かべてこちらをにらみつけている。


 ザックレイが座るソファーの後ろには、ボニーを殺した犯人で現在は俺たちの二重スパイである男、ジェンマが直立不動の姿勢をとってひかえている。


 ジェンマはうまく大使と同行できたようだな。 ふふふ。 予定通りだ。



 前回、このザックレイと対面たいめんしたさい念話回線ねんわかいせんをつなぐのが遅れて、重要な情報を聞き逃してしまったのだが……

 今回はその反省から、入室と同時に受信専用の念話回線をヤツとつなげておいた。


 受信専用の念話回線とは、こちらの声は相手には伝わらず、ザックレイの心の声はこちらに筒抜つつぬけとなる特殊な念話回線である。


『チッ! なんだ、この小僧は!?

 せっかくいい調子でこの女をてていたというのに!

 ん? さっきからこっちをチラチラ見ながら、シーモアの耳元みみもとで何やらささやいていやがるな? 失礼な小僧だな! まったく! しかし何の話だろうな?』



「おい、シーモア。いいか。適当てきとうあいづちを打ちながら驚いたような顔をしろ」


 統括神官、シーモアは、言われたように驚いたような顔をしながらあいづちを打っている……


「今から『フィルは自殺じゃ……』と、ヤツに聞こえるように言うから、お前さんはヤツの顔を見て『えっ!?』と驚いたような声を上げろ」


 シーモアはうなずく……


「……フィルは自殺じゃ……」

「えっ!?」


 シーモアは言われた通りにワッドランド大使、ザックレイを驚きのまなこで見ながら声を発した。


『フィルは自殺じゃ……って、もしかして自殺じゃないことがバレたのか?

 いやいや! そのことを知っているボニーも死んだはずだ。バレるはずがない!

 それじゃぁ、小僧はいったいなんて言ったんだ??? 気になるな』


 ザックレイは心の中でつぶやいた。


 計算通りだ!

 こっちの事が気になってしようがないようだな。ふっふっふっ!


「よし上出来じょうできだ。 今度は『ボニーが一命いちめいめ……』と同じくヤツに聞こえるように言うから、お前さんは俺の顔を見ながら『え? ボニーが! よかった!』と言って安心したかのような表情と動作をしてくれ」


「はい……はい……」


 シーモアは相づちを打つのを利用して同意する。


「……ボニーが一命いちめいめ……」

「えっ!? ボニーがですかっ! ああ、よかった!」


 シーモアはそう言うと、右手みぎてひらを胸に当ててほっとしたかのように息をつく。


『なに!? ぼ、ボニーは一命いちめいを取り留めたのか!? となるとマズい!

 いや待てよ、あの女の妹はこちらの手中にある。 たとえ命を取り留めたとしてもしゃべるはずがないはずだ。 大丈夫だ。 事は露見ろけんしていないはずだ』


 とは言いつつも、ザックレイのひたいにはあせがにじむ……


 もう一押しってところかな? フィルを自殺に見せかけて殺そうと思った理由を、心の中でつぶやかせるにはさてどうすればいいか……?


 ザックレイの顔をチラチラ見ながらシーモアの耳元でささやく……


「いいか、シーモア。 俺が『よし』と言ったら『せ、戦争の大義名分たいぎめいぶん!?』と声を上げろ」

「はい……ええ……はい……」


 シーモアには、ザックレイに関係した重要事項じゅうようじこうを話しているんだぞ……というていしばらく、"ごにょごにょ" とささやいた後……


「……よし」

「……せっ! 戦争の大義名分ですかっ!……」


 俺は『うわっ! なんで声を上げるの! ザックレイに聞かれちまったよっ!』とでも言いたげなあせった顔をしながら……


 自分のくちびるに右人差し指を立てた状態で当てて、『しっ!』のポーズをシーモアに見せた後に、チラリとザックレイの顔を見た。 そして……


 さらにあせった顔をしながら『聞かれてしまったのか? マズいっ!』というような表情をしてザックレイと視線を合わせてから、わざとらしく視線をそらす……。


『戦争の大義名分にする事まで知っているというのか!?

 まさかきららないシザル様の背中を押すためだってことも知っているのか?

 ニラモリア国との開戦にらせるために、私が独断どくだんで、フィル様を自殺に見せかけて殺したことも知っているんじゃないだろうな?

 やはりボニーが生きていて情報をらしたのだろうか?

 ……いやそれはありえないな。 たとえボニーが生きていたとしても、あの女には詳しいことはなにも教えてないからな。しゃべりようがないはずだ。

 妹の命もしいだろうしな……

 となると……ははぁ~ん、そうか! かまをかけて真相しんそう白状はくじょうさせようとしていると考えるのがこの場合もっともしっくりくるな……そうに違いない!』


 そうだよ。その通りだ。 さすがは一国いっこくの大使だな。頭の回転はいいな。

 だがもう遅いぜ。 心の中でつぶやいた時点でアウトだぜ! はっはっはっ!



「統括神官! 客である私の前でひそひそ話とは失礼でしょうが!

 いったいどういうつもりなんですか!?」


 統括神官シーモアはあたふたしながらびようとした……


「す、すみません……」


 それをさえぎり、あとは俺にまかせろと目で合図あいずしながら彼女の謝罪の言葉にかぶせるかのように……


「これは大変失礼致しました、ザックレイ殿。 私はこの統括神官シーモアの部下のシンと申します。 非礼ひれいを心からおび申し上げます」


 そう言ってからニヤリと笑いながら頭を軽く下げた。


「な、なんだその顔は! 心からびていないだろう!? 許せんな!……」


 ザックレイはさらに抗議こうぎの言葉を並べようとするが、それをさえぎり……


「大使はご存じですかな!?」

「……な、なにをだ?」


「神国神都東部にあるダンジョンで、シオン神聖国の聖女せいじょが魔物あふれを引き起こそうとして失敗し、神にらえられたのを?」


 まあ正しくは、魔物あふれを引き起こそうとしていた聖女せいじょシュフィーアことシオンは捕らえたんじゃなくて、助け出したんだけどね~。


 ザックレイの顔色が明らかに青くなった。 顔からは血の気が引いている。


『ま、マズいぞ! 計画が狂ってきたぞ……。

 あふれ出た魔物を神国神都へ向かわせて、神国の動きを封じている間にニラモリアをともほろぼそうという話だったのに……チッ! シオン神聖国も使えねぇな!

 シオン神聖国は魔物あふれに失敗したことにはもう気付いているんだろうか?

 うまくこの場をおさめて、シオン神聖国と今後について協議きょうぎせねば……』


 シオン神聖国としめわせて、両国で連携れんけいして、このニラモリア国を攻め滅ぼそうとしていたことは確定したな。思った通りだったぜ。 かまをかけて正解だったなぁ。


 もう一押ししておくか?


「その神に捕らえられたシオン神聖国の聖女とやらが、神の力でなにもかもあらざらい白状させられちまったらしいぞ。『なにもかも』なっ! ザックレイさんよ」


 ザックレイは顔面蒼白がんめんそうはく脂汗あぶらあせをたらたらと流し出し、ふところより取り出した上等じょうとうなハンカチで必死に汗をぬぐっている。明らかに動揺どうようしている。


『まさかシオン神聖国の聖女が計画をしゃべっちまったのか!? ま、マズい!

 な、なんとかこの場を誤魔化ごまかさねば……』


「ひでぇことをしやがるなぁ。 第14皇女で母親が庶民しょみんだからって、ごまにしやがるとはなぁ。フィルがかわいそうで泣けてくらぁ……

 フィルを"イジメ殺されたって"ことにして、このニラモリアへ攻め込むための大義名分を立てて……シオン神聖国と示し合わせてこの国を滅ぼそうとしたんだろう?

 本当のことをシザルが知ったらどうするだろうなぁ?」


「な、なにを言っているんだ! 私がフィル様を殺したとでも言うのか?

 シオン神聖国なんて行ったこともないし、その国の者と会ったことすらないぞ!

 言いがかりはやめてくれ! そんなことを言い張るのなら……

 だ、だったら証拠を見せてみろ! そんなものはどこにもないだろうがな。

 あははははははっ!」


 ニヤリと笑ってやった!


 ザックレイはそれを見て身体をビクッとさせた後、固まって固唾かたずをのんでいる。

 俺が次になにを言い出すのかを必死に予想しているようだ。


『ボニーは死んだし……隷従れいじゅうのネックレスも回収して間違いなく大使館にあるぞ?

 証拠になるようなものはなにも残されていないはずだ。

 いくらシオン神聖国の聖女がフィルの暗殺計画があると言っても、証拠がなければらぬぞんぜぬで通せるはずだ! 大丈夫だ! よし。なにを言われてもいいぞ』


 ザックレイの顔に血の気が戻る……

 自信に満ちた表情へと変わり、ニヤニヤと笑い出した!


「おい! ジェンマ! コイツが……この大使が指示したんだよな?

 フィルを隷従れいじゅうのネックレスで奴隷化どれいかし、自殺に見せかけて殺せって。だろ?」


 ソファーに座るザックレイのすぐ後ろに立っている護衛の男に話しかけた……

 そう! フィルの侍女、ボニーを誤って刺し殺してしまったアサシンのジェンマに証言させようとしているのだ! これはザックレイにも予想外であろう……

(→第083話参照。)


 その言葉を聞いたザックレイは、必死に表情を変えないようにしているが、顔色はどんどん悪くなっていく……


『な、なぜジェンマの名前を知っているんだ!? い、いや、大丈夫だ! コイツはほこたかきアサシン! 絶対にくちったりはしないはずだ! ああそうだとも!

 こ、これははったりだ! そうに決まっている。 落ち着け……落ち着くんだ』


「はい、シン様。 この男がそのようにめいじました」


『ひょえぇぇぇぇぇーーっ!? う、うそだろうっ!?

 ほ、誇り高きアサシンが、簡単に口を割ったぁーーっ!? ええーーっ!?』


 ザックレイは驚愕きょうがくする。ポーカーフェイスが崩壊ほうかいした。


 一応ここにコイツが本物とすり替えさせた"隷従れいじゅうのネックレス"も持っているが、それを見せるまでもないな。


「あははははははっ! 信じられねぇって表情だなぁ? ザックレイさんよ」


「じぇ、ジェンマ! で、デタラメを言うではない! じょ、冗談が過ぎるぞ」


「ジェンマ。首もとをザックレイによ~く見せてやれ!」

「はい。シン様」


 そう言うとジェンマは首もとをザックレイに見せる……

 首には管理助手でも隷属れいぞくさせられる隷従の首輪がめられている。


「な、なんだと!? れ、隷従の首輪なのか?」


 さすがに大使だ。さっしがいい。


「どうだ? ジェンマが今言ったことはすべてが本当だって事だ。 もうのがれはできねぇぜ、ザックレイさんよぉ?」


「……ぐ……ぐぐ……………ぐ、ぐわぁあっはっはっはっ! 隷従れいじゅう首輪くびわだと?

 それがいったいなんだというのだ? そんなものをめているからって、コイツの証言があてになるとでも思っているのか? ははは。冗談じゃない!

 ジェンマの首に隷従れいじゅう首輪くびわが嵌まっていることから断定できることはただひとつだけだ! お前の命令には逆らえないで従っている……ただそれだけだ!

 つまり、お前がジェンマにニセの証言をさせている可能性が……いや間違いなく、私をおとしめようとしてそうしているに違いないのだ! 私は潔白けっぱくだ!」


 うわぁ~、そう来たかぁ……さすがに一国の大使だけあるなぁ。

 大使だけに……たいし たもんだ! なんちゃって。ははは。


 フィルがめていた隷従れいじゅうのネックレスではなくて、俺が別に用意しておいた管理助手でも隷属させられる特別製の隷従の首輪を取り出した。


 それを見てザックレイは明らかに驚きビクッとした。


「よし! じゃぁお前さんの言っていることが本当かどうか証明してもらおうか?

 これをお前さんにめてもらおうか。

 言っておくが精神支配に耐性があっても関係なく奴隷にできる強力な代物しろものだ。

 俺の質問に、なんでも正直に答えろと命令して……フィルの殺害を指示してねぇか聞いてやるから。 どうだ? やましいことは一切してねぇってんならこれをめて証言できるよなぁ? さあ、めろよ。ほら……」


 ザックレイは再び脂汗あぶらあせをだらだらと大量に流し出した。

 ヤツの服の襟元えりもとわきのあたりもぐしょぐしょにれている。


「なんで……なんでお前がそんなものを持っているんだ!? シオン神聖国の教皇のもとに数個残っているだけだって話だったのに! ……はっ!」


「あれれぇ? かたるにちたなぁ……。シオン神聖国の者とは会ったこともねぇって言ってなかったっけ? ははは」


「そ、そういううわさを聞いただけだ。本当だ! た、他国の大使から聞いたんだ! 

 今、そういった強力な隷従の首輪を持っているのはシオン神聖国の教皇だけだし、それを新たに作れるとしたら神様……だ・け・だ……!!??」


 俺は認識阻害にんしきそがい神術をく……


「気が付いたようだなぁ? そうだ。 俺だよ、作ったのは俺! 俺がその神だよ。

 やい、ザックレイ! てめぇ、よくも俺が嫁にしようと思っていたフィルを殺してくれたなぁ? 覚悟はできてるんだろうなぁ?」


「ま、待って下さい! 本当のことを言います! そうですっ! フィル様を自殺に見せかけて殺させたのは私です!」


 ついに観念かんねんしたか!?


「じゃあ、死んでびてもらおう……」

「ま! 待って下さいってっ! わ、私も命じられただけなんですっ!

 ど、同盟をむすんだシオン神聖国から……そ、そうです! シオン神聖国の教皇に、同盟を結ぶ条件として命じられただけなんです! し、信じて下さい!」


 おいおい、まだ言いのがれをするのかよぉ……


「ってことだが……そうなのか? ジェンマ?」

「あはははは。上様、おたわむれを。あの者は一介いっかいやとわれアサシンにぎませんよ?

 そんな詳しいことを知るわけがないじゃないですか?」


 ザックレイは笑いながら言った。ホント、間抜まぬけなヤツだな。


「てめぇ、気付いてねぇのか? 本当にヤツの種族に気付いてねぇってのか?」

「え? なにをですか? あいつはサル族では名の通ったアサシンですが?」


「てめぇは意外と間抜まぬけなんだな? あいつは人族だぜ。なあ、ジェンマ?」

「はい。そうです。私は人族です」


「どこの国の何者なにものであるのかと、お前さんに与えられた使命を言ってやれ」

「はい。私はシオン神聖国の間者かんじゃです。

 ワッドランド大使のザックレイの部下となり、彼を監視する使命を教皇様から与えられています」


 ザックレイは『えっ!? うそっ!?』というような表情をしている。


「そういうことだ。 つまり、二重スパイだ……というか、俺のスパイでもあるから三重スパイってところかな? ははは」


 ザックレイは愕然がくぜんとしている……


「え? てめぇほどのものなら、少なくともシオン神聖国の間者かんじゃってことぐれぇは気付いていて、それを逆手さかてにとって利用していると思ってたんだがなぁ……?

 なんだよぉ~、ちょっとがっかりだぜ。 俺の買いかぶりだったのかよぉ」



 サル族と人族はよく似ているからなぁ……しょうがないのかもなぁ。

 サル族にはシッポがあって、ほんの少し耳が大きめかなぁ?……くらいの身体的な差しかないからなぁ。


 俺が気付いたのもほぼ偶然ぐうぜんだしなぁ。


 え? なんで気付いたか……ってか? ヤツから攻撃を受けて気付いたんだよ。

(→第083話参照。)


 知っての通り、最初ヤツはダガーナイフで攻撃してきたんだが……

 それが通用しないと分かると今度は『ファイヤーボール』をってきただろう? 

 あれが決め手だ!


 サル族と人族の身体的な特徴の差は上でべた通りだが……

 決定的ともいえる違いがある。 それはサル族には魔力を持っている者がほとんどいないし、持っていてもごく少量であるという点だ。

(→第070話参照。)


 まぁ、身体能力は人族よりも優れているんだが……その代わりなのか、魔法が使えないということだ。


 だから、ボニーを殺したジェンマが俺たちに"ファイヤーボール"を放ったときに、コイツはサル族じゃないってことに気付いたんだ……というか、違和感いわかんおぼえたってのが正解なんだけどね。


 まぁ、ちゃんと最初にステータスを確認すれば一発で分かることなんだが、どうもまだステータスをすぐ確認するって習慣が身についていなくってなぁ……


 違和感を覚え、ステータスを見て『コイツは人族だ!』ってことが分かったから、大使のそばつかえている者が人族ってことなら多分、シオン神聖国の間者かんじゃじゃないのかなぁ? と、ふと思い……

 奴隷化したジェンマ本人に直接聞いてみたら実は本当にそうだった! というのが真相なんだけどねぇ~。



「それで……本当のところはどうなんだ、ジェンマ。 シオン神聖国がフィルを殺すように命令したのか?」


『頼む! 頼む! そう言ってくれ! ジェンマ! 教皇シミュニオンの命令だと言ってくれ!』


 ザックレイのヤツ……そんな願いが通じるわけないのに。


「いいえ。 教皇様からは戦争のづくりをするザックレイの手伝いをしながらワッドランド国とニラモリア国の情報収集をおこなうようにと命を受けておりました。

 教皇様からフィル様を殺すようにとは一度も言われたことはありません。

 すべてがワッドランド大使、ザックレイの計画によるものです」


『くそっ! 本当のことを言いやがってっ! こ、困ったぞ……どうしよう!?』


「おい、ザックレイ。 うそはいけねぇなぁ……四肢粉砕ししふんさい!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ! 痛ぁっ! 痛っ! いたたたたた……


 四肢しし粉々こなごなくだける激痛げきつうえきれず、すぐにザックレイは意識を失う。


「修復! からのぉ~、かつっ!」


 "見えざる神の手" で、そ~っと、ものすごく加減して "かつ" を入れて気絶しているザックレイの意識を取り戻させる……


「うう……ん……んん……はっ!? はぁはぁはぁ……ど、どうかご勘弁かんべんを!」


「よう、気が付いたかぁ? どうだ? 本当はてめぇが、フィルを自殺に見せかけて殺すように指示したんだろう?」


「そ、そうです。その通りです。ど、どうかおゆるしを……」


「ならぬ! 勘弁かんべんならぬ! 俺の嫁になる予定のフィルを殺した上に、ボニーの妹を拉致監禁らちかんきんしてボニーをあやつっていたことも分かっているんだぜ?

 てめぇだけは絶対に勘弁ならねぇっ! ぶっ殺す!」


「ひぃぃぃぃぃっ! ど、どどどど、どうかお慈悲じひを!」


『な、なんとかしなくては! 殺される! 殺される! 殺される!

 と、とにかくフィル様に謝らせてくれと言って、この場から移動する途中でスキを見てなんとか逃げだそう……』


 みんな聞こえているんだがなぁ……

 まぁ、なんか面白そうだからもう少しコイツの茶番ちゃばんに付き合ってやるか。


「うう……。わ、私が悪ぅございました。 きょ、極刑は受けます!

 ですが上様! 最期にどうかフィル様のご遺体におびを申し上げることをお許し下さい! ど、どうかお願い致します! どうかっ!」


 やれやれ……


「よかろう。 許す! フィルの寝室までついてまいれ! くれぐれも途中で逃げようとは思わぬことだぞ? さもねぇと……楽には死なせねぇことになるぜ?

 たっぷりと生き地獄を味わわせることになるからな? いいな?」


「は、はいっ! も、もちろんでございますとも!」


『くそっ! こっちの思惑おもわく見破みやぶられているのか? なんとか逃げないと……』



 ◇◇◇◇◇◇◇



 グィッ!

「ザックレイっ! お前はっ! どの面下げてフィル様のところへ来やがった!」


 ガッ! うぐっ! ズッガァーーンッ! メシッ! ぐはっ!


 フィルたちの遺体が安置あんちされているフィルの寝室へ皆ではいるやいなや、ザックレイの姿を見つけたザハルがザックレイのむなぐらをつかみ……

 声をあららげヤツを怒鳴どなり付けると、左手でヤツの胸ぐらをつかんだまま 右のこぶしをヤツの顔面がんめんがけてたたんだのだ!


 ザックレイはなぐられたいきおいで入り口とは反対側の窓の方へと吹き飛ばされ……

 窓に激突して、肺の中のすべての息をき出すかのような声をはっすると、その場に倒れ込んだ! ヤツが窓にぶち当たった時の衝撃で窓ガラスには大きなヒビが入ってしまった!


「この野郎! フィル様のかたきだ! ぶっ殺してやる!」

「やめろ! ぶっ殺すのはまだ早い!」


 ザハルが、ザックレイをぶん殴った勢いのまま、ヤツに制裁せいさいを加えようと近づいて行こうとするのを止めた。


「上様! なぜお止めになるんですかっ!? このおよんでコイツにいったい何をさせるとおっしゃるんですか!?」


「コイツがフィルにひとことびてから死にてぇって言うんでなぁ。 詫びを言わせてやるつもりだ」


「そんなことはフィル様は喜びませんよっ! こんなヤツの顔なんか、たとえ死んでいてもフィル様は見たくないはずです! 今すぐコイツの首をはねるべきです!」


『ん? 窓の外には木がしげっているぞ。 これは都合つごうがいい! フィルの遺体を傷つけるとおどして時間をかせいで、窓を突き破って向こうの木までジャンプすれば逃げられそうだな! ひっひっひっ! 私はなんて悪運が強いんだ! あははは』


 はぁ~。ホント、往生際おうじょうぎわが悪いヤツだ……

 全部聞こえているぞ! って言ってやりたくてウズウズするなぁ!

 でも我慢がまん我慢がまん


「ザハル。そう言ってやるな。 えずコイツがどんな詫びを入れるのか聞いてやろうじゃねぇか? ぶっ殺すのはそれからでも遅くはねぇだろうが? な?」

「しかし……」


「ほらっ! ザックレイ! とっととびをませろや! てめぇには、3分間だけ時間をやろう……さあ」


「ありがとうございます」


 ザックレイはニヤリと笑う。


 ザックレイは口元や鼻から流れる血を服のそでぬぐいながら、フィルの遺体が入った棺桶かんおけと、3mほど離して置いてあるボニーの遺体が入った棺桶との間に立ち……

 フィルが入った"棺桶"の中をのぞき込んだかと思うと、両手を棺桶の中へと素早すばやく突っ込んだ!


「ザックレイ! 貴様! なにをする! きたない手でフィル様にれるなっ!」


 ザハルがさけぶ!


「あははははははっ! フィル様の遺体は私の手の中……」


 ゴキッグキッ! ……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!


 ザックレイは大笑いしながらフィルの遺体をきかかえようとした!

 ……のだが、軽いものだと思っていたフィルの身体が、ヤツが想像していた以上に重かったために腰を痛めて、その激痛のために絶叫したのであった! バカだ!


 そう。ご賢察けんさつとおりである。

 ボニーの遺体と同様、フィルの遺体も、彼女そっくりの外見を持つゴーレムとすり替えてあったのだ!


 フィルたちそっくりのゴーレムは、この惑星で調達ちょうたつ可能かのう な材料によって作られた一種のアンドロイドのようなものである。 当然、モデルとなったフィルたち、即ち有機生命体の本物に比べるとはるかに……重いっ!

 どうだろう? フィルたちの体重のおおよそ十倍といったところか……


 そんなものを軽いと思って勢いよく持ち上げようとすると……やっちまう!

 そうだとも! 腰をやっちまう! 腰を痛めてしまうに決まっている!


「うぎゃぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!」


 さわがしいヤツだ……


 あまりの腰の痛みにあわててフィルを離し、その場から離れて床に座り込もうとでもしたのだろうが……その瞬間に遺体だと思っていたフィルの目がパッチリと開き!

 さっきまで小さかった彼女の口は耳のあたりまでけて、サメのようなギザギザの歯を持った大きな口へと変化した!?


 そのままザックレイに食いつくのでは?と思えるような恐ろしい笑い顔を浮かべてヤツにきつき、ガッチリとヤツをつかんで離さなかったのだ!


 ザックレイは必死にあばれて、フィル型ゴーレムの手を振り払うと、腰に力が入らなかったのか"ヨロヨロ"とよろけながら、ちょうど真後まうしろにあったボニーの棺桶かんおけへと、もたれかかったのであった。


「うっ……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ! ゆるしてぇーーっ!」


 次の瞬間である! ボニーの棺桶の中からきばをむいてボニーが飛び出したのだ!

 その様子はまるでザックレイの背中におんぶしてくれとせがむかのようだっ!


 ゴキキッ! ボキッ! ぎゃあああぁぁぁぁぁぁーーっ!


 ザックレイはボニー型ゴーレムから逃げようと前に出ようとしたのだが……

 ボニー型ゴーレムの体重もかなり……重いっ!


 ザックレイの身体は腰のあたりというか、腹のあたりというべきかで、エビりになったかと思うと……

 にぶい音を立てて、曲がってはならない方向へと『くの字』に曲がってしまったのである! ザックレイはかかとと後頭部こうとうぶがくっ付きそうな形に折れ曲がり、口からあわをブクブクと吹きながら意識を手放してしまっている!?


 その様子を見ていたザハルとその妻子は、口をあんぐりと開けて……

 目の前で繰り広げられた光景は一区切ひとくぎりついたというのに、まるで石化せきかでもされてしまったかのごとくかたまってそのままぼんやりとながめている……


「修復! からのぉ~かつだ!」


 ザックレイの身体を元に戻しかつを入れる。


「ううう……う……ん? ん!! ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!」


 ゆか仰向あおむけになった状態で目をましたザックレイは、ヤツの右側みぎがわにはフィル型のゴーレムが、ヤツの左側ひだりがわにはボニー型ゴーレムがヤツの顔をのぞき込むかのようにすわっていて、2体が2体とも同じようにきばをむき出しにしながら"ニヤリ"と笑うのを見て恐怖したのだろう……絶叫したかと思うと再び意識を手放してしまったのだ。


 ったく! 面倒くせえヤツだ!


「あ、あのう上様? こちらの方々は……フィル様とボニーでは……

 ありません・よ・ね?」


「ああ。違うぜ。 あの子たちの身代わりをつとめるゴーレムだ」

「あ~、びっくりしたぁ! 一瞬フィル様たちがけて出たのかと思いましたよ」


「ははは。そうか。 お前さんたちにも内緒ないしょにしておいてよかったぜ。ドッキリ作戦大成功だ!」


「は・は・は……それで……本物のフィル様のご遺体は?」


 フィル型ゴーレムがおもむろにゆっくりと立ち上がるとザハルの方を向き"にかっ"と笑う!

 その時である!


「わっ!」

「うひゃほぉぉぉーーいっ! ……ふぃ、フィル様? フィル様っ!

 ううう……フィル様ぁ~~~!!!」


 本物のフィルがザハルの後ろに転移で現れて『わっ!』と声をかけておどかし……

 そのまま背後からザハルにきついたのである!


 神国神殿で朝から待機してもらっていたフィルとボニーに、念話でここに転移して来るようにと伝えたのでやって来たのである。


 彼女たちの方からここへ"転移てんい"してこられるということからもお分かりだろうが、すでに彼女たちにも加護かごさずけて俺の庇護下ひごかに置き、ハニー装備そうび一式いっしきをプレゼントしてある。


 ザハルはフィル型ゴーレムの不気味ぶきみな笑顔に気を取られていたため……

 背後からのフィルのおどかしに、情けない悲鳴ひめいた声を上げながら、がらんばかりに驚いたのだ!


 聞き覚えのある声。 その主を確認するために後ろを振り返った彼はそこに本物のフィルがいることを確認すると、彼女をギュッときしめて号泣ごうきゅうし出した!?


 その様子を不気味な笑顔でじっと見ていたフィル型ゴーレムも、なにを思ったのかザハルの背後から背中に抱きついていった。


 彼女も二人の再会を喜んでいるようである。

 なんとも微笑ほほえましいというかなんというか不思議な光景だ。


「かみちゃまぁーーっ!」

 ぽすんっ!


 フィルたち二人ふたりとゴーレム一体いったいの横を走り抜けてきたボニーの妹、コニーが、正面から俺の腰のあたりにきついてきた!


「コニーちゃんも来てくれたんだね?」

「うん。 おねえちゃんについてきたのよ。 うふふ」


 その姉であるボニーの方は、ボニーが無事ぶじであることをよろこなみだしているイメルダとって泣いている。


 てき間者かんじゃ警戒けいかいして一部の者たちにしか二人が生きていることを知らせてなかったため、この再会がより一層いっそう感動的なものとなったようだ。



「よかった……」


 コニーが無事で、元気な姿を見た三重スパイのジェンマがつぶやいた。

 その目にはうっすらと涙が浮かんでいるようだ。


「あのね、あのね。かみちゃまぁ。 ゴーレムちゃん、だいじょうぶかなぁ?」


 どうやらコニーの身代みがわりに置いてきたゴーレムのことを気にしているようだ。


「うん。大丈夫だよ。 ゴーレムちゃんは今頃、コニーちゃんに意地悪いじわるしてた牢屋ろうやこわいおじちゃんたちをしかっているところだと思うよ。大丈夫だから安心してね」


「あーよかったぁ! わたしねぇ、しんぱいだったんだ。

 あのおじちゃんたちね、すっごく・・・・こわかったんだよぉ~……」


 拉致らちされていたときにコニーはひどいことをされていたのかなぁ。 かわいそうに。


「そっかぁ、すっごくこわかったんだね。悪いおじちゃんたちだね。

 きっと今頃いまごろ、ゴーレムちゃんが、コニーちゃんをいじめたおじちゃんたちをしかってくれていると思うんだけどね、あとで神ちゃまもおじちゃんたちを叱っておくね!」


「うん!」



 実際この時、ワッドランド大使公邸こうてい地下牢ちかろうでは、幼女型ゴーレムによって牢番ろうばんのクソ野郎どもがボッコボコのギッタンギタンにされていたのである!


 その幼女型ゴーレム……つまりコニー型ゴーレムには、なにかひどいことをされない限りはじっとしているように命令してあったが、クソ野郎どもがフルボッコにされてぶち殺されていたということは、ヤツらはよからぬ事をしようとしたに違いない。


 自業自得じごうじとくである!


 ヤツらがすでにくたばっていたので、俺もヤツらをしかっておくといった、コニーとの約束はたせなかったが……

 その代わりというのか、当初の予定通りというのか、当然なんだが、ヤツらの魂はまとめて "奈落ならくシステム" へとほうんでやったのである!



 ◇◇◇◇◇◇◆



 ザックレイの身柄みがらはワッドランド皇帝、シザルに引き渡すことになった。


 フィルが、他の兄弟たちからひどくイジメられていたことにすら気付いていなかったような"ぼんくら野郎やろう"なのだが、そんなヤツでも一応いちおうむすめのことはかわいいらしく、ザックレイに対して激怒げきどしていた。


 のちに、ザックレイは市中しちゅうまわしの上、斬首ざんしゅ獄門ごくもんとなったらしい……



 ◇◇◇◇◇◆◇



 今日より数週間後にときを進めよう……


 場所はニラモリア中央神殿内の統括神官シーモアの執務室しつむしつである。

 ここでフィル暗殺事件他、一連の事件についての調査報告をザハルから聞いているところである。


「ザハル。よかったなぁ、亡命の件はおとがめなしになったんだって?」

「はい。お陰様で。ありがとうございます」


「それどころかちゅうニラモリア大使になったってことらしいじゃねぇか?」

「はい。両国りょうこくはしになるべくがんばります」


「ああ、がんばってくれよ。 まあ、お前さんが大使なら安心だよ」

「ありがとうございます」


「あ、そうだ! ジェンマの件だが引き続き大使であるお前さんの部下として面倒を見てやってくれ」

「え? あのボニーを殺したヤツですか?」


「ああ、そうだ。 ヤツは使える男だし、実は気のいいヤツなんだぜ。

 ヤツには今後はシオン神聖国との二重スパイをつとめてもらうつもりだ」


「なるほど。そういうことならご協力致します」


「おう。よろしく頼むぜ!」

「はい」


 ザハルからの報告によると……

 今回の一連の事件はすべてザックレイとそのうしだてになったシオン神聖国の策略さくりゃくだったということであった。


 ニラモリア国をほろぼして、二国にこく分割ぶんかつしたあとに、皇帝こうていシザルとその一族郎党いちぞくろうとう暗殺あんさつして、ザックレイが新たな皇帝としてワッドランドを支配することになっていたようだ。 それを全面的にシオン神聖国がバックアップするということだった。


 ニラモリア国との戦争責任をすべて皇帝シザルに"おっかぶせて"殺し、自分がその後釜あとがますわ算段さんだんだったのだ。

 単なる権力の掌握しょうあくだけではなく、シザル一族だけにニラモリアの人々のサル族に対する怒りを向けさせて殺し、国民のうっぷんを晴らさせることで、その後の統治とうちをしやすくするねらいもあったらしい。



 そして、今回ヤツらが立てた計略の概略は……


 まずザックレイはニラモリア国のせき、フォスジャルボの警備能力を分析ぶんせきするためとしょうして軍を派遣する許可を皇帝から得て……

 ザハルを指揮官としてシオン神聖国の魔道士たちの力を借りて関を攻めさせる。


 関を落とすことができたらそのまま首都へ向かって進軍して占領。


 失敗したときにはニラモリアの人々のワッドランドに対する敵愾心てきがいしんをあおり……

 いかりの矛先ほこさきが皇帝の皇女である神殿神子みこ、フィルに向かうように誘導ゆうどうする。


 その国民感情を利用して、あたかもフィルがイジメにより自殺に追い込まれたかのように偽装ぎそうして暗殺し……

 ニラモリア国への侵攻しんこう興味きょうみしめさなかった"皇帝シザル"をいかりでうごかさせ、軍を起こさせる。


 今回は関への攻撃が失敗したために、この後者のプランとなったというわけだ。



 一方のシオン神聖国は、ニラモリア国への侵攻時に一番懸念けねんされる神国の介入かいにゅう阻止そしするために、神国首都東にあるダンジョンで魔物溢まものあふれを起こさせて、首都を勇者一行いっこうともおそわせることになっていた。 ……失敗したけどね。


 そのじょうじて、両国の軍勢が同時にニラモリア国へと侵攻すべく準備を調ととのえていたということなのであった。


 まあ、敵の計画通りにことはこんでも大したことじゃないんだけどね。


 こっちには俺もいるし、優秀なハニーたちもいるし……

 衛星兵器だってある。 それに、ミニヨンやゴーレムたちもいる。


 たとえヤツらの計画がバッチリうまくいったとしても、な~んにも心配はいらないのだ! 半日以内にヤツらを殲滅せんめつする自信すらあるぜ!




「しかし、上様。 今回の件では皇帝陛下こうていへいかはなにも知らなかったのに、宮殿の屋根をすべて消し去られてしまっていきどおっておられました」


「なに? 俺にうらごとのひとつも言いてぇとでもぬかしてやがるのか?

 どうやら、ぶっ殺されてぇらしいな?」


「い、いえ。 そういうわけではなくて、全部ザックレイが影でこそこそやったことなのに……あまりにもひど仕打しうちかと……」


「てめぇらはアホか!?」

「へっ?」


 ここは日本ではない!


 おえらいさんは"しこたま"もうけるだけもうけて、何か問題が発生したら全部部下の所為せいにして自分だけは逃げる!

 そんなクソ野郎が多くて、そんなことが許されてしまうような日本みたいな……

 そんな "なまぬるい" 世界ではないのだ!


 おえらいさんというのは、本来ほんらい責任せきにんをとるためにいるのだよ!


 お偉いさん自身が起こした不祥事ふしょうじの責任は当然だし、たとえ部下が起こした不祥事であっても、対外的にその責任をとるのもお偉いさんであらねばならない!


 そのために高い報酬ほうしゅうているのだからな!


「部下がやらかした不始末ふしまつの責任を、組織のトップがとるのは当たり前だろうが?」

「ですが陛下はなにも……」


「知っていた、知らなかったはその組織外から見たら全く関係ねぇだろうが!?

 すべてはそっちの内部の問題だ! そうだろう? 違うか?

 そんなことは、てめぇたちだけで考えればいいことじゃねぇのか?

 俺には全く関係ねぇ話だぜ。

 言っておくぞ! 今後も、もしこのような不祥事ふしょうじがあったら……

 俺は躊躇ちゅうちょなくシザルに責任を負わせると断言だんげんしておく!

 それがこの世界でのルールだ! おぼえておけ」


「は、はい。 しょ、承知しました。 き、きもめいじておきます!」


 ザハルは脂汗あぶらあせをたらたらと流しながら言った。

 ちょっと威圧いあつしながら……


「ああ。皇帝にもそう言っておけよ! 妙な言いがかりをつけてくるなら……

 今度は屋根だけじゃすまさねぇってこともなっ! いいな!?」

「は、はいっ!」


 まあ、不満ふまんは理解できるんだけどねぇ……

 でも、それがイヤだったら、トップの座からいさぎよく下りてくれ! ってことだ!


 この世界では無責任野郎むせきにんやろうにも容赦ようしゃはしない! キッチリとかたをつけさせる!


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