第0076話 青紫髪の女性戦士

烈火れっかのか……」

「待てっ!ノアハ!烈火の壁は使うなっ!」

「えっ!?……は、はいっ!では、どうすれば!?」

「俺がやる!強重力場きょうじゅうりょくば生成!5ジー!」


 ダンジョンに戻り、第8階層へと入るとそこで、予想だにしなかった光景を見ることになったのだ!……カニだ!巨大なカニ型の魔物がうじゃうじゃいる!?


 その場所はレッドドラゴンたちがいたエリアだ。

 彼等がいなくなったことを良いことに、カニたちは湖からい上がってきたのであろう……体長2mはあろうかという大きさのカニがうじゃうじゃといたのだ!


 マップで確認するとおおよそ2000匹はいるっ!


 それを見るやいなやノアハが烈火の壁で殲滅せんめつしようとし、俺がそれを止めたのだ。

 えず5Gの重力場を生成してカニたちを地面に押さえつけておく……


 なぜノアハを止めたかだって?ふっふっふっ!それは!相手がカニだからだ!

 見るからに美味うまそうだったのだ!


「ふぅ。良かった」

「ん?ディープレッド、良かったって……なにが?」


「す、すみません。つい心の声がれ出てしまいました」

「心の声が?ヤツらに火属性の攻撃はマズいのか?攻撃を放った方に大ダメージが返ってくるとか?何かあるのか?」


「い、いえ。そ、そうではなくて……お恥ずかしい限りなのですが……このカニは焼いて食べるととても……とても美味おいしいのです!

 砂漠での練習を見たのですが、ノアハさんの『烈火の壁』で攻撃すれば、恐らくカニたちは跡形あとかたもなく焼失してしまいますでしょうから、もったいなくて……。

 上様がお止めになったのでつい……思わず『良かった』という言葉が口から出てしまいました。も、申し訳ございませんでした」

「おっ!やっぱりそうか!?あいつらは美味うまいのか?そうか、そうかっ!

 いやぁ~俺の思った通りだ。はははははっ!」


「え?も、もしかして……上様も美味しそうだから、ノアハさんの攻撃をお止めになったとか?」

「おうよ!その通りだ!がににすると美味うまそうだったからな!あのままノアハが攻撃を放てば、お前さんが言ったようにあとにはなにも残らねぇだろうからなぁ。

 俺もさあ、もったいねぇっと思ったんだよ。はははっ!」

「あ・は・は・は・は……」


 ディープレッドは力なく笑う……

 他のメンバーたちは1名を除いて皆、おでこに手を当ててうつむ加減かげんに目を閉じてゆっくりと首を振っている。そう……『やれやれ』というような感じで首を左右に振っているのだ。


 他のハニーたちとは異なる反応を見せていた残りの1名が目を輝かせてこちらに向かってくる……ウェルリだ!


「ねぇねぇ、ダーリン。あれって美味うまいんすかぁ!?美味おいしいんっすよね!?」


 ウェルリの口からよだれが出ているんじゃないかと思わず錯覚さっかくしてしまった。

 彼女はカニが食べたくてしようがないといった雰囲気ふんいきだ。


「食べたことはねぇが…多分な。ディープレッドは美味いって言っているし、期待できるんじゃねぇのかな?」

「はい。絶品ぜっぴんと言っても過言かごんではない美味しさです!」


「な?ウェルリ」

「うぃっす!……でも、どうやって焼くんすか?デカいっすよ?」

「私たちはカニを両手で持って火炎放射で両面からじっくり焼きました。

 あ、もちろん本来のドラゴンの姿で……ですが。相手は大きいですからね。

 焼いていますとちょっとこうばしい、とても良い香りがしてきますので、それが、食べ頃です。……ああ、想像するだけでお腹がいてきました」


 ちょうど昼時だしなぁ。腹が空く時間帯だからな。

 もともとこの階層をちょっとだけ下見したみしたら昼飯にしようと思っていたんだが、昼飯は思わぬご馳走ちそうが食べられそうだな。ふふふ。


「火炎放射レベルの炎が必要なのかぁ……それくらいの威力となると、最大出力のファイヤーウォールであればちょうど良さそうだな。一気に焼けるかな?」


 ふぅ、どうもこのファイヤーウォールって言葉には違和感があるんだよなぁ。


 この世界では炎の壁という意味になるようだが、地球では一般的な言葉としては防火壁って意味だったからというのもあるし……

 それに俺は日本人だった頃の職業柄、システム用語というかネットワーク用語の方の意味を最初に思い浮かべちゃうんだよなぁ。やっぱりどうしてもそっちの方がピンと来る。 まあ、慣れるしかないんだけど。なんか気持ち悪いなぁ……。



 とにかく……まず実験だ!試しに焼いてみよう!


 一番手前にいた体長2mほどの大きさのカニをターゲットに指定する。

 カニは5Gの重力場で現在は動けないが、火事場かじば馬鹿力ばかぢからってこともある。

 だから、念のために7Gの重力場で押さえつけてから……


「最大威力いりょくの……ファイヤーウォール!」


 ゴォォォォォォォォォォーーッ!


 高さ3m、幅3mほどのファイヤーウォールがゆっくりとカニの手前から向こう側へと移動すると、あたりにあのいだことがある良いにおい、カニが焼ける香りがただよいだした。


 途中でカニが暴れて逃げ出すようなこともなかったし、カニを押さえつけておく重力場の強さも7Gでよさそうだな。


 しかし……いい匂いだ! う~ん、たまらん!


「ディープレッド、悪ぃが焼き具合を確かめてくんねぇかな?」

「はいっ!喜んで!……あのう、食べても?」

「ああ。いいぜ!味も確かめてみてくれ!」

「はいっ!」


 ディープレッドはドラゴン本来の姿になり、カニをむき出した。


 ふんどしを取り去り、甲羅こうらを外し……口、えらを取り去ると左側の脚を左手で、右側にある脚は右手でそれぞれ持つと、カニを内側へ折りたたむかのように半分に折った後、二つに割った。


 バキッ……ボキッ……んぐっ、んぐっ……


 その二つに分かれたカニの半身を、それぞれ器用きようからをむきながら食べたのだ。

 慣れた手つきだ。動きに無駄がない上に速い。この子は相当なカニ好きだな。


 ディープレッドの顔が美味しさにほころんでいる。

 至福しふくの時を過ごしているって感じのいい表情をしている。


「ん~~んっ!美味しいぃ~っ!上様!最高の焼き具合ですっ!」


 ああ……見ているだけでよだれが出てきそうだ。

 しかし、それにしても美味しそうに食べるよなぁ。く~、早く食べたいなぁ。


 がにはカニの身の甘みが増すだろうが、塩ゆでのような塩味がない分ちょっと淡泊たんぱくに感じるかも知れないな。昼食ではカニ酢も用意しておこうかな。

 焼き蟹なら……マイルドな風味ふうみ土佐酢とさずの方がいいかもなぁ。


「そうか、美味いか!良かった!ファイヤーウォールでうまく焼けそうだな!」


 しかし、おおよそ2000匹かぁ~、結構な数だな。一匹の大きさもデカいし、かなりの量になるよな。何人前に相当するのかな?

 これだけあれば神都のハニーたちや神殿関係者にも食べさせてあげられるな。


 あっ、そうだ。震災にった新ボラコヴィアの人たちにもお裾分すそわけしよう。


 全然劣化れっかさせることなく保存可能だから余ったら亜空間倉庫あくうかんそうこにぶち込んでおけばいいかとも思っていたが……ひょっとすると一匹も残らないかも知れないな?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 昼食はみんなでがに美味おいしくいただきました。


 一人前あたりあしの一本もあればお腹がいっぱいになるだろうと予想したのだが、よっぽど美味しかったのか、魔物組の4人、翠玉すいぎょく、バジリドゥ、ディープレッド、オークドゥはそれぞれカニ2はいを、そして、なんと!ハニーたちですらそれぞれがカニを半分も食べたのだった!


「ふぅ~。美味しかったっす!お腹いっぱいっすよぉ~。もう動けないっす!」

「カニ酢、最高。美味!」

「あ、ジーもそう思った?

 そのままでも甘くて美味しかったけど、土佐酢とさずっていうのをつけるとまたひと味違って美味しくなるわよね?甘みと酸味がカニの身にマッチするわね?」


 ウェルリ、ジー、ザシャアの会話である。


 カニ酢……土佐酢も作っておいて良かったな。

 しかしまあ、みんなたくさん食べたなぁ~、あれだけ食べたのに体型が変わってないというのが不思議だ。あの細い身体の一体どこに入っていったんだ?


 結局、亜空間倉庫に焼き蟹をストックすることはしなかった。


 もう、なんかカニを見るのも嫌なくらいに、お腹いっぱいになるまで食べたのでストックしておこうという気がせてしまったのだ。


 ということで……神都にいるみんなのために焼き蟹500ぱいを、残りのすべてを新ボラコヴィアの人々に提供してきたのである。


 今、ここにはなにも残っていない。カニのからもない。食べ終わったあとのカニの殻は烈火れっかで灰も残らないように焼却しょうきゃくしたからだ。


 ちゃんとゴミは片付けておかないとなっ!



 ◇◇◇◇◇◇◆



「な、なんじゃこりゃぁ~っ!」


 第8階層、元元はレッドドラゴンたちが守っていたエリア、カニが群棲ぐんせいしていたエリアを抜けて湖にやって来たのだが……その湖が予想以上に大きかったのだ。


 これじゃまるで海じゃないか。


 湖と聞いていたので、あまり大きくない地底湖のようなものを想像していた。

 だが、目の前に広がっているのはまるで海だ。デカい!

 そして、このエリアはかなり明るい。ここがダンジョンの中だとは思えない。

 天井全体が光っていてかなり明るいのだ。まるで昼間の空のように……。


 だから、見通しはかなり良いのだが……それなのに対岸が見えない。


「これは参ったなぁ。超低温化で凍らせて、ここのブルードラゴンやら魔物やらを一気に殲滅せんめつしようと思ったんだが……これだけ広いとそれは無理だな」

「はい。烈火の壁でも無理かと……」


「そうだよなぁ、ノアハ。それにたとえ湖全体を烈火の壁で攻撃できたとしても、発生する高温の水蒸気すいじょうきが心配だしな」

「水蒸気ですか?」


「ああ、そうだ。ここの湖の水がすべて高温の水蒸気となって、階段を上っていくだろうからなぁ。上の階層に冒険者が来ていたらとんでもねぇことになっちまう。

 それにひょっとするとオークドゥの弟たちも被害にうかも知れねぇし……。

 烈火の壁は使えねぇな」

「なるほど。では、どうされるおつもりですか?」


「うーん。今の時点ではノープランだな。

 えず湖のデータが不足しているから、偵察ていさつ用のミニヨンを飛ばしてデータ収集させることにするわ。湖の水深すいしんとかも知りてぇしな」

「はい。闇雲やみくもに行動するよりもその方がよろしいかと私も思います」


 ミニヨンを5000体起動して、湖の調査に向かわせた。


 途中で魔物と遭遇そうぐうした時は攻撃を受けた場合のみ反撃を許可した。

 そして、その際の反撃はフェイザー銃による麻痺まひだけを許可してある。

 ひょっとするとブルードラゴンたちとも意思の疎通そつうが可能かも知れないからだ。

 ブルードラゴンたちとの話し合いが可能性な場合を想定すると無用むよう殺生せっしょうだけはけておいた方が良いに決まっている。対立の引き金となるような行為だけは避けねばならない。


 ん?人……だよな? 湖の方から人がやって来るぞ? どうも女性のようだな?


 その女性の足取あしどりはふらついている。

 女性は青い鱗状うろこじょうの表面を持つよろいを身にまとっているが、ボロボロである。

 そして、よく見ると全身に傷を負っているようだ。痛々しい。


 その女性の髪はセシウムの炎色反応えんしょくはんのうで見られるような青紫色だ。ポニーテールにしているのだが、その髪型はよく似合っている。

 瞳の色も髪と同じような青紫色で……切れ長の目は澄んでいて吸い込まれそうな魅力がある。唇は薄めだ。そして、鼻筋はスッと通っている。美しい顔立ちだ。


 す、すごい美人だな……だが、ちょっと気が強そうにも見えるな。


「おい、お前さん、大丈夫か?」

「×△*○☆&※%#!?」


 なんだ?なにを言っているのか分からねぇな。念話に切り替えてみるか。

 一応、念のためにハニーたちにも念話回線をつなげておくか……。

 俺とこの子との念話の内容が全く分からないのも気になるだろうからな。


『おい、お前さん、大丈夫か?』

『な、なんだ? 頭の中に声が聞こえてきたぞ?』


『ああ。お前さんの心に直接語りかける、念話っていうので話している。

 お前さんが思ったことがこちらへ伝わるから、俺に話すつもりで心の中でつぶやいてくれ』

『お前は誰だ?ボクを殺すつもりなのか!?』


 ん?『ボク』?胸も大きいし……どうみても女性だよな?

 うわさには聞いたことがあるが『ボクっ』って本当にいるんだなぁ?


『殺しやしねぇよ!

 あのなぁ。それにお前さん、人に誰だと聞く前に自分が誰なのかを先に話すのが礼儀れいぎってもんだろ? 違うか?』

『う、うるさいっ! ふ、不審者ふしんしゃに自分から名乗るヤツがいるかってんだ! 

 礼儀ってえらそうに! お前、何様なにさまのつもりだ!? バカじゃないのか!?』


 しょうがないなぁ……。


 眉間みけんの印をかがやかせながら……


『まあお前さんが言うことにも一理いちりあるな。よかろう、ほら。俺はこういう者だ。

 俺はこの世界の神だ。どうだ?』

『えっ?う、上様ですかっ!? し、失礼しました!』


 女性はひざまずこうとする。どうやら信仰心しんこうしんは持っているようだ。


『ああそのままでいいぞ。ひざまずかなくてもいいから……。

 お前さん、怪我けがしているからつらいだろ? 今、治してやるからな……修復!』


 女性の身体全体があわい緑色をした半透明な光のベールにつつまれ……

 光が消えると女性の傷のすべてが治った。


『えっ!?き、傷がっ!? あ、ありがとうございます!』


『で、お前さんは一体何者なんだ?名前は?』

『はっ!ボクは神都の南方にある湖に住むブルードラゴンのおさで……

 いえ、おさだった者です。残念ながら名前持ちではありません』


『え?お前さんはブルードラゴンなのか!?

 あれ?変だなぁ? お前さんは……精神支配されていないんだな?』


 彼女のステータスを確認する。確かに人型に変身しているブルードラゴンだ。

 しかも、精神支配耐性を持っていることが分かった。これはめずらしい。


 そして……やはり『ボク』って一人称を使っているが、ちゃんとした女性だ。

 そう!ボクっ娘だ!



 ここで念のために精神支配について説明しておこう……


 この世界で行われる精神支配は、基本システムをウィルスプログラムで乗っ取るようなものだ。魂や魔石の肉体に対する制御せいぎょ妨害ぼうがいして肉体をコントロールする。

 だから、外形上がいけいじょうは、精神自体が支配されているように見えるので『精神支配』と呼ばれているが、実際は、どちらかと言えば『肉体だけが支配』されている状態であり、支配されている間も本人の意識はハッキリとしている。


 それゆえ、つまり、本人の意識があるがゆえに、肉体が支配される屈辱と苦痛を味わうことになる。


 また、本人の意識はハッキリしているため、たとえ精神支配されている状態でも念話での意思の疎通そつうは可能となる。

 そして、なぜか、精神支配中でも目の制御に対するウィルスプログラムの干渉は甘いらしく、支配されている者の苦しみが涙として目に表れることもある。

 被支配者ひしはいしゃが涙を流していたりすることが多いのはそういうことだ。



『精神支配…ですか? 申し訳ありません。おっしゃっている意味が……?』

『精神支配っていうのはだなぁ、平たく言えば、奴隷どれいにされるようなもんだな』


『はあ……なるほど。

 ボクは気が付くと一族の者たちと一緒にあの湖の中にいたのですが……

 皆の様子がおかしくなってしまい、全員の目がうつろで、なにを考えているのか分からないような状態になってしまったのです。それが精神支配ですか?』

『ああ。それは精神支配されているな。間違いねぇな。

 有無うむを言わさずにお前さんたちをここへ連れてきたここのダンジョンマスターの精神支配下に置かれてしまっているな。

 お前さんには精神支配に耐性たいせいがあるから、大丈夫だったようだな。

 他のやつらはダンジョンマスターにあやつられている。ヤツの奴隷だ』


『そうか!だからボクにとどめをさなかったのか、いや、刺せなかったんだ!』

『ん?どういうことだ?』


『はい。実はこのダンジョンに連れてこられる少し前は、ボクは絶体絶命ぜったいぜつめいだったのです。一族の者たち全員に殺されるところだったのです』

『またまたそいつは物騒ぶっそうな話だなぁ?一族全員に命をねらわれてんのか?

 一体なにをやらかしたんだ?』


『いえ。特になにも……』


 彼女の話によると……

 どうやら彼女たち一族がこのダンジョンに招喚されるちょっと前に、一族内部でクーデターが勃発ぼっぱつし、おさだった彼女は殺されかけていたらしい。


 彼女が長になってからは無益むえきな戦いをけ、彼女等が住む湖周辺の人族たちとの融和ゆうわをはかり、それをし進めてきたらしいのだが……。

 元来がんらいが好戦的なブルードラゴンたちだ。彼等はそれをずっと不満に思っていたと思われる。 それで、彼女を亡き者にしようとしたらしいのだ。


 クーデターによって、彼女の命は最早もはや風前ふうぜん灯火ともしびか?と思われたタイミングで、一族そろってこのダンジョンに招喚されてきたらしい。

 結果的にダンジョンマスターによる招喚で彼女は命を救われたことになる。


 瀕死ひんしの重傷を負っていた彼女は他の者たちが攻撃を止め、ボーッとしているのを見て逃げ出したのだが途中で意識を失ってしまって、気が付いたらこの湖の浜辺に打ち上げられていたということらしい。


 俺たちがいる場所の目の前に広がる浜辺で、彼女は数日間生死の狭間はざま彷徨さまよっていたようだ。


『その意識を失っている間に他の魔物たちに襲われなくて良かったなぁ』

『はい。我ながら強運だと思います』


 そして、意識を取り戻して、湖から離れようとしたところで俺たちと出会ったということだった。


『なるほど。それで……お前さんはこれからどうするんだ?』

『はい……実は行く当てもなくて……これからどうしたものかと』


 そうだよな。かわいそうに、一族を追い出されてしまったんだもんなぁ。


『よし。それじゃぁ、お前さんさえ良けりゃぁ、俺たちの仲間にならねぇか?』

『え?ボクなんかが仲間になってもいいんでしょうか?』


『ああ。ブルードラゴンの中でも穏健おんけんな考えを持つお前さんなら大歓迎だいかんげいだぜ』

『ありがとうございます!是非ボクを仲間にして下さい!お願いします!』


『ようこそ!我がパーティーへ!…そうだ。折角せっかくだからお前さんが嫌じゃなきゃ、名前を付けてやりてぇんだが……どうだ?』

『う、嬉しいです! どうか是非! お願いしますっ! ボクに名前を下さい!

 ああ!ボクはなんてついているんだ!』

『よし!決まりだな!俺がお前さんにいい名前を付けてやる。

 そして、その後加護かごして俺の庇護下ひごかに置こうと思うがそれでいいか?』

『え?な、名前だけではなく、ボクを上様のお嫁さんにしてくれるんですか?』


 ああ……まただ。この世界でのデファクトスタンダード的な考え方なのか?

 確かに加護した者が俺の嫁になる確率は非常に高いけど……。一体なんでいつもこういうことになるんだろうかなぁ~。ふぅ。否定するのも面倒めんどうになってきた。


『嫌か?』

『いえ。嬉しいです。あこがれの上様のお嫁さんになれるなんて、夢みたいです。

 でも、魔物……ブルードラゴンのボクでもいいんでしょうか?』

『ああ、もちろんだとも!お前さんで魔物の嫁候補は4人目になるのかな?

 実はあそこにいる3人も魔物だ。俺の大切なフィアンセたちだ』


 翠玉すいぎょく、バジリドゥ、ディープレッドがちょうど並んで立っていたので、彼女等の方に視線を送る……。


 ん?ウェルリとジーがジト目でこちらを見ている?『またダーリンの悪いクセが出た』とでも言いたげだなぁ。

 あれっ?他のハニーたちもなんとなく表情がけわしいような……気のせいかな?


『え?う、上様は男色だんしょくもイケるのですか?』


 女性が俺の視線を追って翠玉たちを見たのだが……ディープレッドが立っていた位置にはその時なぜかオークドゥが立っていた。


 えーっ!?オークドゥ!?


 オークドゥは『へっ?俺?なにか?』というように、自身を指差し不思議そうな顔をしている。


『いや、あの男は違う!お前さんの勘違いだ!……あ、いた!ほら!いつの間にかあそこに移動しちまっていたがあのレッドドラゴンの女性……あの綺麗な赤い髪をした女性と、お前さんが俺の"男"と勘違いしたヤツの隣にいるあの女性二人が実は魔物なんだが、現在俺のフィアンセだ。

 言っておくが男の方は違うぞ!お、俺は男色の方はダメだ。全く興味ねぇっ!』

『はあ…な、なるほど……』


 俺は気を取り直し話題を元に戻すために『ん、ん!』と喉を鳴らし……


『あー、それでお前さんが俺の嫁になるって件に話を戻すが……

 俺の嫁になるかならないかの結論を出してもらうのは、このダンジョンの攻略が終わってからでいいからな。

 それまでは本当に俺の嫁になりてぇのかを、よ~く考えるんだぞ』

『は…い……。でも、ボクの気持ちは変わらないと思いますけど……』


 これまで俺が熟慮じゅくりょうながしてもみんな即決そっけつだったが……

 そんなに簡単に決められることじゃないと思うんだがなぁ。いいんだろうか?


『そうか。ありがとうな。でもな。とにかくよく考えてから決めるんだぞ?

 ダンジョンを攻略し終えた時点でもまだお前さんが俺の嫁になりてぇっていうのなら、その時は大歓迎するぜ。是非とも俺の嫁になってくれ。

 もちろん、やっぱり無理ですっていう結論でも文句は言わねぇから安心しろ』

『はい。でも、ボク、絶対にお嫁さんになります!この気持ちはブレませんよ!』

『そ、そうか』


 こんな調子で魔物の嫁もどんどん増えていくのかなぁ?

 ハーレムはガンガン拡大かくだいしそうだな……ふぅ~。


 将来、各ヒューマノイド種族をたばねる王たちだけじゃなくて、各魔物種族をたばねる王たちの方も、俺と魔物の嫁たちとの間に生まれる子供たちがなりそうだなぁ……。


 この惑星での実験は想定外そうていがいの方向に進みそうだぞ?……いいのかそれで???



 しかし、『ボク』よりも『わたくし』の方が絶対に似合いそうな、大人っぽくて端整たんせいな顔立ちをした超絶美女なんだがなぁ……。これもひとつの個性だな。


 さてと……どんな名前を付けてあげようかなぁ。

 髪と瞳の色はセシウムの炎色反応を思い出すようなあざやかな青紫色か……

 ブルーヴァイオレット?ちょっと長いな。BV……ビィヴィってのはどうだろうかな?ちょっと安直あんちょくな発想かな?俺ってホント、命名センスもゼロだなぁ。


『お前さんの名前なんだが……"ビィヴィ"というのはどうだろうかな?』

『ビィヴィ……はい。嬉しいです。どういった意味なんでしょうか?』


『ああ。お前さんのその綺麗きれいな髪の色を表している。

 異世界の言葉をもとにしているんだが、気に入ってくれたんなら嬉しいぜ』

『はい。ありがとうございます』


『しかし……お前さんは超絶美女ちょうぜつびじょだよな』

『はふっ!? な、なな、なにをおっしゃるんですか急に!ぼ、ボクはそんな……』


『いや、お世辞せじとかじゃなく本当に美しいぜ!そして、お前さんのその美しさを、より一層いっそう際立きわだたせているのがその綺麗な髪だ。

 だから、その髪の色をもとに命名めいめいしたくなったんだよ』

『と、とても嬉しいんですけど……て、れますぅ~』


『それじゃぁ、この名前で命名するがいいか?』

『はいっ!お願いしますっ!』


『よし!では命名する!お前さんはこれより『ビィヴィ』と名乗るがよいっ!』

『はいっ! ありがとうございますっ! ああ…嬉しいっ!

 ……あ、ああっ!……ち、力が!……力がみなぎってきましたっ! 最高っ!』


『お前さんは名前を得てロイヤル・ブルードラゴンに進化したぞ!

 命名前よりもかなり強くなってるから、最初は戸惑とまどうぜ。

 まあ、そのうちにれるがな、それまでは力加減ちからかげんとかに注意するんだぞ?』

『はい。気をつけます』



 野営用のテントを亜空間倉庫から出して設営する。テントの設営前にシールドは既に展開してある。場所は湖の近くだから、なにが起こっても不思議じゃないからシールド展開は必須だ。


「みんな!ミニヨンたちが湖の情報を集め終わるまでまだ少々時間がかかりそうだから、テントの中で休憩していてくれ」

 "はいっ!"


「あ、それから紹介しよう。この子は新しい仲間のビィヴィだ。こう見えて彼女はロイヤル・ブルードラゴンだ。みんな仲良くしてやってくれ。

 おっと、そうだ!この子は俺たちの言葉が分からねぇようだから、会話は念話を使ってくれ」


 俺がビィヴィとは念話で話をしているのを見ていたので、言葉が通じないことは皆、なんとなくさっしていたようだ。ハニーたちはそれぞれ念話ねんわ挨拶あいさつしている。


「今から俺の部屋でこの子を加護するつもりだ。

 彼女を加護して庇護下に置いたら俺たちもすぐに食堂の方に行くから、みんなは食堂でティータイムを楽しんでいてくれ」

 "はいっ!"



『それじゃあ、ビィヴィ。次はお前さんを加護して俺の庇護下に置くからな。

 一緒に俺の部屋まで来てくれ』

『は、はいっ!』


 ビィヴィの加護はトラブルなく無事に完了する……もう慣れたものだ。ははは。

 マクロが組んであるので、基本システムの再起動時間を除けば一瞬で加護関連の処理は完了するのだ!


 当然だが、彼女はレベルはまだ低いものの神術もハニーたちと同じ種類のものが使えるようになっている。


 彼女はさすがにブルードラゴンだけあって、水属性の攻撃神術はすべてがMAXであったのでそれはそのまま維持し、また、彼女の元のSTR値は98と結構高い値だったので、それもそのままにしておいてある。


 あ、もちろん、ビィヴィにもハニー装備一式をプレゼントしてあるぜ!


 ブルーのよろいもとても格好良く似合っていたが、やはりこの子もキャットスーツはよく似合う。まあ、俺のハニーたちはみんなスタイルが抜群ばつぐんにいいからな!

 みんな、なにを着ても似合うんだがな……。はっはっはっ!


 ビィヴィを連れて食堂に行くと、例によってウェルリとジーが……


「またまた新しい嫁っすかぁ?にぎやかになるのはいいんすけどね。でも……

 ダーリン、おさかんっすね?あはははは」

「ダーリンの女癖おんなぐせが悪いのはもう治らない。見境みさかいもない」


 とかなんとか言いながら冗談でからんできたのだが、もちろん嫁にするつもりだと言って開き直ってやったら、二人ともげなくて困っていたよ。ふふふ。


 いつも二人にはからかわれてばかりなので、ちょっとだけスッキリしたな!



 ◇◇◇◇◇◆◇



 ミニヨンたちが無事に戻り、湖の全容ぜんよう把握はあくできたんだが……デカいっ!

 琵琶湖びわこぐらいはある。はてさてこれはどう攻略すべきか……。


『ビィヴィ。湖にいるブルードラゴンは敵と見做みなしてもいいのか?』

『はい。精神支配されているわけでもないのに、全員でボクを殺そうとしたので、最早もはやヤツらは敵です!』

『お前さんの身内や、お前さんの味方は一人もいなかったのか?』

『はい、いません。ボクは天涯孤独てんがいこどくの身の上ですし……信頼していた部下たちにも裏切られましたので、もう彼等を仲間だなんて思えません。敵です!』

『敵と言うんなら……殲滅せんめつするぜ?一切いっさい容赦ようしゃはしねぇが、それでいいのか?』

『はい。どうぞ』


 ビィヴィは即答そくとうした。だから、本心からそう思っているのだろう……。

 まず湖の水が邪魔じゃまだよなぁ。さて、どうするか……。


 そうだっ!この階層の下にも未利用の階層がいくつかあったよな。


 <<全知師。

  光子魚雷こうしぎょらいで湖の底に穴を開けることは可能か?

  湖底こていに穴を開けて湖の水を全部下の階層へ流すことを考えているんだが……。

 >>お答えします。可能です。

  ただし、ミニヨンが収集してきた情報の分析結果では、最小威力の光子魚雷であっても攻撃力過多かたである可能性があります。


 <<なるほど。では、その攻撃力過多の場合にはなにが起こる?

 >>現時点では下の階層他の情報が不足しているため、予測不能です。


 <<そうか。やってみねぇと分からねぇわけか……。ありがとう、全知師。


 水をいて魔物たちを烈火れっかの壁で殲滅せんめつしようと思っているんだが……

 多分、大丈夫だよな。たとえ落盤らくばんが発生したとしても俺たちはシールドで防げるからな。怪我けがをするようなこともないだろう……。

 光子魚雷の性能チェックもねて使ってみるかな。



 俺は少々浮かれていたのかも知れない。この判断がもとで、のちにユリコを窮地きゅうちおちいらせることになるとは……この時の俺は全く想像だにしていなかったのである。



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