第0055話 冒険者たちの転職

 昼食を終えて、今は被害女性たちのために用意したテント内の食堂にいる。


 サイクロプスとゴブリンの被害に遭った女性たちにこれからどうしようと思っているのかを確認するためである。

 この場には、シェリーと翠玉、ユリコ、マルルカ、そして、ゴブリン使いだった女がいる。その女の名前はマイミィと言う。


 サイクロプスに酷い目に遭わせられていた女性たちのすべてが、ダンジョンから見て北東へおおよそ200km離れたコグドンという町に活動拠点を置く冒険者であった。

 彼女たち10名はコグドンでは有名な女性だけのランクA冒険者パーティーで、パーティー名は『たける女神』というらしい。


 一方、ゴブリンに酷い目に遭わせられていた女性たちはダンジョンから見て西へ220km程離れた町、ブラストヴェンブに拠点を置く冒険者ということだった。

 彼女たち11名もブラストヴェンブでは有名な、こちらも女性だけで構成されたランクA冒険者パーティーで、その名を『ヴァルキュリア』というらしい。


 2パーティーとも、それぞれの町の冒険者ギルドからの依頼でこのダンジョンを攻略しに来たということだった。

 どちらの町の冒険者ギルドも、ランクA以上の"女性だけの"冒険者パーティーに限定された依頼案件だったらしい。


 しかも、依頼主はそれぞれの冒険者ギルドのギルドマスターということだった。


 依頼を受けようとしたが、メンバーに男性が含まれていたために断られた冒険者パーティーから直接話を聞いた女性がここにいるのだが、彼女の話によると……


 そのパーティーのリーダーがなぜ女性だけのパーティーじゃないとダメなのかを聞いたところ、ギルドマスターが直々に回答し、女性だけしか入れないダンジョンだからだと答えたらしい。


 男性がダンジョン内に入るのを拒み、無理矢理入ると即死すると言うことだったらしい。


 なんか怪しいよなぁ。ギルドマスターとシオン神聖国には、なにやらつながりがありそうだなぁ?



 『ヴァルキュリア』のメンバーたちは、このダンジョン内で、ここにいる者たちではない別の、何組もの女性だけのパーティーに遭遇したらしい。


「ああ。そういえば、アタイたちも何組かに遇ったねぇ。真っ当な冒険者かどうか分からないから、軽く会釈しただけですぐに分かれたけどね。

 アタイたちが遇ったパーティーも女性だけだったよ。その子らもかなり強そうな雰囲気だったからね、ランクA以上の冒険者パーティーだと思うよ」


 『猛る女神』のリーダーらしき女性の言葉である。


 この階層に来るまで、俺たちは勇者ユリコのパーティーと男女混合のクソ冒険者パーティーにしか遇っていない。


 それに、古い遺体はあったものの、蘇生可能な新しい遺体もなかったことから、今の話に出てきたような女性だけの冒険者パーティーは、既にこの先に進んでいる可能性が高い。


 このダンジョン内の魔物の強さは異常だ。

 多分この先を進むと、すぐにランクS冒険者パーティーでも苦戦するようになるだろう。そうなるだろうことが容易に予想できる。


 先に進んでいる女性たちのことが心配だ。今度も嫌な予感しかしない。


 女性たちを孕み袋にして魔物を増やす腹なのか、このダンジョン内の女性凌辱系魔物をテストするためなのか……。

 いずれにせよ、シオン神聖国が絡んでいる以上、ロクなことではないはずだ。


 この先に進んだと思われる冒険者パーティーすべてが、恐らく高ランク冒険者で構成されたかなり強いパーティーなんだろうが……。

 もう既に無事ではないように思えてならない。どうも胸騒ぎがしてしようがないのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「俺としては、お前さんたちにはこの先に進んで欲しくねぇんだが……。どうするつもりだい?」

「アタイたち『猛る女神』は、この先に進むことを諦めることにするよ」

「そうか。それじゃぁ拠点の町へ帰るのか?」


「それなんだけどさあ、アタイたちをハメたかも知れないヤツがいる町に帰るのはちょっとねぇ……。アタイたちをあんたの下で働かせてくんないかなぁ?」


「おい!上様に向かって『あんた』とはなんだ!無礼者め!叩っ切ってくれるからそこへ直れ!」


 シェリーが怒鳴りながら剣を抜き……『猛る女神』のリーダーを睨みつける!

 なんか一瞬、スケさん、カクさんに会いたくなった。懐かしくなってしまった。


「す、すまない!この通りだ」


 『猛る女神』のリーダーが頭を深々と下げる。


「アタイたちはさあ、ほら?冒険者なんてやっているだろう?

 荒くれ者どもに囲まれているからさあ、ついこんな口調になっちまうんだよ。

 悪気はないからさあ、許してくれよ、なぁ?

 これからはちゃんと『上様』って呼ぶからさあ」


「シェリー。怒ってくれてありがとうな」


 シェリーに感謝し、『猛る女神』のリーダーの方を向いて……


「まあ、言葉遣いは気にする必要はねぇがな……さすがに"あんた"ってのはなぁ、ちょっといただけねぇなぁ。

 だが"上様"って呼ばれるのもあんまり好きじゃねぇから俺のことは"シンさん"とでも呼んでくれねぇか」

「すまないねぇ。上品な言葉なんて話したことがないもんだから……。

 それでシンさん、どうだろうねぇ。アタイたちを部下にしてくんないかなぁ?」


「俺はこのまま冒険者を続けるつもりはねぇぞ?このダンジョンを調べ終わったらやめるつもりなんだが……」

「アタイたちもスッパリと冒険者稼業からは足を洗うつもりなんだよ。だからさ、ダンジョン攻略が終わっても側に置いてくんないかなぁ?」


 そういうことなら、中央神殿の神殿騎士も不足していることだし、この子たちの魂の色も悪くないから、騎士として採用する手もあるなぁ……。


「そうか。ならば……中央神殿の神殿騎士になる気はねぇか?」

「え!?アタイたちみたいな者を騎士にしてくれるのかい?」


「早まるな!神殿騎士になるには、神殿騎士隊長のお眼鏡に適う必要があるから、そう簡単じゃねぇ!

 お前さんたちが騎士採用試験を受験できるように、俺が頼んでやるってことだ。後はお前さんたちの実力次第だ。 どうだ?やってみる気はあるか?

 まあ、ランクA冒険者だから、まず合格するとは思うがな。なぁ?シェリー?」


「はい。魂の色も綺麗ですし……恐らくは大丈夫でしょう」


 『猛る女神』のメンバーたちは無言でお互いに顔を見合わせて頷き合う。


「シンさん。分かった。お願いするよ。よろしく頼むよ」

「そうか!よし!分かった!この後、隊長のもとへ連れて行ってやるからな!」

「はい。お願いします」


「それで……『ヴァルキュリア』のみんなもそうするかい?」

「え?私たちもいいんですか?私たちが考えていたことを『猛る女神』さんに先に言われちゃったんで、もうダメかと思った」

「やはりお前さんたちも拠点には帰りたくねぇと?」

「うん。ギルドマスターが悪の手先じゃねぇ……冒険者をやっていくのもちょっとねぇって感じ。みんなで相談して、シンさんの手下にしてもらおうと言ってたんだよねぇ。だから先を越されて焦ったよ」


「ははは。『手下』ってなぁ……俺がまるで山賊か盗賊みてぇじゃねぇか」

「ごめん。部下?って言えばいい?」


「まあ、どうでもいいかな……。それでどうする?お前さんたちも神殿騎士試験を受けてみるかい?」

「え!本当にいいの!?私、学校に通ったことがないんだよねぇ……だからさあ、字も書けないんだけど、それでも大丈夫かなぁ?」


 俺がシェリーの意見を聞こうと彼女の顔を見る。

 すると、シェリーは微笑みながらゆっくりと頷いた。どうやらそれでも大丈夫のようだな。


「大丈夫みたいだな。心が綺麗で戦闘力が高ければ通るんじゃねぇのかなぁ?」

「うん!じゃ、がんばるよ!よろしくね!シンさん!」


 この後すぐに俺は、総勢21名の神殿騎士候補者を連れて神都へと転移した。

 そして、神殿騎士隊長のバルバラに元ランクA冒険者の彼女たちのことを託してダンジョン内の野営地へと戻ったのだ。


 バルバラは、即戦力候補が21名も騎士になりたいと言ってくれることを非常に喜んでいた。


 バルバラの表情から察するに……多分、全員採用だろうな。

 さてと、次はゴブリン使いだった子をどうするかだなぁ……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「マイミィ。お前さんはどうする?」


 マイミィとは、ゴブリン使いだった女の名前である。


「あのう……私はシオン教徒をやめます。だから、帰る場所がないです。この先に一緒について行ってはダメですか?

 敵対していた私がこんなお願いをするのは筋違いかも知れないけど……」


「え?お前さん、シオン教徒をやめちゃうの?」

「はい。どんなに祈っても応えてくれなかったんです。やっぱり女神シオンなんていないんだなぁと思って。

 それに……もし存在しているとしても、応えてくれないんじゃ、いないのと同じでしょ?だから、目の前にいる本当の神様に仕えることにしました」


「ま、まぁな。って、おい?宗旨変えかい?俺に仕える?」

「はい。上様。私は上様のしもべになりますわ。マルルカさんとも相談したの」


「マルルカ?これは一体?」

「わ、私もシオン教徒をやめました。シンの言葉を聞き、このダンジョンで色々なことを見て、熟考して出した結論です。わ、私もあなたにお仕えします」


「おいおい!お前さんたち……しもべになるだの、お仕えするだのってのはよしてくれねぇかなぁ。俺と一緒に行動を共にしてくれるって言うのなら、俺の仲間になってくれ。しもべとかじゃなくて、仲間になってくれよ。なっ!?」


 マイミィとマルルカはどうしたらいいのか困っているようだ。


「シンと愉快な仲間たちでいいんじゃない?うふふ」

「「……は、はい……」」


 ユリコの言葉に、二人はまだ釈然としないようだが頷いた。



 ◇◇◇◇◇◆◇



「リブート!」

「…………はっ!?え?何が起こったんですか?」


「仲間になってくれたお前さんを加護して、俺の庇護下に置いたんだよ」

「加護?庇護下?なんですか、それは?」


「お前さんを加護するというのは、お前さんに特殊能力を授けるということだ。

 そして、庇護下に置くってのはなぁ、なんというか……お前さんは俺に守られた存在にしたということだ。例えば普通の状態の魔物はお前さんに手出しすることができなくなったりする。

 このダンジョンのように魔物が精神支配されていてはダメだけどな」

「シンさんの敵だった私が、酷いことをしてきた私がこんなことをしてもらってもいいのでしょうか?」


 彼女のしたことは不作為であってもけっして軽い罪ではないとは思うが、彼女も心を入れ替えたように見える。


 二卵にらんもっ干城かんじょうしょうつ、ではないが……だから、できれば魔物使いという特殊能力を持つ有能な人材を過去に罪を犯したからといって切り捨てるのではなく仲間になってもらい、ゆくゆくは彼女に適所で活躍してもらった方が良いと考えている。


「お前さんは俺の仲間だからなぁ。守ってやりたいんだよ。あ、言い忘れたがな、今のお前さんは俺の嫁さんと同じくらいに強えからな。力加減に注意しろよ?

 それに、お前さんがもともと持っていた能力『魔物使い』も強化してやったぜ。

ゴブリンだけじゃなくて、ほとんどの魔物を使役できるようになっている。

 これからは、善良な人々を守るためにその力を使ってくれよ。いいな」

「はいっ!絶対にそうします!」


「それから……これを着てくれ」

「え?こ、これをですかぁ?」


 この子、マイミィも一緒にこの先のダンジョン攻略に挑んでもらう仲間だ。

 だから、キャットスーツとハニーたち用の装備一式を手渡したのだ。


「な、仲間にするってそういうことですか!?私を嫁にして、ハーレムメンバーに加えるつもりだったんですか!?」


 マイミィが真っ赤に頬を染め、もじもじし出す。


「違う!違うって!それはっ!

 嫁になれとは言ってねぇっ!ダンジョンは危険だ。だから、ちゃんとした装備をお前さんにも身に付けさせてやりてぇのっ!」


 シェリー、ユリコ、マルルカが苦笑する。

 ん?翠玉は俺と目が合うと視線を逸らせたぞ?



 ◇◇◇◇◇◆◆



 新しく仲間になったマイミィに装備の説明をしている……。


 今よりも少し前に、翠玉に何やら部下から念話が入って席を外していたのだが、その翠玉が何やら暗い表情で戻ってきた。

 そのまま席に着くかと思いきや、俺の側までやって来る。


 何かあったようだな?


「ダーリン。すみません。火急にお知らせしたいことがあります」

「どうした?翠玉。何かあったか?」

「はい。今、部下から連絡がありまして、アキュラスが逃亡したとのことです」

「え?逃亡?」

「はい。アキュラスから子種を搾り取っていた者2名をファイヤーボールで倒し、幼女を人質にして逃亡しているとのことです」


 しまったっ!俺としたことが! ヤツは火属性中級攻撃神術が使えるんだった!

 ユリコのかたきが討てたことに満足してしまって、ヤツのプロパティ値等を修正するのを完全に忘れてしまっていたのだ!

 今の報告を聞くまで、すっかり忘れてしまっていたのだ。なんということか!


「それで、お前さんの部下、やられた部下の魔石は無事か?」

「はい。幸いなことにファイヤーボールの威力は弱く、魔石は無傷だったとのことです」

「よかった。それなら蘇生してやれる。問題はさらわれた幼女の方だな?」

「はい。今、集落周辺の森の中を追跡中ですが、かなり広いものですから苦戦しているようです」


「分かった。俺が行こう。ヤツの位置はマップで把握できる」

「申し訳ありません。ダーリンのお手をわずらわせるようなことになってしまって」

「いや。これは俺の責任だ。ヤツの能力を無効にするのを忘れてしまったんだよ。本当に申し訳ない。大切な部下を殺してしまった。俺の所為せいだ」

「ダーリン……」


「シェリー。俺と翠玉はちょっと急用でアマゾネス・オークの集落まで行ってくるから後を頼む」

「はいっ!」


「シン。どうかしたの?」

「ああ。アキュラスが逃げやがったんだ。これから捕まえてくる」

「私も行くわ」

「いや。ユリコはここに残ってみんなを守ってくれ。頼む」

「分かったわ。気をつけてね」


「ああ。……よし。では翠玉!行こう!俺に掴まれ!……転移!」



 ◇◇◇◇◆◇◇



 アマゾネス・オークの集落についてすぐ、アキュラスに殺された翠玉の部下たち2名を蘇生させることにした……。

 殺された2名の魔石が無事であったのが幸いだ。魔石さえ無事なら魔物の蘇生は可能だからだ。


「身体修復!そして、蘇生!」


 蘇生は無事に成功して、翠玉の部下2名を復活させることはできた。

 次は幼女の救出とアキュラスの捕縛だな。


 マップを確認しよう……

 森の中をここから東へ1km程行ったところにアキュラスの生命体反応がある。


「翠玉!アキュラスを見つけた!行ってくる!……転移!」



 ◇◇◇◇◆◇◆



「よう、鬼神!そんなに急いでどこへ行くんだね?」

「げっ!シン!……く、くっそう!」


 アキュラスは逃げ場はないかと、あたりをキョロキョロと見回す。

 どうやらアキュラスは人質に取った幼女を連れていないようだ。


「おい、てめぇ……人質の幼女はどうした?」

「ははは。どうしたと思う?教えて欲しいか?どうしようか……」

「四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!


「てめぇには選択権はねぇ!知っていることをただ話せばいいんだ!修復!」

「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


「さあ言え!それとも……」

「わ、分かった!分かった!分かったから…も、もうやめてくれ!」


「どこだ?」

「はぁはぁ…ここに来る途中、あんまり泣きやがるんで置いてきた。悪ぃが慌てていたし森の中なんで場所は分からねぇ。なぁ……見逃してくれよ」


 頭に血が上っていて今まで分からなかったが、アキュラスは素っ裸だ。

 それでなくても小っちゃな彼の彼自身が、恐怖のために更に縮こまっているのが確認できた。そんなモノは見たくもないが、目に入ってしまったのだ。


「ふんどし装着!」

「な、なんだよぉ~。どうせならもっとちゃんとした下着と服を着せてくれよ!」


「どうせ戻ってすぐに続きをされるんだ。取り敢えずそれで十分だろう?」


 ガチャッ!


 アキュラスの首に隷従の首輪を嵌めて、無理矢理奴隷契約を結ばせたのだ。

 後で所有権を翠玉の腹心の部下にでも移転してやろうと思う。


 マップで確認するとここから西へ50m程行ったところにアマゾネス・オークの幼女らしき反応が確認できたので、アキュラスと共にその場所へと転移する。


 転移した先に待っていたのは……巨大な熊だ!いや、熊型魔獣だ!体長は2mはありそうだ!今にも幼女に襲いかかろうとしている!?


 俺はすかさずアキュラスの首根っことを引っ掴み、熊型魔獣の顔に目がけて投げつけてやった! アキュラスは見事、熊型魔獣の鼻先にぶち当たるっ!


 熊型魔獣はもんどり打って倒れてしまった!攻撃は成功だ!

 今にも幼女へと襲いかかろうとしていた熊型魔獣は、今仰向けにひっくり返ってしまっている!


 俺は幼女のもとへと高速移動し、彼女をギュッと抱きしめた!


「もう大丈夫だよ。怖かったね。お家に帰ろうね」

「ううう……うわぁーーーん!」


 熊型魔獣と鉢合わせしてしまったために足がすくみ、声も上げられずにその場で固まってしまっていたようなのだが、俺に抱きしめられて安心したためか、幼女は声を上げて泣き出す……。


 その時……


 ゴリッ!ゴリッ!……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!…グワシャッ!バキッ!


 鼻先にぶち当てられ、ひっくり返らされた腹いせなのか、熊型魔獣はすぐに起き上がると目を吊り上げながら、アキュラスを頭からバリバリ、ゴリゴリと音を立てて喰らい出したのだ!


 熊型魔獣の鼻先にぶつかった痛みで気を失っていたアキュラスが、激痛に一瞬、絶叫を上げるが魔獣は容赦なくアキュラスを喰らい続ける!


 アキュラスの身体は暫くヒクヒクと痙攣していたが、それもやがて止まった。


「ウインドカッター!」


 シュンッ! ぎゃっ! ……ドサッ!


 ウインドカッターがアキュラスを喰らっていた熊型魔獣の胴体を両断する!

 熊型魔獣は一瞬断末魔の叫びを上げたかと思うと絶命したようだ。


 ……シュンッ! シュンッ! シュンッ! シュンッ! …………


 熊型魔獣を両断したウインドカッターは、勢いが止まらず、更に数十メートルに渡って木々を両断していき、木々が切り倒された場所には日光が差し込んでくる。


 熊型魔獣の死骸は、解体して素材等を取るのも面倒くさいので、フェイザー光線で蒸発させることにした。 このまま放置することで、アンデッド化する可能性があるから放ってはおけないからだ。


「修復!&蘇生!」

「んぐっ! がはっ!……し、シン! 酷ぇじゃねぇか!

 お前も熊にかじられる恐怖を味わって見ろよ!? 最悪だぜ! ったくよぉ!」


「てめぇがユリコや俺の嫁にしたことの方が余っ程最悪だ!クソ野郎が!」

「なぁ……もう勘弁してくれよ。俺たちは親友じゃねぇかよぉ?」


「誰がだっ!俺の大切なユリコをレイプしようとして命を奪った上に、この世界に来て俺の嫁になる子たちを性奴隷にして凌辱したクソ野郎が!ぬけぬけと!」

「悪かったよぉ。許してくれよ。なっ?」

「四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!


「修復!……ほら行くぞ!この子の親たちが待っているからな。転送!」



 ◇◇◇◇◆◆◇



「ダーリン!ありがとうございます!子供も無事だったんですね!」

「ああ。でも危うく熊型魔獣に襲われるところだったぜ。危機一髪だった」


 ズサッ!

「痛ぇ!シン!もっと丁寧に扱えよ!」


 アキュラスを翠玉の部下たちの前に放り投げたことにアキュラスが文句を言う。


「お!すげぇ美人じゃん!その子も俺の相手をしてくれるのか?たまんねぇ!」


 アキュラスが翠玉を見て調子ぶっこいたことを言う!


「バカかっ!?寝言は寝てから言え!この子は俺の嫁だ!誰が手めぇの相手なんかさせるかってんだ!クソ野郎がっ! 四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!


「修復!どうだ!?思い知ったか!クソ野郎がっ!」

「はぁはぁはぁ……だ…よな…おかしいと…はぁはぁ…思った…よ…はぁはぁ」



「よ、よよよ、嫁っ!く~~~っ!う、嬉しいぃっ!」


 あ!しまった!まだ嫁じゃなかった……。す、翠玉ちゃん!?

 翠玉は俺が言った『俺の嫁だ!』という言葉に反応し、真っ赤になって、両手で頬を挟みながら身体をくねくねとくねらせたり、もじもじしたりしている。


 いつものクールビューティーな翠玉からは全く想像できない仕草だ!

 彼女の部下たちも目を見開き、口をポカンと開けて驚いている。



「神ちゃま。たすけてくれて、ありがとう」

「うん。無事で良かったね。怖い思いをしたね?悪いおじさんはやっつけたから、もう大丈夫だよ。安心してね」

「うん!」


 子供はかわいいなぁ……。

 あ~、子供たちに会いたいなぁ~。キャルたち、どうしているかなぁ?



 ◇◇◇◇◆◆◆



「ただいまー」


「シン!お帰りなさい!どうだった?アキュラスは見つかった?」

「ああ。見つけたよ。またアマゾネス・オークのところへ戻してきたぜ」


「大丈夫?また逃げ出さない?」

「大丈夫だ、ユリコ。神術が使えない平凡な男にしてきたし、隷従の首輪も嵌めて翠玉の部下の奴隷にしてやったから、もうどう足掻いても逃げ出せねぇよ。

 後は、子種を搾り取られて、最後はアマゾネス・オークたちに活け造りにされて食われてお終いだ。今度こそヤツも終わりだぜ。安心しな」


「そう……それならいいけど。あいつはしぶといからね」

「おいおい!フラグが立ちそうな変なことは言うなよな!」

「フラグ?なにそれ?旗のこと?意味が分からないんだけど?」

「そうだよな。あのな、元々はアセンブリ言語でプログラミングする時に、フラグレジスタにビットが……って、こんなところから説明しても混乱するだけか……。

 あのな……」


 フラグが立つとはどういう意味か、そして、どう使うのかをユリコが分かるまで説明することになった。


「え?それじゃぁ、私が言ったことが引き金になってアキュラスが脱走するとでも言うのかしら?」

「いやそうは言ってねぇよ。お前さんの言葉を聞いて、ふと、そうなるような気がしたというだけだ」

「ふーん」


「フラグって、悪い予感だけに使うの?」

「えーと、マルルカ。どういうことだ?」


「シンって、ユリコさんをゴブリンの群れから助け出したんでしょ?」

「ああ。そうだ」


「その時、ユリコさんはシンに抱きついて泣いたんだよね?」

「え、ええ、まぁね。恥ずかしいからその話はよしてよ!」


「その時ユリコさんはシンに対する『恋愛フラグが立った』のではないですか?」

「うぐっ!」

「こういう使い方はできないのでしょうか?」

「何かが起こる条件が整ったという意味で使っているんなら、使えるわな」


「ねぇ、翠玉さんはどう思いましたかぁ?その時にユリコさんの『恋愛フラグ』が立ったように感じましたか?」

「ええ。感じました。多分『恋愛フラグ』が立ったのではないでしょうか?」

「ば、バカなことを言わないでよ!し、シンのことなんか何とも思っていないんだからね!怒るわよ!?」


 ユリコは焦った様子で俺の方をチラッと見てから、この場から走り去った。

 その顔は真っ赤だった。


 えっ?ユリコさん、その反応は……もしかして……

 ええっ?やっぱりあの時フラグが立っちゃったのか?


 いやいやいや。それはないだろうな。


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