第0056話 駆除

「うわっ!き、気持ち悪い!」

「む、虫だらけっす!こ、こんな階層には行きたくないっすよぉ~」


 今俺たちは第6階層へと降りる階段の前に来ている。

 野営用のテントを階段前に設営せつえいし、その中の食堂で、みんなと一緒に空中に映し出された映像を見ているところだ。

 その映像は、第6階層へと偵察ていさつに出したミニヨンから送られて来ているものだ。


 第6階層は、どうやら湿地帯しっちたいのようだ。一見すると沼のようにも見える。

 巨大なムカデやヤスデ、蜘蛛くもといった不快昆虫がうじゃうじゃいる!

 地球にもいるサイズの虫から、体長が数メートルにも及ぶであろうかと思われる巨大な虫、というよりも虫型魔獣までもがうごめいているのだ!


  うげぇっ!まいったなぁ……。


 ハニーたちは顔面がんめん蒼白そうはく。嫌な顔をしながらもなんとか映像を見ているようだが、虫が苦手なソニアルフェにいたっては、目をそむけてプルプルと震えてしまっている。


 嫌だなぁ……ハニーたちじゃないが、俺もこんな階層へは行きたくないなぁ。


 子供の頃は虫が大好きだった。さすがにムカデだけはどうも苦手だったが……。

 それがいつの間にかさわるどころか見るのも嫌になってしまった。理由はさっぱり分からない。いつの間にかそうなっていたのだ。


 はてさてどうしたものか……。

 ホバークラフトでも生成して一気に次の階層へと続く階段前まで移動しようかと思ったのだが、木々や障害物も多く、それは無理なようだ。


 階層全体を凍らせるか、あるいは、やしくしてから進もうか……。

 んっ?ヒューマノイドの女性か?生命体反応が5つあるぞ?まいったなぁ……。

 そうなると一気いっき殲滅せんめつしてから進む手は使えないなぁ……困った。


 ミニヨンからの映像と、マップ画面から得られる情報を照らし合わせてみると、第6階層中央には、沼のようになっている周辺の地形とは異なっている場所があるようだ。 周囲より5m程盛り上がっていて島のようになっている。


 そして、そこにヒューマノイド女性たちの生命体反応が5つあるのだ。


 島の広さは東京ドーム一個分くらいだろうか……。

 島の真ん中にはピラミッド状の建造物があるな……古代遺跡のようだ。外壁には穴が空いているな?ダイナマイトか何かで爆破して開けたような穴だな。


 生命体反応から判断すると、女性たちはこのピラミッドの中にいるようだ。。


 どうしたわけなのか、この島には大型の虫というか虫型魔獣はい上がってきていない。

 小さな虫がいるのかどうかまでは映像を見ただけでは分からない。マップでも、小さな虫はネグレクトされてしまうのか確認できない。表示されていないだけではなく、実際に虫は一匹もいないのかも知れない。



 となれば……第6階層の入り口から一気に島へと転移して、即座にシールドで島全体をおおい、周りを『烈火れっかかべ』でくすのが簡単そうだ。

 念のためにピラミッド全体もシールドでおおい、中から何も出て来られないようにしてからおこなった方がいいだろう。


 ミイラとかが、うじゃうじゃ出てきたら嫌だからなぁ。


 このプランをハニーたちに提示したところ、ハニーたちは皆、ホッとした表情を浮かべたのだった。

 『ダーリンと一緒のパーティーでよかった!』と口々に言っている。


 虫を相手に戦うのが嫌でしょうがなかったのだろうなぁ……それは俺もだぜ!


「ハニーたち!それじゃぁ、参りますかっ!?」

 "はいっ!"



 ◇◇◇◇◇◇◇



 第6階層へと続いている階段を降りて行くにつれて空気が重くなってくる。

 この階段は周囲の壁がほのかに光っているため、明かりを出さなくても問題なく進んでいける……。

 第6階層の入り口付近まで降りると湿度しつどが高く、ジメジメとした感じであつくなってきた。まあ、スーツのおかげで俺たちには不快感はないのだが……。


 第6階層へ入ろうとしたときである。

 前方で2つの光がぼんやりと光り出した。黒に近い深い青色でにぶく光っている。


 2つの光?黒っぽい深い青色の光がゆらゆらとれているな?なんだろう?


 ミニヨンが送ってきた映像とは違って、今、この階層はさくの夜のようだ。闇夜やみよのように真っ暗だ。


 この階層には昼夜があるのか? 今は夜なのか?真っ暗だな。

 しかし、あの2つの光点は何だろうな?


 どうも2つの光が気になって、このまま第6階層に入っていくのが躊躇ためらわれる。 えず直径1m程の光の球を神術で作りだして、周りの様子を確認しようとしたときである!


 "きゃあああっ!"


 ハニーたちから悲鳴が上がる!俺も一瞬ドキッとした!

 なんと!目の前には巨大なムカデが鎌首かまくびをもたげるかのような状態で、俺たちの方をじっと見つめていたのだ!


 ズッガーーーーンッ!

 "きゃあっ!"


 俺が2つの光点はムカデの目だと認識した瞬間!ムカデが俺たちに向かって飛びかかってきたのだ!


 幸いなことにムカデが俺たちにダメージを与えることはなかった。いや、触れることさえできなかった。

 階層の入り口にはシールドか結界のようなものがあるのか、巨大ムカデは、目に見えない障壁しょうへきはばまれてこちらへは来られなかったのだ!

 俺がシールド展開していたわけではない。


 どうやら各階層に生息する魔物や生物たちは、その階層からは出られないようになっているようだ。助かった。


 たとえ無防備むぼうびな状態でムカデの攻撃を受けたとしても俺は無傷だっただろうが、ハニーたちはどうなっていたかは予測がつかない。

 一応、階段を降り始める前にハニーたちには極薄ごくうすシールドを張ってもらっているので、これくらいのムカデの攻撃だったら難無なんなく防げるとは思うのだが……。



 何度も何度も執拗しつように攻撃しようと向かってくるムカデが邪魔でしょうがない!


超低温化ちょうていおんか!からのぉ~粉砕ふんさい!」


 一瞬で巨大ムカデはこおき、直後に微粉末びふんまつへと粉砕ふんさいされる!


「げっ!? ハニーたち!ティアラをフルフェイスヘルメット化しろ!」

 "はいっ!"


 あまりにも細かくなってしまったために、凍ったムカデの微粉末びふんまつが空気中をきりのようにただよっている。

 だから、それを吸い込まないようにと思っての指示だった。


 漢方薬の精力剤にはムカデの粉が入っていると聞いたことがあるので、吸い込んでも問題ないかも知れないが……やはり、ちょっとなぁ……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 第6階層の入り口付近には、他に魔獣らしき大型の虫はいなかった。

 そう、大型の虫は……だ。


 "うぎゃぁぁぁぁ~~~~っ!"


 代わりに、階層に入った途端とたんに、無数のヒルのような吸血動物きゅうけつどうぶつが俺たち目がけてってくるわ、蚊のような吸血昆虫がわらわらと俺たち目がけて集まってくるわで

大変だったのだ!


 いずれも俺たちが展開している極薄シールドにはばまれ、俺たちに取り付くことはできなかったが、ハニーたちも俺も、一時はパニック状態になってしまった!


「超低温化!」


 周囲、半径100mを凍らせて、俺たちはやっとひと息つくことができた。


「こんな場所に長居ながい無用むようだ!とっとと島へ転移しよう!……転送!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 不思議なことに島には虫一匹いない。

 この島には結界でも張られているのだろうか?


 シールドを展開しているような様子はない。特別変わったエネルギー反応も確認できない。これはダンジョンマスターが"そうさせている"だけなのかも知れない。

 もしそうだとすると、突如とつじょ、虫たちがこの島に押し寄せてくる可能性もある。


 ここはすぐにシールドを展開した方が無難ぶなんだな。

 そして、サッサと虫たちを殲滅せんめつしよう。


 この島全体をおおうシールドとピラミッド状の建造物全体をおおうシールドを二重に展開する。


 シールドが張られるとようやけわしかったハニーたちの表情もゆるむ。その場にへたり込んでしまう子たちもいる。

 そうしたへたり込んでいるハニーたちの中でも、ソニアルフェが一番ホッとした表情を浮かべているように感じられる。


 ソニアルフェは特に虫が苦手そうだからなぁ……。

 ピラミッド調査の前に、ここで一度休憩きゅうけいした方が良さそうだな。


 野営用のテントを設営し、大浴場の湯船ゆぶねにお湯を張っておくことにする。



「気持ち悪かったっすねぇ。早くこんなところは出たいっすよ」

「そうだな。俺もどうも虫はダメだな」


「ダーリンにも苦手なモノがあったんですね?新鮮です」

「ザシャア。そりゃ俺だって苦手なモノはあるぜ。ははは」


 ハニーたちの顔にも笑顔が戻ってきた。


「ところで……直接虫たちに触れることはなかったと思うが、あんな気持ちわりぃものを見ちまったんだ。風呂にでも入りてぇんじゃねぇか?」


 ハニーたちは全員何度も頷いている。


「そうだろう?だから、風呂をかしておいたぜ。みんなで入るといい。

 風呂上がりにはティータイムと行こうぜ?」

 "はいっ!"


 ハニーたちは大喜びでテントの中へと入っていった。


 さて、今のうちにこの階層の魔獣たちを殲滅せんめつしよう!

烈火れっかかべ!…………………超低温化ちょうていおんか!」


 この島をのぞくこの階層のすべてを焼き尽くした後、念のために超低温化した。

 この階層の天井も壁も床もガラスでコーティングしたかのように光っている。


 当初、第7階層へと続く階段があると思っていた場所は、ただくぼんでいるだけで階段ではなかった。


 どうやら下層へと続く階段はこのピラミッド状の建造物内にあるようだな。



 ◇◇◇◇◇◆◆



「それじゃぁ、ピラミッド内の調査を頼む。もし、ヒューマノイド女性がピンチに陥っているようだったら助けてやれ!いいな!?……では行け!頼んだぞ!」


 200体のミニヨンを起動し、ピラミッド内部の調査へと向かわせたのだ。


 ヒューマノイド女性たちの生命体反応はピラミッド内を移動している。

 彼女たちの生命体反応は弱っているようでもない。だから、俺たちも急ぐ必要はなさそうだ。ゆっくりとティータイムを楽しんでからでもいいだろう。



 それじゃぁ、ハニーたちが風呂から上がってくる前にティータイム用の飲み物とお菓子を用意しておこうかな……。


 そう思ってテントの中へと入ろうとしたときである。この階層の入り口付近から話し声が聞こえてきた。ここまで聞こえる声だから、相当な大声だ。


「……きっとお頭のことが怖くて魔物はみんな逃げちまったっすよ。ゲヘヘ」

「がははっ!そうかぁ?魔物どもがこのランクAの俺様に恐れをなしたってか?」

「そうですよ、お頭はつえぇでゲスからねぇ。ひひひ」


 魂の色を見る……うわぁ、ゲス野郎3匹だ。ほとんど黒に近い赤だ。


 あれ?ヤツらの後ろから……女性だぞ?3人いる。


 マップ画面で確認すると、野郎ども3人の後ろに3人の女性がついてきている。


 女性たちの魂の色は全員が"スカイブルー"だなぁ。しかも全員が精神支配されているぞ!?奴隷どれいなのか? 嫌な予感がするなぁ……。

 ああ……これはいつものパターンだろうな。この組み合わせはよく目にしてきたものだよなぁ……。


『ハニーたち!こちらにクソ野郎どもが近づいている!いいと言うまでテントから出ないようにしてくれ!』

 "はいっ!"


 そこへ、ピラミッドの周りをぐるりと一周してきたオークドゥが戻ってきた。


「どうかされましたか?」

「ああ。クソ野郎どもがこの階層に降りてくるんだよ。その後ろには3人の女性がついてきているんだがな……どうも奴隷どれいのようなんだよ。嫌な予感がしねぇか?」

「なるほど。多分それはいつものパターンですね。どうします?入り口でせしましょうか?」

「いや。どうせここに来るだろうからな、ヤツらが来るのを待つことにしようぜ。女性たちは一応ターゲット指定しておいたから、いつでも転送で救出できるし」

「はい。承知しました」


 椅子いすを2きゃく天板てんばんが丸いテーブル一卓いったくを出し、オークドゥと二人腰掛こしかけて冷たい飲み物を飲みながら待つことにした。



 ◇◇◇◇◆◇◇



「あっ!?お頭、誰かいるっす!ほら!あそこっす!」

「んん?どこだ?」

「あそこでゲス!こっちに向かって手を振っているでゲス!」


 クソ野郎と思われる冒険者風の男たち3人と女性3人が、この階層の入り口からこちらへと向かって歩いてくる。

 女性たちの首には……やはり隷従れいじゅう首輪くびわめられている。


 男たちの中の一人が俺に気付いたので大きく手を振ってやったのだ。


 俺たちから50m程の位置にまで歩いてくるとそこで立ち止まり、かしらと呼ばれている男が言う……

「おい兄ちゃん!美味うまそうなもん飲んでんじゃねぇか?俺たちにも飲ませろ!」


 俺たちを警戒してなんだろうが、ヤツらは3人の奴隷どれい女性たちを、ヤツらよりも10m程後ろに立たせている。俺たちから距離を置かせているつもりなんだろう。

 3人の女性たちはいずれも助けを求めるかのような表情をしながら、目にあふれんばかりの涙をめている。これはいつものパターン確定じゃないだろうか?


「いくら払う?」

「へっ?」

「飲み物が飲みてぇんだろ?だから、いくら払うと聞いているんだよ?」


「お頭、クソガキがえらそうっすね?ぶっ殺しますか?」

「そうでゲス!ぶっ殺してうばればいいでゲス!やっちまいま……」


 ゲスゲスとうるさい男の声が途中で聞こえなくなった!

 なぜなら、急に地面がひび割れ、盛り上がりだしたのだ!その音が大きくて聞き取れなくなったのだ!


『なんだ?』


 その疑問はすぐに解決する!


「げっ!ひ、ヒルだ!ものすごい数のヒルが地面からき出てきたぞ!いかんっ!女性たちを助けねばっ!…転送!」


 ヒルの体長は30cm程、太さは500mlのペットボトルくらいある。それが地面からわらわらと湧き出てきたのだ!ものすごい数だ!


「「「ぎゃあっ!……」」」


 あっという間にヒルの群れは男どもを飲み込んで、男どもがいた場所にはヒルの山ができてしまった!

 そして、男どもに取り付けず、あぶれてしまったヒルの群れが女性たちの方へと向かっていったのだ!女性たちの命は風前ふうぜん灯火ともしびかと思われたが……


 間一髪かんいっぱつで転送が間に合った!

 なんとか女性たちをこちらへ転送することができたのだ!


 暫くするとヒルたちは、あふれ出てきた場所へと戻り、地面の中へともぐっていく。

 ヒルたちがった後には何も残っていなかった。男どもは、血を吸われたのではなく身体まで丸ごと綺麗きれいに食い尽くされてしまったようだ。


 どうやら普通のヒルではなかったようだなぁ。血を吸うどころか、身体を丸ごとらうとは……あんな魔物は勘弁かんべんして欲しいよな。 ダンジョンマスターも趣味が悪いぜ。



 救出した女性たちは3人とも無表情だ。

 だが、涙をポロポロとこぼしている……。隷従れいじゅう首輪くびわ所為せいでそんな状態になっているのだろうことが、これまでの経験から分かる。早く奴隷どれいから解放してやろう!


「神である権限けんげんにおいて、この者たちの奴隷契約どれいけいやくを強制的に破棄はきする!

 ……加えて隷従れいじゅう首輪くびわ除去じょきょと消滅をめいずる!」


 女性たちの首にめられていた隷従の首輪が外れ、地面へと落下していく途中でバラバラになって霧散むさんした。


 自由になった途端とたん、女性たちは顔面蒼白がんめんそうはくで涙をボロボロと流しながらガタガタとふるえだした。

 そして、突然、大声を出して泣き出した……


 "ううう……うわぁーーーん!"


「怖かったよなぁ!だが、もう大丈夫だぜ!ここにいればヒルたちも手出しができねぇから安心しろ!さあ落ち着いて!もう大丈夫だぞ!大丈夫だ!」


 女性たちは皆、しばらく泣きむことはなかった。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 他の冒険者が後からここへ来るかも知れない。

 だから、ヒルたちをこのままにしておくわけにはいかないと思っている。


 マップ画面で確認すると、この階層には、地下10m程の位置に何カ所か空洞くうどうがあることが分かった。 ヒルたちはそこを住処すみかにしているようだ。


 全部で50カ所ほどあるそれぞれの巣穴すあなの上空へとミニヨンを派遣し、最大出力レベルのフェイザー光線で巣穴とその周囲の地面をごっそりと消し去ってやった!


 これでもう、この階層に足をみ入れた途端とたんにヒルどもの大群たいぐんおそわれることもないだろう……。



 ◇◇◇◇◆◆◇



 救出した女性たちは、やはり無理矢理むりやり奴隷どれいにされていた。


 彼女たちはこのダンジョンの南100km程の位置にある町に拠点きょてんをおいているランクAの冒険者で、無謀むぼうにも3人でこのダンジョンを攻略こうりゃくしに来たらしい。


 今ハニーたちがいるテントの外に設置したテーブルで女性たちと話をしている。

 オークドゥもそのままここにいて、腕を組みながら、目を閉じて黙って俺たちの話を聞いている。


 女性たち3人の分の椅子いすも用意し、それぞれに冷たい飲み物も出した。



 彼女たちが第3階層へとやって来たときに、だおれている男性3人を発見して介抱かいほうしようとしたところ、いきなり隷従れいじゅう首輪くびわめられて奴隷どれいにされてしまったという。その後はお決まりのパターンだ。性のおもちゃにされてしまったのだ。


 どっかで聞いたような話だ。

 シェリー、ラフ、ラヴ、ミューイとの出会いを思い出した。かわいそうに……。

 クソ野郎の考えることはみんな同じだ……。



「お前さんたちの身体からだ体内外たいないがいともに完全に浄化じょうかし、男どもの痕跡を完全に排除はいじょすることができるがどうする?」

「私たちはこの通り、すべてあの男どもにうばわれてしまって何も持っていません。

 ですから、お支払いできる対価たいかがないのです。ううう……」


「大丈夫。対価たいかなんてらねぇよ。ほれ!俺はこういう者だ」


 眉間みけんしるしかがやかせた。


「はっ!う、上様!」


 3人は俺の前にひざまずこうとする……


「ああ、そのままでいいぜ!ひざまずかなくてもいいから!」


 彼女たちはしばら逡巡しゅんじゅんしていたようだが、席に戻る。


「それに……お前さんたちが希望するのなら、お前さんたちを最盛期の生娘に戻すこともできるが、どうする?」


 彼女たち3人は同い年で、26歳だった。

 3人とも若返ることができると知って、是非そうして欲しいという。


「念のために聞くぞ?ヴァージンに戻っちまうが、それでもいいんだな?」

「「「はいっ!もちろんですっ!」」」

「よし、分かった!それじゃぁ、やるぞ!?……完全浄化!からの完全修復!」


 女性たちはお互いに顔を見合わせ、若返っていることを確認するとキャッキャと声を上げて喜んでいる。まるで少女みたいだ。


 彼女たちは、一人が16歳に、残りの二人は17歳に若返った。成長・老化には当然のことだが個人差がある。

 だから、最盛期も人によって異なる。たとえ元が同い年でも完全修復で若返ると異なる年齢になり得るのだ。


 当然、精神年齢というか自覚している年齢は26歳のままである。

 肉体年齢の方は魂の履歴りれきから判断し、生命体として最もエネルギーにあふれていた頃の状態に戻されるため、各人によってそれは異なる。

 なお、完全修復によって若返るため、本来の設計図にはない傷などは完全に修復されてしまうため、初体験年齢にかかわらず生娘きむすめに戻ってしまうことになる。



「それで、お前さんたちはこれからどうする?」

「はい。どうしようかと悩んでいます。装備をうばわれてしまいましたので、こんな格好では先に進むこともできませんし、かといって、町に帰る道中もこの格好では不安で……」

「ちょっと待ってな………………ほらよ!装備装着!」


 彼女たちの魂の履歴を見て、彼女たちがこのダンジョンに入る前に調ととのえた装備を生成して着せてやったのだ。


「え?ええっ!?えーーっ!ど、どうして!」

「お前さんたちの頭の中をちょっとのぞいてな。ダンジョンに入る前の装備がどんなだったのかを調べて作ったんだよ。どうだ?装備はそれでいいか?」

「はい!いいもなにも、これ新品になっているじゃないですか!信じられません!ありがとうございます!……でも、対価たいかをお支払いできないのですが?」


「気にするな。なにもらねぇよ」

「それでは気が済みません。では、私の身体からだでお支払いし……」

「しなくていい!お前さん、自分のことをもっと大切たいせつにしろ!いいな?」

「は…い……」


「ところで、装備はちゃんとしたが、この先へ進むのはやめておいた方がいいぜ!お前さんたちでは攻略は無理だ!あきらめて家に帰るんだ。いいな?」

「私たちはランクAですが、それでも無理でしょうか?」


「ああ無理だ。ランクS冒険者でもおそらく攻略は無理だ。

 それにこのダンジョンは特殊でな。女性を凌辱りょうじょくする魔物ばかりがいる。だから、女性にとっては非常に危険なんだよ。絶対に進むべきではない」

「そうなんですか……でも、このまま帰っては装備を調ととのえるのに借りたお金が返せません。性奴隷せいどれいにされてしまいます」


「分かった。それじゃぁ、ある時払ときばらいの催促さいそくなしで金は貸してやるから。だから、攻略はあきらめろ!いいな!?」

「え?でもそれじゃぁ、あまりにも上様に申し訳ありません。……分かりました。私……上様の性奴隷になりますっ!」

「「私たちも!」」


「いや!ならなくていいからなっ!お金ができたら神都の神殿まで返しに来てくれればいい!何年先になろうがいいからっ!」

「でも……」


「それで……お前さんたちはこれからも冒険者を続けるのか?」

「はい。多分……。残念ながら私たちにはこれしかできないですから」


「そうか……。あのな、もしも興味きょうみがあるのならだが、お前さんたちは神殿騎士になるつもりはねぇか?……といっても試験を受けねぇといけねぇがな。

 どうだ?その気があるなら、神殿騎士試験を受けられるようにするぜ?」


「えっ!?私たちなんかでいいのでしょうか!?」

「お前さんたちは心が綺麗きれいだしな、それにランクAの冒険者だから神殿騎士試験に受かるんじゃねぇかなぁ。まあ、やってみねぇと分からねぇがなぁ……」


「どうか是非お願いします!神殿騎士になれるなんて夢のようです!」

「念を押しておくぞ?いいか?神殿騎士試験に合格しないとダメだからな?それを理解してくれよ?いいな?」

「はいっ!もちろん承知しています!」


 他の二人も大きくうなずいている。


 話はまとまり、彼女たち3人を連れて彼女たちが拠点きょてんとしている町へと転移することになった。


 テントが設置されている島をおおうように張ったシールドと、ピラミッドの周りに張ったシールドは、シールド発生装置が作り出すシールドに切り替えてある。



 彼女たちが拠点きょてんとしている町へ行くとすぐに彼女たちの借金しゃっきん清算せいさんさせた上で、彼女たちに荷物をまとめさせ、神都中央神殿へと連れて行った。

 そう、神殿騎士隊長のバルバラのもとへと彼女たち3人を送り届けたのだ。


 またしても将来有望な人材を確保することができたのだ!重畳ちょうじょう重畳ちょうじょう



 ◇◇◇◇◆◆◆



 ダンジョン内、第6階層。

 ハニーたちがいるテントの前に戻ると、なにやら皆があわてている?


「ダーリン!よかったですわ!今念話しようと思ってたところですの!」


 ザシャアの話では……ピラミッド内から爆発音のような大きな音が数回聞こえてきたということだった。


 ピラミッド偵察ていさつに送り出したミニヨンからもメッセージが入っているぞ!?

 ピラミッドの中でなにか事件が起こったようだった。



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