第0053話 拉致監禁

 サイクロプス……それはひとつ目の巨人だ。

 目は顔の左右の真ん中、眉間みけんに相当するあたりに1つだけある。 体長はおおよそ3mほどだろうか……。


 ターザンのような "腰みの" を身にまとっているだけだ。

 武器はこん棒。 それは岩でできているようだ。


 サイクロプス……その風体ふうていはまるで原始人げんしじんのようである。



 俺たちはサイクロプスがいる場所の近くの岩陰いわかげへと転移して来た。


 他のはんも同じような場所に転送してある。 いきなり戦闘へ突入するのではなく、まずは状況を把握はあくするためだ。


 声を出すと気付かれる可能性がある。 だから、念話ねんわで状況確認をし合っている。


『うわっ! ひでぇ! あの子たちの大事なところは大丈夫なのか!?』


 女性たち3人が、今まさにサイクロプスに凌辱りょうじょくされている!?


 サイクロプスはどこもかしこもすべてが人よりも大きい……

 当然ながらあそこも。 だから、襲われている女性たちが心配になった!


『あ! 大丈夫じゃないです! 早く助けましょう!』


 女性たちはわされた傷からの出血がひどく、苦痛に顔をゆがめて泣き叫んでいる!


ひどい! みんな出血がかなりひどいです! かわいそうっ!

 早く助けないと! このままでは失血死しっけつししてしまいますっ!』


 サイクロプスたちのSTRは、おおよそ80といったところだ。

 肉弾戦にくだんせんではハニーたちの方が不利ふりだな。


 全員に念話で警告する……


『みんな聞いてくれ! サイクロプスたちのSTR値が高いぞ!

 肉弾戦では不利だ! 神術かフェイザーで攻撃した方がいい!

 多分、ヤツらは目が弱点だと思う! そこをねらってみてくれ!』


『"はいっ!"』(※全員が念話で返事をしたことを表す。)


『いいか、みんな! 女性たちを救出することが最優先だ!

 サイクロプスをたおせなくてもいいからなっ!

 それから、無理はしないように!

 ダメだと思ったらすぐにこっちへ転移で逃げてこいよ!』


『"はいっ!"』


『よし! それじゃぁ救出作戦開始だ!』

『"おーっ!"』


各班かくはん守護しゅごしているミニヨンたちよ!

 ハニーたちを守ることが最優先だ! 各自かくじの判断で行動せよ! 頼んだぞ!』



『ソニアルフェは助け出した女性の治療を頼む』

『はいっ!』


『ラヴィッス、ミョリム、ヴォリルは女性を襲っていない3匹を始末しろ!

 武器はフェイザー銃を使え! 出力レベルはえず……5にセットだ!

 必要に応じて出力は調整してくれ!』


『『『はい!』』』


『俺は女性を凌辱りょうじょくしている3匹をやる! ではかかれっ!』

『"はいっ!"』


 サイクロプスをいきなり殺すと、死亡直後のサイクロプスの身体が痙攣けいれんしたり……

 女性の上に倒れ込んだりして、女性に大ダメージを与えかねない。


 だからまずは女性たちからヤツらをはなすために、ヤツらの目の前に転移して、強力に威圧いあつしながら声を掛けることにした!


「おい! 今すぐ女性を離せ! このクソ野郎ども! てめぇらは俺がぶっ殺す!」


 6匹すべてのサイクロプスが一瞬『ビクッ!』とした後、ヤツらのかたわらに置いてあったこんぼうを手につかんで、俺の方へと向かってきた!


 女性を凌辱りょうじょくしていたヤツらも女性から離れてこん棒を手に俺へと向かってくる!


「転送!……ソニアルフェ! 治療を頼む!」


 凌辱されていた女性たち3人をソニアルフェのもとへと転送した!

 これでもう思いっきりやれる!


 そう思ったとき! ラヴィッスたちからフェイザー光線が放たれた!


 これでサイクロプス3匹が片付いたぞ! と思ったのだが……

 光線が向かった先にいたサイクロプスたちは3匹とも無傷だった!


 平然としている!?


 サイクロプスたちは、シールドを展開していたのだ!


 ハニーたちから攻撃を仕掛しかけられたサイクロプス3匹がラヴィッスたちの方へとのっしのっしと向かっていく!


 ハニーたちは動揺どうようする!


 ハニーたちは全員が完全防御シールドを展開している。 サイクロプス程度の物理攻撃なら難無なんなく防げるはずだ。


 残った3匹はこん棒で思いっきり、そして、必死に俺をなぐっている!

 だが、シールドを展開しているのでコイツらの攻撃は一切いっさい当たらない。


「ハニーたち! 落ち着け!

 フェイザーの出力を6にして再び攻撃してみてくれ!」


「「「は、はいっ!」」」


 出力レベル6で発射されたフェイザー光線でも、サイクロプスにダメージを与えられなかった。


「よし! ハニーたち! しばらくは防御ぼうぎょてっしろ! 俺は事態じたい打開策だかいさくを考える!」

「「「は、はいっ!」」」


「全知師! 敵のシールドを分析ぶんせきしてくれ!」


 >>承知!

  分析が完了しました! シオン神聖国が使用しているものと一致いっちしました。


「やはりそうか! ハニーたちのフェイザー銃を、サイクロプスのシールド周波数しゅうはすうに対応させられるか? できるのであればすぐに対応させてやってくれ!」


 >>承知!……対応可能です。 ただちに各フェイザー銃の調整を行います!

  各フェイザー銃の基本システムと同時接続します……接続完了!

  フェイザー銃の調整を行います…………………………調整完了!

  これでフェイザー光線は敵のシールドを通過つうかできます。


『全ハニーたちにぐ!

 フェイザー銃を調整して、敵のシールドを突破とっぱできるようにしたっ!

 これでフェイザー銃が使えるっ! サイクロプスどもをやっちまえっ!』


『”はいっ!"』


 ラヴィッス、ミョリム、ヴォリルが、もう一度フェイザー銃を発射すると、今度は一瞬でサイクロプスたちを蒸発じょうはつさせた! 成功だ!


 <<全知師! 見事だ! フェイザー銃の調整は完璧かんぺきだ! ありがとう!

 >>いえ、どういたしまして。これくらいはおやすいごようです。


 ん? 全知師の受け答えに、ちょっと柔軟性じゅうなんせいが出てきたか?


 俺の方は相変あいかわらずサイクロプス3匹になぐられ続けている。

 ヤツらが持っているこん棒でガンガン殴られ続けているのだ。


 まあ、シールドで防いでいるから当然無傷なんだがなぁ……気分は良くないっ!


 サイクロプスたちは、俺におおかぶさるようにしているため、ハニーたちはオロオロしていて、コイツらにフェイザーを撃ち込めないでいる。


 俺に当たることを心配しているのだろう。


 あれ? サイクロプスたちは俺をなぐっているよなぁ?

 ん? シールドを展開したままで物理攻撃ぶつりこうげきって……できないよな、普通?


 ヤツらは俺を殴るためにシールドを解除している?


 完全防御シールドの中からは、シールド越しに物理攻撃ができないので……

 一旦いったん極薄ごくうすシールドにえて、ためしに3匹のサイクロプスの目玉めだまを目がけて、順にパンチを打ち込んでみた!


 バブシュッ! ブシュッ! ボブッ!


 3匹とも、目玉どころか、頭が、水風船みずふうせん破裂はれつしたかのごとく吹っ飛ぶ!?


 首の部分から脈打みゃくうつように血を吹き出しながら、身体はゆっくりと地面へとたおれていく……。 頭の無くなったサイクロプスどもの身体は、地面に倒れると、ビクッ!ビクッ! と痙攣けいれんしている。


 やはり思った通りだった! やつらはシールドを展開していなかった!


 シオン神聖国が使っている"旧式のシールド"も、俺が展開する完全防御シールドと同じだ。 シールド越しの物理攻撃は不可能だ。

 魔法攻撃の方は、シールド越しに放つことができるようだが、物理攻撃をするためには、シールドを解除かいじょしなくてはならないようだな。


 まぁ、あたりまえかぁ……俺たちのよりも古いタイプのシールドなんだもんなぁ。


『全ハニーたち! 敵が物理攻撃を仕掛けてきたときが攻撃のチャンスだ!

 サイクロプスどもは、シールドを解除しないと物理攻撃ができない!

 フェイザーが仲間にあたりそうで使えないような時は、ヤツらがなぐりかかってくるのを待って、ぶん殴っていやれっ!』


『"はいっ!"』


 >>警告! 警告! 危険! 危険!

  他のはんのもとへサイクロプスのれが向かっています!

  サイクロプスの群れは、おおよそ5分後に到達予定!


  第1班に3グループ、計17匹が……

  第2班に2グループ、計11匹が向かっています!

  各班かくはん迎撃態勢げいげきたいせいをとらせて下さい!


  どうやらサイクロプスは同族間どうぞくかん念話ねんわが使えるようです。

  攻撃を受けたサイクロプスが念話で助けを求めたようです。

  敵は念話による連携攻撃れんけいこうげきおこなってくる可能性がありますので要注意ようちゅういです。


 <<なにっ!? そうか、分かった! ありがとう、全知師!


『各班を守るミニヨンたちへ!

 そちらへ別のサイクロプスの群れが向かっている! ただちに迎撃せよ!

 攻撃にはフェイザー銃を使え! 出力レベルは6だ! やれっ!』


『各班に通達つうたつ

 第1班にサイクロプス17匹!

 第2班に同11匹が向かっているとの情報あり!

 ミニヨンに迎撃命令げいげきめいれいを出してあるが、ハニーたちも気をつけてくれ!』


『"はいっ!"』


『それから、ヤツらは念話ねんわが使えるぞ!

 連携れんけいして攻撃してくる可能性があるから注意してくれ!』


『"はいっ!"』


『なお、サイクロプスどもの殲滅せんめつはミニヨンにまかせて、女性救出きゅうしゅつ優先ゆうせんせよ!

 女性を救出後は、ただちにその場を離脱りだつせよ! かえす!

 女性救出後は、ただちにその場を離脱せよ! ……以上だ!』


『"はいっ!"』



 ◇◇◇◇◇◇◇



 シェリーから緊急きんきゅうだという念話が届く。 かなりあせっている様子ようすだ!?


『ダーリン! 翠玉すいぎょくさんとユリコさんが何者かにさらわれました!』


『なに!? どういうことだ!?』

『はい。 サイクロプスがこん棒で二人を殴り飛ばし、二人は10mほど飛ばされて行ったのですが……』


 ラフがシェリーの言葉に被せ気味に話し出す……


『そうなの! 二人は気絶してたんだけどね、サイクロプスを殲滅した後で、うちが二人を助けようとしたら、二人はいなくなっていたのよ』


 シェリーとラフは二人が飛ばされるところは見ていたらしいが……

 戦闘中だったこともあって、すぐに対応することはできなかったようだ。


 ハニーたちを守らせていたミニヨンたちも、敵の増援ぞうえん対処たいしょするために対応できなかったようだ。


 ユリコも翠玉もキャットスーツを着ているし、極薄シールドも展開していたようだから、まず、怪我けがなどはしていないだろう。

 恐らく、殴られて飛ばされる際に加わった強烈なジーによって意識を失ってしまったものと思われる。


『あたしとラヴちゃんは女性を助けるので一杯一杯いっぱいいっぱいで気が付かなかったよ。ね?』

『ええ。二人の姿が見えないなぁ…とは思っていたんだけど……』


 ミューイとラヴは二人のほうを見ている余裕よゆうさえなかったということか……。


『それでね。 うちが、二人が倒れていたところを調べてみたんだけど、そしたら、そこに複数ふくすうの小さな足跡あしあとがあってね。 たにおくへと続いていたんだよ』


『みんなで足跡を追ってみようかとも思ったのですが……まずは、ダーリンの指示をあおいだほうが良いということになって。 こうしてご連絡れんらくした次第しだいです』


 こうしている間に、第1班の者たちが女性を連れて転移してきた。

 こちらは全員無事だ。


 シェリーたちに指示を出す。


えず、女性たちを連れて俺たちのもとへ来てくれ』

『"はい。"』



 ユリコと翠玉すいぎょく装備そうびこわれていなければ良いのだが……。せめて、極薄ごくうすシールド発生装置だけでもまともに機能きのうしていてくれよ……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「ユリコさん。ユリコさん。 起きて!」

「ん……う、ううん……」


「ユリコさん」

「はっ!?…………こ、ここはどこ?……あ、翠玉すいぎょくさん? 私たちは一体……」


「どうやら、サイクロプスにこんぼうなぐばされた衝撃しょうげきで……

 私たちは気を失ってしまったようですね。そして、何者なにものかによって私たちはここに監禁かんきんされてしまったようです」


「監禁? えっ!? うそっ!?」


 二人は石造いしづくりの牢獄ろうごくの中にいた。

 まどは無く、広さは15平方メートルくらいだろうか……ほぼ正方形のろうである。


 通路つうろめんした開口部かいこうぶには頑丈がんじょう鉄格子てつごうしめられていて、その中央には鉄格子でできたとびらがある。 その扉にはかぎがかかっていた。


 あたりは湿気臭しっけくさいような、かび臭いようないやにおいがただよっている。

 その中にはてつさびしゅうのようなものも混ざっている? 血のにおいのようだ。


『シン! 助けて! シンっ! 助けてよ! 聞こえないの?』

『…………』


 シンからの返事へんじはない。


念話ねんわなら無駄むだです。妨害ぼうがいされているようです。そして、転移も不可能でした」


「え!?……そんなぁ。 どうしよう? ねぇ? どうしたらいいの?」

「ユリコさん、落ち着いて下さい。 まず装備のチェックをして下さい」


「え…ええ。分かったわ。 取り乱したりしてごめんなさい。えーと、装備は……」


 ユリコは落ち着きを取り戻し、装備をチェックする……


「大丈夫よ。すべて正常だわ。 翠玉すいぎょくさんの方は?」

「私はティアラがこわれてしまいましたので、完全防御かんぜんぼうぎょシールドが使えません。

 後は問題ないです」


「私の方は大丈夫だから、二人でともに行動すればいいわね。いざという時には私のシールドで対応しましょう」


「ユリコさん。 それではまず、このろうから出ましょうか?」


「そうね。フェイザー銃で鉄格子てつごうしを消しましょう! 出力レベルは6でいいかな?」

「はい。大丈夫だと思います。 もしかすると出力が高すぎるかも知れません」


「よし! ではフェイザー銃起動! 出力6にセット!

 目標は前方の鉄格子! 発射!」


 鉄格子は、まるで高温で熱せられたかのように一瞬真っ赤になった後、すぐに消滅した。


「で? どうする? この通路を右に進む? それとも左?」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 シェリー、ラフ、ラヴ、ミューイと被害者女性たちが合流したので、えず、今いる谷底たにぞこではなく、がけの上へとみんなをれて転移して来た。


 ここは、360° 見通みとおしがいて、かなり広い場所だ。


 この場所に、俺とハニーたち用の野営用やえいようテントと、オークドゥ用のそれ、そして、被害者女性たち用のテントの計三張けいみはりを……

 一辺いっぺんがおおよそ5mの正三角形せいさんかっけい頂点ちょうてんの位置にそれぞれ設営せつえいし、その正三角形の重心じゅうしんの位置にシールド発生装置はっせいそうち設置せっちしてある。


 俺がここにられるのならば、このシールド発生装置は不要だが、ユリコと翠玉を助けに行こうと考えているから、その間の防御ぼうぎょのために設置したのだ。


 サイクロプスどもの被害ひがいった女性たちは、既にハニーたちによって、体内外の完全浄化と怪我や病気の治療が終わり……

 彼女たち用に設置したテントの中で休んでもらっている。


 彼女たちの中には敗血症はいけつしょうになったり、胃腸いちょう不調ふちょううったえる者たちもいたのだが、ハニーたちの治療により、それらの病気もすで完治かんちしている。


 彼女たちがいかにひど状況じょうきょうに置かれていたかがうかがれる。


 また、希望する女性たちにはハニーたちが完全修復をほどこし、彼女たちの最盛期さいせいき、そして、生娘きむすめの状態に戻した。


 希望する女性たちと言ったが実は、若返わかがえると聞いて全員が希望したのだった……。


 女心というヤツかな? いや、若返るのだから男性でも希望するだろうな。



 実は、ハニーたち用の野営用テントとオークドゥのそれ、それぞれの地下にはもう1つ別のシールド発生装置が設置してある。 三張みはりのテント全体をおおうシールドの中に、二張ふたはりのテントにはさらに、それぞれにシールドが張られているのだ。


 これは、被害者女性たちの中に敵がまぎんでいる可能性を考慮こうりょした結果だ。


 俺がこの場を離れる以上、用心ようじんするにしたことはないからな。

 油断大敵ゆだんたいてきだ。 ハニーたちにも女性たちにはゆるさないように言ってある。



「ダーリン、申し訳ありません。 私はリーダー失格です」

「シェリー。 お前さんは悪くねぇよ。 あの状況じゃぁ、しかたねぇさ」


「ですが……」


「くよくよするよりもな、次に同じようなことが起こった場合の対処法たいしょほうを考えた方が建設的けんせつてきだぜ。俺はそうして欲しいなぁ。 反省はんせいってのはそういうことだぜ。後悔こうかいする事じゃねぇよ」


「は……い…」


「同じケースが起こった場合の対処法が見つかったら……

 スパッ! と頭も気持ちもえなよ。

 もしも、しばらく考えても対処法たいしょほうが見つけられねぇんだったら、それはどうしようもなかったってことだ。 その時は スパッ! と考えるのをあきらめるんだ。

 いいな。 マイナス思考しこうはダメだぜ! 多くの場合、がいにしかならねぇからな」


「はい。分かりました」


「それじゃぁ、ラフを呼んできてくれねぇか?

 三人でもう一度、ユリコたちが連れ去られた現場を調べてみようぜ」


「はい。すぐに呼んできます」


 シェリーは責任感せきにんかんが強い、良い子だ。 だがまだまだわかい。

 責任感に押しつぶされなきゃいいのだが……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



「しっ! 誰か来るわ!」

「ご、ゴブリン?……ここはゴブリンのなの? うわぁ~、どうしよう?」


 ユリコと翠玉すいぎょくは結局、ろうの前の通路つうろを右へ進むことにしたのだが、たりがTの字に分かれていて……その右側から、ショートソードをびた二匹のゴブリンがやって来るのだ! ヤツらは巡回警備じゅんかいけいびをしているようだ。


「ヤツらはフェイザー銃で仕留しとめめましょう! 私がやります!」


 翠玉すいぎょくったフェイザー光線こうせんにより、一瞬いっしゅんでゴブリンどもは蒸発じょうはつした!

 あたりはしんとしずまりかえっている……他のゴブリンに気付かれた様子はない。


 二人は警備のゴブリンどもが来た方へと進むことにした。


 しばらく通路を進んでいくと階段前に出る。上、下、どちらの方向へも進めるようになっている。


「ねぇ? どうする? 上、それとも下?」


「上へ行きましょう。 ろうは地下につくられることが多いのではないでしょうか?

 そのように仮定かていした場合、上へ向かった方が脱出だっしゅつできる可能性が高くなるものと思われるからです。 いかがでしょうか?」


「な、なるほど。そうよね。 しかし……あなたは冷静ね? さすがクイーンだわ」

「いえ。それではまいりましょう」



 ◇◇◇◇◆◇◇



「全知師。 この足跡あしあと分析ぶんせきしろ」


 俺とシェリー、ラフはユリコと翠玉が飛ばされて倒れていた場所へとやって来た。


 そこには複数の小さな足跡があって、峡谷の奥へと続いている。 足跡の数からは5匹の小型の魔物がいたことがうかがわれる。


 俺たちは残されている足跡あしあと辿たどることにした。


 >>この足跡はゴブリンのものです。 全部で5体分あります。


 全知師との会話がシェリーとラフにも聞こえるように、彼女たちとの念話回線はオープンされている。


「そうか。それで……周辺しゅうへんにユリコと翠玉すいぎょくの生命体反応は確認できないか?

 シオン神聖国のシールドが張られていることも想定そうていして探索たんさくしてくれ」


 >>承知しました。

  上下階層も含めて探索を行いましたが、見つけることはできませんでした。


「なるほど……どこかに転移でもしたのか?

 いや、俺たち以外には転移する権限を持たせていないからそれはありえないな」


 >>ダンジョン内には、亜空間あくうかんバイパスが設置せっちされている可能性があります。

  このバイパスを通ることで、固定された2点間を、あたかも転移するかのように移動することが可能です。

  ただし、移動できるのはダンジョン内に限られます。


「そんなものがあるのか!?

 それじゃぁ、この周辺に亜空間バイパスの出入り口がないか探してくれ」


 >>承知しょうち

  周辺空間しゅうへんくうかんゆがみを計測中けいそくちゅう……………見つけました!

  前方ぜんぽう100m先のがけしたに、亜空間あくうかんバイパスの出入り口があります。


 足跡もその方向へと続いている。 どうやら間違いなさそうだな。


「しかし、全知師よ。 ダンジョンってのは一体何なんだ?

 非科学的ひかがくてきな存在のようで気持ちわりぃんだけど?」


 >>お答えします。

  ダンジョンは、マスターによってこの世界の各地に、おおよそ1000カ所設置された、ヒューマノイドたちのためのレベルアップ用施設です。


  本来はこの惑星の管理スタッフ向けの娯楽施設ごらくしせつでしたが……

  マスターの指示で一部がこの惑星のヒューマノイドたちのレベルアップ用施設に変更されました。


「へっ? 俺が設置させたのか?

 ……それじゃぁ、このダンジョンの管理システムを、俺は操作そうさできるのか?」


 >>はい。可能です。

  ただし、ダンジョンの管理システムに "管理者" としてアクセスするためには、プライマリーキーデータの照合しょうごうが必要です。

  管理システムのアクセス端末たんまつおもにダンジョンの最深部さいしんぶ、ダンジョンマスターの部屋の中にありますので……

  このダンジョンを掌握しょうあくするためには、ダンジョンマスターの部屋へ行く必要があります。


「それでは、ダンジョンマスターの部屋の座標ざひょうを教えてくれ」


 >>座標照会権限ざひょうしょうかいけんげんゆうしないため、私には不可能です。

  ダンジョンマスターの部屋の座標ざひょう照会しょうかいするためにはパスワードが必要です。

  そのパスワードは、マスターとダンジョンマスターになった者が知っています。


 俺には記憶がない……だから、直接転移することは不可能だ。

 最深部さいしんぶへ行って、ダンジョンマスターの部屋を探さねばならないのか?


「座標照会用のパスワードを、ブルートフォースアタックで特定することはできないのか? 総当そうあたりで試せばなんとかならねぇのか?」


 >>パスワード入力画面で3度入力を間違えると、二度と入力画面が表示されないようになっていますので、事実上不可能です。


ひでぇなぁ、確かにセキュリティ上はこの方がいいのだろうが……

 パスワードをうろおぼえだったら、とんでもねぇことになりねねぇな!?

 誰だ!? こんなシステムにしたのは!?」


 >>マスター、あなたです!


 は・は・は……やっぱりそうなのね。

 ああ……過去かこの俺をぶんなぐってやりたい心境しんきょうだぜ!



 そうこうしているうちに、亜空間あくうかんバイパスとやらの出入り口に到着した。


 出入り口らしきものは見当みあたらないが、ゴブリンどもの足跡あしあとがまるでがけの中へと入っていったかのように、崖の直前まで続いている?


「全知師。 この足跡を辿たどって、このままこの崖にぶち当たればいいのか?」


 >>はい。特になにもする必要はありません。 そのまま進んで下さい。


「分かった。それじゃぁ、ハニーたち! 自身に極薄シールドを展開してくれ!」

「「はいっ! 展開しました!」」


「よし! それでは行くぞ!」

「「はいっ!」」


 シェリーが俺の左腕に自分の右腕をからませ……

 ラフは俺の右腕に自分の左腕を絡ませてきた!?


 亜空間バイパス内で離ればなれにならないようにとの考えなんだろう。


 がけにぶちあたるようにを進めると、一瞬で、別の場所へと移動した!?


 目の前には、そうだなぁ、地球のインドネシアにあるボロブドゥール遺跡いせきのような建造物が建っていた!


 その寺院遺跡のような建造物全体が、シオン神聖国製のシールドでおおわれている?


 このシールドのためにユリコたちは、転移で俺のもとへと逃げてくることができなかったのかも知れない。 えず彼女たちの生命体反応をさがす……


 ……いた! ユリコと翠玉すいぎょく一緒いっしょにいる! 無事のようだ!


 マップ画面で彼女たちの存在を確認するとすぐに見つかった。

 正面の、まるで寺院のような建物の地下1階に二人が一緒にいる。


 彼女たちの近くには10名ほどのヒューマノイド女性の生命体反応もある。

 だが! 女性たちに引っ付くようにゴブリンどもがいるようだ!?


 ユリコたちもだが、女性たちも早く助けてやらねば!


 しかし、この寺院の中にはすごい数のゴブリンがいる!

 ここは、ゴブリンの巣窟そうくつだ! いそがねば!



 ◇◇◇◇◆◇◆



 ぎゃっ…ぎゃっ…うっ…う…ぎゃっ…ぎゃっ…ぎゃっ…うっ…う…

 シクシク……シクシク……ううう……


 ユリコと翠玉が階段をしのあしで上がると……

 その階からはゴブリンの声とヒューマノイド女性らしき声が!?


 女性のすすり泣く声も聞こえてくる!?


 ユリコと翠玉はそっと様子を見る……


 この階も牢獄ろうごくのようで、鉄格子てつごうしさえぎられた部屋がいくつもある。

 ろうの入り口は開いている。 そして! その牢の中では女性がひどい目に!


 ゴブリンどもに凌辱りょうじょくされている!


 ゴブリンという種族は基本的にオスのみが存在する。

 繁殖はんしょくするためには他種族たしゅぞくのメスが必要であり、他種族のメスをさらってきてははらぶくろとするのだ!


 ユリコと翠玉すいぎょくいかりにふるえる!

 二人は思わずゴブリンどもにりかかりたくなる衝動しょうどう必死ひっしおさえる!


「翠玉さん! ゴブリンどもに女性たちがひどい目に! 助けなくちゃ」


 ゴブリンどもに気付かれぬように、ユリコは小声で話す。


「敵の数が多すぎます。まずはここから脱出することを優先させませんか?」

「でも……放ってはおけないわ。 目の前で彼女たちが苦しんでいるのよ?」


「それでは、ユリコさんには彼女たちを助けるプランがあると?」

「うーん……そう言われると……」


「ここで騒ぎを起こしますとゴブリンどもに気付かれてしまいます。

 まずはここを脱出して、後からダーリンと共に助けに来ましょう?」


「く、くやしいわね。 目の前で苦しんでいる人たちを見捨みすてるなんて……」


「さあ、早く移動しましょう。 ここに長居しては見つかります。 さあ!」


 ユリコたちがうしがみを引かれる思いでその場を離れようとしたとき、階段を降りてきた3匹のゴブリンたちに見つかってしまった!


 ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーっ!


 ゴブリンどもが大声を上げる!

 ぎゃぁぎゃぁ言いながら、たくさんのゴブリンの気配けはい近寄ちかよってくる!?


 絶体絶命ぜったいぜつめいだ! ユリコと翠玉すいぎょくにはもうがない!?



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