第0052話 アマゾネス・オークの心

「あー!ダーリンがまた新しい嫁を連れて来たっす!」

「愛の狩人のご帰還だと皆に報告します」


「お、おい!ウェルリっ!ジーっ!勘違いするなっ!この子は、ち、違うぞ!まだ嫁じゃねぇからなっ!」

「ふうん。"まだ"ねぇ~?まだハーレムメンバーを増やす気なのね?イヤらしい!不潔だわ!ドン引きよね、マルルカ?」

「そ、そうです!や、やっぱりシンはジゴロです!女の敵ですよ!」


「"まだ"と言ったのは言葉のあやだ!この子はなぁ、俺が何時も世話になっている女王様だ!」

「うわっ!引くっ!し、シン……?あなたマゾヒストだったの?SM趣味があったなんて私、全然知らなかったわ。いつからなの?私と死に別れてから?」

「あーっ!もう!疲れる!違うっつうの!この子はなぁ、鬼神を懲らしめてくれているアマゾネス・オークのクイーンなのっ!SMの女王様じゃねぇっ!」


 確かにキャットスーツを着た翠玉は、SMの女王様に見えなくはないな……。


 しかし、このユリコは俺への感情を消されたんじゃなく、嫌悪感を植え付けられたんじゃないのか?……俺の粗探しばかりするよな。


 目の前にいる超絶美女がアマゾネス・オーク、正確にはロイヤル・アマゾネス・オークなのだが……であることを、マルルカ以外の全員が驚いている。

 肌の色が違うから人族にしか見えない。だから驚くのも無理からぬことだ。


 マルルカはある言葉が気になってしまって、彼女がアマゾネス・オークだということをスルーしてしまったようだ。その彼女が気になっている言葉は……


「あのう……。シン?SMってなんでしょうか?」

「マルルカよ。それを俺に聞くな。言い出しっぺのユリコに聞きなさい。論理的に考えて、その言葉を最初に使った者の方が確実に答えられるとは思わないのか?」

「勇者様が仰っている意味が理解できるということは、シンも"SM"という言葉を理解しているってことでしょ?でしたら、教えてくれてもいいですのに?」

「勇者に聞け!以上だ!」


 ああ……もうスルーしよう。


 俺の『アマゾネス・オークのクイーン』という言葉にオークドゥが反応した!

 ロングソードをいつでも鞘から抜けるように身構え、翠玉を睨みつけている!


 そういえばそうかぁ、オークとアマゾネス・オークは敵対するように設定されていたんだったなぁ。一緒に行動しても大丈夫なんだろうかなぁ?


「あなたがオーク王のオークドゥね?よろしく。私は翠玉。アマゾネス・オークの女王よ。名前をいただき、今の私はロイヤル・アマゾネス・オークですけどね」


 オークドゥが警戒態勢を解く。

 真っ直ぐな視線を向ける翠玉。オークドゥは視線を合わせようとはしない。


 情けない男だ。オークドゥよ。お前の負けだ!器が違いすぎるぜ!


「翠玉。お前さんは格好いいな!」

「え?」

「敵対関係にあるオークの王、オークドゥが剣を抜かんばかりに身構えているのに平然として『よろしく』って言える、その器の大きさが格好いいと思ってな。最高だぜ!」

「あ、ありがとうございます」


「それに比べてオークドゥよ。お前さん、情けないなぁ。お前さんの貫禄負けだ。もっと精進しろよなっ!?しかし……女性に向かって今にも斬りかからんばかりに身構えるなんて最低だぜ?小せえ男だなぁ。格好悪ぃぜ」

「はい……も、申し訳ありません」


「これから一緒に行動することになる。仲良くしろとは言わんが、揉めるなよ?」

「「はい」」


「ダーリン。なんだかんだ言ってても絶対に嫁にする気っすよね?」

「そう。キャットスーツまで渡している。これはいつもの手」

「あのなぁ……ウェルリ、ジー。俺をからかうのはもうその辺でやめてくれる?」


「え?このスーツをいただけたということは、やはりそういうことですのね?」

「ん?どういうことだ?」

「いずれは、私を上様のお嫁さんにして下さるおつもりなんですね?嬉しい!」


 魔物の女性にも俺のパッシブスキル"魅了"が効いてしまうのだろうか?

 もう……この子が魔物初の"嫁"となるのも時間の問題かなぁ。


「ああー…、そういうことは、お互いによく知り合ってからだな。俺とお前さんの二人共がそういう気持ちになったら……ということにしておくぜ。行動を共にしていると俺のことが嫌になるかも知れねぇしな。結論は急ぐ必要はねぇよ。いいな、翠玉や」

「はい。上様をお慕いするこの気持ちは、この先もずっと変わることはないと断言できます。上様のお気持ちが私に向くのを待ちます。いつまでも……。 

 ああ……こんな機会を得られるなんて夢のようです!上様一筋に操を守り続けてきた甲斐があります!」


「ん?お前さんは、俺が送ったクソ野郎どもから子種を搾り取らなかったのか?」

「はい。もちろんです。私には貴方様以外の子種なんて要りませんので」

「そうかっ!いやぁ~よかった!」

「え?」

「いやぁだってさぁ~お前さんほどの美人に凌辱されるんだったら俺が送りつけたクソ野郎どもにとっては、罰どころかご褒美になっちまうからな!」


 翠玉は複雑な表情を見せる。

 当然の反応だろう……俺の言葉を翻して考えれば彼女の仲間たちを侮辱していることに他ならないからだ。不用意な発言であった。しまった!と思ったが後の祭りである。


 さすがにユリコはこういったことには敏感である。彼女が俺に意見する。


「あのさあ、シン。こうしてアマゾネス・オークの方と話ができるということは、彼女たちにも心があるんじゃないの?だとしたら、あなたが今言った言葉を翻して考えると、彼女たちの種族全体を侮辱していることにならない?ねぇ、違う?」

「ああ。ユリコの言う通りだ。軽率だったよ。失言だった。申し訳ない。翠玉よ、どうか許してくれ」


 俺は素直に頭を下げて詫びた。


 彼女たちは、男を襲い凌辱するただの魔物だとずっと思っていた。

 彼女たちには感情はなく、魔物としての本能のまま行動しているものだとばかり思っていたのだ。 そして、オークたちも女性を凌辱するただの魔物だと……。


 だが、翠玉やオークドゥと出会い、そして、彼女たちの部下とも話をしてみて、女王たち以外の部下たちにも、人と同じように心があることを知った。

 これは全くの想定外だった。


 そうなると"彼女たちとの性交=罰"と単純に考えること自体が、心を持っている彼女たちに対して甚だ失礼なことであるのは明らかだ。心を持つ相手には、これは大いなる侮辱であると思う。


「失言っていうけどね、それは心の中ではそう思っているってことでしょ?」

「ああ。その通りだな。返す言葉もねぇ。俺はまだ偏見を持っているようだ」


「どういうことなんでしょうか?」


 マルルカが尋ねる。


「俺はずっと女王と王以外、彼女等の部下たちは、コミュニケーションが取れない獣のような存在だとばかり思っていた。女王、王の命令に従うだけの存在だとな。

 だからずっと、傷つく心は持っていないと勝手に決めつけていたんだ」

「え?その言い方ですと、魔物にも心があると?」


「ああ。さっき翠玉の所へ行って、彼女の部下たちとも話をしてみて、俺の認識が間違いであったことが分かったんだ。彼女たちは俺たちと一緒で、心を持った存在なんだよ」

「えー!?そんなことは思ってもみませんでした」


「"彼女たちとの性交=罰"と考えるということはな、彼女たちが忌避される醜悪な存在だと言っているようなものだろう?

 マルルカ。お前さんとの性交が罰になると言われたらどう思う?」

「ひ、ひどいです!侮辱です!……そういうことなのですね。分かりました」


「だから、この考え方はもうやめようと思っていたんだがな……。

 さっき俺が翠玉を褒める気持ち半分で発した言葉で、まだまだ俺には偏見があることを自覚したんだよ。なんとも情けねぇ話なんだがなぁ……」


「そうですね!シン、あなたは酷い偏見の持ち主ですよ!やはり邪……」


 マルルカが俺のことを『邪神』と言おうとしたが、その言葉を翠玉が遮る。


「上様。我々アマゾネス・オークが、他種族の男性から醜いと思われ、恐れられ、忌避される存在であることはみんな承知しております。そのことで私たちが傷つくようなことはありません。ですからそんなに深刻に考えないで下さい」

「だがな……」


 翠玉が、俺の唇に右手の平を向けて『お待ち下さい』とでも言うかように言葉を遮りながら、軽く黙礼すると……


「他種族とは、美的感覚において根本的に異なっている場合が多いことは理解していますので、他種族から忌避されようが私たちはそれほど傷つくようなことはありません。そういうものだと思っていますから……」


 俺を含めてみんなが翠玉の言葉に、真剣に耳を傾けている。


「それに……種族保存本能によって突き動かされていますので、そんな感情よりも子種を取得することの方が優先されるので、瑣末さまつなことのように思えるのです」


 なるほど。他種族がどう思っていようが、それを気にしている余裕も無いということか……。


「ただ……それでも、私たちにもちゃんと心があります。

 以前、肌の白いぶよぶよのオークに似た男が送られてきたときには、皆がとても嫌がっていましたし……本能に突き動かされている私たちでも、生理的に拒否感を覚える相手は当然います。

 逆にさらってきた男性と気持ちが通じ合って共に暮らし始める……といったことも過去には何度かありました。ですから、他種族の男性すべてが私たちを忌み嫌っているというわけでもない…ということも知っています」


 オークに似た男?……ノルムの町のニセ統括神官、ケーニッヒのことだな。

 そうだあの時、アマゾネス・オークにも好みがあるのか?と、ふと思ったんだ。

 あの時にもっと深く考えるべきだったな……。


「つまり……上様が期待されている罰は、快く思っていない相手に凌辱されることではないでしょうか? アマゾネス・オークだけに限らず……。

 罰を受けるべき男が嫌がっている女性に無理矢理味わわせた苦痛を、その男にも同じような目に遭わせて、女性がどんなにつらくて、悲しい思いをしたのかを思い知らせることだと私は愚考致します」


 この子の言う通りだ……アマゾネス・オークによって子種を搾り取られることが罰だと考え、アマゾネス・オークは子種を搾り取れさえすればどんな男でもよいとと単純に考えていた自分が恥ずかしくなる。


「ですから、僭越ながら……どうか今後は本来の目的に立ち返ってご判断いただけますと幸いに存じます。……生意気なことを申しまして申し訳ありません」

「いや、ありがとう。翠玉、お前さんの言っていることはすべて正しいよ。短慮を心から謝罪する。申し訳なかった。

 今後は、俺が送りつけようと思っているクソ野郎どもについて、子種を搾り取るのか、受け入れを拒否するのかをお前さんたちに選んでもらうことにするよ。

 それでいいだろうか?どうだろう?」


「はい。ありがとうございます。そうしていただけますと嬉しいです。

 ただ、罪人の男を送っていただくこと自体は大変助かっております。それゆえ、どうぞこれからも遠慮なさらずにお申し付け下さいませ。他種族の男を狩りに行く必要がなくなり、こちらとしても大変助かりますので……」


 翠玉は微笑む。いかん!魅了されてしまいそうだ……。


「上様……私も気付きました。私たち自身も行動を改める必要があることに」

「ん?それはどういうことだ?」


「はい。今後は、他種族の男を狩ることはやめようと思います。他種族の者たちと友好な関係を結ぶべきだと思い至ったのです。ただ、私たちは嫌われていますのでとても難しいことだとは思いますが……」

「お前さんから諭された俺が偉そうに言うのもなんだがな……。翠玉、お前さんは偉い!よくぞ気付いてくれた!さすがだ!思わず抱きしめたくなっちまったぜ!」


 翠玉はもじもじしながら頬を染める……。


 オークドゥはなぜか俯いてしまった。ばつが悪そうだ。

 俺に言われるまでオークドゥには気付けなかったことを、翠玉は自分で気付けたからなのだろうか?


「い、いいですよ。さ、さあ!抱きしめて下さい!ついでに嫁にして下さい!」


 へっ??な、なんだ?


「あー……真剣に話を聞いていたのに最後で台無しになったっすよぉ~」

「ぶーぶー!」


 ジーよ。そうぶーぶー言ってやるなって。


 俺は抱きしめることはせず、代わりに翠玉の頭を撫でた。

 『ダーリンは絶対に抱きしめて嫁になれと言うぞ』といった期待に満ちたような目を輝かせながらこちらを見ているウェルリたちに対して意地を張ったのだ!

 翠玉はちょっと不満そうだが……申し訳ない。そのうちちゃんとハグするから。


「シン。あなたのそういうところは変わっていないわね」

「え?変わっていない?どんなところだ?」

「自分の非を素直に認めて謝れるところ。私はあなたのそういうところが……なんというか……そう、好ましく思っていたの」

「そうか……」


 ボムッ!ボムッ!ボムッ!ボムッ!ボムッ!ボムッ!


 突然背後で大きな音が何度かする!爆発音のようだ!


 どうやらファイヤーボールが数発打ち込まれたようだ!

 魔物の襲撃か!?



 ◇◇◇◇◇◇◇



「いやぁ~悪ぃなぁ~魔物かと思っちまったぜ!げへへへへっ!」

「あはは!よく言うよねぇ、ファルク。


 『いちゃいちゃしやがってクソガキがっ!ぶっ殺す!』


 って、言ってファイヤーボールをぶっ放したじゃん!白々しいよ」

「げへへっ!そうか?……だがまさか俺様の攻撃に耐えられるとはなぁ?」

「けっ!仕留め損ないやがって!情けねぇなぁ~、ファルク。このままガキどもを生かしておいちゃ後々面倒なことにならねぇか?ぶっ殺そうぜ!?」

「いひひっ!ぶっ殺すのは男どもだけにしようぜ!見て見ろよ!女たちは、すげぇ上玉だぜ!みんなで回して楽しもうぜ!」

「あんたたち!悪い男だねぇ~。あはははは!私にも回してよね!?」

「ああ。もちろんだぜ!いひひっ!」

「本当に美人ばっかりだな!これはついているぜ!たっぷりと楽しんだ後に性奴隷としてうっぱらえば結構な金になるぜ!?うひゃひゃ!」


 冒険者パーティーのようだ。男女混合で全部で6人いる。

 会話の内容から判断して全員をぶっ殺すことにした!こんなクソどもは生かしておいてはダメだ!コイツらは害悪をもたらす存在でしかないだろう。


「翠玉。攻撃神術の練習だ。『四肢粉砕』を全員にお見舞いしてやれ!」

「はっ!『四肢粉砕!』」


 "ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛い!痛い!痛ぇ!痛い!痛ぇ!……"


「おお!見事だ、翠玉!最初から完璧使いこなせるたぁ、大したものだ!」

「ありがとうございます!」

「それでどうする?あの3人の男どもは要るか?」

「はい。後で集落の方へ送っていただけますか?」

「おう!分かった!まずは俺の嫁に手を出そうとしたことをコイツらにたっぷりと思い知らさねぇとなぁ。ははは!……修復!」


 "はぁはぁはぁ……"


「てめぇら!俺の大事な嫁に手を出そうってか?いい度胸じゃねぇか!覚悟はできているんだろうなぁ?」

「ダーリンを殺そうとした。殺される覚悟があると判断」

「バカっすよね?相手の力量も分からないんすから」


「……はぁはぁはぁ……ちょ、ちょっと油断しちまったが、なめんなよ!俺たちはランクAの冒険者だ!てめぇらのようなクソガキどもが俺たちに敵うとでも思っているのか?げへへへっ!」


「ファイヤーボール!」「ウインドカッター!」「アイスアロー!」「ウオーターボール!」……


 ランクAだという冒険者たちからこちらへ向かって攻撃魔法が次々と放たれる!

 当然、すべてシールドに阻まれてしまうのでこちらには届かない。こちらには、なんの被害もない。


「ザシャア!ノアハ!シェリー!お前さんたちは男どもをやれ!ただし、攻撃神術の使用は禁止する!剣の練習だ!剣で思う存分ぶった切ってやれ!極薄シールドの展開を忘れるなよ!」

「「「はいっ!行っきまーーすっ!」」」


「ウェルリ!ジー!ソニアルフェ!お前さんたちは女どもをやれ!お前さんたちも攻撃神術は禁止だ!ぶった切るか、思いっきりぶん殴ってこい!容赦は無用だ!」

「「「はいっ!タコ殴りにしてきまーーすっ!!」」」


「ラフ!ラヴ!ミューイ!オークドゥ!翠玉!ヤツらの退路を断て!」

 "はいっ!"


「ミョリム!ラヴィッス!ヴォリル!マルルカ!お前さんたちは見学だ!そして、ハニーたちの怪我に備えろ!いつでも治癒が行えるようにしておいてくれ!」

 "はいっ!"


「ユリコ!……」

「私はあなたの指図は受けないわ。ここで見学させてもらうわね」

「んぐっ!ま、まあ……それでいい。そうしてくれ!」



 ◇◇◇◇◇◇◆



「…はぁはぁはぁ、お、俺たちが悪かった。も、もう勘弁してくれ!頼む!」

「はぁはぁはぁ……あ、あんたたちは何者なんだい? 私たちランクAを子供扱いするなんて……」


 結果は予想していた通りだった。

 このランクAのクソ冒険者どもは全員、ハニーたちによって瞬殺されてしまう。

 まさにあっという間に決着がついてしまうので、ハニーたちの練習台にもならなかった。俺が出すゴーレムの方が余っ程ましだ。


 だから、計10回ほどコイツらを生き返らせて、ハニーたちの相性を見るために色々と組み合わせを変えながら戦わせてみたのだが、時間の無駄に過ぎなかった。

 ハニーたちは最後には俺のまねをしてみたいと言い、デコピン一発でコイツらの頭を吹っ飛ばした。

 コイツらの必死の抵抗も無意味だった。一方的にやられて即お終いなのだ!


 あまりにも弱い……弱すぎる!話にならない!


「はぁはぁ…この階層に来るまでにオークぐらいしか敵らしい敵がいなかったのはてめぇらが殲滅してきたからなのか?

 妙だと思ったんだよなぁ。魔物溢れを調査するように言われてやって来たのに、魔物がほとんどいねぇんだからなぁ」


 クソ野郎のひとりが俺に向かってそんなことを言う……


「てめぇらだとぉ~?貴様ぁ~っ!ダーリンに対して失礼だろうっ!そこに直れ!成敗してくれるっ!このお方がどなたなのか、まだ分からぬか!眉間の尊き御印が目に入らぬのか!?」

「ひいぃぃぃぃっ!」


 翠玉が口の利き方を知らぬクソ野郎を叱る!


 あれ?翠玉さんや?いつの間に『ダーリン』と呼ぶように?


「あーっ!翠玉ちゃん!やっぱりっす!なし崩しに…少しずつ嫁になるようにしていくかと思っていたっすが、一気に懐に入ったっす!見事っす!」


 翠玉がウェルリに向かってにっこりと笑う。誰もを魅了する笑顔だ!

 女性のウェルリでさえ頬を染めた。



「え?か、神?」

「今頃気付いたか!?この愚か者めがっ!四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!…か、勘弁してくれ!痛ぇよ!


 目の前で絶叫する仲間をみて冒険者たちはガタガタと震える。顔面蒼白だ!

 そういえば……コイツらはオークドゥの弟たちと戦ったんだろうか?


「おい、てめぇら!てめぇらは、上の階層のオークたちと戦ったのか?」

「ああ。殲滅してやったぜ!チョロいもんだったぜ!」


「なにっ!?」


 オークドゥが気色ばむ!


「オークドゥ、落ち着け。魔石が残っていれば蘇生してやれる」

「は…い……」

「てめぇら、倒したオークたちの魔石はどうした?」

「ひゃはははははっ!持っていくのも邪魔だしよぉ、そのまま残しておいたんじゃ復活するかも知れねぇからなぁ、全部粉々にしてやったぜ!ひゃはははっ!」


「な、なにいっ!?うがあああああああああっ!」


 ぎゃっ。ぐはっ。う。きゃ。うげっ。ゆるし……。


 オークドゥが怒りに任せて冒険者たちをロングソードで、それぞれ一刀のもとに両断していった!そして、それだけでは飽き足らないのか、死体となったヤツらをめちゃくちゃに切り刻んでいる!


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 冒険者たちを判別がつかないくらいに切り刻んでからオークドゥは剣を収めた。

 オークドゥは肩で息をしながら、グチャグチャになった冒険者たちを睨みつけていたが、突然声を上げて泣き出したのだ。


 弟を……そして、同胞を失った悲しみにオークドゥは慟哭する……



 ◇◇◇◇◇◆◇



「翠玉。悪ぃな。オークドゥの気持ちを考えるとヤツらを蘇生する気になれなくてなぁ……」

「はい、ダーリン。私にも彼の気持ちは理解できます。今回はこのままの方がいいでしょう」


 翠玉はこのまま『ダーリン』で通すつもりだな?……まあ、いいかっ!


 俺たちに襲いかかってきた冒険者たちの残骸?をシールドで覆い、烈火でなにも残らないように焼き尽くしてやった。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 今回成敗した6人組パーティーは多分、俺たちよりも前にギルドの要請を受けてこのダンジョンを調べるために神都を出たと思われる。

 このダンジョンは神都の東方おおよそ230km離れた位置にあり、神都からは馬車を使っても2日程度はかかるからだ。


 俺たちは転移でやって来たからヤツらよりも先にここに到着したと思われる。


 今後もヤツらのような冒険者がこのダンジョンにやってくるかも知れない。

 俺たちよりも早くこの地に到着して先に進んでいる冒険者がいる可能性もある。


 今後はもう少し慎重に歩を進めることにしょう。



「なぁ、シェリー?俺には分からねぇんだが……、このダンジョンの魔物の数って多い方なのか?」

「はい。私の経験から判断してですが……普通のダンジョンにいる魔物の数よりもかなり多いように感じます」

「なるほどな」


「それに……私たちが強くなりすぎたので楽に殲滅できましたが、多分ここにいる魔物のレベルは、他の場所に生息している同種の魔物たちよりもかなり高いように思われます」

「そうなのか!?俺はあまり魔物相手に戦ったことがねぇし……戦ったとしても、一発で"けりがついちまう"から全く分からねぇんだよなぁ……」


「ダーリンと出会う前の私たちでも普通の人食いスライムなら簡単に殲滅できたのですが、第1階層のスライムと戦ってみて感じたのですが、以前の私たちでは多分なにもできずに、ただ食い殺されてしまったでしょう。

 ラヴィッスちゃんの身体が飲み込まれて1日程度であれだけ溶かされてしまっていたことからも、スライムのレベルの高さが窺い知れます」


「それじゃぁ、やっぱり魔物溢れの兆候もあるし、それどころか、魔物のレベルが異様に上がっているようだということなんだな?」

「はい。そう思います」

「これは普通の魔物溢れってわけじゃなさそうだなぁ。やはり、シオン教の教皇の側近ってヤツがなんかやらかしていやがるんだろうかなぁ?」

「はい。女性だけを標的にしているのも妙です。既にその側近とやらはダンジョンマスターになっているのかも知れません」


「ところで、さっき始末した冒険者のように、他にもダンジョン探査を依頼されたヤツらがいると思うか?」

「はい。多分いるでしょう。最低でも5パーティーは依頼されているんじゃないでしょうか?私たちがダーリンに助けられた際の魔物溢れの調査には、私たちの他に6パーティーに依頼が出されていたようですし、ギルド側も通常はそうするようなことを言っていましたので……」


「なるほど。この先に既にいるのか、後からやって来るのか……とにかくまともなヤツらばっかりじゃねぇだろうからなぁ、注意しながら進む必要がありそうだな。

 まあ、俺たちがやられるようなこたぁまずねぇだろうが、用心に越したことたぁねぇからなぁ」

「はい」



 ◇◇◇◇◆◇◇



 たった今、ものすごく長い階段を降りて第5階層の入り口に到着したところだ。

 目の前はグランドキャニオンのような峡谷だった。


 この階層を進む前にマップで索敵してみたところ、体長3mほどの魔物の群れが何カ所かに分かれて、8グループ存在しているのが分かった。

 それぞれの群れは、だいたい5匹くらいずつ魔物がいるようだ。各グループ間の距離は数百mくらいは離れている。


 これならグループを1つずつ叩いても、それに気付いて他の群れが合流してくるようなことは無さそうだな。まずは一安心だ。


 いくつかの群れの中に、それぞれ、数名ずつのヒューマノイド女性らしき生命体反応が確認できた。これは嫌な予感しかしない。

 女性を凌辱することだけを目的にでもしたようなこのダンジョンのことだから、女性がどのような状態に置かれているのかが非常に気になるところだ。


 女性のいるグループの数は……8グループ中、3グループか。

 まずは、それら3グループから叩くとするか。女性たちの身が心配だしな。


 現在、俺たちのパーティーは17人か……3つに分けることにするかな。


〔第1班〕

 ザシャア、ウェルリ、ジー、ノアハ、マルルカ、オークドゥ。


〔第2班〕

 シェリー、ラフ、ラヴ、ミューイ、翠玉、そして、勇者ユリコ。


〔第3班〕

 俺、ソニアルフェ、ラヴィッス、ミョリム、ヴォリル。


 各班の筆頭がリーダーを務めることにする。

 そして、念のために各班にはミニヨンを100体ずつ帯同させるつもりだ。


 周囲の状況を確認せずにいきなり乗り込むのは愚の骨頂。

 ミニヨンを転送し、上空から魔物の種類、現在の状況、周囲の地形等々を今調べさせている。


 ミニヨンから送られてくる映像は、空中に投影されている。現在空中には3つの映像が映し出されている。これから向かう群れについての映像だ。


「あれはサイクロプスかっ!」


 女性たちの顔が見る見る内に青ざめ、表情が曇っていく……。俺が危惧していたことが目の前で行われていたからだ。これは急がねばならない!


 だが、焦りは禁物だ。ハニーたちに注意事項を伝える。


「ハニーたち!彼女たちを助けに行くぞ!」

 "はいっ!"

「サイクロプスのクソ野郎どもをぶっ殺せ!そして、女性たちを救出するんだ!」

 "はいっ!"

「だが、くれぐれも用心しろよ。ワナってことも考えられる。女性たちを救出する前にちゃんと魂の色を確認するようになっ!」

 "はいっ!"

「それと各自完全防御シールドを展開してくれ!そして、危うくなったら躊躇せず俺のもとへと転移して来いよ!いいなっ!?」

 "はいっ!分かりました!"


 サイクロプスの強さが不明だから少々心配なのだが……ハニーたちに戦闘経験を積ませることも今回の目的のひとつだ。班の仲間たちと協力して戦う経験も積んで欲しいと思っている。

 ハニーたちが少しでも危険な状況に陥ったら、即座にミニヨンがサイクロプスをフェイザー銃で撃ち殺す段取りになっている。



「さあ!それではハニーたち!出陣じゃぁーっ!転送!転送!転送!」


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