第0051話 転生者の秘密

 俺たちが夕食の団欒だんらんを楽しんでいる間に、アキュラスはなんと!ジーたちの夕食にされてしまっていたのだ!


 恐らく……アキュラスは、生きたまま食われてしまったものと思われる。


 今、"アキュラスホイホイ"のおりの中では、2時間ほど前まではアキュラスだった魔物、"スケルトン"がおりから出ようと足掻あがいている!


 アキュラスを食べたGのような虫型魔物は一旦巣へと戻ったようだが、俺たちが戻ってきた気配けはい察知さっちし、ここへせようとしているようだ!


 しかし……一体どこにこれだけのGがかくれていたんだろうなぁ?

 まあ、さっきと同じように、凍らせてから活火山の火口へぶち込むとするか!


超低温化ちょうていおんか!……そして、転送!」


 さてと、これでえずはこの周辺にいた虫はすべて退治したが……。


 Gのようだが鋭い牙が生えている虫型魔物が一体どこからいて出てきたのかが分からないと、おちおちここで野営などしていられない。


 そこで、ここと周辺を監視させていたミニヨンたちの記録映像を解析かいせきすることにしたのだが……俺たちが殲滅せんめつくしたものと思っていた虫たちがどこからいて出てきたのかはすぐに判明した。


 あるミニヨンが記録した映像に、石の壁をやぶって、ゾロゾロと虫たちが出てくる場面が映っていたのだ。そう。その場所は勇者ユリコたちが、魔誘香まゆうこうによって魔物たちを導き入れて閉じ込めたと思われる部屋だったのだ!その中から虫が出てきたのである!


 虫が出てきた穴は小さい。だから、スケルトンまでは通り抜けられないようだ。


 俺はテントの中へと入り、食堂でハニーたちと話をしていたユリコとマルルカのもとへと向かう。魔物を閉じ込めた場所について聞くためだ。


 彼女等の話では、魔物を閉じ込めた場所は全部で3カ所だった。


 すぐにその場所へミニヨンを派遣して調べさせたのだが……

 勇者ユリコによって魔物を封じ込めるために作られた壁は3カ所とも虫型魔物が通れるくらいの穴が開けられており、その中ではなにやらガチャガチャと音がしている!?

 多分、音を出しているモノの正体はスケルトンだろう。その場から脱出しようと足掻あがいているに違いない。


 ミニヨンは壁の向こうを念入りに調べるために壁をこわしたのだが、壊された壁の向こうからは、あんじょう、スケルトンが"うじゃうじゃ"と出てくる!

 ミニヨンはすかさず神術"爆殺ばくさつ"を放って、スケルトンたちの頭部を吹き飛ばしてあっさりと殲滅せんめつしたが、やはり、壁の向こうには虫型魔物は一匹もいなかったのだった。


 そんな光景が3カ所すべてで見られた。

 どうやら、虫型魔物はすべて逃げ出してしまったようだ。


 先ほど俺が倒したGたちが最後で、その他にはいないと思うが……念のために、マップ上で確認し、さらにミニヨンたちにもこの階層全体を隈無くまなく確認させたのだが他には見つけることはできなかった。


 これでようやく安心してねむれるな。ふぅ。


 ひと息つくと、あたりが静かなだけに元はアキュラスだったスケルトンがおりから脱出しようとしている音がうるさく感じられる……。


 アキュラスはもう死んでいる!動いているのはあくまでもスケルトンだ!


 そう今は単なる魔物だ!アキュラスの魂とは接続せつぞくたれた存在なのだ!

 アキュラスを生き返らせるかどうかにかかわらず、必ず、最低でも一度は倒さねばならない存在である。だから、サッサと倒すことにした。


「ガチャガチャとうるせぇヤツだな!ったく!……頭蓋骨ずがいこつ粉砕ふんさい!」


 ボォファッン!………………シーーーン……あたりは静寂せいじゃくに包まれる……。


 一晩中ガチャガチャガチャガチャやられたんじゃあ、たまったもんじゃないから頭蓋骨を吹っ飛ばしてやったぜっ!



 アキュラスを生き返らせるか否かの検討も含めて、すべては明日目がめてから行うことにしよう……。ただ、念のためにアキュラスの『魂の履歴りれき』はコピーしておくことにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『ダーリン。起きている?さゆりです。……もう寝ちゃったかなぁ?』


 さゆりからの念話だ。なにか緊急事態だろうか?


『いや。起きているぜ。どうした、さゆり?なんかあったのか?』

『うん。ついさっきなんだけどね、地球からメッセージが届いたんだ。

 それでね、内容が内容なだけに一刻いっこくも早くダーリンに知らせておいた方がいいと思って……』

『そうか。色々気を使ってくれてありがとう。……それで、どんな内容なんだ?』


『あのね。今日ダーリンがね、勇者ユリコが橘ユリコさんだと思うが、でもなんか別人のように思えるようなことを言ってたでしょ?』

『ああ』


『そのことと関係があるかも知れない"ある事実"が明るみに出たんだよ』

『な、なに!?』


『あのね。今逃げ回っている女がいるでしょ?私の前任者』

『ん?見つかったのか?』


『うぅんうん、まだなんだけどね。

 その逃亡中の前任者の部下がね、なんかねぇ……橘ユリコさんを転生させる前にとったらしいバックアップデータを隠し持っていたらしいんだよねー』

『バックアップデータ?……ということは、魂に手を加えたかも知れねぇのか?』


『さすがはダーリン!そうなのよ!魂に細工さいくしたらしいんだよ!』

『くそっ!なんてことをしやがったんだ!……で、どんな細工だ?』


『バックアップデータを隠し持っていたヤツの話だとボスから指示されてね……

 転生後に再生成される脳神経細胞のうしんけいさいぼうネットワークが、元のモノとは異なってしまうように細工させられたらしいんだよ』

『えっ!?なんだって!そんなことをしたら……』


『そうなんだよ。人格が変わっちゃうかも知れないんだよ!ひどいことするよね!』


 ああ……なんて事だ……ユリコ……。


『あ、それからこれが最も重要だと思うんだけど、そいつは元上司が指示していたたちばなユリコさんの転生先を覚えていたらしいんだよ!』

『えっ!?ユリコの転生先が分かったのかっ!?』


『うん!そう。分かったんだよ!

 なんと!ダーリンの思った通りだった!やっぱりこの世界だったんだよ!

 だからね、時期的に見ても勇者ユリコが橘ユリコさんに間違いないと思う。

 どう?すごい情報でしょう!?』

『な、なんということだ……ああ……』


 さゆりの話では……

 その部下は、転生後に再生成される脳神経細胞ネットワークの元となるデータを改竄かいざんして、壱石振一郎に対して抱いていた感情を削除すると同時に、ハーレムへの強い忌避感きひかんを植え付けることを指示されたらしい。


 つまり、橘ユリコがこの世界に来てからも引き続き持ち続けていると思っている日本人だった前世の記憶と感情は、実は彼女本来のものではなくて書き換えられてしまったものなのだ。そう……彼女は別人になってしまったようなものである。



 その部下というヤツは優秀な技術者なのだろうと思う。


 その作業をする前に、ミスなどによってデータが損傷そんしょうしたとしても、やり直しが可能なようにあらかじめ『橘ユリコのデータ』をバックアップしておいたのだ!


 俺は見たこともないその部下というヤツに、心から感謝のねんいだいた!

 クソ上司の下には、を見ない優秀な部下がいるものなのだ!



 その部下は、元上司であり、今は逃亡中の身である元日本担当者がつぶやくのを聞き逃さなかったらしいのだが……

 どうやらそのクソ上司は自身の失脚しっきゃくは、俺には何も罪がないというのに、すべて俺の所為せいだと逆恨さかうらみしていたらしいのだ。


 逃亡前に上司は、まるでかれたかのように……


 『壱石振一郎め!お前のせいだ!絶対にゆるさん!せめていやがらせをしてやる!』


 と、ブツブツとつぶやいていたらしい。


 だから、その部下は元上司の最後の仕事である、『シオン神聖国への転生用魂の送付』によってこの世界に送り込まれてきた転生者……

 つまり、シオン神聖国からの要請ようせいで"この世界へと送り込まれてきた日本人"にも注意しろ……とも言っていたらしいのだ!


 そいつらは、俺になんらかのいやがらせをするために送り込まれた可能性が高い。


 アキュラスが、まるで俺のことをしたっている女性だけをねらって性奴隷にしているかのように思えたが……本当にそうしていたのかも知れないのか?くそっ!


 それにしても……

 橘ユリコが本来の彼女ではないと知ってなんかホッとした。


『さゆり……本当に…本当にありがとうな!心から礼を言うぜ』

『ふう~。すぐに知らせてよかった! 夜も遅いから、すっごく迷ったんだよね!

 でも、ダーリンの気持ちを考えたらさあ、すぐにでも知らせなきゃだめなような気がしたもんだからね……』


 彼女の気持ちがとてもうれしかった。

 心の底からの感謝と、たまらないいとおしさを感じる……。


『ああ……本当に、本当にありがとう!ハニー!大好きだぜ!』

『うふふ。て、照れるなぁ~。うふっ。私もよ!ダーリン。

 あっ、そうそう、それでね。日本担当者の子から、橘ユリコさんのバックアップデータが必要なら送るって言われたんで、送ってくれるように頼んじゃったけど?

 それでよかったよね?』


『さゆりは"ほんとーうにっ!"よく気が付くいい子だな!

 ありがとう!心の底から愛しているぜ!』

『でへへぇ~』


 橘ユリコのバックアップデータは、明日にもさゆりのもとへと届けられるということであった。


 さゆりは本当にいい子だな。心が綺麗きれいな子だ……ともすると恋敵こいがたきになりかねない橘ユリコのことなのになぁ……ありがとうな、さゆり!


 俺は改めて……いや今まで以上にこの"さゆり"という女性が好きになった。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「それじゃぁ、シン。私に転生をやり直せっていうの?」

「そんな無体むたいなことは言わねぇよ。この世界に転生して、現にそうやって存在しているんだからな。お前さんを殺すようなまねはできねぇよ」


 一夜明けて、朝食の席でのことだ。

 俺は、昨日さゆりから聞いた事実を、勇者ユリコにげている。


「私を殺す?本来の私にもどるだけなんじゃないの?」

「いや、ユリコ。よく考えてみろよ。再転生ってことになると一旦今のお前さんを構成している情報をすべて消去することになる。

 そうだなぁ……PCのリカバリのようなもんだよ。リカバリする時点までに生成されてきた貴重なデータがすべて消えちまうんだ。それはつまり、今のお前さんの死を意味することになる。そうだろ?」

「リカバリってなあに?」


 そうかっ!ユリコは日本では何十年も前に亡くなったんだった!


 まだ一般にPCが普及ふきゅうしていない時代だった!貧乏びんぼう学生だった俺には高嶺たかねはな。PCなんて高価で、とても買えるようなものではなかったんだよなぁ。

 そういえばあの頃、3.5インチフロッピーディスクドライブ搭載とうさいのFM77が欲しかったんだっけ……。


 あの当時は、まだフロッピーディスクドライブは主流じゃなくて、プログラムやデータは音データ化してカセットテープ等に保存していた時代だ。

 ちなみに……データが保存されたカセットテープを再生すると"ピーヒョロロ"というような音がする。


 そうだよなぁ、あの時代に亡くなったユリコには分かるわけはないよなぁ……。


「そ、それは忘れてくれ。お前さんが亡くなってから一般に普及したパーソナル・コンピュータに関する用語なんだ。ごめん。

 そうだな、再転生させるってことは、大事な音楽が入っているカセットテープに上書うわがき録音しちまう感じかな。もともと入っていた音楽は消えちまうだろ?そんな感じで、今の現在の貴重なお前さんという人格というか存在が消えちまうんだ」


「シン。あなたは優しいのね。あなたが愛した"かつての私"じゃなくて"今の私"の方を生かしてくれるんだね?……でも、そうなると、"あなたが愛した私"は死んだままってことになるのね?」


「いや。かつてのお前さんも助けるぜ」

「ニセ者の私だけじゃなくて、本物も助けられるの?」


「おいっ!ユリコ!自分のことをニセ者だなんて言うな!

 お前さんはもう生命体として独立した一個の存在だ!ニセ者なんかじゃねぇ!

 お前さんもれっきとした本物なんだよっ!

 いいかっ!もう絶対に……二度と自分をニセ者って言うなよ!」

「分かったわ。だからそんなに怒らないで。でも嬉しいわ、そう言ってくれて」


「でもどうやって助けるんですかぁ?邪神じゃしんのあなたにできるんですか?」

「マルルカよ。相変あいかわらず失礼だなぁ!俺は邪神じゃなくて、本物の神なの!」


 ユリコのそばには、まるでワンセットだとでも言わんばかりに、いつもマルルカがいるのだ。


「マルルカ。本物の神である俺にはそれをやれる力と権限けんげんがあるんだ!

 お前さんが信じているニセ者の女神には無理だがな…って、そもそも女神シオン自体が存在しねぇけどな!」


「ねぇ、シン。同じ人間が二人、同じ世界に共に存在できるものなの?」

「うーんとなぁ……ひとつの魂を二重起動するというか、複数の肉体に結びつけてこの世に存在させることはできねぇし、できたとしても、それは禁止されている。

 だが、お前さんの魂はもう日本で生きていた頃のユリコとは全くの別人になっているから、バックアップデータからそのまま復元ふくげんされたユリコとはこの世界で共に生きていくことは可能なんだ。ルール上も問題ねぇ」


「でも、魂自体は私が使っているし、肉体もバックアップデータ用に必要なんじゃないの?私を二重人格にするつもりではないんでしょ?」

「もちろん。身体を共有させることなんてしねぇよ。別の身体を用意するし、魂も

別に用意するつもりだ」


「えーっ!?そんなことができるんですかぁ?信じられなーい!」

「だ・か・らっ!俺はこの世界の神だっつうのっ!

 今のユリコの肉体だって本来は俺の助手を作るために用意されていた特別な肉体なんだからなっ! 助手のシオンが勝手に俺の所から持ち出したものなんだぞ!

 新たに別の肉体を作るなんざわけねぇことだ!」


「ふう~ん。シン。あたなは、この身体も俺のモノだっていうの?」

「いや。そんなことは言わねぇよ。返せなんて言わねぇから安心しろ」


「あなたのハーレムメンバーに無理矢理入れられて、おもちゃにされるかと思って心配しちゃったわ。ハーレムメンバーになるなんて真っ平ごめんだからね!?」

「かつてのユリコとお前さんとの違いはなぁ……俺に対する感情が消されちまっていることと、ハーレムへの強い忌避感が植え付けられたことなんだ。

 だから、そう考えるのも無理はねぇけど……心外だなぁ。

 俺はそんなことはしねぇよ、絶対になっ!」


「ちょ、ちょっと待って下さい!今てならないことを言いましたね?」

「ん? 俺、なんか言ったか?」

「はい。助手のシオンって……女神シオン様はあなたの助手だったんですか?」


 俺はちょっとだけ威圧いあつした。

 マルルカは青くなってふるえだす……。


「いいか。ひとつ教えておいてやろう……。

 俺の助手だったシオンは、シオン神聖国に拉致らちされていることがわかっている。

 俺が一気にあの国をほろぼさねぇのはシオンの行方ゆくえが分からねぇからだ!

 本当なら今すぐにでもあの国をこの星から"完・全・に!"消し去ってやりてぇんだがなぁ……今はそれをグッと我慢がまんしているんだ!」

「ひぃっ!」


 マルルカがこしかしたようになってしまった。顔色かおいろは紙のように白い。


「いいか、マルルカ。今言ったことは絶対に他には言うなよ?いいな!?

 言ったらお前さん……多分、シオン神聖国に始末しまつされちまうぜ!?

 ヤツらが女神とあがめるシオン自身を、シオン教幹部かんぶたちが拉致らちして、おのれの欲望をたす道具としてのみ彼女の力を利用しているってことは、絶対に知られたくねぇだろうからなぁ……。ご用心、ご用心ってことだ。いいな?」

「は…い……でも……」


「……マルルカ。これ以上聞くと、お前さんはしならぬ状態に追い込まれるかも知れねぇぞ?これはデリケートな問題だぜ。これ以上は首を突っ込まねぇ方がいいぜ。お前さんの身のためだ。いいな」

「は…い」


「勇者ユリコ。お前さんもだ。いいな?」

「大丈夫。それくらい分かってるって。それに……もうシオン神聖国へは戻らないつもりよ。シン、嫌かも知れないけど、あなたのそばにいることにするわ。

 あ、でもハーレムメンバーになるって意味じゃないからね!

 そこは勘違かんちがいしないでね。いいわね?」

「ああ。分かってるって。お前さんの好きにすればいいさ」

「それじゃあ、私も勇者様とご一緒します。いいですね、シン?」

「ああ。お前さんも好きにすればいいさ。

 ただしなぁ……今後、俺のことを"邪神"と呼ぶのは"なし"だぞっ!いいな?」

「わ、分かりましたよ!これからはシンと呼びますよ!」


「それで……もうひとりの私をこの世界に転生させるのは何時いつ?今からなの?」

「いや。今日中にはバックアップデータが届くから、またおりを見て…ということになるだろうな。今はこのダンジョンを攻略するのが先決せんけつだからな」

「ふう~ん、そうなの。でもなんか、双子の妹ができるようで楽しみだわね。

 早く会いたいわ」

「俺もだ!俺が愛したユリコに早く会いてぇよ!心底しんそこな!」


「私じゃダメってことなのね?失礼しちゃうわ」

「だってお前さんは俺のことをきらっているじゃねぇか?だろう?」

「あ、あなたのことは……きらいじゃないわ。ハーレムを作って女性たちをはべらせていい気になっているのが嫌いなの!」

「いい気になってなんかいねぇ!って、これは議論が平行線になるパターンだし、不毛ふもうだ。やめよう」


 やっぱり、こっちのユリコとはどうもりがわないような気がするなぁ。



 ◇◇◇◇◇◆◇



「ゆ、ユリコ……鬼神おにがみ 亜輝良あきらがお前さんを殺した犯人だったんだよな?」

「ええ。間違いないわ。亜輝良よ!亜輝良にレイプされそうに……うう……」


 勇者ユリコの顔が真っ青になる。そして、ガタガタと震え出したのだ。


決着けっちゃくは俺がつける!お前さんはハニーたちの所へ行っていろ。いいな?」

「わ、私もここにいるわ。この男をあなたがらしめてくれるのを見ているわ」

「多分、俺がこれからすることは、見ていてあんまり気分がいいもんじゃぁねぇと思うぞ?それでもいいのか?」

「ええ。本当なら私が制裁せいさいくわえたいくらいよ!」


 アキュラスを復活させてらしめる前に、ねんのために、ヤツの魂の履歴りれきを調べてみたんだが……なんと、アキュラスは憎きにっくき!ユリコのかたきだったのだ!

 そうだ、鬼神おにがみ 亜輝良あきらだったのだっ!

 クソ野郎アキュラスの正体がとんでもないクソ野郎、鬼島亜輝良である可能性も考えてはいたのだが、まさか本当にそうだとは驚きだ!


 これはねがってもない復讐ふくしゅうのチャンスだ!


 現在逃亡中である地球の管理助手だった元日本担当者が、俺への嫌がらせで魂のくさりきったヤツを送り込んだつもりなんだろうが……正直に言うなら、感謝したいくらいだ。


 願ってもない復讐ふくしゅう機会きかいをくれてありがとうってさけびたい心境しんきょうだぜっ!

 これでユリコのかたきてる!御為おためごかしの親切で、俺をバカにしてきたコイツをボコボコにできるのだっ!


「こんな身近にいただなんて……ホント、ゾッとするわ!」

「そうだな。魂の履歴を見ると、コイツはお前さんのパーティーメンバーを自分のハーレムメンバーにするつもりだったようだぜ。あぶなかったなぁ」

「ほ、ほんと。あなたに出会えてよかったわ」


「やはりコイツは、逃亡中の地球の元日本担当者から、俺に嫌がらせをするように言われている。

 それも神殿関係の女性たちをねらって性奴隷にするように指示されていやがるっ!

 コイツも許せんが、逃亡中の元日本担当者も絶対に許さん!くそっ!

 そいつは一体どこにいやがるんだ!」


「この男は女のてきね!……それでどうらしめるつもりなの?」

「最後だけは決めてあるんだがな。アマゾネス・オークのにえにするつもりだ。

 凌辱りょうじょくされる者のつらさ、苦しさ、悲しみをたっぷりと味わわせてから、生きたままアマゾネス・オークたちに食わせようと思っている。

 だが、それまで、どうやって苦しめようかなやんでいるところだ」


「この男の奴隷にされていたあなたのハニーたちにも復讐ふくしゅうさせるの?」

「彼女たちが望めば……だがな」

「そう。優しい女性たちだから、復讐はできないかもね?」

「ああ」


 アマゾネス・オークには、人族のクソ野郎を送るから受け入れ準備をしてくれとすでに伝えてある。

 それでは、蘇生そせいさせることにしようか……。


「修復!……そして、蘇生!」


 アキュラスこと鬼神おにがみ 亜輝良あきらよみがえったのだった。復讐されるためだけに!



 ◇◇◇◇◇◆◆



「……う、うう……ん?……はっ!?」

「よう。鬼神!久しぶりだなぁ?」

「な、なぜお前が転生前の名前を知っているんだ?くそっ!う、動けない!?なぜ動けないんだっ!?」


 鬼神よ……お前が動けないのは"見えざる神の手"で拘束こうそくされているからだよ。


「分からねぇか?俺だよ、俺!」

「し、知らねぇよ。そんなオレオレ詐欺さぎみたいなことを言うヤツなんか知るか!」


「俺だ。壱石ひとついし 振一郎しんいちろうだよ」

「な、なに!?シン?……お、お前もこっちに転生して来たのかっ!?」


「いいや。俺は転生者なんかじゃねぇよ。ここが俺の世界だ。

 地球へは、ちょいと遊びに行っていただけだ。

 俺が日本人やってたときは"大変世話になった"なぁ。

 今回のてめぇの悪行あくぎょうの分もふくめて、たっぷりとれいをさせてもらうことにするぜ!

 四肢粉砕ししふんさい!」


「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛い!痛い!痛い!……」


「修復!」

「はぁはぁはぁ……お、俺がなにをしたってんだ!?」

「はあぁっ!?よくもまあぬけぬけとっ!それじゃぁ言って聞かせようか!?


 ひとお~つ!ユリコを凌辱りょうじょくしようとしておそい、殺したこと!

 ふた~つ!御為おためごかしの親切で、なにも知らねぇ俺をバカにしていたこと。

 みぃ~つ!俺に思いをせる獣人族の女性3人を無理矢理性奴隷にしたこと。

 よぉつぅっ!その無理矢理性奴隷した女性たちを、てめぇらが逃げ延びるためのごまにしたこと。

 いつつぅっ!勇者ユリコとヴォリルだけを残してボス部屋から逃げたこと。

 むっつぅっ!聖女マルルカを凌辱しようとしたこと。


 どうだ?全くてめぇは……とんでもねぇクソ野郎だよなぁ?

 そうだよ、忘れてた!てめぇたち父子は親父の権力を使ってユリコ殺害の真相に近づいた刑事までも殺していやがるよなぁ?」


「な、なんのことだか全く分からないな……い、言いがかりはよしてくれっ!」


 ヤツが犯した数々の犯罪行為を、空中に映像を投影して見せてやった。

 もちろん、それはヤツの魂の履歴に記録されていたものだ。


 ヤツの恋人、如夜叉にょやしゃ 閒利子まりこも共犯者として大きな役割を演じていた。

 ユリコ事件で、鬼神を教唆きょうさした如夜叉閒利子がこの場にいないことが……ここでばっすることができないことがくやしくてしようがない。


「よくもまぁこれだけの悪事あくじかさねてきたもんだなぁ……まさかこのまま、ただでむとは思っちゃいねぇよなぁ?覚悟かくごはいいか?」


「ま、待ってくれよ!お、俺は悪くない!

 ユリコのことも……あ、あの女の方からさそってきたんだ!あいつはビッチだ!

 本当だ! お前はたぶらかされていたんだぞ!」

「お~い、ユリコや。こう言っているぞ?どうする?」


「なっ!?デタラメばっかり!ぜっ!たいにっ!ゆる・せ・ないっ!四肢粉砕!」

「ぎゃあああぁぁっ!う、うそです!痛い!痛い!ご、ごめんなさい!痛い!……」

「よ、よくもぬけぬけと!あなただけは絶対に!絶対にゆるさないっ!」


 あまりの激痛げきつうに、鬼神は気を失ってしまった。



 ◇◇◇◇◆◇◇



「お…俺が悪かったよぉ……た、頼むよぉ……た、助けてくれ……」


 アキュラスこと鬼神は、俺とユリコから徹底的てっていてきに痛めつけられることとなる。


 ユリコにとっては攻撃神術のいい練習台となっているようだ。

 彼女はりとらゆる攻撃神術をためすかのように鬼神に向けてはなっている。


 マルルカ、ラヴィッス、ミョリム、ヴォリルは、最初は復讐ふくしゅうをするつもりだったようだが、自分たちが放ったファイヤーボールでアキュラスが苦しみもだえながら焼け死んでいくのを見て気分が悪くなってしまい、俺たちに後を任せてこの場から立ち去った。



 アキュラスこと鬼神は何度か激痛にえられず死んでしまったが、そのたびに俺が蘇生そせいしてやったから、死によって苦痛から解放されることも許されなかったのだ!


 簡単に殺してしまうような『ご褒美ほうび』をコイツにやるわけがない!


「う……うう……こ、殺してくれぇ……もう楽にしてくれよぉ……」

「てめぇは考えが甘ぇあめぇなぁ……これくらいでげるんじゃねぇよ。お楽しみはまだまだこれからだぜ?こ・れ・か・らっ!はははっ!」


 ユリコのうらみはかなり深かったようだ。

 アキュラスが、無抵抗むていこうすがままにされるようになるまで、ヤツの心が完全にへしれてしまうまで、ユリコの制裁せいさい執拗しつように続けられたのであった。


 俺はユリコを敵に回すのだけは絶対にしてはいけないと思ったのだった……。



 ◇◇◇◇◆◇◆



「どうだ?ユリコ。もう気は済んだかな?

 そろそろアマゾネス・オークのにえにしてぇんだがなぁ?」

「ええ。気が済んだわ。本当は私の手でこの男の息の根を止めたいところだけど。

 それじゃぁ凌辱される者の苦しみとかを、この男に味わわせられないからね?

 だから後はお願い。シン!無理矢理奴隷にされた子たちのためにも、絶対に思い知らせてやってね!」

「ああ。分かった。修復!」


 アキュラスはユリコが言った『気が済んだわ』という言葉を聞いて、これでもう苦痛から解放されるんだ!……というようなホッとした表情を一瞬浮かべた。

 だが、その後の俺たちの会話を聞くや、ガタガタと震え出す。顔面蒼白がんめんそうはくだ!


「おいおい……ははは。まさかもう勘弁かんべんしてもらえるとでも思ったか?甘ぇなぁ。

 お前の大好きな、うはうはサービスが待っているぜ!お楽しみはこれからだ!


 さてと……アキュラスこと鬼神亜輝良!判決はんけつわたすっ!


 主文しゅぶん!……てめぇをアマゾネス・オークへのにえけいしょする!!

 判決理由は……知っての通りだ!クソ野郎!だから省略! 抵抗は無意味だ!

 凌辱される者の気持ちを…女性たちが味わった苦痛をたっぷりと味わいながら、生きたまま食われて死んでこい!! 以上だ!」

「はぁはぁはぁ……ま、待って…く…れよぉ……たす…けて……」

「……転送!」


 こうして、鬼畜、アキュラスこと鬼神亜輝良は、アマゾネス・オークの生け贄にされるために転送されていった。ただ……


 ヤツの苦しみはアマゾネス・オークたちに食われて終わるわけではない。


 当然、"輪廻転生りんねてんしょうシステム"のブラックリストにもヤツの情報がせてある。

 だから、ヤツに待っているのは地獄だ。たっぷりと地獄の苦しみを味わいながら消えてしまうことになるだろう。魂もボロボロにされてから消え去るのだ!


 自業自得じごうじとくだっ!



 ◇◇◇◇◆◆◇



 テントの中からこちらの様子ようすうかがっていたオークドゥと目が合って思った……。

 そういえば、アマゾネス・オーク・クイーンは名前持ちなのかな?


 もしも、いつも世話になっているクイーンが名前を持っていないのに、貢献度こうけんどの低いオークの王にだけ名前をやっちまっているというのなら、それはマズい!

 不公平だ。それではクイーンに大変申し訳ない……と、ふと思ったのだ。


 俺は間抜まぬけだなぁ。オークドゥに名前をやったときに気付くべきたっだのに!


『もしもし、クイーン。ちょっといいか?』

『はい、もしもし。上様。なんでしょうか?』

『付かぬ事を聞くが……お前さんは名前持ちか?』

『え?』

『急にごめんな。お前さんには名前があるのかなぁ?と、ふと思ってな』

『残念ながら、名前持ちではありません』

『そうか。それじゃぁ、お前さんさえよかったら、俺に名前を付けさせてくれねぇかなぁ?どうだ?』

『ありがたきお言葉!是非ぜひ是非ぜひお願いします!』

『そ、そうか!それじゃぁ、今からそっちへ行ってもいいか?』

『あ、はい……い、いえ。すみません。ちょっと準備が……』

『そうか。では、準備ができたら言ってくれ。それじゃぁな!』

『は、はいっ!申し訳ありません』



 ◇◇◇◇◆◆◆



 アマゾネス・オーク・クイーンの準備が整ったとの連絡が入った。

 それで、彼女のもとへと転移したのだが、一瞬呆然ぼうぜんとしてしまったのだった。


 アマゾネス・オークの女王ということなので、ぶよぶよ体型のオークが女装しているかのような女性をイメージしていたのだが……まったく違った!


 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、きたえ上げられた肉体!

 素晴らしいプロポーションだ!しかも、すごい美人だった!

 肌の色は緑色……ものすごい美女だ!


「ど、どうされましたか?上様?」

「いやなに……お前さんがすげぇ美人なんで、思わず見とれてしまったんだよ」

「上様はお優しいですね。こんなガリガリでみにくい女なのに……」

「どこがっ!?お前さんは自分のことが分かっちゃいねぇぞっ!すげぇ美人だぜ!クラクラしちまうくらいの美人だ!れちまいそうだぜ!」

「お上手ですね。でも……ありがとうございます」


 後で聞いてみたところ、どうやらアマゾネス・オークの美の基準ではふくよかな女性が美しいらしい。

 そして、鼻が大きくて上を向いている方がより美人だということだった。

 だから、その基準に照らすと、クイーンは容姿ようしひどおとっていることになる。


 "うぎゃああああっ!いやだぁーーっ!"


 どこからか男の絶叫ぜっきょうが聞こえてくる。多分アキュラスだな?


「それじゃぁ、早速お前さんに名前をさずけようかな。なんか希望とかあるか?」

「いえ。上様にお付けいただけるのなら、どんな名前でも嬉しゅうございます」

「そうか……それでは!命名する!今日からお前さんは『翠玉すいぎょく』と名乗れ!」

「ははっ!ありがたき幸せでございます。……うう……ああ…ああんっ!ち、力が全身に……みなぎってきますっ!!」


 さて、この子も進化したかな?……ステータスを確認っと……

 おおっ!ロイヤル・アマゾネス・オークに進化したぞ!


翠玉すいぎょくや。お前さんはロイヤル・アマゾネス・オークに進化したぞ。

 今までよりもかなり強くなっているはずだからな、しばらくは力の加減かげんが難しいかも知れねぇ。気をつけるんだぞ?」

「ははっ!承知しました!きもめいじます!ありがとうございました!」


 進化したら、もう沈魚ちんぎょ落雁らくがん閉月へいげつ羞花しゅうかだ!シオリクラスの美人になったのだった!


「いやぁしかし翠玉、お前さんはすげぇ美人だよなぁ!眼福がんぷく眼福がんぷく!」

「ほ、本当にそう思っていらっしゃいますか?」

「もちろん!お前さんたちアマゾネス・オークの美的感覚は分からねぇが、恐らく世界中の男どもがお前さんにはれちまうぜ!本当にすごい美人だからな!

 自信を持て!俺が保証してやるぞ!」


 翠玉はもじもじしながらほほめる。


「あのう……上様。私は生まれてからかた、この集落を出たことがありません。それで……不躾ぶしつけなお願いですが、私に外の世界を見せていただけませんか?」

「ん?」

「上様のお供をしてはだめでしょうか?私を……上様と一緒に連れてっていただけませんでしょうか?」


 なるほど。オークドゥと同じように世間知らずってことか。

 オークドゥに許可しているのに翠玉はダメだというのは、敵対関係にある両者であるだけにマズいかもなぁ……。


「よし!分かった!お前さんを連れて行ってやろう!俺の仲間になってくれ!」

「はい!ありがとうございます!」


「ただし、人族ってのは、とかく自分たちと異なる者を差別したがる傾向があってなぁ。今のお前さんのはだの色だと嫌な目にっちまうかも知れねぇから、肌の色を人族のそれに変えておいた方がいいと思うんだよ。そうしてもいいか?」

「はい。それで結構けっこうです」


「よし、それではお前さんの肌の色を変えて……お前さんを俺の嫁さんたちと同じように加護しよう。

 今俺たちはダンジョンを攻略中でな、今のお前さんの格好では、ダンジョン内を進むにはちょっときびしいだろうからな、お前さんにもハニーたちと同じ装備一式そうびいっしきをプレゼントするよ。

 だけど、俺は気に入っているんだけど、嫁さんたちはずかしいって言うんだよなぁ……お前さんも嫌かも知れねぇが身の安全のためだ。我慢がまんしてくれよ」


「はい。私も上様のお嫁さんの一員なのですねっ!?嬉しいです!」

「い、いや。違うって!

 ダンジョン攻略パーティーのメンバーになってもらうだけだって!

 勘違いするなよ!?」


 な~んか翠玉が肩を落として、がっかりしているなぁ?


「そうですかぁ……な~んだ。

 でも…きっとチャンスはありますね。 がんばろう! ごにょごにょ……」

「ん?なんか言ったか?」

「い、いえ!なにも!あはははは」


 これはどうもいつものパターンじゃないのかぁ?ついに俺は、魔物まで嫁にすることになるんだろうか?


 まあ……こんな美人の魔物だったらウエルカムなんだけどね……ふぅ。

 六根清浄ろっこんしょうじょう一根不浄いっこんふじょう……。


 しかし……俺っていつからこうなっちまったんだ?


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