第0049話 聖女マルルカの危機

「うぎゃぁぁっ! だ、ダーリン! が、骸骨っす!骸骨が襲ってくるっす!」


 俺の後ろで悲鳴が上がっている。

 俺たちに迫り来る音の正体にいち早く気付いたのはウェルリであった。

 不気味な音と雰囲気に怯えて震えていたハニーたちは、ウェルリの発した言葉を聞いて驚愕した!


「ハニーたち落ち着いて!大丈夫だ!シールドが防いでくれるからな。落ち着いて攻撃神術をぶっ放してやれ!……シェリー!指揮を執ってくれ!」

「はっ!方円陣形!」


 シェリーはすぐに俺を中心とする円となるように、ハニーたちに俺を囲ませた。

 ハニーたちは俺に背を向けた状態だ。


 ここに来るまでに見た無数の白骨遺体のようだな。俺たちがこの部屋に入るまで息を潜めてじっと待っていたのか?……ん?死んでいるから息を潜めるは変かな?

 しかし、腐乱した遺体が1つもなく、みんな真っ白な骨だったから、なんとなく違和感を覚えていたが……なんとまぁ、こういうことだったのかぁ。



「まずはウインドカッターの準備をっ!……よし!放てっ!」

 "ウインドカッター!!"


 俺たちを守るシールドをすり抜けて風切り音と共に風の刃がスケルトンたちへと向かっていく……すべての風の刃が命中し、スケルトンたちを斬る!百発百中だ!


 スケルトンたちは風の刃によって、まるで、『スパッ!』という音がしたのではないかと錯覚しそうなくらい見事に骨の身体を両断され、"ガシャガシャン"と音を立てて崩れ落ちていく!

 だが、風の刃の威力はなおも減衰しないっ!両断されて崩れ落ちたスケルトンを踏みつけながらこちらへと向かってくる別のスケルトンまでをも容赦なく切断していっているのだ! すごい威力だ! ハニーたちはかなり腕を上げている!?


「ハニーたち!お見事っ!」


 先ほどまで青ざめていたハニーたちの顔はいつの間にか血色を取り戻している。


 これは楽勝だな……と思ったその時!

 なんとっ!切断されて果てたとばかり思っていたスケルトンたちの骨が見る見るうちに修復されて復活してきたのだ!


 ハニーたちは目を見開き、口を大きく開けて固まっている!?

 驚きの余り声も出ないようだ。彼女たちの顔色が次第に青ざめていく!


「風の刃ではダメだ!次はウォーターボールをぶっ放せ!用意!……ぅてぇっ!」


 シェリーだけは冷静だ。さすがだ!


 ……だが、水属性の攻撃神術もヤツらには効かなかった!

 シェリーは、次々に属性を変えた攻撃を指示していったのだが、神術でヤツらを始末することは不可能だった! これはかなりマズいぞっ!


 そんな時である!一体のスケルトンがあろうことか!?防御シールドを通過して中に入って来たのだ!そのスケルトンの標的は最も近くにいたウェルリ!

 よりにもよって、骸骨が一番苦手そうなウェルリだったのだ!


「ウェルリ!危ない!避けろ!」

「うぎゃぁぁぁぁっ!気持ち悪いっす!……ぐっ……」


 俺がウェルリの側へと移動しようとした瞬間!スケルトンが持つロングソードがウェルリに向けて振り下ろされたっ!


 グワッキーーーンッ!


 ウェルリが斬られた!?……いや違う!

 スケルトンが振るったロングソードが、ウェルリが防ごうとして顔の前に持ってきた左腕に触れた瞬間!不快な金属音を立てて触れた部分が粉々に砕けたのだ!

 ウェルリに付与してある物理攻撃への耐性がスケルトンの攻撃にまさったのだ!


 よかったぁ~。……ホッとして、ウェルリを助けるのを一瞬忘れてしまった。

 恐怖の余り、ウェルリは目を瞑って両手をめちゃくちゃに振り回し出した!


 俺がウェルリとスケルトンの間に割り込む寸前、ウェルリの左右どちらかの腕が剣を捨ててウェルリに襲いかかろうとしたスケルトンの左側頭部に偶然当たる!?

 するとスケルトンの頭蓋骨は一瞬で粉々に粉砕され、頭部を失ったスケルトンはその場に崩れ落ちて動かなくなった!?……暫く待っても復活することはない!?


 そうだったのかっ!


「ハニーたち!ヤツらの弱点は頭蓋骨だ!頭を粉々にしろ!多分、魔石は頭蓋骨の中にある!……これで勝てるっ!さあ!ヤツらを殲滅せよ!」

 "はいっ!"


 ハニーたちのこわばっていた表情が、『勝てる!』という自信に満ちたものへと変化した。目には力が戻った!もう大丈夫だ!


 その後は一方的な展開であったことは言うまでもなかろう。圧倒的な勝利だ!



 しかし、どうしてあのスケルトンはシールドを突破できたんだろうな。


 >>お答えします。

  スケルトンが展開している疑似的なシールドの周波数が、たまたま偶然にその時マスターが展開していたシールドの周波数と一致したものと思われます。


 全知師によれば……

 スケルトンが骨だけで動けるのは、魔素と呼ばれているエネルギー粒子のようなものに筋肉のような役割をさせているからだという。


 魔素というのは、ダンジョン内で"自然発生的に生まれる魔物"の原料となるものらしい。


 スケルトンのコアは魔素エネルギーを使って極薄シールドのような、極めて薄い疑似的なシールドを作りだして、それを骨全体を包み込むように薄く展開する……

 そして、その疑似シールド内に魔素を満たすことで、疑似的な肉体、主に筋肉の役割をさせているらしいのだ。"魔素を満たす"といっても、実際にはシールド生成過程で魔素を吸い寄せながら骨全体と一緒に包み込んでいくらしいのだが……。


 この筋肉の役割をさせるために疑似シールド内に封じ込めた魔素をスケルトンのコアである魔石がサイコキネシスで動かしているということだった。

 疑似シールド、そして、中に満たされている魔素も、これらは、通常の肉眼では見ることができない。だから、スケルトンは一見すると、あたかも骨だけで動いているかのように見える……というわけだ。


 力学的にも絶対にあんな動きができるわけがないと思われる構造にも拘わらず、それができるのが不思議だったのだが……そういうからくりだったとはなぁ。


 俺の"見えざる神の手"と原理がちょっと似ているな……。


 そして、その疑似的シールドにも固有の周波数があり、各スケルトン毎に、その値がランダムに異なっているということで……

 その固有周波数が、ものすごく低い確率だったのだろうが、たまたまある瞬間、俺が展開していたシールドのその瞬間の周波数に合致したことでスケルトンが偶然シールドをすり抜けることができたらしいのだ。


 突如襲われる恐怖を味わってしまったウェルリにとっては、運が悪かったということになるが……『災い転じて福となす』ではないが、結果的に敵の弱点をあぶり出すことにつながったんだからなぁ、これで"よし"とすべきなんだろうな……。

 かなり低い確率だから今後二度とこのようなことは起こらないかも知れないが、用心するに越したことはないな……気をつけるようにしよう。


 もしもウェルリの物理攻撃への耐性でスケルトンの攻撃が防げなかったら……と考えた瞬間、背筋がゾッと寒くなった。


「ウェルリ。怖かっただろう?ホント無事でよかったぜ。……でも、良くやった!敵の弱点が頭蓋骨だと分かったのはすべてお前さんのお陰だ!ありがとうな!」

「は…はい……。ぐっすん。でも、すっごく怖かったっす。ぐっすん」


 ウェルリの身体はまだ震えている……よほど怖かったんだろうなぁ……。

 ウェルリがとても愛おしくなって思わずギュッと抱きしめて……おでこにキスをした。本当は唇にしようかとも思ったのだが、ウェルリが嫌がるかもと躊躇ったのだった


「ううん…ダ~リィ~ン。唇がいいっす」


 へっ!?そうなの?唇でよかったのかぁ?

 ウェルリのご要望にお応えしたのだが……


「私たちも皆、がんばったと主張します。ご褒美を要求します」


 あ……はいはい、ジーよ。分かっているって、いつものパターンね。


「ハニーたち。良くやったな。みんなありがとう」


 ご想像通りである。ハニーたちをひとりずつハグ&キスすることになったことは言うまでもないことだろう……。不公平があってはいけないのだっ!

 やっつけ仕事ではないぞっ!当然だ!

 ひとりずつ、心を込めて念入りに行ったぜ!こんな美人たちとハグ&キスできる幸せをかみしめながらなっ!はっはっはっ!オークドゥ!どうだっ!羨ましいか!


 オークドゥが羨ましそうにチラチラと遠慮がちにではあるが、見ていたのだ。


 >>警告!警告!危険!極めて危険!

  昆虫型魔物の大群がこちらへと向かっています。迎撃態勢を整えて下さい!


 シールドはまだ展開中だ。取り敢えずはこれで防げるだろうが、先ほどのようにひょっとしたらシールドを突破してくることも考えられる。


「みんな!今度は虫の大群が攻めてくるぞっ!念のために各自完全防御シールドを展開した後、攻撃態勢を整えろ!」

 "はいっ!"


 先ほどと同じようにハニーたちは俺を中心とした方円陣形をとる!


「あわわわわわわぁ!わ、私、虫ダメですぅ~!ぎゃぁぁぁぁっ!」


 ソニアルフェが取り乱したので、側へと高速移動し、彼女を抱きしめて再び円の中心へと戻る……。ソニアルフェのいた場所へはオークドゥが移動し、攻撃態勢をとった。


「フェイザー銃をセット!出力レベルは3にせよ!」

 "はいっ!"


 シェリーが指示を出す!

 よき選択だと思う。フェイザーで蒸発させてしまった方が、殲滅後に死骸が残らないから、精神衛生上もいい。


 カサカサカサカサ………


 うわぁっ!Gだっ!どう見てもゴキ○リだっ!

 ゴ○ブリそっくりの見た目だが、カミキリ虫のような牙?歯?があるっ!?

 最初一瞬、焦げ茶色の絨毯がこちらへと広げられたのかと錯覚した。ものすごい数だ!


 ソニアルフェは、俺の胸に顔を隠しながら一瞬だけチラッ!とGの方を見たが、その直後から顔を真っ青にしてガタガタと震えだした。

 他のハニーたちも『うげぇ~』といった表情をしている。顔色は青い……。


 右手を高く挙げていたシェリーが、その手を勢いよく振り下ろすっ!

「ぅてぇっ!」


 フェイザー光線の発射直後は、射線上だけは一瞬だけ何もなくなり、床の石畳が顔を見せるのだが……その場所はすぐに他のGたちによって覆い隠されてしまう!


 これは考えが甘かったな……。フェイザーではダメだ。何か手はないか……

 ふと日本人だった頃にGやムカデ退治用に使っていた殺虫スプレーを思い出す。

 それは瞬間冷凍して殺すタイプのものだった。これならいけるかも?迷わず……


「超低温化!」


 この階層の、この部屋を中心としたかなり広い範囲を指定して神術を実行した。

 取り敢えずマップ上で確認できるGたちの群れの最後尾を少しだけ超えたあたりまでを範囲指定してある。


 Gたちは動きを止め、見る見るうちに凍りついていく……。


 相手は虫のように見えても魔物だ。魔石、コアを破壊しなくては安心できない。

 凍った状態から元に戻ると復活するかも知れないからだ。


 さてどうしたものか……。


 レプリケーターの機能を使って消してしまうことはできるんだがなぁ……。

 次に食事を作る際に材料として利用されそうでなんとなく気持ち悪い。だから、その方法だけは採りたくないのだ。


 シオン神聖国の教皇のもとへ転送してやろうかとも考えたのだが結局、活火山を探して、その火口へとまとめて転送してやることにした。


「転送!」


 一瞬で凍ったGたちが消える。

 念のためにミニヨンの1体をGが転送された活火山上空へと転送して、Gたちの様子が確認できる映像をこちらへと送らせた。Gたちは火口へと転送された直後に燃え上がり、数秒で燃え尽きていく……。これで一安心だ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 この階層の遺体がすべて磨き上げられたかのように美しく、真っ白な骨になっている理由も昆虫型魔物の出現でなんとなくわかったような気がする。


 BON○Sというアメリカのテレビドラマの、あるシーンを思い出した。

 このB○NESというドラマは、女性法人類学者とその仲間たちが事件被害者の骨から犯人特定につながる証拠を見つけ出して、事件を解決へと導いていく法医学サスペンスなのだが、その中で度々、骨を綺麗にするために屍肉を虫に食べさせるシーンが出てくるのだ。


 スケルトンたちが、この階層に足を踏み入れた者たちを襲って殺す。

 すると、待ってましたとでも言わんばかりに、Gに似た昆虫型魔物がやって来て屍肉を喰らう。ダンジョンマスターの指示なのか、Gたちは骨と死体が身に付けていた装備だけを残して、後は綺麗に食べてしまうのだろう。

 襲ってきたスケルトンたちが、磨き上げられたかのように美しく、真っ白な骨になっている理由は多分、そんなところだろう。


 骨を残させるのは多分魔物化の材料にするためだろう。


 虫たちに食べ残された犠牲者たちの骨は、ダンジョンマスターによって頭蓋骨に魔石を入れられて魔物になる……スケルトンとしてこの階層の新たな戦力とされてしまうのだろうな。


 これじゃぁ犠牲者たちも浮かばれないなぁ……って、『浮かばれる』というのも仏教用語だよな、多分?



 そういえば……この階層の魔物は女性に執着しているようには思えなかったが、実際はどうだったんだろうなぁ……。

 戦いの最中に詳しく調べる余裕なんぞ全くなかったから断言はできないのだが、このダンジョンで初めて魔物が女性以外もターゲットにしていたような気がする。



 しかし、俺たちでもこれだけ手を焼いたんだ。勇者たちは一体どうなったのか?

 無事に通過できたんだろうか?


 アキュラスとその女についてはどうなっていても構わないのだが、奴隷にされているヴォリルと、心が綺麗だと思われる勇者ユリコと聖女マルルカの身が心配だ。

 ……先を急ごう!



 ◇◇◇◇◇◇◆



 俺はマップ画面を見ることができるので、迷路構造なんぞは、全く進行の邪魔にならない。意味を為さないのだ。

 また各所に巧妙にトラップが仕掛けられているようなんだが、これもミニヨンを先行させ、調査させた上、安全を確認してから俺たちは進めるので全く問題ない。


 だから、折角造ったダンジョンマスターには申し訳ないが……スケルトンとGを殲滅してしまった以上、この第4階層は次の階層へとつながる単なる通路のようなものになってしまったと言えるのだ。

 ダンジョンマスターよ、俺は持てる能力をただただ普通に使っているだけだ。

 チートだ!卑怯だ!と決して怒ること勿れ……。



 ん?この先にヒューマノイドの男女、2つの生命反応があるぞ?


 そう思った時。頭の中に助けを求める声がする!?


『し、シオン様!助けて!戦士に襲われています!た、助けてぇーーーっ!』


 女神シオンに助けを求める思念が、なぜか俺の頭に響き渡る!?

 戦士に襲われている!?……アキュラスに襲われているのかっ!?


「みんなっ!この先で女性がアキュラスに襲われているようだ!俺は助けに行く!

 悪ぃが、各自完全防御シールドを展開してここで待っていてくれ!」

 "はいっ!お気をつけて!"


「転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 グィッ!…………ズガンッ!……ズガッ……ズズズッ…ドサッ!


「嫌がっているだろうがっ!クソ野郎っ!」


 転移先では、アキュラスと思われる男が女性を襲っていた!


 それで、男の後ろ襟を、いやどちらかというと首根っこと言うべきか……を引っ掴み、後ろへと放り投げてやったのだ!


 男は15mほど後方へと吹っ飛んで行ったかと思うと、背中から床へ落ち、床でワンバウンドして跳ね上がり、壁へとぶつかった。

 暫く壁に張り付いたかのようになっていたが、床へとずり落ちる……

 意識を失っている。白目を剥いて口から泡を吹いている……。どうやら失禁してしまったようだ。股間が濡れている。 嫌な臭いがこちらにも漂って来た。


「お嬢ちゃん、大丈夫か?」


「あ、貴方様は?」

「いや、名乗るほどのもんじゃねぇよ。通りすがりの冒険者だ。

 お前さんの助けを求める声を聞いたんでなぁ」


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


 そう言うとくるりと向きを変えて……


「ああ……女神様! このお方をお使わし下さいましたことを感謝します」


 恐らくは目の前の壁ではなくて、遠きシオン神聖国にいると思っている女神へと祈りを届けたいのだろう……

 壁に向かって跪き、両手を胸の前で組んで目を閉じて祈り出す……。


 あーあ、女神シオンなんて存在しないのになぁ……ご苦労なこって。


 うぬ? 服が引き裂かれて素肌が見えてしまっている?

 そうだよなぁ……危機一髪だったんだものな。かわいそうに、このままにはしておけねぇよなぁ。


「修復!」

「え? ええっ!? なんで!?」


 一瞬で、ビリビリに引き裂かれていた女性のローブがまるで新品同様になるのを目の当たりにして女性はひどく驚いている。


「貴方様は一体……はっ! じゃ、邪神!」


 どうやら俺の眉間の印に気付いたようだ。

 そういえばこのダンジョンに入るときに認識阻害神術はやめたんだったなぁ。


『ああ……女神様! 一難去ってまた一難です!

 どうか邪神の魔の手から私をお助け下さい!』


「おいおい、お嬢ちゃん! 邪神の魔の手からお助け下さいはねぇだろう?

 あのなぁ人を邪神呼ばわりするのはよせよ!

 助けてやったというのに。ったくもう!」


「え?なぜ私が心で祈ったことが分かるんですか!?」


「いや……こうなったら洗い浚い言うけどな、最初のお嬢ちゃんの祈りも、今のもみんな俺に届いてんの。いや、多分俺だけに届いているんだよ。

 女神シオンなんていねぇからなぁ。この世の神は俺ひとりだから」


「う、嘘です!わ、私は騙されませんよ!」


「じゃぁ、お嬢ちゃん。なぜ女神シオンとやらはお前さんを助けに来ないんだ?」

「そ、それは……私の祈りが足りなかったんでしょう! きっとそうですっ!」


「お嬢ちゃんや。悪ぃことは言わねぇから、さっさと改宗した方が身のためだぜ?本当に女神シオンなんて者は存在しねぇんだからな」


「わ、私を惑わすなぁーーっ! 邪神めっ!

 それに私はお嬢ちゃんじゃないっ! これでも17歳なんです!

 ちゃんと成人しているのです!」


 えっ? 12歳くらいかと思ってたぜ……

 あ、ホントだ! ステータスにはちゃんと17歳と表示されている!


「悪ぃ悪ぃ! 許してくれ、マルルカさん。17歳とちゃんと表示されているわ」


「な、なんで私の名前を知っているんですかっ!?」

「いやぁ~なんと言っても俺は神だからなぁ~。丸っとお見通しなのさ!」


「よく言いますねぇ! 最初私の年齢が分からなかったくせに!」


「あははは。こりゃ一本取られたぜ! お前さんの見た目に誤魔化されちまった。

 いやぁ、ちゃんと確認しなかった俺が悪い。

 れっきとした成人女性に対して、大変失礼なことをした。この通りだ謝る」


 俺は頭を素直に下げた。


「ところで、犬族の女性でアキュラスのクソ野郎に無理矢理奴隷にされちまった、ヴォリルって子はどこだ? 俺はその子を助けてぇんだがな?」


「わ、私を襲った後にヴォリルちゃんも襲う気ですね!?

 誰が言うもんですか!」


「あー。もう面倒くさい人だなぁ! そんなことするかっ! ……転移!」


 聖女マルルカの腕を掴んで、ハニーたちが待つ場所へと転移した。

 アキュラスはまだ気絶しているようだったので、ヤツの処分は後からでもいいかと思ってそのまま放置してきた。


「ほら! マルルカさんや。あそこの二人に見覚えがあるだろう?

 あの子たちに俺がどういう男か聞いてみろよ!」


「あ! ミョリムさん! ラヴィッスさん! ご無事だったんですねっ!

 よかったっ!」


「アキュラスに襲われていたのはマルルカさんだったんですか!」

「どうやらダーリンは間に合ったようですね? 助かってよかったですね!?」


「だ、ダーリン!?

 ラヴィッスさん、この邪神をダーリンと呼んでいるのですか?

 ああ…精神支配されてしまっているんですね!?

 待って下さい! 今すぐ私が治して差し上げますからね!

 ……『精神支配の解除!』」


 どうやら精神支配解除の魔法を放ったようだ。

 マルルカは魔力を使いすぎたのかフラフラしている。


「さ、さぁこれでもう大丈夫! お二人とも私と一緒にここから逃げましょう!」

「マルルカさん! 落ち着いてっ!

 ダーリンは本当にこの世で唯一の神様なんです!

 女神シオンなんていうニセ者とは違うんです!」


「えっ!? わ、私の治癒魔法が利かないなんて! そ、そんなバカなっ!」

「あのなぁ、精神支配なんかしてねぇから、利くわけがねぇじゃん?」


「マルルカさん。ほら見て? 私もう隷従の首輪をしてないでしょ?

 ダーリンがね、アキュラスの奴隷から解放してくれたんだよ。もう自由なのよ!

 それにね、処女に戻してくれたんだよ。すごいでしょ!?」


「ほら私も隷従の首輪が無いでしょ? 私も処女に戻してもらったんだよ。

 それに、触手植物にもう少しで犯されるってところを助けてもらったのよ」


 うう……処女処女って、なんか聞いているこっちが恥ずかしくなる。

 しかし……男どもに押しつけられた『処女信仰』……根深いよなぁ……。


「私なんかスライムに食べられているところを助けてもらって、食べられちゃって手足の先が無くなっちゃったのに、ほら、この通りもとに戻してくれたんだよ」


「私たちが断言するわ。ダーリンは本当の! 本当の! この世の神様よ!」


「そうですよ。あなただってアキュラスに襲われているところを助けてもらったんでしょ? それなのに邪神とは……失礼じゃないですかっ!

 それでも聖女ですか?」


「あうあうあう……」


 聖女マルルカは言い返せない。


「まぁ、俺のことを邪神と思おうが神と思おうがそれはお前さんの自由だからどうでもいいんだがな。それよりも、ヴォリルのことが心配だ。

 早くアキュラスの魔の手から救い出してぇんだよ。

 彼女は今一体どこにいるんだ? 教えてくれ。頼む」


「はっ! そうでしたっ! 勇者様たちが危ないんです!

 邪神じゃないんだったら、どうか勇者様とヴォリルさんを助けてあげて下さい」


 マルルカの話では……さっきマルルカを助けた場所から少し先に進んだところが所謂ボス部屋で、今勇者ユリコとアキュラスの奴隷のヴォリルの二人だけでボスと戦っている最中だということだった。


 ボスとの戦闘開始直前、ボス部屋の扉が閉ざされる寸前に卑怯者のアキュラスはマルルカの手を引いてボス部屋から逃亡したというのだ。


「二人だけ? もうひとりいただろう?

 ほら魔導士のマリーネルカだったっけか?」


「あの方はボス部屋へ向かう途中の宝箱トラップに引っかかってしまって……

 下の階層へと落ちて行ってしまいました。生きているかどうかも分かりません」


「そうか。それでボスはなんだった?」

「申し訳ありません。ボスが出現する直前でその場から連れ去られてしまったので見てないのです」


 勇者ひとりなら何とかなるかも知れないが、足手まといとなりそうなヴォリルが一緒だからなぁ……苦戦するかも知れないな。


「分かった。ボス部屋に救出に行ってくる。

 ハニーたちはここでマルルカを守って待っててくれるか?」


 "はいっ!"


「オークドゥ。ハニーたちを頼む!」

「承知!」


 マップ上でマルルカを助けた場所よりも少し先へと進んだ場所に部屋があるのが確認できた。その中には巨大な魔獣?らしき反応とヒューマノイド女性二人の生命反応があるのを確認した。その内のひとりの生命反応は弱い。急がねば!


「転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◆



 転移が完了すると目の前では、勇者がヴォリルを後ろに庇いながら、剣でボスの攻撃を受け流しているところだった。


 この階層のボスはドラゴンのスケルトンだった!


 すぐに勇者たちのもとへ高速移動し、俺たち3人の周りにシールドを展開する!


「お~い。大丈夫か? 助けに来たぜ?」

「あ、あなたは誰です!」

「俺か? 俺はこの世界の本当の神だ。まぁ、信じねぇかも知れねぇがなぁ」

「か、神は女神シオン様だけです! さてはあなたは邪神ですね!?」


 見るとヴォリルは重傷を負っている。

 確か勇者ユリコは治癒系の神術が使えるはずだが……

 まぁ、こんな状況では使いたくても使えないわなぁ……。


「完全浄化! ……そして、完全修復!」


 一瞬でヴォリルの怪我が治る。


 そして、16歳の生娘に戻った。

 その前にすべてを浄化除去してやった。もう穢れてはいない。


 ……ヴォリルは意識を失っている。


『おーい。 ハニーたち!』

『は、はいっ! ダーリンですかっ!?』

『そうだ。ヴォリルは無事だ。 今からそっちに転送するから頼むな!』

『はいっ!』


「転送!」


 さて、これで戦いやすくなったな。

 それじゃぁ、スパッとコイツを片付けるかっ!?


「あっ! ヴォリル! あなた! ヴォリルをどこへやったの!?

 ヴォリルを返して!」


「落ち着け! 勇者よ! ヴォリルなら心配は要らねぇ。

 聖女マルルカの所へ転送してやったんだ」


「もしも嘘だったら、ただじゃすまさないわよ!」

「大丈夫だ。 大丈夫だから安心しろ」


 勇者ユリコは怪訝そうな目で俺を見ている。


「それよりも勇者ユリコ! どうする?

 なんなら俺がコイツを倒すが……お前さんがやるか?」


「お好きにどうぞ。あなたが片付けて下さるのなら私はここで休んでいますわ」

「そうか。では遠慮なく……烈火弾!」


 ファイヤーボールの何万倍もの威力がある、何もかも焼き尽くす"烈火"の砲弾をスケルトンドラゴン?へと撃ち込む!


 ドラゴンの骨の身体は燃え尽きて消滅したが、すぐ元通りに復元されてしまったのだった。


 こいつも頭にコアとなる魔石があるようだな。


「頭蓋骨爆裂粉砕!」


 決着は呆気なくついた。スケルトンドラゴンの頭が爆発して粉々になると胴体が崩れ落ちバラバラになったのだ。この階層をクリアだ!


 何かバックグラウンドミュージックでも流れるかと期待したのだが……


「まぁ、ゲームじゃねぇからなぁ。ははは」


 そう呟き終えると同時に、この部屋の入り口と、下の階層へつながると思われる扉が開く。


「それでな、ユリコさん。これからマルルカさんたちが待っている所へお前さんを連れて行こうと思うんだが、一緒に来てくれるかい?」


「ワナじゃないでしょうね? 私を騙すつもりじゃないの?」


「マルルカさんといい、お前さんといい……洗脳されちまっているんだなぁ。

 俺が邪神に見えるのか? 失礼しちゃうぜ。ったく」


「見えないこともないわよ。 鏡見たことある?

 それに……言葉遣いが乱暴だから、印象が悪いわよ。 直したら?」


「ほっとけ! ……それよりも、お前さんは日本からの転生者らしいな?」

「な、なぜそれを!?」


「俺はこの世界の神だからなぁ。

 何でも……と言っちゃぁ嘘になっちまうが大抵のことなら知っているぜ」

「そう。それで転生者だったらなんなの?」


「いや、そのう……俺も地球、それも日本にいたことがあってな。

 その時に将来を誓い合った女性がいたんだ。名前を橘ユリコっていうんだがな。

 ひょっとして……お前さんがそうじゃねぇかと思って。

 俺の日本人だった頃の名前は壱石振一郎って言うんだが……

 お前さんはもしかして、橘ユリコじゃねぇのか?」


 気のせいか、一瞬勇者ユリコの顔に驚きの表情が浮かんだような気がしたんだが彼女は否定した。


 俺が日本にいたことに驚いたのか?


「誰、それ? 私じゃないわね。人違いよ。

 えーっと、振一郎さん……でしたっけ?

 お気の毒だけど私じゃないわ。 お生憎様」


「そうかぁ……話し方が似てるからなぁ、もしかしたらと思ったんだがなぁ……。

 俺の最愛の人だったんだ。クソ野郎に殺されちまったんだがな。

 変なことを言って悪かったな。忘れてくれ。

 それじゃぁ、みんなの所へと移動しよう。 俺に掴まってくれねぇかな」


 勇者ユリコは俺の左腕、肘のあたりにそっと手を添えた。


「転移!」



 ◇◇◇◇◆◇◇



「神である我が権限において、この者の奴隷契約を強制的に破棄する!……加えて隷従の首輪の除去と消滅を命ずる!」


 ヴォリルの首から隷従の首輪が消える。

 勇者ユリコを伴ってハニーたちが待つ場所へと転移して来るとすぐにヴォリルをアキュラスの奴隷から解放してやったのだ。


「……う、ううう……」


「ヴォリルちゃん! 分かる? 私よ。ミョリムよ!」


「……んん……み、ミョリムちゃん。あ、ラヴィッスちゃんも。ああ……二人とも無事だったんだね? よ、よかったぁ……」


「ヴォリルちゃん。もう大丈夫だよ!

 ダーリンが……神様がね、奴隷から解放してくれたんだよ! もう自由だよ!

 アキュラスなんかの言うなりにならなくてもいいんだよ! 家に帰れるよ!」


「えっ!?……はっ! な、無い! 首輪が無くなっているわ! ううう……」


 ヴォリルが嗚咽する。


「あ、やっぱりそうだ! ヴォリル! 私ようちよ、ラフよ。分かる?」

「え? ラフ姉!?」

「やっぱりヴォリルなのね! 久しぶりね!」

「ラフ姉……わ、私……人族の男に……ううう……うわぁーーーん!」


 ラフがヴォリルをギュッと抱きしめ、頭を撫でている。


「落ち着いて、ヴォリル。大丈夫。ダーリンがあなたを浄化してくれたから。

 もうあなたは穢れてなんかいないわ。襲われる前の綺麗な身体に戻ってるよ」


「え?どういうこと?」


「ダーリンがね、あなたの身体を、"あなたがまだ男性を知らなかった時の状態"に戻してくれたのよ。だから、あなたの身体は綺麗なのよ。穢れてなんかないわ」

「…………」


「アキュラスって男に奴隷にされていたことは悪夢だったと思って忘れなさい」

「ううう……。うう、うわぁーーん! つらかったよぉ~。苦しかったよぉ~」


 同じく奴隷だったミョリム、ラヴィッス、そして、ノアハまでもが涙する。

 勇者ユリコと聖女マルルカも上を向いて、涙を流すまいとしているようだ。


 勇者たちはヴォリルたちが無理矢理奴隷にされていたことを知らなかったのか?


「おい、勇者に、聖女!

 お前さんたちは、この子たちが酷ぇ目に遭っているのが分からなかったのか?」


「彼女たちから助けを求められたことはなかったし、ちゃんとした手続きを踏んでアキュラスは奴隷を取得しているものだとばっかり思っていたので……」


「わ、私も勇者様と同じです。シオン神聖国では、男性が獣人族の女性を性奴隷にしていることが多いので……特に疑問も抱きませんでした」


「お前さんたち、女性なんだろ?

 同性として……いや、今更言ってもしようがないことだな。

 それにお前さんたちを責めてもしようがないしな。 忘れてくれ」


 シオン神聖国では、男性が獣人族の女性を性奴隷にするのが当たり前だとぉ!?

 もう堪忍袋の緒が切れそうだ! いっそのこと国ごと消してしまうか?


 それよりもヴォリルをどうするかだな……。

 魂の色は……ああこの子も"スカイブルー"だ。こんな純真な子をアキュラスめ!


「ヴォリルはどうしてこんなことに?」

「ラフ姉……私、ラフ姉が神国で神殿騎士を目指すと言って町を出た後に、子供の頃からの夢だった神殿神子になるためにヴァンダコスラの町へ行ったんだ」


「ヴァンダコスラの町?」


 ヴァンダコスラの町は、ミョリムとラヴィッスの故郷でもある。


「うん。その町に神官の親戚がいてね。その人が口を利いてくれてその町の神殿で神殿神子見習いとして修行させてもらうことになったんだよ」

「そうだったの。夢に向かって歩んでいたんだね」


「でもね……ううう……シクシク……」


 彼女は神官たちが行う訪問診療に同行し、ヴァンダコスラの周辺の村へ出かけたところをクソ野郎のアキュラスに襲われたということだった。


 彼女以外の神官は皆殺しにされた。


「……ラフ姉はどうしてここに? 神殿騎士にならなかったの?」

「なったよ。それも近衛騎士だよ。すごいでしょ? それに……

 こんなことになったヴォリルの前だとちょっと言いづらいんだけどね……

 あのね、うちね、ダーリン、神様の后になれたんだ」


「す、すごいね。よかったね。私もなりたかった…………で・も……もう無理ね。

 穢されちゃったもの……ううう……うわぁーーーん!」


 ヴォリルを抱いているラフ諸共ギュッと抱きしめて……


「大丈夫だ。 穢れてなんかねぇぞ。 大丈夫」


 俺の顔をチラリと見たヴォリル。その目が見る見るうちに大きく見開かれる!


「う、上様!」


 ヴォリルは俺たちから離れようとする……


「ああ、このままこのまま。 跪かなくてもいいぞ!」

「うわぁーん! 上様のお嫁さんになりたかったよぉーっ!

 穢れちゃったよぉー!」


「ヴォリルちゃん、大丈夫だよぉ。ダーリンはきっとお嫁さんにしてくれるって!

 私とラヴィッスちゃんもお嫁さんにしてもらえるんだよ。

 だからヴォリルちゃんもダーリンに頼んでごらんよ。

 きっと、お嫁さんにしてくれるって」


「そうだよ。ヴォリル。うちからも頼んであげるからさ。絶対に大丈夫だよ。

 ね、ダーリン!」


 ここで嫌だと言ったら男が廃るってもんだ!

 しかし、なんでいつもいつもこんな展開になるのかなぁ……。


「ああ。お前さんのような身も心も綺麗な子なら大歓迎だぜ!

 でも本当に俺の嫁になってくれるのか?

 だとしたら、最高なんだがな? どうだい?」


 ヴォリルの顔にパッと笑顔の花が咲いた。……う、美しい!

 そしてヴォリルは、もじもじしながら言う……


「わ、私をどうか上様のお嫁さんにして下さい」

「ありがとうな。ハニー! よろしくなっ!」


「じゃぁ、アキュラス成敗前ですけど私とラヴィッスちゃんもお願いしますね」

「お、おう! ありがとうな。ハニーたち! 嬉しいぜ!」


 な~んか強引に押し切られちゃった感じがしないでもないのだが、この子たちを嫁に迎えられて嬉しいというのは本心だ。 衷心よりそう思う。俺は幸せ者だ。


 しかし、アキュラスの野郎は、俺に思いを寄せている者たちばかりを狙ってでもいるかのように奴隷にしやがったよなぁ……


 どうやって懲らしめてやろうかな!?


 あれぇ? 勇者ユリコがジト目で見ているぞ?

 そうだよな。一夫一婦制の日本からの転生者だから、その反応は当然だよね。


 聖女マルルカは頬を染めて俺たちをにこにこしながら見ている。


「マルルカさんよ。ちょっと聞きてぇんだがなぁ。シオン教って獣人族を性奴隷にすることを認めているのか? 反対しねぇのか?」


「……認めています。それも積極的に……」


「お前さんはそんな宗教を信じているのか?」

「はい……」


「俺はお前さんたち人族も、エルフ族も、獣人族も……魔族だって、魔物だって、自分の子供のようだと思っているんだぜ。なにせ俺が創ったんだからなぁ。

 その大切な子供が他の大切な子を奴隷にすることを親が快く思うとでも思うか?お前さんが親ならどう思う?」


「そ、そんなことは許しません」


「そうだろう。だから、俺は基本的に奴隷制度には反対だ。ましてや、男だろうが女だろうが関係ないが、性奴隷にするってのは絶対に許せんのだ!」

「はい……」


「お前さんの信じている神は、それを大々的に推奨してるんだろう?

 おかしいとは思わねぇのか、そんな神は?」


 マルルカの顔に迷いの表情が現れる……。


「ハッキリ言っておくぜっ! 女神シオンなんて神はこの世に存在しねぇ!

 この世の神は俺ただひとりだ! 他にはいねぇんだよ!

 お前さんは騙されている! しっかりと自分の頭で考えてみろ! いいな!?」

「は…い……」


「お前さんがさっき助けを求めた心の叫びは、俺に届いたんだ。

 だから俺が助けに行った。女神とやらが助けに来てくれたためしがあるか?

 絶対にねぇはずだ」

「……」


「まぁ、どんな神を信仰するかというのは、個人の自由だからな。これ以上は何も言わねぇが……魂の綺麗なお前さんが、変な宗教団体に騙されているのをほっとけなくてなぁ。ついついお節介を焼いちまった。

 だがな、お前さんのことを心底心配していることだけは確かだ。

 それだけは覚えておいてくれよ。いいな」

「は…い」


 マルルカも、ユリコも二人とも魂の色が"スカイブルー"なんだよなぁ……。

 こういう子は騙されやすいからなぁ……本当に心配だ。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 取り敢えずボス部屋に行ってから、これからどうするかを考えようと思い、皆で移動することにした。


 途中で、アキュラスを拾って拘束し、広いボス部屋でたっぷりと懲らしめてやるつもりだったんだが……逃げやがった! いつの間にか姿を消していやがる!


 マップ上でマーキングしてあるのだが、もうこの階層のどこにも姿がないのだ。

 このボス部屋を通り抜けて一足早く第5階層へと進んだ可能性が高い。


 無理せず今夜はここで、このボス部屋で野営することにした。


 俺たちの分とオークドゥの分、そして、勇者ユリコと聖女マルルカの分の野営用テントを設営し、それらがすべて収まるようにシールドを展開しておく。


 あの卑怯なアキュラスのことだから夜襲をかけてこないとも限らないからなぁ、用心するに越したことはないだろう……。


 念のためにこの部屋の出入り口付近にはミニヨンを数体ずつ配置してある。


 今回救出して俺の嫁になることが確定したヴォリルも、ここにテントを設営してすぐ、加護して俺の庇護下に入れた。


 キャットスーツ他のハニー装備一式も生成してプレゼントしたことは言うまでもないことだ。まだ、攻撃神術の練習はさせてないので、できれば後で砂漠地帯へと連れて行って練習させようと考えている。


 今、ハニーたちは、ヴォリル、勇者ユリコ、聖女マルルカを伴って、テント内の大浴場でお風呂を楽しんでいる。なんだかんだと理由をつけて、一日に何度も入りたがるとは、みんな、かなりこの大浴場が気に入ったようだな。



 ◇◇◇◇◆◆◇



「それで、勇者ユリコさん。お前さんたちはこの階層の魔物たちの中をどうやってここまで来たんだ? あのスケルトンや虫の大群はどうしたんだ?」


 風呂上がりのユリコたちを捕まえて食堂へと連れて行き、疑問に思ってもやもやしていることを聞いてみることにした。


 ユリコはクリームソーダ、マルルカはアイスアップルティーを、それぞれ美味しそうに飲んでいる。俺が提示したメニューから、それぞれが選んだ飲み物である。


 俺の目の前にはアイスコーヒーが置かれている。ミルクやガムシロップは、一切入っていないブラックだ。



「あのね、シン。魔誘香を使ってね……はっ! ご、ごめんなさい。つい……」


「あ、構わねぇよ。シンと呼んでもらって結構だぜ。

 その代わりに俺もユリコって呼ばせてもらおうと思うが、それでいいか?」


「え、ええ……まぁ……いいわよ。じゃ、シンとユリコでいきましょう!」


「それで……ユリコ。 魔誘香をどう使ったんだ?」


「魔物たちを誘き寄せる部屋を決めておいて、そこで魔誘香を焚くの。そしてね。魔物が集まってきたらね、入り口を神術で造った石の壁で塞いでやるのよ。

 それでお終い……というわけなの」


「なるほどな。敵を殲滅するんじゃなくて、閉じ込めるというわけか……」

「ええ。そうよ」


「よく分かったよ。これで疑問が解けた。いや~、俺たちでも苦労したこの階層の魔物たちを一体どうやってやっつけたのかと不思議だったんだがな。謎が解けた。

ありがとうな、ユリコ」

「え、ええ。よかったわね、シン」



 ◇◇◇◇◆◆◆



「ユリコ、マルルカ。お前さんたちの野営用のテントも用意したんだが、俺たちと一緒に野営してくれると思ってもいいよな?」


「ええ。お邪魔じゃなければ、ご一緒したいわ」

「わ、私もです」


「よかった。それじゃぁ、夕食もみんなで一緒に食べよう。いいだろう?

 みんなで一緒に食べる飯は楽しくて、美味いぞ~。ははは。

 そうだ! 何か希望はあるか?」


「そうね……お寿司が食べたいわね」

「わ、私は何でもいいです」


 やはりバイキング形式にして寿司も用意しておく……というのが良さそうだな。


「何でもいいってのが一番困るんだがなぁ……

 取り敢えずバイキング形式で色々な料理を準備しておくぜ。

 当然、寿司もな。 ラーメンはいいか?」


「ら、らーめん?なんでしょうか?」


「ああ……ユリコの故郷の麺料理だ。これを食べると病み付きになるぜ~」


「へぇ~。そんな美味しい料理があるんですかぁ?食べてみたいですぅ!」

「美味しいけどね。太るわよ。うふふふ」


「よし。分かった。ラーメンも用意しておくな。

 ただし、昔ながらの中華そばって感じのを出すからな。そのつもりで」


「あらあら。食べ物の好みは変わらないのね。うふふ」


 えっ? 好みが変わらない?……やっぱり橘ユリコじゃないのか?


「やっぱり……ユリコ。お前さん、橘ユリコじゃねぇのか?」

「ち、違うわよ。さっきからもう……何よ!いい加減にしないと怒るわよ!」


「す、すまん。だがなぁ……」


 どう考えても俺の好みを知っている時点で不自然だよな。俺に正体を知られたくないのはなぜだ?マルルカがいるからなのか?


 さっき俺をジト目で見ていたよなぁ……。

 俺がハーレムをつくっているのが許せないからなのだろうか?


 俺の第六感が告げる。

 本人は否定するが、勇者ユリコは間違いなく橘ユリコだと……。


 なぜ、頑なに否定するのかは分からない。ユリコのことだ、何か考えがあってのことだろう……暫くは様子を見ることにしよう。



 ズガーーンッ! ズガーーンッ! ズガーーンッ!


 突然、テントの外で何かが爆発するような音がした。

 アキュラスが攻撃してきたのか?


 俺たち3人はテントの外へと飛び出した。




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