第0047話 依存症

 目の前で触手植物しょくしゅしょくぶつに女性が凌辱りょうじょくされている!


 女性の四肢しし、胸、胴体には触手がからみついていて……

 空中で、さながら、産婦人科の検診台けんしんだいの上にでも寝かされているかのような姿勢にされ、拘束こうそくされている!?


 大変なことになっている!


 触手は体内へと種を送り込もうと女性の身体をまさぐっている!? 

 鼻、耳……体内へと種子を送り込める場所はないかと探して触手を伸ばし、うねらせている!?


 見ていられない! 早く助けねば!


全知師ぜんちし! 転送により触手植物にナノプローブを注入!

 ナノプローブに触手植物の細胞をすべて破壊はかい、消滅させろ!」


 魔物の構造上・機能上の基本単位を破壊&消滅させてやりたいんだがな。

 細胞さいぼうで全知師には通じたかなぁ?


 >>承知!

  ナノプローブ転送注入……完了!

  ナノプローブへの触手植物破壊消滅命令を発令!


 ボシュッ!


 女性を触手によって凌辱りょうじょくしていた触手植物が『ボシュッ!』という音と同時に、灰のようになって霧散むさんした!


 すかさず俺は "見えざる神の手" で、落下する女性を優しく受け止める!


 ここには他にも触手植物がたくさん生えている。 それらからの攻撃を防ぐため、女性を受け止めるとすぐにシールドを展開した!


 そして、女性の様子を見る……


 女性の全身が『ビクッ!ビクッ!……』と脈打つかのごとく……

 収縮しゅうしゅく弛緩しかんを繰り返している!? 痙攣けいれんしているかのようだ!?


 これは……すで媚薬びやくが大量に体内に注入ちゅうにゅうされてしまっているようだな!?

 このままにはしておけない。 一刻も早く浄化した方がいいだろう!


 もう種子が体内に植え付けられてしまっているかも知れない。 だから、体内外たいないがい、血液のすべてを完全に浄化じょうかして、身体も完全修復しておいた方が良さそうだ!


「血液を含む体内外の完全浄化! ……よし! 次は……完全修復!」


 女性の身体があわい緑色をした半透明な光のベールにつつまれる。 が、それは一瞬で消える! "見えざる神の手" に優しく包まれ、女性は目を閉じて静かにしている。


 女性は現在、ぱだか隷従れいじゅう首輪くびわだけを首にめた状態だ。

 このままでは目のやり場に困る!


 すぐに服を着せて隷従の首輪を外してやろう!


 隷従の首輪を外すべきか否かを判断すべく……

 念のために魂の色を確認することにした。


 なんと! この子の魂の色も "スカイブルー" だ!


 彼女の名前は『ミョリム』。


 第1階層で助けた女性、ラヴィッスと共に、クソ野郎アキュラスによって無理矢理性奴隷にされてしまっていた3人の女性の内のひとりだった。


 この子も勇者たちがこの階層を突破とっぱするためのごまにされたのか?


「衣服等装着そうちゃく

 ……神である権限けんげんにおいて、この者の奴隷契約どれいけいやくを強制的に破棄はきするっ!

 ……くわえて隷従れいじゅう首輪くびわ除去じょきょ消滅しょうめつを命ずるっ!」


 ミョリムは、一瞬で、俺がこういうときにいつも着せるワンピースとジーンズ等を身に付けた!

 そして直後に隷従の首輪が外れ、地面に落ちる前に粉々こなごなになりながら消え去った。


 ミョリムは意識を失ったままだ!?


 彼女の他に犠牲者ぎせいしゃがいないかを確認してみる……


 まわりには触手植物が群生ぐんせいしており、ミョリムをねらって、無数の触手が襲ってくるがそのすべてをシールドが防いでいる。

 多分、媚薬びやくガスもあたりにはただよっていることだろうが、それもシールドで防いでいるからミョリムが吸引する心配はない。


 蘇生そせいが不可能な古い遺体いたいは複数あったが、最も新しい遺体でも1年ほど前のものだった。


 それら遺体の魂は、すべて "輪廻転生システム" へと送られてしまっていたので、蘇生そせいは不可能だった。 他に生きている者や最近亡くなった者はいないようだ。


 どういうわけか、この一帯にだけ触手植物の分布密度ぶんぷみつどが高い? それに多くの触手植物のよわいは、ほぼ同じくらいである。 みょうだ?


 ここでは一度に数十人の女性たちが犠牲ぎせいになった可能性があるな……。


 何が起こったのかを知りたくてしようがないのだが……

 亡骸なきがらにはもう魂は残っていない。 だから、魂の履歴で何があったのかを確認することさえできない。


 ああ……もやもやする!



 えず、俺たちのシールドの外側に、この群生地ぐんせいち全体をおおうようにシールドを展開する。 神術 "烈火れっか" によって被害女性たちのむくろ諸共もろとも、灰も残らないくらいに焼き払おうと思っている。 だから、延焼えんしょうを防ぐためにシールドを展開したのだ。


烈火れっか!」


 轟音ごうおんを立てながら、触手植物と犠牲者ぎせいしゃ亡骸なきがらは激しく燃える……。


 シールドによる密閉空間での燃焼だ。 そのままではすぐに鎮火ちんかしてしまうので、その空間にはえず空気を供給きょうきゅうし続けている。


 ………………


 しばらくして自然鎮火しぜんちんかした。 触手植物も遺体も完全に消えてしまった。

 灰すらも残っていない……が、ねんのために "超低温化ちょうていおんか" 神術を実行しておくことにした。


「さてと、えずミョリムを連れてみんなのところへ戻るか。 ……転移!」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 第2階層の入り口、ハニーたちが待っている場所にミョリムを連れて戻る……。


 なんだ!? あたりはゴブリンの死骸しがいだらけじゃないか!?


「上様、お帰りなさいませ」


「ゴブリンどもが襲ってきたのか?」


「はい。100匹を超えるゴブリンどものれに襲撃されましたが……

 お后の皆様と一緒いっしょ殲滅せんめつしました!

 上様が戻られる少し前に殲滅せんめつが完了したところです」


「オークドゥ! ハニーたちを守ってくれてありがとうな! 礼を言うぜ!」

「ははっ!」


 ハニーたちは皆、肩で息をしている?

 その様子からは、かなりハードな戦いだったことがうかがえる。


 俺の姿を確認したハニーたちが、俺のもとへ『はぁはぁ』言いながらも駆け寄ってきた……。 念のために、俺たち全員を取り囲む範囲に防御シールドを展開する。


 ゴブリンの死骸しがいをこのままにしてはおけないな……焼却しょうきゃくしよう。


 シールド内にあるものも含め、ハニーたちが殲滅せんめつしたすべてのゴブリンの死骸しがいをシールド境界から50mほど離れた位置に山積みになるようにまずは転送した。


 あたりは植物が生い茂っている。だから、延焼えんしょうを防ぐためにゴブリンの死骸の山全体をシールドでおおうことにする。


 そうしておいて、火属性神術の "烈火れっか" を使って灰も残らないくらいにゴブリンの死骸しがいの山を一気に焼き尽くしてやった。


 最後は念のために "超低温化" 神術をほどこしておいたことは言うまでもない。


 まぁ、他のヒューマノイドの生命反応もないようだから、延焼しても問題はないのだろうがなぁ……。




「ミョリムちゃん!」


 俺がお姫様抱っこしているミョリムを見て、ラヴィッスが女性の名前を叫ぶ!


「触手植物に捕まっているところを助けてきたんだが、意識を失っている」

「上様……ミョリムちゃんを助けて下さり、ありがとうございます!」


「いや。礼なんぞ要らねぇ、当然のことだ。

 この子もお前さんと同じで、この階層を突破とっぱするためにごまにされちまったようだぜ。 アキュラスってクソ野郎は絶対にゆるせんよなっ!?」


「はい。 私は絶対にアキュラスを許しません! 絶対にむくいを受けさせます!」


「う……うう…うぅん……」


 ミョリムが目を覚ますようだ? ミョリムのねこ耳がピクピク動く……。


 そう……この女性、ミョリムはねこ族の獣人だ。 この子もすごい美人だ!

 年齢は17歳である。 ラヴィッスよりも2つ年上ということになる。


「……う、上様?……はっ!」


 ミョリムが飛び起きて、俺の前にひざまずいた。

 獣人族じゅうじんぞくの人々は信心深しんじんぶかい人が多いのか、俺の正体にはすぐに気付くことが多い。


「あ……だ、だめぇ~……う、上様ぁ~私を抱いてぇ~。お願い、抱いてぇ……」

「ん……ぐっ……。 お、おい! は、離れろ! いきなり何をするっ!?」


 ミョリムがいきなり俺に抱きついてキスしようとしてきた!?

 さすがのハニーたちもこの事態は予測できなかったのか驚愕きょうがくする!?


 皆、目を見開き、あごが外れるんじゃないかというくらい、大きな口を開けて驚いている!? 突然の光景に、ハニーたちは誰も言葉を発することができない!


「う、上様。 も、申し訳ございません。 性衝動せいしょうどうが……押さえられないのっ!」


 そう言ったかと思うとミョリムが再び俺に飛びかかり……

 俺の右手をつかんで自分の股間へと持っていこうとする!?


「お、おいっ! よさないかっ! やめろっ! しっかりしろよっ!」


 これは触手植物の媚薬びやく副作用ふくさようなのか?

 いやいや完全浄化したはずだぞ? なら、この行動は一体なんなんだ!?


 >>お答えします。

  重度じゅうどのセックス依存症いそんしょうになっています。

  触手植物が注入した媚薬びやくによってもたされる、慢性的まんせいてきかつ強力なオルガスムスにより、女性の脳内のうない異常いじょうなニューロネットワークが形成けいせいされてしまっています。

  肉体的な不具合ふぐあいではなく、完全浄化や完全修復でも治療は不可能です。


 なんということだ……それじゃぁどうしたらいいんだ!?

 この子は助けられないのか?


 我に返ったハニーたちがいっせいに彼女を俺から引き離しにかかる!


「きゃぁ~! や、やめてぇ~っ!」


 ミョリムの右腕を引っ張って、俺から引きはがそうとしていたソニアルフェに、ミョリムが抱きついてくちびるうばおうとしている!? えっ!?


「うっ……」


 ミョリムが意識を失った。 しようがなかった……

 俺がミョリムにをくらわせて、彼女の意識をり取ったのだ。


 彼女の基本システムをシャットダウンするという手もあったのだが……

 脳内に"異常なニューロネットワーク"が形成されているらしいので、不測ふそくの事態が起こらないとも限らないことから、その方法はけた。


 さて……どうしたものか?

 このままじゃ、ミョリムがあまりにもかわいそうだ。


 <<全知師。 ミョリムを治す良い方法はねぇのか?


 >>方法はあります。

  シンディの心を治療した方法を使えば、ミョリムを治療することが可能です。

  ただし、触手植物しょくしゅしょくぶつに襲われた直後からマスターによって救出されるまでの間の記憶を消去する必要があります。

  ミョリムのその間の記憶によって、異常なニューロネットワークが再形成される可能性があるからです。


 <<なるほど。 ありがとう、全知師。 これはもう、やるしかないな。


 ん? そろそろ昼時だなぁ。

 腹が減っては戦はできぬじゃないが、ミョリムの件は昼食後にするか……。


 えずミョリムを神術で睡眠状態にする。


 ん!? ソニアルフェがしくしくと泣いている?


「どうした? ソニアルフェ?」


「お、女の人にキスされちゃいましたぁ。 えーん!」


 ソニアルフェをギュッと抱きしめキスをする……

 ソニアルフェはキスをしながら、涙を浮かべた目をまん丸くしている。


「よし。 これでリセットしたぞ。 ミョリムとのキスの件は忘れろ」


「はい。……ねぇ、だ~りぃん?」

「ん? なんだい?」


「も、もう一回……。 ん……」


 そう言うとソニアルフェが俺の唇に自身の唇を重ねた……。


「あっ! ソニアルフェ! ずるいっす!……」


 いつもの展開だ! ウェルリが文句を言い、ジーがそれに乗っかってきて……

 結局ハニーたち全員とキスをすることになるのだった! ふぅ~。


 あれ? ラヴィッスともしちゃったぞ? …… ええっ!?



 ◇◇◇◇◇◇◆



 野営用やえいようのテントを取り出し、今展開中のシールドの中に設置した。

 テント内の食堂には、バイキング形式で各種料理と飲み物を用意しておく。


 このテントに初めて入ったラヴィッスは目をまん丸くして驚いている。


 ……………………


 とても楽しい昼食ちゅうしょくだった。


 ミョリムは、俺の寝室で昼食の間もずっと眠っていた。 俺がかけた神術によって眠らされていたのだ。


 昼食の後片付あとかたづけを終えた俺は、これからミョリムのやまい……

 性衝動が理性ではおさえられなくなってしまうほどの、重度のセックス依存症いそんしょうを治療しようと考えている。


「ラフ、ラヴィッス。 俺はこれからミョリムの心の病を治療しようと思っている。

 それで、獣人族のお前さんたちには、俺が治療する間、ミョリムのそばにいてやって欲しいんだが……たのめるか?」


「はい。喜んで」「うちもいいですよ」


「それじゃぁ、俺の寝室しんしつで治療を行うので一緒いっしょに来てくれ」

「「はい」」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 ラフとラヴィッスは、ベッドに寝かされているミョリムのそばで、彼女の手をにぎっている。 ラフとラヴィッスは二人とも不安と悲しみといつくしみが混ざったような複雑な表情を浮かべている。


 彼女たちにも、俺が何をしているのかが分かるように、声を出しながら治療を行うことにした。 念のために、俺と全知師との会話も念話で聞こえるようにしてある。


「それじゃ、治療を始める。 ラフ、ラヴィッス。 サポートを頼むな! 

 様子ようすに変化があった場合には教えてくれ」


「「はい!」」


「全知師。 ミョリムの魂データぐんをバックアップしてくれ」


 >>承知しました。

  虚数空間内きょすうくうかんない、ミョリムの魂の近傍きんぼうにバックアップ用の魂を生成しました。

  バックアップデータに付加ふかする "リカバリコード" のパーセンテージを指定して下さい。


「シンディの時と同じく50%を付加ふかしてやってくれ」


 本来はそんなに付加ふかする必要はない。 3%もあれば大抵たいていはなんとかなる。


 データサイズが肥大化ひだいかしてしまうのだが……

 これはミョリムの命にかかわることだ。 しみったれたことはできない。


 >>承知しました。

  ミョリムの魂をバックアップ用魂に無圧縮むあっしゅくでコピーします……コピー完了!

  ベリファイを実行します……完了。 正常にコピーされていることを確認!

  付加されたリカバリーコードによる復元ふくげんシミュレーションを実行……完了!

  リカバリーコードによる復元シミュレーションに成功しました!


「次は、ミョリムの生体構成せいたいこうせいデータをスキャンし、レプリケーター用データとしてストレージに保存せよ」


 >>承知しました。

  亜空間内あくうかんないにスキャンデータ保存用のストレージを生成します……完了!

  ストレージ内にスキャンデータ保存用ストリーム領域を確保します……完了!

  同ストレージ内にレプリケーターデータ化したデータの保存用ストリームを生成します……完了!

  今回もスキャンデータをレプリケーターデータへ変換するために使用する作業用ストリームを別ストレージに生成しますか?


「ああ。テンポラリストリームは別ストレージに生成してくれ」


 >>承知しました。

  亜空間内あくうかんないに作業データ保管用ストレージを生成します……完了!

  ストレージ内にテンポラリストリームを生成します……完了!

  スキャンデータ変換へんかんプログラムを起動します……起動完了!

  変換先データ形式をレプリケーターデータ形式に指定しました。

  すべての準備が整いました。

  スキャン、及び、データ変換を実行しますか?


「よし! では実行しろ!」


 >>承知しました。

  スキャン、および、データ変換を実行します……………………変換完了!

  ミョリムのたましい履歴りれきをコピーします。

  コピー用のストリームと保存用ストレージ領域を確保します……完了!

  ミョリムの魂の履歴をコピーします……コピーが完了しました!

  ミョリムを復元ふくげんするために必要なデータのバックアップが無事完了しました。


「よし! ありがとう!

 さてと……これからが本番だぞ! ラフ、ミョリムの様子はどうだ?」

「大丈夫です。眠っています。異常は見られません」


「ありがとう。 では……始める!」


「全知師。 ミョリムの魂の履歴〔コピー〕を編集して、触手植物に襲いかかられてから俺に助けられるまでの履歴を削除しろ!」


 >>確認します。

  記憶の一部に空白期間くうはくきかんが生じますが、削除してもよろしいですか?


「ああ、やってくれ!」


 >>承知。 ミョリムの魂の履歴〔コピー〕を編集します……編集完了!


「それでは、"魂の履歴〔コピー〕"からニューラルネットワークイメージを生成する準備をしてくれ! 全知師に変換プログラム使用権限けんげんを付与する」


 >>承知しました。

  変換プログラムを管理者権限けんげんで起動します……起動完了!

  ミョリムの魂の履歴〔コピー〕を変換元に指定します。

  変換先データ名を指定して下さい。


「"ミョリムNNイメージ" にしておいてくれ!」


 >>承知しました。

  変換先データ名を"ミョリムNNイメージ"としました。

  変換準備がととのいました。 変換を実行しますか?


「おお。やってくれ!」


 >>承知しました。

  変換を実行します…………………………変換は無事に成功しました!


「それじゃ、ミョリムの脳神経細胞ネットワークをスキャンして強烈な性衝動を引き起こしている部分を特定してくれ!」


 >>承知しました。

  ミョリムの脳神経細胞ネットワークをスキャンします…………完了。

  スキャンデータを分析します……分析完了!

  スキャンデータから強烈な性衝動を引き起こしている部分を特定できました。

  当該箇所とうがいかしょは48時間以内にきざまれた回路かいろであることも確認できました。

  当該箇所が原因である確率は99.99%です。


「さぁ、ここからは未知の領域だ! 全知師。今特定した部分回路ぶぶんかいろを削除しろ!」


 >>承知しました。

  ミョリムの脳神経細胞ネットワークから分析によって特定された強烈な性衝動を引き起こしている部分を削除します……………………削除が完了しました!


「ラヴィッス! ミョリムの様子ようすはどうだ? 変化はあるか?」

「いえ、変化はありません。大丈夫です」


「そうか。ありがとう」


 さてと……論理的に考えれば、これでさっき魂の履歴から生成したニューロネットワークイメージを、ミョリムの脳神経細胞ネットワークへマージできればうまく行くはずだ。 さぁ、あとひと息だ!


 マージするというのは融合ゆうごうするとか統合とうごうするって意味だ。


 強烈な性衝動を引き起こす脳神経細胞ネットワーク内の回路は削除されている。


 だから、この段階だんかいでミョリムの基本システムをシャットダウンしたとしても、何か問題が生じることはないだろう。


 まぁ、たとえあったとしても、バックアップから復元ふくげんできるから大丈夫だ。


「よし! では、生成したニューロネットワークイメージを、ミョリムの脳神経細胞ネットワークへマージする準備をしてくれ!」


 >>承知しました。

  "ミョリムNNイメージ"を、"ミョリムの脳神経細胞ネットワーク"へマージするためにミョリムの基本システムをシャットダウンします…………

  ……シャットダウンが完了しました!……マージ処理の準備がととのいました。

  マージ処理に要する時間はおおよそ5分です。 処理を実行しますか?


 ドキドキするなぁ。 俺が神だというのに、なぜかいつも祈りたくなるぜ。


「よし。では、ミョリムを救おうぜ! マージ処理を実行せよ!」


 >>承知しました。

  マージ処理を実行します…………進捗率5%正常……


 この待ち時間って……心臓に悪いよなぁ。 うまく行ってくれよっ!



 ◇◇◇◇◇◆◆



 >>進捗率96.4%正常です。 マージ完了までおおよそ30秒です。

  …………………マージ処理完了! マージ処理は成功しました!

  ミョリムの基本システムを起動しますか?


「はぁ~~っ!! よ、良かったあ~っ! ああ。起動してくれ!」


 ラフとラヴィッスが緊張きんちょうした面持おももちでこちらを見ている。

 彼女等のひたいには汗がにじんでいる。


 >>承知しました。

  ミョリムの基本システムを起動します……起動プロセス正常。

  まもなく起動が完了します……基本システムの起動が完了しました。

  すべての処理は正常に終了しました。


「よくやった、全知師! ありがとうなっ!

 後は、ミョリムがました時にどうなっているかだなぁ……」


「ん…んん、ん……」


「あ、ダーリン、ミョリムさんがますようですっ!」


「ミョリムちゃん!」


 ミョリムがおもむろにゆっくりと目を開けた!


 ここまでは完璧かんぺきだぞ! ああ……ミョリムよ。 治っていてくれよ!



 ◇◇◇◇◆◇◇



「……う…上様……上様! うわぁーーーん!」


 ミョリムの顔をのぞき込んでいた俺に……

 目を覚ましたミョリムが泣きながらきついてきた!?


こわかったですぅ~っ! 助けて下さってありがとうございますぅ~」


「お前さん、どこまで覚えている? 触手植物のことは……」

「覚えていますぅ。 もう少しで触手につかまるところでしたぁ。 

 あじがどぶごじゃいまじだぁ~っ! おーいおいおい……」


 『ありがとうございました』と言いたいようだな。


 ミョリムはおいおいと声を上げて泣いている。 相当そうとう怖かったんだなぁ。


 あわや触手植物に捕まってしまうのか!? という寸前すんぜんで俺に助けられたと思っているようだな? 治療は成功したのか? ちょっと念のために聞いてみるか?


「ミョリム。お前さん俺と…なんだなぁ、そのう……ふかなかになりてぇと思うか?」

「え? いいんですか? 私をお嫁さんにして下さるんですか!? 嬉しい!」


 え? ダメだったのか!? 治療は失敗だったのかっ!?


「う、上様っ! あんまりです! 私のことはあんなに遠ざけたのにっ! 

 私よりも後に出会ったミョリムちゃんに求婚なさるなんてっ!

 私も嫁にして欲しいですっ!」


 えーーっ!? 何のことだぁ!?


「いやいや! そういう事じゃなくて!

 ミョリムの…ほら。 病が治ったかどうかを確かめたかっただけだ!

 ちゃんとその…例の "衝動" がだなぁ、おさえられるかどうかを確かめるために……

 『深い仲になりたい』のかどうかを聞いたんだよ!?」


「えーーっ!? 私をお嫁さんにして下さるんじゃないんですかぁ!?

 ……そうか、そうだよね。 私の身体はアキュラスに穢されちゃったんだもんね。

 無理だよね。こんな他の男におもちゃにされたけがれた女じゃ、上様のお嫁さんには相応ふさわしくないですものね……ううう……」


「え? やっぱりそうなんですかっ!? だから私のことも……

 けがれてなんかないっておっしゃったのはうそだったんですね?

 うわぁーーーん!」


 うわぁ~! なんでこうなるのぉ~。

 でも……ミョリムの依存症いそんしょうは治ったようだな!?


 しかし、人族も、エルフ族も、獣人族もみんな……女性には強く貞操ていそうを守ることが要求されているんだな。 生涯しょうがい伴侶はんりょとなる男性以外とはそういう事をしないのが良き女性ということになっているのか……。


 やはり男尊女卑だんそんじょひかぁ。根深ねぶかいなぁ。 男の身勝手みがってな論理がはばかせている……。


うそなんかじゃねぇよっ! お前さんたち二人はけがれてなんかねぇぞっ!

 ミョリム! 自分の身体をよく調べて見ろ!

 お前さんはアキュラスに襲われる前の綺麗な身体に戻っているんだぞ!

 触手植物から助け出す際に施した神術で、生娘きむすめに戻っているんだからな!

 だからけがれてなんかねぇっ!」


 ミョリムが自分の身体を調べている? 大事な場所だ。


「ああ……本当だ……ううう……。 ありがとうございますぅ……」


 いや。ありがたいことなのかなぁ?

 個人差はあるだろうが、また"初めての痛み"を味わわなきゃならないかも知れないのになぁ……。 当人とうにんがそう言うんだから本当にそう思っているんだろうけど……


 この世界の男どもの身勝手みがってなな『 処女信仰しょじょしんこう 』が、女性たちにも押しつけられているということなんだろうかなぁ。


「心の傷までは治してやれねぇが、アキュラスに奴隷にされていたことは悪夢だと思ってスッパリと忘れて、これからの人生を前向きに生きろよ! いいな!?」


「はい……それで……私とラヴィッスちゃんをお嫁さんにするという件は……?」


「そうですよぉ。うやむやになさろうとしていらっしゃいますぅ?

 だめですよぉ。 誤魔化されませんよぉ?」


 え? まだその話は有効だったのか?

 ……ああ、ダメだ! あらがえない……嫁にしたくなってくる!


 俺の"れっぽい人仕様"の基本システムがっ!


「ダーリン、お嫁さんにしてあげればいいじゃないの? うちら獣人族の嫁の数も、人族やエルフ族と同じくらいにしなくちゃだめなんでしょ?

 前にシホさんがそうおっしゃっていましたよ?


 『嫁バランスをとらないと不公平になる』


 ってね。 うふふふふ!」


 うーん。 確かに……今、獣人族の嫁はラフだけだもんなぁ……。


 たとえ獣人国家の中央神殿で待っているという后候補者たち、最終選考通過者3人全員が俺の嫁になってくれたとしても、他のヒューマノイド種族に比べると、かなり数が少ない。


「分かったぜ。 もしも、お前さんたち二人がアキュラスを成敗して、本当の意味で自由になった後も俺の嫁になりてぇって言うんだったら、俺は大歓迎だ。

 その時は俺の嫁になって欲しい。

 どうだそれで? それまでは保留ってことで?」


「はい。ダーリン! そうします!」


「ダーリン! 私もミョリムちゃんと同じです。

 でも……何があろうとも絶対にこの気持ちは変わりません! 絶対にです!」


 なんかミョリムとラヴィッスが幸せそうな顔をしているなぁ。

 あ……ラフがニヤニヤしている!?


 ああ……ハーレムが……収拾がつかないくらいに拡大していく……。

 本当に嫁が1000人できるかも???



 ◇◇◇◇◆◇◆



「それで、ミョリム。 お前さんもラヴィッスと同じ町の人間なんだって?」

「はい。私は……」


 ミョリムの話によると……


 彼女はなんと! 神殿神子だった! しかも、俺の后候補だったのだ!


 だが、最終選考は通過できなかったということだった。

 つまり、后候補最終選考落選者だったのだ!


 なるほどなぁ。 俺の嫁になりたがるのはそういう事だったのか。


 最終選考を通過できず、失意しついうちに彼女が神殿神子としてつとめる神殿がある町へ戻ってくる途中でアキュラスの餌食えじきとなってしまったということだった。


 俺の大切な嫁候補にまでちょっかいを出しやがって!

 もう完全に頭にきたぞっ!


「おのれっ! アキュラスめっ! 俺の大切な嫁候補よめこうほにまで手を出しやがってっ!

 絶対に後悔こうかいさせてやるぞっ!

 泣いて『もう殺してくれ!』と懇願こんがんするくらいに痛めつけてやるっ!

 自分の罪深つみぶかさを思い知らせてやるからなっ! 絶対にだっ!」


 思わずつぶやいてしまった。

 呟きとしてはやや大きな声になってしまったようだ。

 俺の言葉にミョリムが反応する……


「た、大切な嫁候補……う、嬉しいですぅ……」


 ミョリムが嬉しそうにほおめる。

 ラヴィッスはちょっとうらやましそうにミョリムをながめている。


 心が綺麗きれいなミョリムとラヴィッスは、いざと言うときには、アキュラスへの復讐を望まないかも知れない。


 だが、アキュラスの奴隷にされていた悪夢を払拭ふっしょくして、彼女たちがこれから先の人生を前向きに歩んでいくためにも、自身の手で、アキュラスに罰を与えさせた方がいいのではないかと、ふと思うのだった。



 ◇◇◇◇◆◆◇



 もう、ほぼハニーとなることが確定したミョリムにも、ハニー装備を一式提供したことは言うまでもないだろう。


「さあ、ハニーたち!

 ラヴィッスとミョリムに攻撃神術の練習をしてもらうぞ!」


 ミョリムの病を治した後、食堂でくつろいでいたハニーたちを全員連れて、テントの外に出てきたところだ。 ラヴィッスとミョリムに攻撃神術の練習をさせるのだ。


 今回も指南役しなんやくは、指導者として優秀なシェリーにおまかせする。


 いつの間にかシールドの外にゴブリンがウヨウヨいる!?

 うん、ちょうどいい標的ひょうてきだな!


 俺たちが現れると、ゴブリンどもはハニーたちだけに視線を送る?


 俺がハニーたちの前に立つと、ゴブリンが『見えねぇぞ! どけ!』とでも言っているかのような奇声きせいを発して……

 ヤツらは俺にどけとでもいうように手を動かして、身体を左右に動かしながら俺の後ろをなんとか見ようとしている。


 俺がこの世界に戻ってから初めて会ったゴブリンどもとは全く違うな。


 この世界で最初にゴブリンどもに襲われた時……俺には地球へ視察に出かける前の記憶がないので、最初じゃなかったのかも知れないのだが……

 あの時のゴブリンどもは目の前の俺を警戒するようににらみつけていて、俺の後ろにいた女性たちを積極的に見るようなことはしていなかったのだが……。


 だが、今目の前にいるゴブリンどもは俺には全く関心がなく、もっぱら女性だけを見ようと必死になっているのだ。


 やはりこのダンジョン内の魔物は、女性だけを標的にしているようだな?


 俺がダンジョンの詳細をたずねたときに、冒険者ギルドの担当者、ミディルの目が、およおよと泳いでいたのはこのことが関係しているのかも知れないなぁ。


 ここから戻ったら、とっちめてやるか……。


 シェリーが一歩前に出る!


「それじゃぁ、まずはファイヤーボールを放てっ!」


 "おーーっ! ファイヤーボールッ!!"


 ハニーたちが一斉にファイヤーボールをゴブリンどもに向けて放った!


 彼女たちは完全防御シールドを展開できるティアラ風ヘルムを身に付けている。


 このヘルムを身に付けているからこそ、今まで不可能だった、俺が展開しているシールド外への攻撃が、彼女たちにも可能となっているのだ。


 ヘルムが展開するシールドと、俺が展開するシールドの周波数変調パターンは全く同じだ。 ヘルムが彼女たちがはなった攻撃を、瞬時しゅんじうすいシールドでカプセル化するため、俺が張ったシールドであっても難無なんなく通過できるというわけだ!


 シェリーの指示でハニーたちは、ファイヤーボールに続いて、各属性の攻撃神術をガンガンぶっぱなしていく!


 シールド周辺にむらがっていたゴブリンどもはあっという間に殲滅せんめつされてしまったのだった。 ゴブリンごときでは、もはやハニーたちの敵ではない!


 ミョリムは、攻撃の正確さにおいてはラヴィッスにおとるものの、攻撃威力は相当なものだ。 さすがにノアハには負けてしまうが、攻撃神術の威力いりょくについてはかなりのものなのだ。


「よしっ! では次はフェイザーじゅうの練習を行うっ! フェイザー銃起動!」


 "はいっ! フェイザー銃起動!"


「出力をレベル4に設定!」


 "はいっ! 出力、レベル4にセット!"


「目標を前方にある触手植物にセット! 各自最も近い触手植物をねらえ!」


 "はいっ! 攻撃目標をセット!"


「ぅてぇいっ!」


 "はいっ! 発射!"


 見事だ! 実に見事!


 我々の周囲にあった触手植物が次々に蒸発していく!


 まとが大きいこともあって、ハニーたちが発射したフェイザー光線は、すべてが触手植物に命中して、それらを一瞬で蒸発させていったのだ! すごい!


 これでひと息つけるかと思いきや!

 どこからともなくわらわらとゴブリンどもが現れる!?


 その数も前とほとんど同じで100匹ほどだ!?


 新たに現れたゴブリンどももあっという間に殲滅せんめつされてしまった。 だが、殲滅せんめつが完了したかと思うとまたすぐ新たなゴブリンどもが100匹ほど現れた!?


 そんなことがもうずっと続いている! キリがないっ!


 >>触手植物がゴブリンを招喚し、あやつっているようです。


 <<なに!? 触手植物があやつっている?


 >>はい。

  触手植物からは、ヒューマノイド種族の女性をとりこにする媚薬の他に、魔物をとりこにするガスが放出されています。

  その成分は、シオン教徒、ナルゲン・ニムラ一派が引き起こした魔物あふれの際に採取さいしゅした魔物の魔石に、ごく少量付着していた有機化合物と一致しました。

  このガスがシオン教徒が誘魔香ゆうまこうと呼ぶモノである可能性が高いです。


 そうかっ! 女神シオンは、触手植物から誘魔香ゆうまこうを作り出していたのか!?

(→第0005話終盤参照。)


 さてと……ハニーたちも相当そうとうつかれてきたようだな。

 攻撃神術の練習もこれくらいやれば大丈夫だろう……。


 このままじゃキリがないからなぁ……元を絶つとしますか!?

 と、その前に……


 テントの中の大浴場、その湯船に、たっぷりとお湯を張り、脱衣室には着替え用の下着類とキャットスーツを女性たちの人数分用意した。


 食堂には各種飲み物が入ったドリンクディスペンサーを10台設置しておく。


「ハニーたち! 休憩にしよう!

 ミョリム、ラヴィッス、かなり上達したなぁ。

 他のみんなも素晴らしい! 大分腕を上げたな! さすがだ!

 それじゃぁここからは俺が引き受けるから、風呂に入ってさっぱりしてくれ!

 冷たい飲み物も食堂に用意してあるからな!

 風呂から出たら好きなものを好きなだけ飲んでいいぞ!」


 "はいっ!"


「シェリー、お疲れさん。 ありがとうな。

 お前さんはみんなをまとめるのがうまいな、さすがだぜ! これからも頼むな」


「はいっ!」


 うーん。 いい笑顔だ!

 シェリーもみんなと一緒にテントの中へと入っていく。


 俺とオークドゥがいる場所に、テーブル1つと椅子いすを2きゃく用意する。

 そして、オークドゥには彼がほっした冷たい飲み物を出してやった。


 オークドゥは椅子に腰掛けて、テーブルの上の冷たい飲み物が入ったグラスを時折ときおり口元くちもとへと運びながら、俺がこれからしようとしていることを、期待に満ちた目で見ている。


 100m四方程度の大きさの烈火の壁を出現させる。

 その炎の壁は、この第2階層の洞窟どうくつ分断ぶんだんするかのような巨大なものだ。


 今、俺たちの目の前は、洞窟の上から下、右から左までのすべてが地面から垂直に立ち上がった炎の壁になっている。


 ゆっくりと、まわりのありとあらゆるモノを、灰も残らないくらいに、確実に燃やしくしながら、烈火の壁はこの階層の奥へ奥へと進んでいく。


 ゴブリンどもは叫び声を上げる間も与えられず焼き尽くされて消されてしまう。

 触手植物も、まるで、もともとそこには存在していなかったかのように跡形あとかたもなく消え失せた。


 熱によって膨張ぼうちょうした空気が、この階層の入り口から上の階層へと向かってすごい勢いで吹き上がっていっている。


 シールドが無ければ、俺たちも、ハニーたちがいるテントも、飛ばされてしまっていたかも知れないなぁ。

 ちょっとやり過ぎたかな? 加減がどうも難しいなぁ。思った以上の威力だ。

 下の第3階層が酸欠になっていなければいいのだが……。


 アキュラスたちが"酸欠さんけつ"でくたばろうが知ったこっちゃないが、ヤツが連れている奴隷の女性が心配だ。


 凍ってしまっていた"第1階層"も、ここから吹き上がる熱風で元に戻っているかも知れない。


 スライムどもは"かくとなっている魔石ませき"まで粉々こなごなにしてあるから復活することはないだろうが……

 上の第1階層はゲル状になったスライムの死骸しがい?でベトベトになってしまっているかも知れない。 いや多分そうなっているな。


 しばらくすると烈火の壁は洞窟どうくつの入り口とは反対側の壁まで到達して消えた。

 この第2階層の洞窟の中、俺たち以外のすべてを焼き尽くして消滅させていた。


 洞窟の天井や壁面は、まるで釉薬ゆうやくを塗って焼いた焼き物がごとく、そうガラスでコーティングでもしてあるかのようにつるつるした岩肌いわはだになっていて、テカテカと光っている……。


 昔、あるもの名産地めいさんちで、かつて焼き物を焼いていたかまの中を改造して造られた喫茶店きっさてんに入ったことがあるが、その店の中がこんな感じだったよなぁ……。



 ◇◇◇◇◆◆◆



「さあみんな! それじゃぁ、第3階層へ向かいますかっ!?」


 "はぁ~い。" ざわざわ……


 この第2階層の魔物どもを殲滅せんめつしたあと、風呂から上がって来たハニーたちとしばらくにぎやかに談笑した。 それはとても心地好ここちよいひとときだった。


 このままずっと、みんなとおしゃべりをしていたかったのだが……そういうわけにはいかない。


 うしがみを引かれる思いをり、先へと進むことにしたのだ。


 ハニーたちも同じような気持ちだったのだろう。


 『先へ進もう』と俺が言うと、彼女等は渋々しぶしぶといった感じで同意したのだが……

 『もう少しお話ししていたかったなぁ……』というようなことを自分のまわりにいる人たちと話しているようだった。



 ◇◇◇◆◇◇◇



 第3階層へと降りる階段は人二人ひとふたりが横にならんで通れるかどうかのはばで、高さの方もオークドゥが少しかがまないと通れないくらいに低い。


 せまくてあまりゆとりがない……だから、全員が完全防御シールドではなくて極薄シールドを展開しているのだが、これだとガスは防げない。


 それゆえ、今、念のためにメンバー全員をターゲット指定した状態にしてある。


 もしも触手植物が放つ媚薬びやくガスのような有毒ガスを検知した場合には、ただちに、ダンジョンの外へとハニーたちを転移させようと思ってのことだ。


 『用心ようじんにはあみれ!』ってな。 後悔こうかいは絶対にしたくないからなぁ……。



 第3階層の入り口を入るとそこは森だった。 うっそうとした森だ。

 オークドゥたちが暮らしていたオークの集落があった森に雰囲気ふんいきている。


「なぁ、オークドゥ。ここはお前さんたちの集落があった場所に似ているとは思わねぇか?」


「はい。私もそう思っていたところです。 なんとなくなつかしさをおぼえます」

「やはりそうか」


「ええ。 ひょっとすると、この階層の魔物はオークがメインかも知れません」


「オークが相手だったら、お前さんどうする? 戦えるのか?」


「もちろん戦えますとも!

 種族は同じであっても、同じ集落しゅうらくらす者ではありませんから……。

 地上でも他の部族と戦をすることはありましたし、全く問題ありません!」


 その時、森の中を何かが近寄ちかよってくるかのような気配けはいと音がする……。


 マップ画面で確認すると……ものすごい数の魔物だ!

 しかも、俺たちが想像していた通りオークだっ!


「みんな! オークの集団が接近しているぞ! 戦闘態勢をとれっ!」


 みんなに警告してからすぐに俺達の周りにシールドを展開する。


 しばらくするとオークたちが姿を現した!


 ハニーたちの表情が一瞬いっしゅんけわしくなる!

 相手はオークだ! そう女性の敵だ!


 彼女たちの表情が険しくなるのも当然なのだ!


「ハニーたち! 落ち着いて! まだ攻撃はするなよ! いいなっ!?」


 "はいっ!"


 その時である! オークたちを見たオークドゥが突然とつぜんさけんだ!


「な、なんでお前がここにいるんだっ!?」


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