第0045話 キャットスーツ

 まさかハニーたちが積極的にダンジョン調査クエストをしたがるとはなぁ。

 何も好き好んで触手植物なんかがいるような場所に行かなくてもいいのに……。


 自分たちの力を過信していなきゃいいんだがなぁ……。


 ダンジョン内を探査するとなると、装備も考えなくてはならないだろう……。


 ダンジョン内がすべて石造りの建造物のような構造であれば問題ないが、洞窟のような場所だったとしたら、異世界転生モノのアニメとかでヒロインが身に付けているような装備よりも、身体にフィットしたものの方がいいだろうな。

 人ひとりが這って通るのがやっというような場所を通ることになるかも知れないからだ。ごちゃごちゃした装飾は邪魔にしかならないからなぁ。


 冒険者ギルドの担当者、ミディルに聞いても『詳しいことは全く分からない』の一点張りだったからなぁ。ダンジョンの大まかな構造すらも分からないだなんて、ホント、頼りにならないなぁ。

 まさか、俺たちがクエストを断りたくなってしまうような、何か"重大な事実"を隠しているってことはないだろうな?

 そういえばミディルの目がなんとなく"およおよ"と泳いでいたような気が……。

 ……俺の気のせいだよな?



 触手植物についての情報も少なすぎるな……。


 もしも、触手植物が使用する媚薬が"ガス"だとすると、ハニーたちが身に付けている指輪が展開するシールドでは防げない。

 ハニーたちが持っている"極薄シールド発生装置付指輪"が展開するシールドは、彼女たちが窒息しないように、つまり、肺呼吸、皮膚呼吸ができるように、気体に対しては防御をしないように設定されている。

 だから、触手植物が女性を捕らえる際に使用する媚薬と呼ばれるモノが、もしもガスのようなものであるとしたら、それを防ぐことができないのだ。


 完全な防御シールド発生装置内蔵のアイテムを別に持たせた方がいいな。


 彼女たちは俺の加護によって毒耐性を持っているから、多分大丈夫だとは思うんだが……精神支配耐性を持つシェリーが、特殊な隷従の首輪によって奴隷にされてしまったという苦い経験から、最悪の状況を想定して準備しておくべきだと思っている。


 シオン神聖国が絡んでくる可能性がある以上は、絶対に油断してはいけない。

 備えを万全にしておいても全く安心はできない。



 そんなことを考えて、ハニーたち用に、ダンジョン探査に適していると思われる装備を新たに生成した。クエストに同行するハニーたちだけに渡すと他の者たちが快く思わないかも知れない。無用のトラブルを避ける意味でも、ハニーたち全員に

同じ装備をプレゼントすることにした。


 まず服装の方は、着用と同時に自動的に体型に合わせて身体にフィットする黒のキャットスーツと黒のブーツ、黒の手袋を用意することにした。


 これらは、強化された炭素繊維をメインとした特殊な複合素材で作られており、強酸性の液体の中に落ちても、溶岩の海に落ちても身体が保護される等々、各種の耐性を持つ上に、柔軟性にも優れている。伸縮が自在だ。

 黒色なのは、素材の色がそうであるということもあるが、ダンジョン内で隠れて魔物や、シオン教徒をやり過ごすような場面を想定して、なるべく目立たなくするためでもある。


 なお、この黒のキャットスーツには簡易的な転移装置も内蔵されている。

 スーツを着ている者とスーツに触れているモノは、スーツを着ている者が過去に行ったことがある場所か、俺のもとへとスーツと共に転移することができるのだ。



 彼女たちの頭にはティアラ風のヘルムを装着してもらう。これには、半径2mの範囲に完全な防御シールドを発生させられるシールド発生装置が内蔵されている。

 また、念じることでフルフェイスのヘルメットに変形する。



 腕には、フェイザー銃を内蔵したブレスレットを装着してもらおう。神術が使えない状況に陥ってしまっても攻撃ができるようにと考えてのことだ。


 ブレスレットに内蔵されているフェイザー銃は、出力レベルの調整が可能だ。

 レベルは十段階。麻痺レベルから巨大なドラゴンを一瞬で蒸発させられるほどの殺傷レベルまで指定できるようにしてある。


 このフェイザー銃は念じるだけで、起動、レベル設定とフェイザー光線の発射が可能である。

 ノアハやシェリーが奴隷にされてしまった時のように、奴隷にされてしまって、身体の自由が奪われた状態でも、念じることさえできれば銃の使用が可能なのだ。



 そうだ……装備等を持ち運ぶために亜空間収納ポシェットの代わりとして、腰にフィットする亜空間収納機能付ウエストポーチを装着してもらうようにするかな。

 その方が動作の邪魔になりにくいだろう……。



 なお、これらの新装備はすべて、魂のプライマリーキー情報が一致する者以外は使用できないようにしてある。

 そう、もちろん不正利用防止のためだ。不本意ながらシオン神聖国の手に渡ってしまうことがあったとしても、彼等には使えないようにしたいからだ。



 俺とオークドゥもほぼハニーたちと同じような装備にした。

 ハニーたちが頭に装着するティアラ風ヘルムがヘアバンド風のヘルムに代わったくらいの違いしかない。



 さゆりが黒のスーツを着て言う……


「まるでGA○TZスーツみたいだね?あ、でもGANT○スーツのような丸くて青く光る突起物はないから……どちらかと言うと女の子の方は、キャットウーマンみたいかな?」


 なるほど……そう言われてみればそんな感じにも見えるな。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「うわぁ~。か、身体のラインがハッキリしちゃいますよぉ~。恥ずかしいぃ」

「タチアナさんはボンッ!キュッ!ボンッ!で格好いいじゃないですか。私なんか胸が無くて……」

「いえいえ~。スケさんはぁ~鍛えているからぁスタイル抜群じゃないですかぁ。余分なお肉が無くてぇ~、すっごく似合っていますよぉ~」


 ボディコンシャスだからなぁ、女性たちには抵抗があるのかなぁ……でも、この方がダンジョンでは動きやすいと思うんだけどなぁ。


 ん?ヘルガが俺に見せつけるかのように悩殺ポーズをしている?


「うふふ。ダーリンはボンデージがお好きなのですわね?どうですか?そそられませんこと?うふっ!」

「ヘルガっ!お、俺はボンデージなんか好きじゃないぞ!趣味だからとか、そんなレベルの低い理由でそのスーツを作ったんじゃねぇ!ダンジョン探査ということで実用を第一に考えてだなぁ……」


「『わっ!』」

「うわっ!びっくりしたぁ」


 突然、キャルとシャルが俺の目の前に転移して来たのだ。二人は"キャッキャ"と笑っている。シャルの場合は念話で『キャッキャ』と言っているのだが……。

 キャル、シャル、シェルリィ、ラティ、ローラ……子供たちは転移で遊んでいるようだ。



「あ~あ、たのしいね~、シャル!」

『うん!たのしい!』

「これでぇ~だ~りんともぉ~、いつでもぉ~あえるのぉ! わーい!

 ……てんいなのぉ!」

『てんい』


 キャルとシャルがどこかへ転移していった。

 ハニーではないのだが、俺が加護している子供たちにも一応、装備一式を作ってプレゼントしたのだが……こりゃ、渡さない方が良かったかなぁ。ははは。


 キャットスーツを手渡すためにみんなに集まってもらったついでに、ハニーたち全員に念話能力も付与しておくことにした。

 ダンジョン探査では、念話が使えた方が何かと便利だろうと思って、一緒に行く者たちには念話能力を付与するつもりでいたのだが、これも全員に付与しておいた方が後々波風も立たないだろうからな。あ、もちろん子供たちにも付与してある。


 この念話能力は1対1でのみ使用可能だ。3者通話のようなことはできない。


 なんかバタバタしていて加護が遅くなってしまったのだが、ロレンゾ侯爵邸から救出してきた獣人族の女の子、ラティもこの機会を利用してようやく加護できた。

 そして今、ラティも俺の庇護下にある。当然念話能力も付与してある。


 キャルたち子供たちは、シャルと念話で会話できるようになったことを、非常に喜んでいるようだ……。

 今までは、俺かシオリたち管理助手のような"念話能力を有する者"が間に入って念話回線をつなげてやらないと、キャルたちはシャルと念話で話をすることができなかったから、会話したい時に話せるようになったことが嬉しいのだろう。


 シャルが念話を使えば会話ができるようになったということが分かった時点で、キャルとシャルの二人の間だけでも念話が使えるようにしてあげるべきだったと、ちょっと後悔している……。彼女たちの気持ちを考えればすぐに分かりそうなことなのに……情けない。


 ん?でも……シャルが念話に頼り切ってしまって、声による普通の会話ができるようにならないってことはないだろうな?……それがちょっと心配だな。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「キャル、シャル、シェルリィ、ローラ、ラティ。転移はねぇ……悪い人に捕まりそうになった時とか、本当に困った時以外には使わないようにして欲しいんだよ。約束してくれないかな?」

「どうしてなのぉ?」


「転移しようとしている先がどうなっているか分からないからなんだよ。ひょっとしたら魔物が口を開けて待っているかも知れない。転移した瞬間にパクリと魔物に食べられちゃったら嫌でしょう?……だからね。あんまりポンポンと転移しないで欲しいんだよ。困った時だけにして欲しいんだ」


 彼女たちにはマップで索敵する能力がない。だから、転移先の状況が分からないのに転移してしまう事になる。行き当たりばったりだ。それは非常に危険だ。


「はい。分かりました。それに転移ばかりで足を使わないでいると、足が衰えて、歩けなくなってしまうかも知れませんものね……」

「うん!わかった!ラティ、約束する!」

「はーいなのぉ。キャルもやくそくするぅ!」

『シャルもやくそくするよ!』

「ローラも!」


「よーし。みんないい子だなぁ。よしよし……」


 子供たちの頭を順に撫でていく。


「あ、それとねぇ……念話するときは最初に『今お話ししてもいいですか?』って相手に聞くようにしてね」

「どうしてぇ?」

「あのね、キャル。俺とキャルが大切な大切な話をしている時に、誰かがいきなり話しかけてきてさあ、自分の言いたいことだけをべらべらとしゃべり出したらどう思う?ちょっといやだなぁと思わない?」

「うん。おもうのぉ。そんなのはいやなのぉ」

「みんなも嫌だよね?」


 子供たちは全員が『うん、うん』と頷く。


「だからね。『今お話ししてもいい?』と聞くようにしようね?」

 "はーいっ!””なのぉ!"


 みんな素直ないい子たちだなぁ。かわいいなぁ~。


 こうした俺と子供たちとの会話をこの場にいるハニーたちもみんな聞いている。


「そういう事だからハニーたち、お前さんたちも注意してな」

 "はいっ!"



 ◇◇◇◇◇◆◇



 こりゃ、晩飯はここでバーベキューパーティーにするかな。ははは。


 夕食までの間に、今日俺が加護したジュリンに攻撃神術の練習をさせようと砂漠地帯、プレトザギスのいつもの練習場所にやって来た。シェリーが指南役だ。


 攻撃神術の練習を希望する者も募って連れてきたのだが……なんと、神都にいて俺の加護を受けている者たちが全員ついてきたのだ。子供たちも一緒についてきている。


 ということで、夕食は練習後そのままここでバーベキューパーティーを行おうと思ったのである。



 子供たちもハニーたちと一緒に攻撃神術の練習をしたがったが、練習はさせずにバーベキューパーティー会場の設営を手伝わせることにする。


「ねぇどうしてだめなのぉ~?れんしゅうしたいなぁ~」

『そうです。わるいひとたちをやっつけられるようになりたいです』

「あのね。攻撃神術はすっごく危ないんだよ。だから、まだ君たちには使わせたくないんだよ。もう少し大きくなったら、キャルたちにも教えてあげるからそれまで我慢してね」

「ふぅ~ん」

『いくつになったらいいのぉ?』

「15歳になったら俺が直々に教えてあげるからね」

「じきじきってなあに?」

「んーえーっと…あのね。今日みたいにシェリー先生に教わるんじゃなくて、俺が手取り足取りキャルたちに教えてあげるということだよ」

「きゃっ、だ~りんのえっちぃ!」


 をゐをゐ……。


「いやいや、実際に手を触ったり足を触ったりするんじゃなくてぇ、丁寧に教えるということだよ」

「うふふ。しってるぅ~。だ~りんをからかったのぉ。うふ」


 だ、誰かに似てきたぞ!うわぁ~……よ、幼女といえども女性だなぁ。

 ああ……もうジュリンといい、ヘルガといい……キャルよお前さんもか?

 なんか頭痛がしてきたよ、ったく。疲れるなぁ……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 今日の攻撃神術の練習相手となるゴーレムは、触手植物対策として"大ダコ風"のものを1000体程生成したのだが……タチアナが美味しそうだと言っている。


 たこ焼きを思い出したようだな。ははは。でも食べられないからな。


 キャットスーツを着たハニーたちが戦う姿は、まるでアメリカンコミックのヒロインが宇宙からの侵略者と戦っているかのように見える。


「あっ!タチアナ!それは焼いても食えねぇから!かじっちゃだめだって!」

「うわぁぁぁ、まずいですぅ~。土の味がしますぅ~」

「しょうがねぇなぁ、夕食にはたこ焼きも出してやるから……もう」


 ソニアルフェがタチアナのまねをしてタコ足をかじろうとしたが、不味いというタチアナの言葉に固まっている?俺が見ていると分かってソニアルフェはテヘッと笑ってペロッと舌を出す。ははは。


 あっ、油断しちゃだめだっ!別のタコがソニアルフェを捕まえた!

 め、目のやり場に困る……ちょっとエロエロな状況になっている!


「ウインドカッターっす!」


「ふぅ~。ウェルリ、グッジョブ!」

「でへへへぇ~。ダーリンに褒められちゃったっす!う、うわぁ~」


 あちゃぁ……今度はウェルリが!

 こんなんで明日からのダンジョン探査は大丈夫なのか?心配になってくるな。


「油断禁物だと注意します。氷結&ウインドカッター!」

「はひぃ~、た、助かったっす。ジー、ありがとうっす!」

「今度からは気をつけて」

「うっす!」


 なんだかんだでうまくフォローし合っているな。これなら大丈夫かな?

 うわぁっ!ノアハは相変わらずすごいな!氷・岩・竜巻の合わせ技を使ってガンガン大ダコを屠って行く。


「よし!フェイザー銃が使える者たちは、フェイザー銃で攻撃してみてくれ!」

 "はいっ!"



「うわっ!び、びっくりしたぁ!」


 ジュリンがいつの間にか俺の背後にいて、俺の耳に息を吹きかけたのだ!


「ねぇ。フェイザー銃ってなあに?私、使えないんだけど?」

「ああ、あそこで光線を放っているだろう?あれのことだ。ああして光線を放っている者たちのみに渡してある武器だ」

「そう。私にはくれないのね?」

「ああ、悪ぃが今はまだダメだ。俺のハニーになってからな」

「あら。言質を取ったわ。そのうちにハニーにして下さるのね?うふっ。それまで待つわ。いつまでも……ね」

「え?あ?ええ?い、いや、ハニーにするとは……」

「ダメよ。聞いちゃったもの。うふっ。『今はまだダメだ』ってね」


 あちゃぁ~。

 なんかBGMで『あみ○』の歌が流れているような気がする。

 そう『あ○ん』の出身地風に言えば『まっとるがや』という題名のあの歌だ。

 『わたしま~とるがやっ!いつまでもま~とるがやっ!……』というあの歌だ。



「そ、それよりジュリン、攻撃神術はうまく使えるようになったのか?」

「ええ。もちろん。バッチグーよ。うふふ」

「ええーっ!だ、誰から聞いた?」

「え?何を?」

「バッチグーだよ。バッチグー!」

「ああ。あなたのハニーちゃんたちから聞いたの。もうみんなお友達よ。あなたのことをたくさん聞いたわ。もうなんでも知っているわよ。ラッキースケベも・ね!うふふ」


 い、いつの間に……うわぁ~。なんか外堀から埋められていく感じが……。

 ジュリン恐るべし! この子は軍師タイプなのかもなぁ……。


「だ~りん、おさらはここにおけばいいのぉ?」

「ああ。キャル。そこでいいよ。ありがとう」


 攻撃練習は着着と進む。バーベキューパーティー会場の設営も着着と進む……。

 ジュリンによって外堀も着着と……。参ったな。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 ロレンゾ侯爵から助け出したエルフ女性たちの内、神殿に残ってくれた女性たちと奴隷商館から助け出した女性たちもみんなバーベキューパーティーに招待した。

 神殿が"管理者不在"となってしまうのでちょっと躊躇われたのだが、シオリたち管理助手もここへ連れてきている。みんなは誘いに快く同意し、参加してくれた。


 攻撃神術の練習で汗をかいた女性たちのために、バーベキューパーティー会場の側に大浴場テントが設置してある。

 ここに招待した女性たちも全員が大浴場で汗を流すことにしたようだ。


 神国もエルフの国も、湯船にゆっくりと浸かる風習は無いようなのだが、すでに大浴場に入った経験がある者たちは、この大浴場でゆっくりと湯船に浸かる気持ちよさというものに嵌まってしまったのかも知れない。

 奴隷商館から助け出した女性たちは、身綺麗にしてから神殿に来たということもあり、まだ大浴場に入ったことはなかったが、大浴場経験者に誘われて、みんなが湯船にゆっくりと浸かる経験をしてみたいと思ったようだ。いい傾向だな!


 シオリとさゆり、そして、シホは、そんな入浴する女性たちのために、ちゃんと着替えを人数分用意してくれているようだ。さすがだ。気が利く。




「それでは。みんなの未来に幸多からんことを!乾杯!」

 "かんばーーいっ!"


 いつものように、俺の乾杯の音頭でバーベキューパーティーが始まった。

 ここは未開の砂漠地帯。誰にも気兼ねする必要は無い。臭いも、騒音も余所様に迷惑をかける心配がないのだ。


「あ、だめだめ!生肉を掴んだトングで焼けた肉を触っちゃだめよっ!お腹が痛くなっちゃうから!気をつけてね!」


 今回初めてバーベキューパーティーに参加した人が注意されている。

 ふむふむ。大分浸透したようだな。いい傾向だ。


 その時!バーベキューパーティー会場を囲むよう展開されているシールドの外の砂が突然盛り上がり……そして、数匹の巨大なサンドワームが砂の中から現れた!


 "きゃー-ーっ!"


 ハニーたちは至極冷静だ。だが、奴隷商館から救出した女性たちや奴隷にされていたエルフ女性たちからは悲鳴が上がった!


 んっ?突如出現したサンドワームたちはノコギリのようなギザギザの歯が生えた丸い口をこちらへと向けて、まるで固まっているかのようにじっとしている?


 キャルとシャルがシールド境界までトコトコと歩いて行く?

 まぁ、シールドがあるから大丈夫だな。俺の庇護下にあるキャルたちが襲われる心配もないだろう。


「あのねぇ~むしさんたちぃ~みんなのぶんはねぇ~ないのぉ。ごめんねぇ~」

(うん!うん!)


 キャルたちがサンドワームたちに話しかけた!?

 するとサンドワームたちは、まるで肩を落とすかのようにガクッとうなだれたかと思うと、クルッと向きを変えて、後ろ姿に哀愁を漂わせながら砂の中へと消えていった。


 実は、シールドの外へ排煙用の煙突が突き出ている。

 そこから漂ってきたいい匂いにサンドワームたちが引き寄せられてきたようだ。


 いつも悪者退治で大変お世話になっているサンドワームくんたちに迷惑をかけてしまったか……ごめんな。


 お詫びの印にレプリケーターで100tくらいの牛肉を生成して、彼等の巣へと転送してやった。……焼いた肉の方が良かったかな??

 そして、排煙用の煙突の先端に浄化装置を取り付けた。これで魔物が臭いに引き寄せられることもないだろう……。



 ◇◇◇◇◆◇◆



「オレンジジュースになります。そして、ウーロン茶になります」


 さゆりが飲み物を取りに行くついでに、俺とシオリの分も持ってきてくれた。


「あのさあ、さゆり……悪ぃけど突っ込ませてもらってもいいか?」

「え?なあに?いいよ」

「ありがとう……オレンジジュースになってみろよ!……ふぅ~スッキリした!」

「な、なになに?どういうこと?」


「いや~日本人だった頃からすっごく気になっていたんだよなぁ。『なります』の使い方にな。いつも昼飯を食いに行っていた喫茶店でな、アルバイトの子が料理を持ってきてくれる時に『焼き肉定食になりまぁす』ってな感じでテーブルに料理を置くんだよ。その時にいつも『なれるもんなら焼き肉定食になってごらんなさい』と言ってやりたくて、いつもうずうずしてたんだよ。さすがの俺も、嫌みになっちまうからなぁ、そんなことは言えなかったがな。だから、お前さんには悪ぃんだがここで言わせてもらったというわけだ。ごめんな」

「んー。よく分かんないなぁ」


「『なります』というのは変化を表す言葉だろ?『医者になります』とか……」

「確かにそうだね」

「まぁ、結果として役割を果たすといった場合にも使うけど。例えば『文章を書く上で参考になります』というような……」

「うん」

「だから、本来の意味で考えると『焼き肉定食になります』は『私は焼き肉定食になります』つまり『私は焼き肉定食に変身します』というような意味に取れてしまうんだよなぁ。"結果として何かの役割を果たす"という意味には、この場合は成り得ねぇからな」

「なるほどね」

「言葉は時代と共に変化していくのは当たり前なんだがなぁ、古い人間からすると違和感がなぁ……。俺が日本人だった頃は言葉のプロのはずのアナウンサーまでが『ここが事故現場になります』とか『ここが建物の入り口になります』って平気で言っていたからなぁ……困ったもんだぜ」

「それで『焼き肉定食』なんだけど、どう言うのが正解なの?」

「『焼き肉定食です』とか『焼き肉定食でございます』でいいと思うぜ」

「なーんだ、そっかぁ。いやぁ~勉強になるわ~」


「まぁ日本に戻ることはねぇからどうでもいいことなんだけどな。悪かったな」

「ううんうん。今でもほら『橘ユリコさんの件』とかで、地球の日本担当者たちとメッセージ交換をしているんだけど、その時の"ネタ"になるから嬉しいんだ。この前の『破天荒』でもね、結構盛り上がったんだよ」


「そうかなのか」

「うん。で、他になんかない?気になっていた言葉とか……」

「急に言われてもなぁ……うーん、『姑息こそく』って言葉は気になるな」


「こそく?」

「ああ。『おのれ!姑息なヤツめ!』という誤用をしているのをラノベとかでよく見かけたんだけど。見たことねぇか?」

「あ、ある!『卑怯なヤツめ』という意味でしょ?これ間違っているの?」

「ああ。本当は『一時しのぎ』とか『間に合わせ』というような意味なんだがな。『卑怯な』って意味だと思っている人が結構いるんだよな」

「わ、私も……。てへへ。……ちょっと待ってね」


 さゆりがメモとペンを生成して、一所懸命何やら書いている。


「それで、他には?」

「え?そう言われてもなぁ……。『穿うがった見方』ってのもあるな」

「ああ聞いたことがある。『意地悪な見方』って意味でしょ?これも間違い?」

「そうだよ。『細かいことを指摘する』とか、事の真相とかを『的確に指摘する』というのが本当の意味だよ」

「うわぁ~頭が痛くなってきちゃったよ。私、全部ダメじゃん。とほほだよ」


 さゆりが頭を抱えだした。

 シオリは俺たち二人のやり取りをニコニコしながら見ている。


 日本語の事ばかり話していては、シオリが気の毒だな。話題を早く変えよう。


「ダーリン、すごいね」

「いや、俺は普通に小中高大と教育を受けてきただけだぜ。特に優秀じゃなかったしな。まぁお前さんはしようがないよ。起動してすぐに管理助手として日本に放り込まれたんだもんな。俺みたいに、"ちゃんと"赤ん坊から生きてきたってわけじゃねぇんだから。……ということで、この話はこれで終わりにしようか」

「ううう。でもね……うーん。勉強しよう!……ねぇ?他には?」

「おいおい!」

「ねぇ?なんかないの?突っ込ませてあげたんだからさぁ~」


「あらあら……まだこんな時間なのにやっちゃったの?エロエロね?」

「ちょ、ちょっとまて、ジュリン!勘違いするな!も、問題点を指摘するって言う意味の『突っ込む』なの!」

「うふふ。冗談よ。シンさん…かわいいわね。じゃぁね」


 あー疲れる!ジュリンめ。もうスルーだ!スルー!

 ジュリンは俺をからかえて満足したのか笑いながら去った。いや、シオリが隣で怖い顔をして睨み付けているからか?さすがのジュリンもシオリには弱そうだな?


『シオリ、ごめんな。こんな話題は面白くねぇよな』

『いえ。お気になさらず続けて下さい。こうしているだけで楽しいですから』

『悪ぃな。日本のことになるとつい……』

『ささ。何かありませんか?さゆりさんが待っていますよ?』

『ああ。うーんとなんかないかなぁ……そうだ。これだ。だけどもうこれで最後にしてもらおう。悪ぃな、シオリ』

『いえ』


「さゆり。思い出した。『さわり』って言葉もよく誤用されるぜ」

「さわり?」

「昔、俺が見た映画について、面白そうだから『さわり』だけでも教えて欲しいと後輩に言われたことがあったんだよ」

「うん」

「それで、本当に『さわり』を話してもいいのか?と念を押してから『さわり』を話したんだよ」

「うん。それで?」

「そうしたらさぁ~後輩が怒ってな。『ネタバレなんて酷いじゃないか!』と怒るわけだよ。……やっぱりなぁと俺は思ったんだが、さゆり、お前さん、俺の後輩が『さわり』をどのような意味だと思っていたのか分かるか?そして、本来の意味は分かるか?」

「うーーん?『さわり』って……その映画の初めの方ってことだよね?違う?」

「あちゃぁ~お前さんもか。俺の後輩もそう思っていたらしいんだよ。なのに俺が

一番面白ぇところをベラベラと話しちまったんでな、そいつは『ネタバレだ!』と言って怒ったというわけだ。『さわり』の本来の意味は『見どころ』というような意味なんだけどなぁ……」

「メモメモっと……。それで、他には?」

「おいおい!さゆりさんや。もうこれくらいにしておこう。また何か思い出したら言うから……な?日本の話題で盛り上がってたんじゃ、シオリがかわいそうだ」

「あ!す、すす、すみません!」

「大丈夫。見ていて楽しかったですから。日本語はとても難しそうですね。二人が話していた内容は頭の中で自動翻訳されてしまいますけど、なんとなくやり取りは分かりましたし……こうしてダーリンのすぐ横にいられるだけで満足ですから」


 そう言うとシオリは俺の方を見て微笑んだ。


 テーブルの反対側にいるさゆりには全く見えないと思うが、実は、さっき念話を交わした時から、シオリの求めに応じて俺の手は、テーブルの下でずっとシオリと恋人つなぎをしている。中身はオッサンなのに、うぶなガキのようにドキドキしてしまうぜ。


 こうして3人で話をしているのに、ハニーたちが誰も近寄って来ないのは妙だ?


「あのさあ、誰も話しかけてこねぇよな。どうしちまったんだろうなぁ?」

「あ、それなら分かるよ。私がね、今後の人族国家運営の件で、3人で重要な話し合いをするから邪魔しないようにと言ってあるんだ」


「おいおい!」

「あ、でも……あながち間違いではありません。代官を成敗されたでしょ?」

「ああ」

「そして昨夜、代官職務を代行していたロレンゾ侯爵を成敗されましたでしょ?」

「だからさあ~、もう大変なわけなのよ~。この神都の行政を司る者を早急に選ばないと、"しっちゃかめっちゃか"になっちゃうよ」


「なるほどなぁ……」

「后の中から誰か選べませんか?ダーリンから見て誰か適任者はいませんか?」

「多分、貴族であることが望ましいよなぁ……。そして、頭の回転が速い人物じゃないとダメだろうし……。うーん、ひとりだけじゃないとダメかな?」

「いえ、そんな決まりはありません」

「二人でも三人でも、ちゃんと神都の行政が回っていくならいいんじゃない?」


「そうか。ならば、貴族出身のゼヴリン・マーロウと、ソリテアの二人に任せてはどうだろうか?二人を公爵に任命してやれば、俺の嫁なんだし誰も文句は言えねぇだろう?どうだ?」

「彼女たちならいいと思います」

「うん。いいかも!ゼヴリンはもともとが貴族だから、貴族の行動パターンとかもよく分かっているだろうし……貴族連中を牽制するためにもいいかも知れないね。名案じゃない?」


「それから、補佐官として、ジュリンをつけてやりてぇんだがどうだろう?」

「え?でも……犯罪奴隷だったからって人族に嘗められない?」

「年齢も17歳になっていますので、彼女を犯罪奴隷のジュリンと同一人物だとは思えないでしょう。疑われても知らぬ存ぜぬ別人だと言い張ればいいでしょうし。

 後はそれなりの地位につければ、彼女はきっと活躍してくれると思います。私も良い人選だと思います」

「それなりの地位か……彼女の生家は男爵家だったけど、侯爵にでも任ずるか?」

「それだけでは新興侯爵家として古参貴族から侮られてしまいますでしょうから、やはり……ダーリンの妻にすべきかと」

「へっ?結局そうなるのか?」

「ダーリンはジュリンが嫌いなの?」

「いや。嫌いじゃねぇよ。あの小悪魔的なところには非常に惹かれる。ああ見えて心は純真だしな」

「なら決まりね。嫁にしましょう。どう?シオリさん?」

「私たちにはダーリンの決定に異を唱える権利はありませんが……私も、彼女ならいいと思います」


 いやいや十分に権利はあると思うぜ。特にこれはプライベートな事だからな。

 ん?シオリはひょっとして……俺の嫁取りも仕事と思っている?え?


「いや、シオリ。認めてくれるのは嬉しいが、お前さんたち妻には、十分反対する権利があると思うぜ。

 ああ……でもなんか落ち込むなぁ……自己嫌悪に陥るぜ。俺にはお前さんたちという大切な女性がいるというのに、なんかさあ……出会う女性を片っ端から好きになっちまうんだよ……。俺、前はこんなんじゃなかったんだがなぁ……」

「それでいいのですよ。大丈夫ですよ。それでいいのです」

「でも……こんなに簡単に、出会う女性出会う女性がコロコロとダーリンを好きになっちゃうと、恋の駆け引きとかが全く楽しめないよね。神だから仕方ないのかも知れないけど、ダーリン、モテすぎだよねぇ?うふふ」

「はぁ~」

「ははは。もう開き直るしかないって!このペースならじきに嫁が1000人超えそうだね。ははは」


 さゆりが勝手なことを言う……だが、本当にそうなりそうなので怖い。

 ジュリンと目が合った。 ジュリンを手招きする。


「……ということなんだが、ジュリン。引き受けてくれるか?」

「この話、引き受ければシンさんのお嫁さんになれるのね?ならもちろんOKよ。私には願ってもない話だわ。こんなに早く願いが叶うなんて……夢のようね」

「それで……娼館のアドバイザーの件だが……」

「そちらも大丈夫よ。任せて。両方ともちゃんとやってみせるわ。あなたに認めてもらいたいもの。うふふ」

「色々と頼んじまって悪ぃな。困ったことがあったらすぐに相談してくれよ」

「困ったことがなくても相談するわね。嫌がっちゃだめよ?うふふ」

「ははは」

「初恋が実を結ぶなんて……私、最高の幸せ者ね。生きていて良かったわ」

「ああ。俺もお前さんと出会えて本当に良かったと思うぜ。ハニー」

「うふふ。ダーリン。好きよ。だーいすきっ!」


 ハーレムはガンガン拡大していくのであった。



 ◇◇◇◇◆◆◇



「ゼヴリン、ソリテア。あのな、お前さんたち二人には、神都の統治を任せてぇんだがどうだろう?引き受けてくんねぇかな?」

「はい。ダーリンのお頼みとあらば喜んで」「私もですわ」


「ありがとう。それで……二人を公爵に任じようと思う。爵位があった方が何かとやり易いだろうからな。異存はねぇか?」

「「はいっ!」」


「よかった。それからな、お前さんたちのサポート役を、このジュリンに頼もうと思っている。彼女は元々男爵家の出なんだが、バカ貴族どもに嘗められねぇように今回、彼女を侯爵に任じ、そして、俺の嫁になってもらうつもりだ」

「「はい」」


 バーベキューパーティー終了後、ハニーたち全員に集まってもらっている。


 今話している内容はすでにシオリとさゆり、そしてシホからハニーたちに根回し済らしく、俺がジュリンを嫁にするつもりだと言っても誰も異議を唱えずにこにこしているだけだった。

 そして、ゼヴリンとソリテアの同意後すぐ、ピチピチギャルハーレムメンバーは皆、ジュリンを歓迎するつもりだとヘルガが代表して俺に告げた。


 そのヘルガの言葉を聞いて、ジュリンがはらはらと落涙する。



 ◇◇◇◇◆◆◆



 昨夜はあの後、ジュリンに"ハニー装備一式"をプレゼントした。もちろん、例のキャットスーツも、極薄シールド発生装置付指輪やポシェット、ウエストポーチもすべて含まれている。

 装備一式をジュリンに手渡した時に、あの小悪魔的女性のジュリンの目から涙が溢れるのを見て思わず胸がキュンとなってしまった。普段とのギャップにやられてしまった。


 昨夜はキャルたち子供を寝かしつけた後、ソリテアの夜伽スケジュールを完璧にこなしてやったぜ!どうだ!精力絶倫モードの助けは借りたが……ごにょごにょ。


 人族とエルフ族は公平であらねばならぬ……ということで、エルフのハニーたち全員とひとりずつ順に"致す"ことになっていた。もちろん!その通りにしたぜ!

 ソリテアからは今回も必ず3セットずつ行うようにと厳命を受けていた。彼女は鬼軍曹だ!いや、この神都の代官のひとりだから鬼代官か?


 人数が人数だけに、さすがに今回はほぼ徹夜になってしまった。寝不足気味だ。

 こんなんでダンジョン探査に向かえるのだろうか?ふぅ~。

 ああ……今朝の太陽はなんとなく黄色く見える……。



 ◇◇◇◆◇◇◇



「行ってらっしゃいませ」


 シオリの言葉に送り出されて俺たち冒険者一行は、まず仲間であるオークドゥの定宿へと彼を迎えに向かう。シオリは出発の際にそれとなく俺に修復神術を施してくれた。俺がなんとなく疲れているように見えたのかも知れない。愛いやつじゃ。


「み、みなさん、その格好はなんですか!?」


 俺たちはみんな黒い全身スーツを着ているのだが、その格好にオークドゥがドン引きしている。失礼なっ!お前もこれを着るんだぜ!


「ほらよ。これがお前さんの分だ。部屋に一旦戻ってチャッチャと着替えな」

「えーっ!?こ、こんなぴっちりとした服を着るんですか?」

「そうだっ!転移機能とか色々ついているんだがなぁ、要らねぇってんなら、別にいいんだぜ?無理に着なくてもな!?」

「わ、分かりました。分かりましたよ。着てきますので少々お待ち下さい」



 宿屋の食堂で待っていた俺たちに、着替え終わってオークドゥが合流する。

 宿屋を出た俺たちはその足で、冒険者ギルドにダンジョン探査へ出発することを告げるために大通りを冒険者ギルドへと向かっている。


「こ、これ……結構快適ですね?動きやすいですし、体温調整も完璧です。全身を覆ってしまっていますので、もっと暑くなるかと思っていたんですが……快適そのものですね!」

「あたぼうよぉ~。俺が作ったんだからなっ!」

「でも……トイレはどうすればいいのでしょうか?特に大の方が……」

「トイレモードと念じればスーツの形状が用を足し易くなるように変形するぞっ!ばかっ!こんなところで試そうとするなっ!アホかっ、お前!」


 危ない危ない。人通りも多いというのに、危うくオークドゥの大切なモノがモロ出しになるところだったぜ。ふぅ~。



 ◇◇◇◆◇◇◆



「にゃははははははははっ!な、なんですか?その格好は?にゃははははっ!」


 冒険者ギルドのカウンターレディー、ミディルだ!ミディルめが涙を流しながら笑い転げていやがる!


「にゃははは。女の子ちゃんたちはエロエロですね?そんなセクシーな格好をしているとその辺の男どもに絡まれちゃいますよ。にゃはは!」


 ハニーたちの顔が見る見るうちに真っ赤になった。

 すかさず、黒のローブを人数分生成して全員に装着させてやった。

 ミディルが突然のことに目を見開き、大きな口を開けて驚いている。目の前で、一瞬のうちに俺たちがローブを身に纏ったからだ。


「それじゃぁ、ダンジョン探査に向かうが、何か新しい情報はねぇのか?」

「……」

「おいっ!ミディル!聞いてんのか?」

「え?あ、はいはい!聞いてますよぉ~。聞いています。で、何でしたっけ?」

「かぁ~~。聞いてねぇじゃねぇか!……これからダンジョンの探査に向かうが、何か新しい情報は入ってねぇのかと聞いたんだよ」

「すみませんでした。そうですねぇ……特に何もないです」

「そうか。それじゃぁ俺たちは出発する。じゃぁな!」

「は、はいっ!どうかお気をつけて!ご報告をお待ちしています」



 ◇◇◇◆◇◆◇



 冒険者ギルドを出て、人通りの少ない裏路地へと向かう。

 あたりに誰もいないのを確認してから……


「よし。それじゃぁ、ダンジョン前に転移するから、俺の周りに集まってくれ!」

 "はいっ!"

「転送!」



「うわっ!何だこの臭いは!?」


 ダンジョンの入り口付近に転移して来たのだが……あたりに漂う強烈な臭いに、思わず顔をしかめてしまった。他のメンバーたちも同様である。

 まるで香水でもぶっちゃけたかのような臭いだ。ほんの少しだったらいい匂いと思うかも知れないような臭いではある。


 >>お答えします。

  ヒューマノイドの女性を誘引するフェロモントラップのようです。ダンジョン内部より漂ってきています。


 全知師に臭い成分の分析をおこなってもらった。幸いなことに、ハニーたちには毒耐性も、精神支配耐性もあるので助かったようだ。

 触手植物が存在しているし、女性を誘引するフェロモンが漂っている……これは女性にとっては好ましくないダンジョンなのではないだろうか。


「ハニーたちっ!十分に気をつけてくれよ!このダンジョンの中は女性の敵だらけかも知れないぞ!」

 "はいっ!"


 俺たちパーティーの配置はこんな感じだ。


前方↑ ザシャア、オークドゥ、ノアハ

    シェリー、      ジー

    ラフ、 ソニアルフェ、ラヴ

    ミューイ、 俺、 ウェルリ、


 ダンジョンの入り口から慎重に歩を進める……。

 中は薄暗い。明かりは入り口から入ってくる光だけのようだ。


 暫く進むとほとんど真っ暗になってしまった。どうやら大きな部屋のようだ。

 神術で光の輪を空中に10個出す。そう!お馴染みの、まるでLEDシーリングライトのようにも見えるあれだ。

 光の輪を出した途端、あたりは太陽の光が差し込んだかのように明るくなる。


 うわっ!なんじゃこりゃぁ!


「ぼくは悪いスライムじゃないよ。女の子が好きなだけさ」

「ぼくは悪いスライムじゃないよ。女の子が好きなだけさ」

「ぼくは悪いスライムじゃないよ。女の子が好きなだけさ」

 …………………………


 すごい数のスライムだ!周りを囲まれてしまっている!?

 スライムは口々に『ぼくは悪いスライムじゃないよ。女の子が好きなだけさ』と言っている!


 悪いヤツほど、自分のことを悪いやつじゃないと言うもんだ。信用できるかっ!


「まぁかわいい!スライムちゃん、おいで」

「ソニアルフェ!やめろ!油断するなっ!近づくんじゃないっ!」


「きゃぁっ!」


 ソニアルフェがスライムに飲み込まれてしまったっ!

 ソニアルフェの悲鳴が合図でもあったかのように、スライムたちがハニーたちに一斉に襲いかかってきた!


 これはまずいぞっ!





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