第0044話 指南役

 盾の両面を見よ……か。

 物事は色々と角度を変えて見てみないと、本質を見誤ることがある。

 ファルコフ・ルージェという真っ黒に近い魂の色をした男には、その色だけでは判断できない本来の人柄のようなものが隠されていた。つらくて悲しい過去が彼の性格を変えてしまったのだ……。


 そうだな……犯罪奴隷だった女性、ジュリンについても、魂の履歴を詳しく見てみないといけないなぁ……。


 ジュリンについては、魂の履歴を詳しく見ることがはばかられた。その中の映像には彼女が絡むアダルトな動画がたくさん出てきそうだし、殺人の場面も多く出てくるだろうからだ。それでちょっと敬遠していたのである。

 だが、ちゃんと見ないで…彼女をよく知りもしないでこのまま奴隷として様子を見ていくことに対して、大きな疑問を感じてしまったのだ。


 もう魂の履歴を見ないわけにはいかない。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ご主人様、ご奉仕の時間ですね?」


 と、言いながら、ジュリンは服を脱ぎだした。


 ジュリンがどうして犯罪奴隷になったのかを聞こうとして、ジュリンに寝泊まりしてもらう予定の部屋に彼女と一緒にやってきている。

 彼女の犯してきた犯罪が犯罪であるだけに、ロビーで、みんながいる中で彼女と話をするには、ちょっと問題がありそうだから彼女の部屋へと移動してきたのだ。


「誰が服を脱げと言った!?服を脱ぐなっ!」

「え?なさらないの?私はあなたの性のおもちゃとして買われた商品。てっきり、あなたのお相手をするためにこの場所に連れ込まれたものだと思いましたわ」


「おい!自分のことを商品なんて言うなよっ!お前さんは商品なんかじゃないっ!れっきとした人間だ!俺はお前さんのことを性のおもちゃだなんて思っていない!奴隷ではなく、ひとりの女性だと思っているんだ!そう。できることなら奴隷から解放して、ただの……ひとりの女性にしてやりたいと思っているんだよ!」

「あら嬉しい!私を女性だと思っているのね?」

「えっ?ま、まさか……本当は男なのか?ええっ?」

「まあご主人様ったら……おバカさんねぇ違うわよ。ちゃんとした女よ、ほら」


 ジュリンは全裸になって、両手で俺の右手を掴む!? な、なんだ!?

 自身が女性であることを確認させようと俺の手を掴んだのだ! あせる!


「お、おお、おいっ! な、なにをするっ! 手を離せっ!」

「ああ~ん……」


 俺が急いで手を引っ込める際にどこかに触れてしまったようだ。

 ん? 俺をからかっているのか? なんかニヤッとしたような……


「あ、す、すまん。だが、服を着ろよっ! ええーいっ! 面倒だ!

 衣服等装着!」


 ジュリンは突然服を装着させられて驚いている。


「そ、それでだなぁ。さっきも言ったように……できればお前さんを他のみんなと同じように奴隷から解放してやりてぇと思っている。だが正直言って、お前さんが犯罪奴隷だったと聞いているんで解放してもいいものか迷っているんだ。それで、お前さんがどうしてそうなっちまったのかを直接聞こうと思ってな。ここに一緒に来てもらったのはそういうことだ。お前さんを抱くためじゃねぇんだよ」

「あらまぁ残念ね。かわいいご主人様にご奉仕できると思ったのになぁ」


「そのご主人様というのはやめてくれねぇかな。お前さんを奴隷にしてはいるが、俺はお前さんを対等なひとりの女性と思っているんだからな」

「じゃぁ、ダーリンって呼ぶわね。うふっ、ダーリン」

「そ、それはダメだっ!ダーリンと呼んでいいのは俺のハニーたちだけだからっ!

 うーん、じゃぁもういい!……どう呼んでもらうかをこっちで決めるぞ!

 俺の事は"シンさん"と呼ぶように!いいなっ!?」

「ちぇっ、けちぃ~。あーあ、ダーリンがよかったなぁ……シンさん。うふふ」


 食えんヤツだ。だが、どうも極悪人って感じじゃないな……やはり、魂の履歴を詳しく見てみる必要があるな。


「それで……どうして人殺しをするようになったんだ?何か深いわけがあるんじゃないのか?」

「うふふ。楽しいからよ。他に理由はないわ」


 と言葉では言うが、表情が曇る。……やはり何かある。間違いない。


「ごめんな。対等だと言っておきながら、命令するのは気が引けるんだが……このままじゃお前さんは本当のことを教えてくれそうにねぇんでな。俺の質問に正直に答えるように命令するぜ。悪ぃな」

「ホント、お優しいのね。私が今までに遇ってきた男たちとは大違いよ。さすがは神様ね。うふふ。いいわ。全部お話ししますわ」


 ジュリンが語り出す……


 彼女はクリス・アイズナル男爵家の長女として生まれた。

 家族は全部で4人。兄弟は弟がひとりだけだ。男爵は葡萄園を所有し、国内でもファンの多い葡萄酒を製造販売しており、領地経営は順調で豊かに暮らしていた。

 ジュリン・アイズナルは、優しい心を持った家族や使用人、領民たちに囲まれて心の優しい女の子として育つ……。そして、彼女はすごい美少女でもあった。

 彼女が14歳になる頃には貴族で彼女の名前を知らない者はいないくらい、美人として有名になり、求婚者が後を絶たないような状況になる。


 ふむ……やはりこの子も元々の魂の色は"スカイブルー"か。14歳までこれだけ綺麗な魂の色をしていたら神殿神子として神殿が放っては置かないだろうが……。

 今から14年も前の話なんだよなぁ……こんな綺麗な心を持った子がどうして、毒婦と呼ばれるような女になってしまったんだろうなぁ?


 その答えが明らかになる。原因はひとりのひひ爺だった。

 ジュリンはジギルガ・ロージ伯爵というひひ爺でクソ野郎に目をつけられる。


 この伯爵はまず手の者を使い男爵家の葡萄園を燃やし……善人面をして男爵家に復興という名目で"ある時払いの催促なし"と口約束した上で膨大な金を貸し……。

 そして、男爵に『形だけだから……』と言って借用書にサインをさせる。だが、これがワナだった!借用書には、実は『炙り出し』の細工が施されていたのだ!


 男爵がサインした時点では借用書には書かれていなかったのだが……


 "三ヶ月以内に全額を一括で返済することとする。この約定を違えた場合には娘のジュリンを借財のカタにジギルガ・ロージ伯爵に差し出すことを約束する。"


 火であぶると、この一文が浮かび上がるように細工されていたのだ!


 男爵は嵌められた……。三ヶ月で借金を返せるわけがない。不正を訴えようにも相手は伯爵。自分よりも格上だ。……どうにもならなかった。

 ジュリンは男爵家を守るため、クソ野郎の餌食となった。クソ野郎の妻になるのならまだ救われる……だが、クソ野郎はジュリンを性奴隷としたのだ!


「ジュリン……」


 思わずジュリンを抱きしめてしまった。自然と涙が溢れてくる……。


「ジュリン……かわいそうになぁ……つらい目に遭ってきたんだなぁ……うう…」

「し、シンさん。ちょっと、私なんかのために泣いてくれるなんて……ね、ねえ、泣かないで……もう終わったことなのよ。私はもうこのことは乗り越えているの。

 それに……」

「それに?」

「この後の方が酷いのよ。うふふ……ぐっすん」


 ジュリンは言葉では強がっているが、泣き顔になっている。声も震える……。


 ロージ伯爵は、ジュリンを性奴隷とした。

 ヤツは浄化魔法が使える魔導士を召し抱えていてジュリンが自分の子を宿さないようにしていた。なぜか避妊を徹底していたのだ。


 後に後継者争いが起こらないようにするためなのか?


 ジュリンは大好きな両親と弟のためだと必死に堪え続けた。


 妙なことに、ロージ伯爵家の囚われの身になってからジュリンはずっと外部との接触を完全に遮断されていた。どうしてなのか、里帰りどころか、ほんのちょっとした外出さえも許されていない。



 ロージ伯爵のクソ野郎ぶりが世間に知られないようにでもするつもりなんだろうかなぁ?それにしても妙だな。



 彼女が16歳になった頃である。使用人たちの噂話から、ジュリンの実家である男爵家に何が起こったのかを知ることとなる。彼女が、元気に生きているものだとばかり思っていた両親と弟は……自殺していた。


 いや実は一家心中に見せかけて伯爵の手の者に殺されていたのだ!それも彼女が

無理矢理伯爵のモノにされた直後だったという!


 伯爵が葡萄園に火をかけさせた事。大好きな父親が伯爵の卑劣な策略に騙されたことで自分が伯爵の性奴隷にされてしまった事……色々な真実を知ってしまったのだった。


 彼女の心は真実を知って……闇に落ちた。



 そうか。だから、ジュリンを外部から完全に切り離そうとしたんだな。

 ジュリンとの子供を作るのを避けていたのも、復讐の火種を断つためか!?



「ジュリン!……つらかったよなぁ。その時、俺がいたのなら……」


 ジュリンを強く抱きしめずにはいられない! この子がかわいそうすぎる!


「あの時……いっぱい、いっぱい神様に願ったわ。

 毎日毎日……助けて下さいって願ったのよ……なのにあなたは……ううう……」

「すまない……」


 それ以上の言葉は何も言えなかった。


 まさかこの世界にはいなかったと言うわけにもいかない。何を言ってもいいわけになるだけだろう……。


 どんなに言い繕っても彼女たち家族を救えなかった事実は覆らない。



 復讐に燃えるジュリンは、伯爵の目を盗んで伯爵家の御抱え医師を色香でたらし込むことに成功して毒薬を手に入れる。


 そして、彼女は復讐を成し遂げることになる。伯爵を毒殺して館に火を放ち伯爵一家を皆殺しにして逃亡したのだった。もちろん真相を知る御抱え医師も殺した。彼から手に入れた毒を使用して殺したのだ!



 もしもまだひひ爺のジギルガ・ロージが生きているのなら、俺が必ずぶっ殺しに行ってやろうと思っていたんだがなぁ……。クソ野郎は"奈落システム"にちゃんと送られたかなぁ?


 >>お答えします。

  ジギルガ・ロージの魂が死後、"奈落システム"へと送致されたことが確認できました。


 <<そうか。ありがとう。全知師。



「ジュリン。お前さんたち親子を苦しめたクソ野郎のジギルガ・ロージは、地獄に落とされていることが確認できたぞ!

 ヤツはもう、絶対にこの世に転生することができねぇ!

 魂が消えるまで苦痛を味わわされ、ただ苦しみもがいて消えていくだけだ!

 お前さんには、なんの慰めにもならねぇだろうがな……

 ヤツには天罰が下されたってことだ」


「そう……でも当然よね。もしもあの男が天国に行っていたとしたら私はあなたを一生恨むところよ。うふふ。よかったわね?」


「ん? そう言いつつ、実際は俺を恨んでるんじゃねぇのか?」

「うふふ。さあどうかしらね?恨んでいるかもね?」


「そうか……俺は何もしてやれなかったからなぁ……恨まれて当然か……」

「嘘よ。恨んでなんかいないわ。感謝しているもの。本当よ。安心して」



 ジュリンは幼なじみの女性のもとへと身を寄せる。その女性の家も男爵家だ。

 ところが、その女性に、また別のひひ爺の魔の手が伸びる。ある子爵家の当主が権力を笠に着て、ジュリンの幼なじみを自分のモノにしようとしてきたのだ!


 ジュリンは幼なじみの悲しむ姿に、自分の過去の姿が重なった。


 なんとかしてあげたい……。彼女は考え……

 ジュリンは、そのひひ爺子爵に接近し、色香とロージ伯爵に仕込まれた卓越したテクニックで彼をたらし込む。


 そう、幼なじみの女性の代わりに子爵家に嫁ぐことで彼女を救ったのだ!


 ジュリンにとって男は皆、敵である。いや仇といってもいい。

 ジュリンは子爵を巧妙に自然死に見せかけて毒殺し、全財産を手に入れ、財産を処分して金に換えると他の町へと移っていった。


 それからのジュリンは女性を権力で自分のモノにしようとするひひ爺貴族たちをターゲットにして、自分が生け贄になり、自身の身体でひひ爺どもをたらし込んで餌食にされかけている女性たちを救い、そして、自分の仇を討つかのごとくひひ爺どもを殺していく……。そんなことをずっと捕まるまで繰り返してきたのだった。


 彼女がひひ爺どもを殺して奪い取った金は、そのほとんどを、犯行をおこなった町の孤児院に寄付している。……まるで義賊のようだ。義毒婦か?



 ◇◇◇◇◇◇◆



 なんてことだ……彼女がしてきたことは、俺がしてきたこととなんら変わりないじゃないのか?


 人助けのためとはいえ、自分の都合で人殺しと金品の略取を行ってきたから魂の色が赤黒くなったのだろう?


 彼女の心根は未だに"スカイブルー"の魂ではないのだろうか? きっとそうだ。


 もちろん、法治国家では許されることではないが、やっていることは世直しとも言える。 彼女に殺されたのはクソ野郎どもだけだから……。


 彼女は当局に捕まって、法によって裁かれて犯罪奴隷にされた。


 そして、オークションにかけられて性奴隷としてうっぱらわれた時点で、彼女は罰を受けたことになる。

 今後の彼女については主となった俺が自由にできるわけだ。

 彼女を自由にしてやっても、法的には何も問題ないというわけだ。


 決めた! この子を自由にしてやろう!


「ジュリン、俺は決めた。 お前さんを奴隷から解放してあげようと思う」

「え!? いいの? 私は犯罪者よ?」

「何を言う。お前さんが心の綺麗な女性だということが俺には分かっている」

「心が綺麗だなんて……そんなことを言ってくれたのはあなたが初めてよ」


 奴隷契約を破棄し、隷従の首輪を外してやった。


「さあこれでお前さんは自由だ。……それと提案がある。聞いてくれるか?」

「ええ。もちろん。なぁに? プロポーズなら、答えはOKよ。うふふ」


「違う違う! 俺はお前さんに人生を取り戻して欲しいんだよ」

「え? どういうこと? ちょっと仰っている意味が分からないんだけど?」


「お前さんの身体を16、7歳の頃のピチピチギャル時代に戻してやろう」

「えっ? そんなことができるの?」


「ああ、しかも16、7歳の生娘に戻す。同意してくれるか?」

「記憶も無くなってしまうのかしら?」


「いや。それもできるが、それをすると性格が変わってしまうことが起こったり、色々と弊害が生じるかも知れねぇからそれはしねぇ。本当なら…お前さんのつらい記憶を全部消してやりてぇところなんだがなぁ……」


「やさしいのね。……あーあ。あの時の私の願いがあなたに届いていたらなぁ~。あなたならきっと助けに来たくれたんだろうな。私の祈りが足りなかったのね」


「そうじゃねぇんだよ。本来ならお前さん程の清らかな魂を持つ者の願いだったら俺に届いていたはずなんだが……本当に申し訳ない。その時の俺は誰の願いも聞き取れない状況になってしまっていたんだ。これ以上は詳しく言えねぇんだがな」


「そうなの……あなたも大変だったんだね。でも……もう乗り越えたからいいよ。だからそんなに気にしないでね。……同意するわ。ありがたくね。うふっ」


「完全浄化!……完全修復!」


 ジュリンの身体が淡い緑色をした半透明な光のベールに一瞬だけ包み込まれた。


「うわぁ~。本当に若返っている!……ん?……確かに生娘に戻っているわ!」


「お、おい!俺の目の前でそこを確認するな!

 そ、そういう事はだなぁ、後でひとりになった時に確認しろよな! ったく!」


「うふふ。ねぇ? 処女に戻った私の初めてをもらってくれない?」

「な、な、なにを言っているんだ!

 お前さんはこれから人生をやり直すんだろう?

 今度は本当に好きになった人とそういうことをしろよ!」


「だ・か・らぁ~。あなたのことが……好・き・な・の!

 あなたは私の初恋の相手な・の・よ。うふっ。さっきねぇ、ギュッとされた時にやられちゃったの。こんな気持ちになったのは初めてよ。

 変よねぇ、ずっと男なんてクズだ、ゴミだと思っていたのにね。

 これが恋するってことなのね。 だから私の初めてをあ・げ・るっ!」


「き、気持ちは嬉しいが……もっとよく考えろよな」


「こんなことって、考えればどうこうなることじゃないよ。直感が大事じゃない?そう思うけどなぁ? それとも……私が穢れているから嫌い?」


「自分のことを、たとえ冗談でも穢れているなんて言うな!

 お前さんは綺麗だよ! 心も綺麗だ! 惚れてしまいそうなくれぇだよ。

 だがなぁ、今はそういった気持ちになれねぇんだよ。

 お前さんに恋愛感情は持っていねぇ」


「そう…残念。でも、恋愛感情なんか無くてもいいの。だから私を抱いて。ね?」

「だからぁ! 頼むからもっと自分のことを大切にしてくれよっ!

 そんなことじゃ、若返らせた意味がねぇじゃねぇかっ!

 泣けてくるぜ。お前さんには女性としての、いや、人としての幸せを手に入れて欲しいんだよ。ったくもう……」


「あーあ。ますますあなたに惚れちゃったわ!

 もうあなた以外の男なんて考えられない! あなたにぞっこんよ!

 あなたの心を必ず掴んでみせるわっ!

 いつか、絶対にハニーと呼ばせてみせるっ!

 うふふ。覚悟してね。シンさん!」


「は・は・は……。お前さんのような美人で心の綺麗な人にそう言ってもらえるとクラクラッとしちまうが……。まぁ、ボチボチと知り合っていこうぜ」


「手応えありね! うふ!」


「ところで……これでお前さんは自由になったが、これからどうする?

 どこか行く宛はあるのか?」


「全財産は没収されちゃったし、どこにも行くところはないわ。

 ねぇ? 私をここに置いてくれないかなぁ? ねぇ、だめ?」


「ああ、いいとも。部屋を用意してやろう。それで、何かしたいことはあるか?」

「うん。あなたのお嫁さんになりたいわ。うふふ」


「ううう。頭が痛くなってきた。その話は置いておいて……

 他にやってみたいこととかはねぇのか?」


「そうねぇ……急に言われてもぉ、私はあなたのおもちゃにされるものとばっかり思っていたから……

 そうだ! そういえばさっきあなたのハニーから、神殿で素人に娼館を開かせるって聞いたんだけど、それ本当?」


「ああ、無理矢理性奴隷にされていたエルフ族の女性たちを助けたんだがな。

 その中の数名が"春をひさぐ仕事"がしてぇって言うもんだからな、この神殿敷地内に娼館を作ることにしたんだよ」


「素人に娼館……うまく行くと思うの?

 チェリーボーイが相手なら誤魔化せるかも知れないけど……

 プロフェッショナルなサービスを求める男はきっと満足させられないわよ?

 失敗するわね」


「そ、そういうものなのか?

 俺は妻たち一筋だから、そういったサービスを受けた経験がねぇから。

 分からねぇんだが……。 すごいのか?」


「うふふ。純情なのね。だから好きよ。うふっ。

 ……そうよ。すごいわよ。プロの娼婦を嘗めちゃダメよ。ちゃんと男を喜ばせるテクニックを知っているから」


「なるほど。 俺も甘く考えていたよ」


「だからね。私がその女性たちに、テクニックを伝授してあげよっか?

 どう? 私を指南役として雇わない?」

「まさかお前さんも客を取るつもりなのか?」


「あら? 妬いてくれるの? 嬉しい!

 大丈夫よ! 私の操はあなただけに捧げるわよ! だから安心してね。うふふ。

 客は取らないわよ。 アドバイザーだ・け・よ」


「ふぅ。俺をからかって楽しんでねぇか? ったくよぉ……」


「いいえ。からかってなどないわ。すべて本心。あなたに惚れちゃったんだもん!

 他の男になんて金輪際、絶対に抱かれたくなんかないわ。

 本当よ。あなたが抱いてくれなきゃ一生ヴァージンのままでいるつもりよ!」


「分かった。分かった。それじゃ頼む。彼女たちも性犯罪の被害者なんだ。

 だからなんとか身が立つようにしてやりてぇんだ。

 本当は、俺は娼婦じゃねぇ道を選んで欲しかったんだがこればっかりはなぁ……

 当人たちの意思を尊重するしかねぇからなぁ。

 それで、少しでも安全に仕事ができるようにと、ここで娼館を開くことにしたんだよ。だから頼む。

 でもな、絶対にアドバイスだけにすると約束してくれよ?

 俺はお前さんのことも本当に大切に思っているんだ。それを覚えておいてくれ」


「うふ。分かったわ。アドバイスだけすると約束するわ!

 大切にしてくれていると覚えておくわね。……うふふ。好きよ。だーい好き!」


 なんか調子狂うなぁ……。

 しかし、"魂の色が赤黒い"ってのが気の毒だな。この子もこれから善行を重ねていかないと待っているのが地獄とはなぁ……なんとかできないものかなぁ。


 >>マスターは魂の色を変更する権限を有しております。

  ジュリンの魂の色を変更しますか?


 <<なに?できるのか?なら変更してくれ。


 >>承知。何色に変更しますか?


 <<スカイブルーにしてやってくれ。


 >>承知。

  ジュリンをターゲットに指定完了。

  魂の色を"スカイブルー"に変更します。…………変更完了。

  ジュリンの魂の色は"スカイブルー"に変更されました。


 <<ありがとう。全知師。


 なんと!魂の色まで編集できるとは!


 ジュリンの部屋にいるのだが、当然入り口の扉は開けてある。男女が二人だけで話をするんだから、密室状態に二人っきりでいるとなると"あらぬ疑い"を持たれてしまい兼ねないからだ。

 ただし、話が外へ漏れないように、防音シールドを展開してある。


 実は防御シールドは、防御対象を細かく指定できる。今は内から外への音のみを防御するように指定している。そのように指定された防御シールドを便宜上、防音シールドと呼んでいる。


「あーっ! ダーリンが浮気してるぅーーっ!」


 ラフだ。ラフの声に反応して、このテントの中にいる全員が集まってくる!?

 ちゃんとラフの勘違いだということを言わなくては……。防音シールドを消す。


「ラフ。勘違いするな。ドアが開いていただろう?

 ジュリンと今後のことについて色々と話をしていただけだ。

 俺は浮気なんて絶対にしねぇ!」


 ジュリンが悪い笑みを浮かべながら俺に抱きつく。まるで、勘違いじゃないわ。私たちはそういうことをしてたの……とでもいうようにだ!困ったもんだよ。


「怪しい! やっぱりなんかしてたんでしょう?」

「だから……」

「ラフさん。シンさんの仰る通りよ。

 私がどんなに言い寄ってもシンさんは相手にして下さらないのよ。

 悲しくなっちゃうわ。だから安心してね。

 本当にこれからのことを相談していただけなのよ」


「じゃ、なんでジュリンさんはダーリンに抱きついているのよ?」


 ラヴが尋ねる。


「うふふ。私ね、シンさんに本気で惚れちゃったのよ。

 だからね、アプローチしてたんだけど……

 シンさん、妻一筋なんだってさ。

 だからがんばって私もお嫁さんにしてもらうつもりよ。

 ハニーのみなさん、よろしくね。うふっ」


「聞いた通りだ。俺はお前さんたちハニー一筋だよ。

 そういうことをするのは嫁にすると決めた子だけだ。俺を信じられねぇのか?」


 ハニーたちは全員が高速で首を左右に振る。

 なんとか納得してくれたようだ。


 だが……妻が大勢いるのに"一筋"と言ってもいいものなんだろうかなぁ??

 まっいいかっ!


「あれぇ? ジュリンさん、若返っている!?

 ……あっ! 魂の色も"スカイブルー"になっている。どうしたの?」


「ああ、完全修復を施した。今の彼女は17歳でお前さんたちと同年代だよ」

「あのう……魂の色ってなぁに?」


「え?ジュリンさんをまだ加護してないんですか?」


「ああ、そうだよ。そうしようと思ってたところに、ラフ。お前さんが勘違いして飛び込んでくるんだから……」


「ごめんなさーい」


 ラフがしょんぼりする。


「いいよ。気にするな。

 勘違いだと分かってくれたことだし、それに俺のことを愛してくれているからの行動なんだもんな。 嬉しいぜ、ハニー。 ははは」

「ダーリン……」


 ラフの目がうるうるしている。



「あのな、ジュリン。 魂の色というのはな……」


 魂の色のことを含めて、俺の加護についてジュリンには話をした。



「……ということで、俺が大切にしたいと思っている子たちには加護を付与して、俺の庇護下に置くことに決めているんだよ。

 だからな、ジュリン。俺はお前さんも加護してぇんだが……受けてくれるか?」


「はい。もちろん! 喜んでお受けしますわ!

 私のことも大切に思って下さるのね。うふふ。嬉しいわ!」


「じゃあ、そこのベッドに横になってくれ」


「え? みんなのいる前で"する"の? いやぁ~ん」

「おいおい! さっき話した通りにだなぁ、加護を有効にするには……」

「冗談よ。じょう・だん!

 あはっ! シンさんはからかいがいがあるわね。うふ!」


 ああ……疲れるぅ~。

 チャッチャと加護を付与する。


「それじゃあ、一瞬意識を失うが心配するな。痛くもねぇし痒くもねぇからな」

「ええ、分かったわ。いいわよ? いつでもどうぞ?」

「よし。リブート!」


 ジュリンは意識を手放し……暫くして『はっ!』と目を覚ました。


「え? もうこれで終わりなの?」

「ああ、終わりだ。

 お前さんはものすごく強くなっているから、力加減には十分に注意してくれよ」

「え? ええ……分かったわ」


「それじゃあ、シェリー。 また訓練を頼めるか?

 お前さんは指導がうめぇからな。

 お前さんの指導を受けた者はみんな上達が早えから……

 嫌じゃなけりゃジュリンを指導してやって欲しいんだが、どうだい?」

「はい。もちろん。喜んでご指導致します」


「そうか! ありがとう! 愛しているぜ! ハニー!

 そうだ! どうせなら希望者も募ってやるか?

 シェリーの姉さんたちなら喜んで参加するだろうな。ははは」

「は・は・は……そうですね。姉たちは攻撃神術の練習が大好きですからね」


「おっとそうだ。 ジュリンたちは昼飯は食べたのか?」

「いえ。奴隷商館では、シンさんに引き渡されるための身支度に時間がかかって、昼食を与えられることはありませんでした」


「そうか。気が付かなくって悪かった。

 それじゃあ、ちょっと遅めの昼飯になっちまったが、食堂にみんなの昼食を用意するからな。食堂に行ってくれ」


「あのう…ダーリン。 うちも食べたいですぅ~」

「あたしも食べたいよぉ~」

「ええ。私も食べたいです。さっき食べたお昼がちょっとあれでしたんで。

 口直しというか、ダーリンの作った美味しいお昼が食べたいのです」


「ははは。そうか。それじゃあ、みんなで食べるか?」

 "はいっ!"


 こうして奴隷商館から連れてきた8人とルミカの娘、ルルー。俺とこのテントに残ってもらったハニーたち全員、そして、ファルコフも一緒に昼食を食べることにしたのだ。みんなの好みも分からないので、いつものようにバイキング用に料理を各種用意した。もちろん、飲み物の方も各種用意したのは言うまでもない。


「よし! それじゃぁ、攻撃神術の練習の前に、腹ごしらえといきますかっ!?」

 "おーーっ!"



 ◇◇◇◇◇◆◇



『上様』


『おお! おギンか? どうした?』

『はい。勇者ユリコ一行が神都の東にあるダンジョンに入りましたので、ご報告をと思いまして……』


『なに? ダンジョンに!?』

『はい。代官の妻、カミイラル・ジェイペズも一緒です』


『そうか……。実は明日、俺たちも冒険者ギルドのクエストで、そのダンジョンに行くことになっているんだよ。だから事前に知ることができて助かったぜ。

 いつも貴重な情報をありがとうな。お前さんは本当に頼りになるなぁ。

 また何かあったらどんな些細なことでもいいから、遠慮せずに知らせてくれ。

 頼んだぞ、おギン』

『はっ!』


 そうか……どうやら今回の魔物溢れの件にもシオン神聖国が関与しているのかも知れないな。しかしホント、おギンは優秀な忍びだな。頼りになる。


 勇者ユリコか……さて、どんな人物なのかな?遂に会える時が来たか!?

 楽しみだ!



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