ダンジョン探査

第0042話 冒険者登録

 クソ野郎どものひとりがソニアルフェの左肩をつかもうと右手を伸ばす!


「いやぁああっ! ダーリン、助けてぇ~っ!」


 ソニアルフェは、男の手が肩に触れる前にその手を左手で振り払って、俺に抱きついてきた!


 グォゴキッ! ブチッ!……ブシューーーーッ! ブシュッ!ブシュッ!……

「…………うぎゃぁぁぁあああああっ!……」


 クソ野郎の右腕が、グォゴキッ! というような変な音を立てたかと思うと肩の根元からブチッ!とちぎれて、はる彼方かなたへと吹っ飛んで行った!

 肩口からは血が勢いよく吹き出している!男は数秒間絶叫したが、失血のために貧血ひんけつでも起こしたのか、すぐに意識を失ってしまった!


 うげぇっ! うわぁ~! そ、ソニアルフェさんや、力を加減しなくちゃ……。


 だが、彼女は我が身を守るために必死だから悪くない!

 悪いのはクソ野郎だ! 自業自得である!


「あわわわわわ……」

 ソニアルフェが自身のパワーに驚いているのか、あわあわしている。



「デルマンっ! だ、大丈夫かっ!? し、しっかりしろっ!」

「このあま……ぎゃっ!」

 ……ブシューーーーッ!!


 ソニアルフェに、『このあまぁ~っ!』とでも言いたかったのかも知れないが、言い終える前にシェリーが男に向かって水平にロングソードを振るった!

 男の身体は、上下に両断されるっ! 切断面はものすごく綺麗きれいだ!

 血が一瞬の間を置いてから吹き出すっ!


 ああ……また血の海だ……鉄さび臭が酷い。


 ラフとオークドゥが残りのクソ野郎どもに斬りかかっていく!

 先に斬りかかっていったシェリーも含めて3人で、男どもをまるで大根でも斬るかのように一刀のもとにスパッ! スパッ! といった感じで両断していく!


 3人ともすごい腕前だ!


 ラヴとミューイ、ノアハ、ザシャアの4人は、俺と残り3人のハニーたちを背に守るようにしながら取り囲んでいる。

 どさくさにまぎれて、ウェルリとジー、ソニアルフェの3人が、ニヤニヤしながら俺に抱きついている?? おいっ!


 『きゃぁ~怖い』とかなんとか言っていながら……顔がニヤけているぞっ!?



 あっという間に男どもは彼女たちの刀のさびとなってしまった! いや剣の錆か?


 いやぁ~、ラフがこんなに強くなっていたとはなぁ……。

 えーと?シェリーが3人、ラフが2人か。オークドゥが2人に、ソニアルフェが1人か……生きているクソ野郎はソニアルフェが腕をぶっちぎったヤツだけか。


 ソニアルフェ以外の3人はまだちょっと物足りなさそうにしている。

 この3人であれば、この程度の相手なら100人くらいを相手にしないと物足りないかも知れないなぁ。


 俺の大事なハニーたちにちょっかいを出そうとしたクソ野郎どもは、最初に腕をソニアルフェに払い飛ばされて気絶している男以外、すべてあの世行きだ!

 いや、魂はすべて"奈落ならくシステム"へと放り込んでやったから、あの世ではなく、地獄行き……というのが正解か?


 クソ野郎どもの魂の色はすべてが赤色よりもひどい色だったから容赦はしなかったのだ! きっとコイツらの被害にった人はたくさんいるだろう。これはダニ駆除みたいなものだなっ!



 あたり一面が血の海となってしまった。

 両断されたクソ野郎どもの死体がゴロゴロ転がっている。鉄さび臭が強烈だ。


 このままにはしておけないな。


 チャッチャと血の海を凍らせて、転がっているクソ野郎どもの死体と共にサメの待つ海へと転送してやった……。

 生き残った男も、こんなクソ野郎を治療してやる気はサラサラないので、一緒にサメの海へと放り込んでやったぜ。はははっ!



「浄化!」

「ありがとうございます、上様」


 ハニーたちは極薄シールドを展開していたので返り血を浴びても平気だったが、オークドゥだけは血だらけの酷い状態である。だから、浄化してやったのだ。


「おい! 正体がバレる! 上様はマズいぜ。"シンさん"と呼べ。いいな」

「はっ!」


「ダーリン、怖かったっすぅ~」

なぐさめて欲しいと懇願こんがんするぅ~」

「失礼します!」

「あ、私も!」

「だ、ダーリン、こ、怖かったですわ」

「だ、だだだ、ダーリン。こわ、怖かったよぉ~」

「……えず私も……怖かったよぉ~」


 戦いに参加しなかったハニーたち7人が俺に抱きついてくる。

 ノアハさん、『取り敢えず私も』って……?


 戦い……というか一方的な殲滅せんめつを行ったシェリーとラフが"はっ!"としたような顔を一瞬したかと思ったら……


「「ダーリン、怖かったよぉ~」」


 シェリーとラフまでもが、甘え声を出しながら俺に抱きついてきたのだ!?


 『怖かっただあ? おいっ!』と思わず突っ込みたくなったがぐっと我慢だ!

 まぁ、乙女心は分からんでもないからなぁ……いやつらじゃっ!


 みんなの頭を順番に『よちよち!』といった感じで、念入りにでてやったぜ!


 ハニーたちは皆、俺に頭を撫でられながら、"にまぁ"っといった感じで満足げに笑いながら、各人微妙に言葉は違ったが、


『ダ~リン。わたしね~え、とても怖かったのぉ~。ぐっすん』


 ってな感じで、妙に色っぽい声で甘えてきた。は・は・は…まいったなぁ……。


 ん? オークドゥが呆れている??

 『口から砂糖でも吐きそうだ』とでも言いたそうだな?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その後は何事もなく冒険者ギルドに到着することができた。

 早速、中へと入ると……


 ギルドの1階は、受付カウンターとロビーがあって、ロビーの奥には酒場も併設へいせつされているようだ。ロビーの壁は仕事依頼がられる掲示板になっている。


 酒場では、まだ午前中だというのに、冒険者風の男たち数名がテーブルを囲んで酒を飲んでいる。……俺たちにはからんでくるなよ。と心でつぶやく。




「冒険者登録に来たんだが……」

「はい。それでは、こちらの冒険者登録申請書に、登録を希望される名前をご記入下さい」


「これは実名を書かなきゃダメなのか?」

「いいえ、ニックネームでも結構ですよ」


 オークドゥの質問に、カウンターレディーが答えた。

 実名じゃなくてもいいんだったら、俺も登録しようかな。


 オークドゥ、ザシャア、ウェルリ、ジー、ソニアルフェ、ノアハの6人が冒険者登録申請書に記名して提出した。取り敢えず俺も申請書を提出することにした。


「私はミディルと申します。どうぞよろしくお願いします」

 "よろしくお願いします。"


 カウンターレディーのミディルは人族の女性で、年齢は22歳。

 茶髪のショートボブヘアをした小柄な女性だ。そして、かなりの美人だ。


「はい。それではこちらへどうぞ。私の後をついて来て下さい」


 カウンターから受付嬢が出てきて、カウンター横の廊下ろうかを建物の奥へと俺たちを案内する。シェリーたち、元冒険者にもついて来てもらうことにした。


 ん?な、なんだぁ?ミディルはお尻を大きく左右に振りながら歩いて行く!?

 モンローウォークだ! へぇ~、こんな歩き方をする人が本当にいるとはなぁ。


 ん~~! セクシーだ! だけど大丈夫なのか? こんな荒くれ者どもが集まるような場所で男を誘うような歩き方なんかしてて……

 絶対にちょっかいを出してくるやからがいるよなぁ?


 見た目のかわいさに反してこの子はとてつもなく強いんだろうかな??




 廊下の突き当たりの扉を抜けると、そこは闘技場のような場所だった。

 俺たちは、その観客席の最上段に出た。その場所は、闘技場をぐるりと一周している通路になっている。


 かなり広い闘技場だな。東京ドームの2倍くらいの広さだろうか……。


 ミディルは、観客席の階段は降りずに右に曲がり、右の通路を進む……そして、曲がってすぐの所にある扉を開けて、部屋の中に俺たちを案内した。


「ここで、まず、魔法適性と魔力容量をお調べします」


 入り口を入った正面の壁付近に、高さ1メートル程の立派な石造りの台座が2つあり、それぞれの上には水晶玉らしきものが置かれている。


「はい。それではどなたか、この左の水晶に手をかざして見て下さい」


 オークドゥに『お前からやれ』と目で合図する。

 オークドゥが水晶玉に手をかざす……すると、水晶玉の中に赤い光体が浮かぶ。


「はい。えーと、オークドゥさん、あなたの魔法適性は火属性のみですね」


 ミディルはオークドゥの申請書に何やら書き込んでいる。


「はい。では、次の方……」


 ハニーたちが順に手をかざしていく……

 するとハニーたちの全員が全属性に適性があることが分かった。


 ハニーたちが水晶玉に手をかざす度にミディルが、目が飛び出るんじゃないかと言うくらいに目を見開いて驚くのが、見ていてとても面白かったな。


 属性は全部で11種類あるそうだ。


 火、水(氷)、風、土、雷、音、光、闇、毒、回復、招喚


 ということらしい。そのすべてに対して、ハニーたちには適性があるということだった。


 いやぁ~さすがは俺のハニーたちだなぁ。大したもんだよ。

 まあ、俺の加護かごを受けているんだからな。当然かな。


 そして、俺の番だ。俺は神だ。当然全属性に適性があってしかるべきだ!ふふふ。

 俺は自信満々じしんまんまんで水晶玉に手をかざした! だが……


「シンさんは、残念ながら魔法適性なしですね。

 お気の毒ですが魔法は一切使えませんね。ご愁傷様です。ぷぷぷぅ~っ!」

 "えーーーっ!!!"


 ハニーたち全員が、そして、オークドゥも絶叫する。

 へっ? お、俺は神だぞ! なんでだ!?


 >>お答えします。

  オールマイティーに神術が行使可能なマスターには、神術の劣化版機能である魔法は不要であるため、魔法使用可能を指定するプロパティ Enabled が False にセットされています。


 ああ、そういうことかぁ……そう言われてみれば……当然だよなぁ。

 でも……な~んか、みんなに負けたようでくやしいなっ!くそっ!


「あのさ、俺、神術使いなんだけど、それを判定する方法はねぇの?」

「またまたぁ~ご冗談を。しみですか?負け惜しみですね?ぷぷぷっ!」


 な、なにぃ~っ!さっきから失礼な子だな!ったく!

 『ぷぷぷっ!』ってなんだ!!ホント失礼だな!


「あなたっ!失礼ですわよっ!ダーリンはすごい神術使いなんですわよっ!」

「そうっすよ!ダーリンはかみさ……」

「しっ!ウェルリっ!」


 ザシャアとウェルリがミディルの無礼をとがめようとする。

 勢いでウェルリが俺の正体をばらしてしまうところだった。あぶねぇ~。


「え?シンさんが何ですって?かみさ?」

「だ、だからぁ、ダーリンは "かみさっちょんぺるり" なんすっからっ!」


 あちゃぁ~。ウェルリさんや……


「かみ、かみ、かみさ……なんですって?」

「かみさっちょんぺるり! 知らないんっすか? ダメっすねぇ!

 エルフ語で偉大なる神術使いという意味っす! 覚えておいて欲しいっす!」


 いやいやいや覚えてもらっちゃダメだろ、そんなデタラメな言葉は!

 この後、ミディルは俺のハニーたちから一斉 "口撃" を受けてしまう。


「ごべんなざ~い゛。わ゛だじがわ゛る゛ぅございまじだぁ~。うぇ~ん」


 ついにミディルは『ごめんなさい。私が悪うございました。うぇ~ん』と謝って泣き出してしまった。


「まあまあまあ……怒ってねぇから、泣かねぇでくれよ。なっ。

 それで、神術用の測定器ってのはねえんだな?」

「ぐっすん、はい。

 神術の原理さえ分かっていないので測定器の作りようがありませんし、それに、神術は神殿神子様くらいしか使い手がいないというのが常識だったというか……

 ですので、需要じゅようが無いというかなんというか……」


 なるほど。道理で俺が負け惜しみか冗談を言っていると思うはずだな。

 しまったなぁ……これは神術が使えないことにしておいた方が良かったか?

 でもハニーたちが俺を偉大なる神術使いだ! と大見得切おおみえきっちまったしなぁ。


「じゃあしようがねぇな。あきらめるぜ」

「す、すみませ~ん。ぐっすん」



 ◇◇◇◇◇◇◆



「す、すごい! さ、3万! ま、魔力容量が3万!

 あ……あなたは何者なんですか!?」


 今、魔力容量測定用の水晶玉にオークドゥが手をかざしている。

 『あなたは何者なんですか?』と聞かれて、オークドゥがドキマギしている。


 そうだよな。人間じゃなくてロイヤル・オークだからなぁ。ギクリとするわな。


「どうだぁ? すげぇだろ? 俺の仲間たちは、山奥にもってある特別な修行を積んできてるからなぁ。まあ、こんなもんだろうな」


 ……って、3万がどれくらいすごいのか、さ~っぱり見当が付かない。


「えーっ! そうなんですかっ!?

 そ、そんな……魔力容量を大幅に引き上げられる修行しゅぎょう方法があるんですか?」

「ああ、ある。だが秘密だ。誰にも教えられねぇ!

 ところでそこらへんにいる魔導士レベルって、どれくらいの魔力容量なんだ?」


「そうですね。上級魔法がバンバン使える魔導士でも5千くらいでしょうか?」

「え? そんなに少ないのか?」

「はい。ですから、オークドゥさんはすごいです!」


 その後、ミディルは更に驚くことになる……。


 それは俺のハニーたちが全員、魔力容量が99万9999だったからだ。

 いや、実際はそれ以上だろう。測定限界がその値だったから、実際はどれほどの魔力容量かは分からなかったのだ。


 ミディルはまるで石化せきかしてしまったかのように、目を見開き、アゴが外れそうになるくらいに大きな口を開けて固まっている。 ま、こうなるわなぁ……。



 ◇◇◇◇◇◆◇



「それでは次に、みなさんの戦闘能力を調べます。

 これから闘技場へと降りて招喚術士が呼び出した魔物と戦っていただきます」


 最初はスライムレベルの弱い魔物が呼び出され、倒していくにつれて徐々に強い魔物が呼び出されるらしい。

 どのレベルの魔物まで倒せるか…を見て、戦闘能力を判定するとのことだった。


「がんばってガンガン倒して下さいね!

 途中休憩はありません。 連続で戦っていただくことになりますので、効率よく倒す事を心掛けて下さいね。

 あっ、そうそう! ボコボコにされても治癒魔法が使える者がちゃんと待機していますからご安心下さいね。

 死を恐れずにガンガンやっちゃって下さい! うふふ」


 やはりこの試験もオークドゥから始めた。


 オークドゥは順調に倒していったのだが、レッサードラゴンに敗れてしまって、試験終了となってしまった。

 だが、それでもオークドゥは記録を塗り替えたらしい。


 やられてボロボロになったオークドゥはノアハが治療した。


 治癒魔法使いの野郎がもったいぶりやがって、ち~っとも治療を始めないから、オークドゥのことを気の毒に思ったノアハがチャッチャと治してやったのだ。


 ハニーたちみんながオークドゥの治療をしようとしたのだが……

 ノアハの行動の方が少しだけ早かったのである。


 ハニーたちはみんな優しいなぁ! みんな愛しているぜ!


 オークドゥを治療するために『治してやるぜ! 感謝しなっ!』ってな感じで、偉そうにふんぞり返りながら、もったいぶって登場した治癒魔法使いがその様子とノアハが施した治癒系神術の威力に驚愕きょうがくしている!


 ミディルは半笑いだ。

 『みなさんのことですから驚きません。驚きませんよ』とブツブツつぶやいている。




 どうやらレッサードラゴンは最後から2番目の魔物だったようだ。

 最後の魔物はグリーン・ドラゴンらしい。ドラゴン種最弱のドラゴンである。


 予想はできたが……ハニーたちは全員がグリーン・ドラゴンも瞬殺しゅんさつした。

 彼女たちはすべての魔物に対して、それぞれウインドカッターをただ一発放っただけだ。それで最後のグリーン・ドラゴンまで倒しきってしまったのだ。


 オークドゥが塗り替えた記録はあっさりと彼女たちに破られてしまった。


 オークドゥが落ち込んでいる……。

 そりゃそうだよな。外見からはオークドゥの方が圧倒的に強そうに見えるのに、かわいらしい俺の嫁たちに完全に負けたんだからなぁ。 無理もないわなぁ。


 プライドがズタズタにされたかな?


「オークドゥよ、そんなに落ち込むなよぉ。

 俺のハニーたちはなぁ、高威力の攻撃神術を使えるからなぁ……

 どうしても、ずっと剣だけで勝負していたお前さんの方が不利になる。彼女等に勝てないのは当たり前だぜ? 仕方ないことだ。

 だからそう気を落とすなよ。お前さんも相当強え。それは俺が保証してやる!」


「しかし、男の私が女に負けるだなんて……情けない……」

「男だから女よりも強いのが当たり前だってか? バカじゃねぇの?

 そんなものはケースバイケースだろう?

 グチグチ非論理的なことを言っている暇があったらどうすればもっと強くなれるのかを考えろよ。 その方がよっぽど建設的だぜ?」

「はい……」



 最後は俺の番だ。


 ミディルは、魔法も使えない上に剣すら持っていない俺がどうやって戦うのか、興味津津といったところなのかな? 妙に前のめりになり、わくわくしているかのようだ。


 攻撃神術が見られるかと期待しているのかも知れないな。

 "かみさっちょんぺるり" の実力を拝見はいけんといったところか……。


 ミディルは覚えられなかったから良かったが、妙な言葉が流行はやったら困るな。

 ニセエルフ語で偉大なる神術使い"かみさっちょんぺるり"か……ふふふ。

 した言葉といい、ウェルリって面白い子だよなぁ。


 ……しかしなぁ……あーあ。つまらん! がっかりだぜ!


 異世界転生モノのラノベなんかの定番で……

 チートな主人公が魔物をガンガン倒しまくって試験官や一緒に試験を受けている者たちが驚愕するという、ちょっと『スカッとする』ドヤ顔ができる展開になると思ったんだがなぁ~。 楽しみにしてたんだけどなぁ……


 ハニーたちにいいところを全部持って行かれたって感じだなぁ……とほほ。

 ああ……もうやる気がなくなってしまった。



 結局、もう面倒くさいからすべての魔物をデコピン一発で倒しきったのだった。

 あ~あ、つまらん。


 ミディルが『ええーーっ! 攻撃神術は使わないのぉ? がっかり……』というような表情をしている。


 俺がデコピン一発で倒しきってしまったことには気付いていないのか?



 しかし、相手が招喚された魔物で良かったというべきだなぁ……。


 今回のように招喚された魔物は、術者にあやつられているから、俺たちにも容赦なく攻撃してくるのだが、もしも、今回の試験の相手が普通の魔物だったら、俺や俺が加護している者たちに対して危害を加えられないから、試験にならないのだ。

 魔物たちは俺たちによって所謂いわゆるなぶり殺し状態になってしまう。たとえ魔物でも、さすがに嬲り殺しは気分が良くない。俺が招喚された魔物で良かったと思うのは、実はこういった理由からだ。


 そうか……逆に普通の魔物だろうと思って油断することがないように、気をつけなくてはならないな。実は招喚された魔物でした……って可能性もあるからなぁ。


 シオン教徒が俺たちには普通の魔物が通用せず、招喚された魔物なら通用すると知ったら、まず普通の魔物をけしかけて俺たちの油断を誘い、その後招喚魔物を嗾けるというような攻撃を仕掛けてこないとも限らないからなぁ……注意しなくちゃな。


 ハニーたちにも油断しないように言っておくことにしよう……。


 あ、そうそう。デコピン一発で倒しきったと言ったが、殺してはいないから念のため。戦闘不能におちいらせただけだ。手加減てかげんはちゃんとしてあるのだ。


 魔物であっても、殺してしまうのはちょっとかわいそうだったからな……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



「……ということで、これで登録処理は無事完了しました。冒険者カードをお渡ししますね。再発行には銀貨8枚が必要ですから無くさないようご注意下さいね」


 銀貨8枚か……日本円で多分8千円くらいかな?

 冒険者登録の現時点でのランクはDだ。俗にD級と言われることもあるのだが、下から3番目のランクである。


「戦闘能力や魔法能力等から判断すれば……みなさんランクAでもおかしくはないのですが、新規登録時にギルドの裁量さいりょうで付けられる最高のランクがDなので、大変申し訳ありませんが、みなさんのランクはDということになっています」


「ランクはどうやって上げればいいのだ?」

「はい、オークドゥさん。ギルドからの依頼をコツコツとこなしていただき、依頼達成数が規定値を超えますと昇進試験が受けられるようになります。

 そして、その試験をパスすればランクが上がります」

「なるほど」


「ちょうど今、一発でランクC昇進試験の受験資格を取得できるクエストがあるのですが、どうされますぅ?

 ランクD以上で5名以上のパーティーのみが依頼を受けられるので、みなさんでチャレンジされてはいかがでしょうか?」

「うえ……」

「んっ! んっ!」


 オークドゥに念話で話しかける……

『こらっ! 上様って言おうとしただろ!? ダメだっつうの!』


「すみません。つい……」

「うえ? 何ですか? うえって?」

「い、いや……うえ~~っ! どうしようかなぁっ!? と言おうとしただけだ」

「はあ……??」


「それでどんなクエストなんだ?」

「あ、はい。神都の東にある森の中にダンジョンが1つあるんですが、そこが魔物あふれの兆候ちょうこうを示しているとの報告が入っているんですよ。それの調査です」


 前にシェリーたちがノルムの町の冒険者ギルドから受けた依頼に似ているなぁ。

 しかしこの世界にはダンジョンもあるんだな? く~っ! わくわくするなぁ!


「あ、でも……女性にはちょっと嫌なクエストになるかも知れないです」

「ん? どうしてだ?」


「はい。ダンジョンの2階層目に触手を持つ植物系の魔物がいるのですが、これが女性を苗床なえどこにして繁殖はんしょくするという、けしからんヤツでして……

 触手でからめとった女性を凌辱りょうじょくして自分の種を植え付けるんですよ。

 だから、女性にはちょっときついクエストになるかも知れません」


 なんと! 植物版オークとでもいうべき魔物なのか……

 そんな魔物まで"俺の知らない俺"は作っていたのか!? なんたることだっ!?


 ん?オークドゥが、ばつが悪そうににがい顔をしている。

 ああ……なるほど。オークドゥたちも似たようなことをしてきたからなぁ……。

 けしからんヤツだったというわけだ。 それを恥じているようだな。


「まあ、苗床にされる女性たちは媚薬びやくを注入されて絶頂の内に種を植え付けられるらしいので苦痛は一切感じないそうなんですけどね……

 聞くところではどうやら苦痛どころか逆に快感……オルガスムス状態らしいってことですよ。その状態は種が発芽はつがして腹を食い破り、女性が絶命するまでずーっと続くらしいんですよ。

 ですから自殺願望がある女性たちがわざわざ餌食えじきになるために行くこともあるんですって。 困ったものですよね」


 ハニーたちの顔が青ざめる……。


「ちょっと話が横道に逸れてしまいましたが……

 ということで、やられても苦痛はないのですからきっと平気ですよ。あはは。

 どうですぅ? チャレンジしてみますかぁ?」


 他人事だと思って気楽なことを言いやがるなぁ。


 俺は反対だ。ダンジョンにはもちろん魅力を感じるんだが、ハニーたちを危険にさらすわけにはいかない。


 君子くんしあやうきに近寄ちかよらず……だ。


 何も急いでランクC冒険者になる必要はない。

 これで食っていくわけじゃないんだからな。


 ん? シェリーたちがチラチラと俺の顔を見ている? なんだろう?


 ああ、そうか。多分やめてくれと目で合図しているんだな?

 それこそ……自殺願望でもない限り、苗床にされてしまうと聞いても行きたがる女性なんていないだろうからなぁ……


「やめておくよ。 ハニーたちを危険にさらすわけにはいかないからな」


「えーーっ!? 行かないんっすかぁ? がっかりっす!」

「ダーリンは臆病者おくびょうものだと非難します」

「ダーリン、ダンジョンには是非とも行ってみたいですわ!

 ダーリンがついていて下さるんですもの。触手植物なんて怖くありませんわ!」


 えーーーっ!? 女性たちが全員前向きだよぉ~。大丈夫なのか? 触手だぞ?

 エロエロな目に遭うかも知れないんだぞ? ちょっと強くなったからって過信は禁物だぞ?


 オークドゥもドン引きしている……。


「ダーリン、クエストを受けられるんでしたら、私たち4人もパーティーに加えてもらえませんでしょうか?

 近衛騎士になりましたが冒険者としてのランクアップも目指したいのです。

 あ……近衛騎士との兼業はだめでしたでしょうか?」


 シェリー、ラフ、ラヴ、ミューイの4人も参加したいと言う。


「いや、シェリー。別に両立が可能なら、無理しない範囲で冒険者として活躍してもらってもいいぜ。 ただなぁ、触手だぜ? 大丈夫か?」

「うちらにはダーリンがついていますからね。うふふふ」

「ラフよ…俺はお前さんたちを危険な目にはわせたくねぇんだけどなぁ……」


 結局はハニーたちに強引に押し切られてしまった。

 ダンジョン調査のクエストは俺たち11人で受けることになってしまったのだ。


 ダンジョンに入る前に、触手植物対策を考えないとなぁ……。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 ギルドを出て、俺たちはオークドゥの定宿じょうやどとなる宿屋やどやを目指して歩いている。


 その宿屋は俺たちが冒険者登録する際に世話になった冒険者ギルドのカウンターレディー、ミディルから紹介された宿である。

 どうやら彼女の知り合いが経営している宿らしい。


 最短距離だと言うことで教えてもらった人通りが少ない裏道を歩いていると……

 突然、俺たちは大勢の男どもに囲まれてしまう。どうもギルドから後をつけられていたようだ。顔もガラも悪い男どもが20人くらいはいるだろうか……?


「おい小僧! それにそこのデカいの! 大人しく女を置いていけ! さも……」


 『さもないとぶっ殺すぞ!』とかなんとか言いたかったのだろうけど……

 話を聞いている時間ももったいない。だから、もう全員をターゲット指定して、いつものサンドワームがうじゃうじゃいる砂漠へと転送してやった。


 クソ野郎どもに構っている時間はない!

 そして……クソ野郎どもに情けをかける気持ちははなっからサラッサラないっ!


 ちなみに当然だが、クソ野郎どもの魂の情報は、"輪廻転生りんねてんしょうシステム"のブラックリストへと登録してやった。


 あれれぇ? ハニーたちが残念そうだなぁ?

 『クソ野郎どもを成敗したかったのにぃ~いけず!』といった顔をしている!?



 ◇◇◇◇◆◇◆



「幼なじみのミディルちゃんの紹介なら一泊銀貨5枚にしてあげるね。

 でも食事は別だからね。 ここの食堂で食べてくれたらサービスするよ」


 ミディルが紹介してくれた宿を訪ねると、ちょうどミディルの幼なじみだという宿屋の娘、キャシディがカウンターにいた。


 ミディルからの紹介でここに来たことを告げるとなんと一泊あたり銀貨1枚分程値引きしてくれることになったのだ。 これはオークドゥも助かるだろうな。


 素泊すどまりで一泊銀貨5枚。日本円で5000円くらいか。綺麗きれいな宿だし安いな。

 オークドゥには予め金を渡してあるが、ここは俺が金貨1枚を出してやろう。


「それじゃぁ一部屋頼む。宿泊期間は未定だが、長く滞在することになると思う。泊まるのはこの大きな男だけだ」

「はい。承知しました。 あのう……宿代は前金でいただきたいんですが?」

「ああ。分かった。取り敢えずこれを渡しておくが、足りなくなったら、この男に請求してくれ」


 金貨を1枚、ロビーのカウンターに置く。


「うえさ……シンさん。私は既にお金をいただいておりますので、それから支払います」

「いや、えずは当面の宿泊費として金貨1枚を俺が出しておくよ。

 遠慮するなよ。なんせ俺とお前は冒険者パーティーの仲間だからな! ははは」

「はい。ありがとうございます」


 オークドゥが部屋へと案内されていく。

 俺たちはオークドゥが部屋を確認して戻ってくるまでの間、宿屋のロビーで待つことにした。


 ふとロビーに併設へいせつされている食堂に目を向けると、一組の親子?のように見える二人が食事をしているのが目に入った。40歳くらいの中年の男と、5歳くらいの少女が一緒に食事をしている。


 なんとなく気になって魂の色を見てみた。 女の子の方は"スカイブルー"だ。

 ん? 男の魂の色は真っ黒かと思えるくらいに黒いぞ!?


 どうも気になるなぁ……。


「おじちゃん。ママのところへは、いつつれてってくれるのぉ?」

「ああ、めしったらすぐ連れてってやるぜ。安心しな。さあ食え」

「うん! ごはん、おいしいねっ!」



 オークドゥが帰ってきた。


「どうだ? 部屋は気に入ったか?」

「はい。うえ……シンさん。日当たりが良い綺麗ないい部屋でした」

「そうか。良かったな。今日からお前さんはここを拠点として街の中を色々と見て回るといいぜ。といっても……明日にはダンジョンに向かうことになるからなぁ、クエストが終わってからじゃねぇとゆっくりと街を見て回る時間はねぇか……」

「はい。この街を見て回るのはクエストが終了してからにします」

「そうだな」


 宿のロビーで飲み物を飲みながらみんなでくつろいでいると、俺が気にしている男と女の子の二人連れが食事を終えて出て行った。


 ……やはりどうも気になるなぁ。


 一応二人にはマークが付けてある。ティータイムを楽しみながらもマップ画面を表示させて二人の動きは追っている。


 なんだ? あの先には奴隷商館とかがあるぐらいで確か普通の民家は無かったと思ったんだがなぁ? あの子の母親は奴隷なんだろうか?


 まさか! あの子をうっぱらうつもりなのかっ!?


「ダーリン、どうしたんっすか?」

「何かあったのか?とたずねます」

「いやほら、さっきあそこで小さな女の子と連れの男が飯を食っていただろう?

 ……あの二人がというか、子供のことが気になってなぁ」

「気になるとは?」

「ああ、男の方の魂の色がほぼ黒だったんだよ。それに、女の子の方が男のことを『おじちゃん』と呼んでいたんだ。極悪人の男が、自分の子供じゃねぇ小さな女の子を連れて飯を食っている。 なんか犯罪の臭いがしねぇか?」


「確かに怪しいですわね。後を追ってみますか?」

「男は女の子を連れてどうやら奴隷商館に向かっているようなんでな。俺ひとりで行こうと思っている。

 向かっている場所が場所だけに……お前さんたちは連れて行きたくねぇんだ。

 だから悪ぃんだが一足先に神殿に戻ってくれ」

 "えーーっ!?そんなぁ!"


 ハニーたちから一斉にブーイングを浴びてしまった。


後学こうがくのために奴隷商館の見学を希望する」

「そうっすよぉ~。 どんなところか見てみたいっす」

「それにもしも不当に奴隷にされている者がいたら奴隷商館の者どもを成敗しなくてはなりませんからね! 人数が多い方がよろしいかと存じますわ」

「あわわわわわ……」


 ジー、ウェルリ、ザシャアが俺と同行することを希望した。

 ソニアルフェはどうしたらいいのか困っているようだ。


「昨夜チュライズ・ロレンゾ侯爵から解放したエルフ女性たちが、無理矢理奴隷にされた女性たちのすべてだとは限りません。 奴隷商館を調べさせて下さい」


 ノアハは、エルフ女性たちがさらわれたことに深く責任を感じているからなぁ。


「そうです。それに神殿騎士として我々はこの件を見過ごすことはできません」

「我々は近衛騎士です。 ダーリンのお側を離れるわけにはいきません!」

「「そうですっ! お供します!」」


 シェリー、ラヴ、ミューイ、ラフが俺に、一緒に連れて行けと迫る!


「分かった。分かった! お前さんたちも一緒に連れて行くよ。

 ただし! 俺の側から絶対に離れるなよ!? いいな!?」

 "はいっ!"「はっ!」


 ん? オークドゥも行く気なのか?



 仮に相手が悪事を働こうとしているのだとしたら、大勢でいきなり転移するのも目立ちすぎて相手に警戒されてしまうかも知れない……

 だから、仕方ないのでみんなで歩いて奴隷商館へ向かうことにした。



 ◇◇◇◇◆◆◇



「えっ!?お前さんがなんでここにいるんだ?」


 商館の前で、思ってもみなかった意外な人物と出会うことになる。それは……




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