第0041話 神の逆鱗に触れし者

 >>マスター。

  殺された少女の"魂の履歴"の分析結果から少女の殺害方法が判明しました。

  奴隷化されている少女に対し、念話により腕輪に仕込まれた毒針を自らの腕に刺すように命じることで、間接的に少女を毒殺しました。


 ノアハの身体がチュライズ・ロレンゾ侯爵の上へと倒れそうになった!


 <<よし、分かった!

  では、俺たちを除く、この屋敷内のすべての念話送信能力保持者を、今すぐに抹殺せよ!


 ノアハの着衣を破ろうと、チュライズの左手がノアハの胸元へと伸びる!

 だが、ノアハは極薄シールドを展開している。チュライズのクソ野郎は、着衣を掴むことができない!


 >>承知!

  念話送信能力者を検索し、マーキングします。……検索とマーキングが完了。

  マーク対象をターゲット指定。……完了!

  ターゲットを爆殺!


 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ………


 >>全ターゲットの抹殺が完了しました!


「なんだ? 何が起こった?」


 チュライズ・ロレンゾ侯爵の部下が部屋に飛び込んでくる!


「た、大変です! ゲルギャたちが死にました!

 こ、孤児たちの毒殺ができなくなりました! ど、どど、どうしましょう!?」


『みんな! 思う存分に懲らしめてやれ!』

『『『『はいっ!』』』』


「な、なに……」

 ブベッシッ! ……ブシュッ! ブシュッ! ブシュッ!……

 ズブシュッ! "ぎゃっ……" ブシューーーーッ!

 スパッ! "あ゛がっ……" ブシューーーーーーッ!


 まずは、ノアハがチュライズのクソ野郎にビンタを食らわせる!

 ……つもりだったんだろうが、チュライズの頭は水風船が破裂するかのように、まるで爆発でもしたかのように破裂して吹っ飛んだ!


 チュライズのクソ野郎の首からは、血が脈動に合わせて吹き出す!


 ……ノアハは固まっている!? 目を見開き、口をポカンと開けた状態だ。

 嫌な思いをさせてしまったノアハをそのまま放ってはおけないので、俺のもとへ転送し、ギュッと抱きしめる!


「ハニー! 嫌な思いをさせちまって悪かった」

「こ、怖かったですぅ。奴隷にされていた頃を思い出してしまって……」



 ノアハがチュライズにビンタを食らわそうか!……としているのとほぼ同時に、天井から突如現れたおエンが、オークのような大男を一刀のもとに両断した!

 男は縦に真っ二つになった! あたりは血の海だ!


 床に着地したおエンは、少女の遺体を抱き抱えて、ノアハを抱きしめている俺の側へと転移して来た!


「おエン、良くやった!」

「ははっ!」



 おエンたちの行動よりやや遅れてオークドゥが斬り込む!

 ロングソードを水平に振るい、俺が鎌をかけた男、チュライズの護衛をしていた男を上下に両断する!

 男の身体は鳩尾みぞおちのあたりで真っ二つになっている!


 こちらも床は血の海だ!……うげぇ~。ち、血の臭いが……気持ち悪い。


 オークドゥは、そのまま部屋の入り口へと向かい、異変に気付き駆けつけてきたチュライズの部下たちを容赦なく斬り捨てている!……剣の腕前は素晴らしいな!


『オークドゥ! 見事な太刀さばきだ!』

『はっ! ありがとうございますっ!』


 オークドゥが斬りかかっていくのを見て、俺にずっと寄り添っているシオリは、『孤児の毒殺が不可能になった』ことをチュライズに告げた男に微笑みかける。


 いや、多分……微笑みかけたのではない。私のターゲットはあの男ね。うふっ。といった感じで微笑んだのだろう。シオリが、俺以外の男に色目を使う……なんてことは、絶対にあり得ないからな!


 絶世の美女であるシオリに微笑みかけられたと勘違いしたらしく、男の顔がポッと赤くなる。


「爆殺!」

 ボンッ!


 次の瞬間、シオリは容赦なく男を爆殺した!

 男は肉片と化し、あたりには血霧が漂う……。


 うわぁ~、ひ、酷い鉄さび臭だなぁ!



 <<全知師!

  チュライズの支配下にあった孤児院を特定して、奴隷とされている子供たちをマーキングしてくれ!マーキングが完了したら、そのデータを俺に送れ。

 >>承知!

  チュライズ・ロレンゾの"魂の履歴"から孤児院を特定中。……孤児院の特定が完了しました。孤児院は全部で23カ所です。

  各孤児院をスキャンし、奴隷となっている子供たちをマーキングします。

  ……マーキングが完了! 奴隷となっていた子供は全部で432人です。

  マーキング・データをマスター宛に送信します。……送信完了!


 ピロリン!


 <<データを受信した。ありがとう。


 全知師から受信したマーキングデータに基づいて、奴隷にされている孤児たちをターゲット指定した。


「神である我が権限において、この子供たちの奴隷契約を強制的に破棄する!

 ……加えて隷従の首輪と、身に付けし腕輪の除去と消滅を命ずる!」


 おエンに抱き抱えられている少女の隷従の首輪と腕輪も消える。


 オークドゥがチュライズの部下たちを殲滅し終えたのか、俺たちの側へと戻ってきた。


 むせかえるような血の臭いがしている。こんな場所に長居はできない。


 俺はみんなと少女の遺体と一緒に、ロレンゾ侯爵邸の周囲に張り巡らされているシールドの外へと転移した。

 ロレンゾの頭のない死体も俺たちよりも先に転送してある。


 ノアハによってあっさりと成敗されてしまったが……

 その程度で済ますつもりはサラサラないっ!

 た~っぷりと懲らしめてからアマゾネス・オークの生け贄にするつもりだ!!


 エルフ女性たちが望むのなら、彼女たちに報復させてやってもいいかもなぁ?


 <<全知師。

  ロレンゾの"魂の履歴"を調べて、奴隷にされていたエルフ女性をヤツから下賜された部下たちをリストアップしろ。


 >>承知!

  魂の履歴を解析中。……チュライズ・ロレンゾから、エルフ女性を下賜された部下のリストアップが完了しました。全部で72名がリストアップされました。

  マーキングしますか?


 <<いや、すぐにターゲット指定して、全員をいつものサンドワームの巣へ転送してやってくれ。


 >>承知!

  ターゲット指定完了!……転送! すべての処理が無事完了しました。


 <<ありがとう、全知師。


 部下たちの事情なんて知ったこっちゃない!

 下賜だと? 女性を物のように扱っている時点でアウトだ!

 しかも、自由が利かず抵抗できない者を凌辱するヤツに情け容赦なんぞ無用だ! アマゾネス・オークの生け贄にされないだけありがたく思いやがれってんだ!


 クソ野郎をあるじとして選んでしまった、己自身を呪いながら死ね!


 チッ! もう少し人数が少なければなぁ……

 アマゾネス・オークの生け贄にしたんだが!

 凌辱される者の苦しみを味わわせられないのがとても残念だよ!



 ◇◇◇◇◇◇◇



「体内外の完全浄化!……そして、完全修復!」


 ロレンゾ侯爵に毒殺された獣人族の少女の身体が、淡い緑色をした半透明な光のベールに包み込まれるが、その光りはすぐに消える。


「よし。浄化と修復は完了したな。では、蘇生しよう!……蘇生!」


 少女の身体は一瞬、眩しくて目が開けていられないくらいに光り、すぐに何事もなかったかのようにその光は消えた。


「ん…………んん…」


 少女が息を吹き返した。半眼でボーッとしている。

 彼女の目線に合わせるためにしゃがみ……彼女の前に両膝を付いて跪く。


「お嬢ちゃん、もう大丈夫だよ」

「ん? 神様?……」

「俺の事が分かるのかい?」

「うん! ラティ、分かるよ」

「君の名前はラティっていうのかい?」


 ステータス情報を見ているから、当然だが名前は知っていたが、会話のキャッチボールをうまく進めるために、知らないふりをする。


「うん! そう、私の名前はラティです。8歳です」


「そうか、ラティ、お家まで送ってあげよう。お家を教えてくれるかな?」


「私は、侯爵様に飼われているペットなの。 だから、お家はここなの。

 でもぉ……いじめられるから、ここは嫌いなのですぅ。

 ここには居たくないよぉ~」


 ラティは、ロレンゾ侯爵邸を見ながらシクシクと泣く……。


 この子をペット扱いしていたのかっ!? なんてクソ野郎だ!

 こんなかわいい子を……この事だけでも万死に値するな!


「ラティのお父さんとお母さんは?」

「二人とも……私が小さい頃に死んじゃったんだって。でも覚えてないの……」


「ごめんね。つらいことを聞いちゃったね。そうか……あの、ラティ。

 ラティさえ良かったらだけど、俺たちの家に来ないかい?

 一緒に住まないかい? どう?」


 ラティの魂の色は"スカイブルー"だ。

 こんな善良な魂を持つ子供を放ってはおけない。……幸せにしてやりたい。


「いいの? 私を飼ってくれるの?」

「か、飼うだなんて、とんでもないっ!

 ラティはれっきとした人だよ。 ペットじゃないんだよ。

 いや、絶対にペット扱いしちゃぁいけないんだ!

 君をペット扱いした人たちはみんな悪い人なんだよ!

 そんな人たちには罰を与えないといけないな!」


「ラティも人なのぉ?」

「ああ、そうだよ。人だよ。獣人族の、かわいい、かわいい女の子だよ!」


「ううう……。神様と一緒に住む……住みたいですぅ……ぐっすん。ぐっすん」

「ありがとう! すごく嬉しいよ! これから仲良くしようね! よろしくね!」

「うん! よろしくおねがいしますぅ……ぐっすん……」


 ラティが俺の胸に飛び込んできた。おいおいと泣く……。

 この様子をじっと見ていたシオリとノアハ、おエンの目には涙が浮かんでいる。

 オークドゥは……? オークドゥは俺たちに背中を見せて肩を震わせている?


 オークドゥよ。お前さんもいいやつだな……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「修復!」


 チュライズ・ロレンゾ侯爵の遺体を修復し、ロープでグルグル巻きにする。

 遺体は、素っ裸にひん剥いた後にふんどし一丁にしてやった。ここにはレディーたちがいるから、汚い粗チンを見せるわけにはいかない。目が穢れる。


「蘇生!」

「……う、うううう……」


 チュライズが目を開ける。


「よう、クソ野郎。お目覚めかい?」

「はっ!? な、なんだ? ど、どうなっている?」

「てめぇが手を出そうとした俺の嫁に張り倒されて、死んでいたのを生き返らせてやったところだよ。 だが、勘違いするなよ?

 てめぇをあっさりと殺したんじゃ、腹の虫が治まらねぇから取り敢えず生き返らせてやっただけだ。

 『どうか殺して下さい』と懇願するくれぇ痛めつけてからアマゾネス・オークの生け贄にしてやるから覚悟しろよ。ははは」

「……」


「てめぇはなぁ~、エルフ女性たちを攫わせて、性奴隷にするという、やっちゃぁいけねぇことをした上に、手を出しちゃぁいけねぇ俺の妻に手を出したんだ。

 当然覚悟はできているよなぁ?

 まさか、ただで済むとは思っちゃいねぇよなぁ?」


「こ、心を入れ替えます。ど、どうかお許し下さい。

 こ、これからは上様のために粉骨砕身、お仕え致します。

 ですから、どうか……」


「往生際が悪ぃなぁ~?

 幼気いたいけな子供たちを毒殺しようとしたり、かわいい、かわいいラティをペット扱いしていただけでも許せねぇのによぉ、その上、この子を惨たらしく毒殺までしたんだからなぁ、許せるわけねぇだろうがっ!」


 強烈に威圧する!


「ひいいいぃぃぃぃぃっ!! お、おおお、お許しを、お許しを!」


「ラティ、ノアハおねえちゃんと一緒に、先にお家に行っててくれるかな?」

「神様……すぐに来てくれる?」


 ラティは不安そうだ。


「ああ、もちろんだとも!

 すぐに行くからね。お家には美味しい料理がいっぱい用意してあるから、食べて待っててね」


「うん! 分かった!」


「ノアハ、頼む。これからすることは小っちゃな子には見せられねぇからな」

「はい、ダーリン。ラティちゃんの事はお任せ下さい」


 この会話を聞いて、チュライズの顔は紙のように白くなった。ガタガタと震えている。漸く俺の恐ろしさに気が付いたかな?


「それじゃぁ転送する。準備してくれ。……ラティ、一瞬でお家に移動するけど、驚かないでね。ノアハおねえちゃんの手をしっかりと握っていてね」

「うん、分かった!」


 ラティがノアハの右手を左手で握る……。ノアハは微笑んでいる。


「じゃ、行くよ!?……転送!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 ノアハとラティを一足先にマンション1階ホールへと転送し、チュライズの方を見ると、いつの間にそこに来たのか、シールド境界に、身なりの良い女性と青年が跪いている。そして、俺に向かって手を合わせている。

 俺の視線に気付いたのか……


「う、上様! ど、どうか夫をお許し下さい! お話はすべて拝聴致しました!

 上様のお怒りはごもっともですが、どうか、どうか夫を!……」

「私からもお願いします! どうか父をお許し下さい!」


 どうやら、チュライズの妻と息子のようだ。


「話を聞いていたんなら分かるだろう?

 コイツは、絶対にしちゃぁいけねぇことをいっぱいしやがったんだぜ!?

 許してもらえるたぁ、虫が良すぎるぜ?」

「しかし……」


「奥さんよぉ? お前さんが夫の目の前で無理矢理、わけの分からない男に犯されそうになったらと想像してみろっ! どうだ?

 女のお前さんなら、俺の妻が味わった思いが想像できるだろう?」

「……」


「お前さんがそんな目に遭っているのを見たチュライズが、お前さんを襲っている男を許してやると思うか? コイツなら絶対に男を嬲り殺しにするだろう?」

「……は、はい……」

「そういう事だ。……ところで……」


 威圧する。


「お前たちも、俺の大事なラティをペット扱いしたんだよなぁ?」

「「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!」」


「こんなクソ夫の心配をしている場合じゃねぇんじゃねぇのか?

 お前らも処刑するつもりなんだけどなぁ?」

「「ひいいいいーーーーっ!!」」


 3人とも脂汗をボタボタ垂らす。腰でも抜けたのか、お尻を地面につけて後退りしている。


 あ~あ、3人とも失禁しちまったか……。


「お前たちは二人ともコイツが何をしてきたのか知っていたんだな?

 エルフの女性たちを闇奴隷商人に攫わせて自分の性奴隷にして、飽きると家臣に下賜し、また別の女性たちを攫わせる……。

 孤児たちの面倒を見るふりをして無理矢理奴隷化し、悪事が発覚した時の人質にしたり……。

 俺を脅すために、ラティを虫けらのごとく毒殺したりしたことを……。

 全部知っていたんだよな?」


「「は……はい……」」


「このクソ野郎を許せというのなら……

 お前らも同罪としてぶっ殺すが……それでいいんだな?

 コイツが処刑されることは当然だと認めるんなら、命だけは助けてやらんこともねぇんだがなぁ? どうする?」


「み、認めます、認めます! そんな酷い男はとっとと処刑してやって下さい!」


「わ、私も認めます。そんな男は私の父ではありません!

 どうぞ上様のお気の済むようにご存分になさって下さい!」


 ああ……こんなもんだよな。 我が身がかわいいってもんだよなぁ……。


 チュライズは愕然とする。


「チュライズ、……だってよ? ……取り敢えずぅ~四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 チュライズの様子を見て、妻も息子も顔色が白くなる。

 ガタガタと音が聞こえてきそうなくらいに震えているなぁ。


「修復! い~ち!……てめぇは91人の娘を奴隷にしたんだよなぁ?

 あと90回、奴隷にした娘の数だけ、激痛を味わいな!……四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!


「う、上様、私の認識は間違っていました。上様が懲らしめられるのは、我々だけでは……オークだけではなかったんですね?」


「当たり前だ! 俺はなぁ、人を凌辱するヤツが大っ嫌いだ! 絶対に許せねぇ!

 種族なんてのは関係ねぇ! 誰であろうが、ぶっ殺す! ……修復!」




 きっちりと合計91回、『四肢粉砕』を味わわせてやった。

 奴隷にされていたエルフ族の女性たちに復讐させることも考えたのだが、こんなヤツの顔は二度と見たくはないだろうと思い、俺の方で罰を与えることにした。


 チュライズは、最後には俺が『し』と言っただけで絶叫するようになっていた。

 これも条件反射と言うんだろうか……パブロフの犬状態なのか?


「さてと、91人分の心の痛みに相当する罰はこれでよしっと!

 それじゃ、今度は凌辱される者の気持ちをたっぷりと味わってもらうぜ!」

「へっ!?」


 アマゾネス・オーク・クイーンにはもう話がしてある。アマゾネス・オーク側の受け入れ態勢は既に整えられている。


「ははは。まさか、もう勘弁してもらえるとでも思ったか?

 甘ぇなぁ。お楽しみはこれからだぜ!……チュライズ! 判決を言い渡すっ!

 主文!……てめぇをアマゾネス・オークへの生け贄の刑に処する!!

 判決理由は……知っての通りだ! めんどくせぇから省略だ!

 抵抗は無意味だ!!

 凌辱される側の気持ちを、エルフ女性たちが味わった苦痛を、た~っぷり味わいながら、生きたまま食われて死んでこい!! 以上だ!」

「……」


「……転送!」


 神の逆鱗に触れし者、チュライズ・ロレンゾは無言のまま転送されていった。


 あっ! ラティの分の痛みを与えるのを忘れてたっ! し、しまった!



 ◇◇◇◇◇◆◆



「だ~りん! おかえりなさいなのぉ~!」


 マンション1階ホールへと帰ると……、キャルとシャル、シェルリィ、ローラ、そして、ラティが俺に抱きついてきた。みんな笑顔だ。


「だ~りんせいぶんのぉ~きゅうしゅうなのぉ!」

「「「『おうっ!』」」」


 ん? ダーリン成分の吸収って……なんだ?

 おいおい! すりすりするなぁ~っ!


 あれ? 念話も混じっていたな? シャルか?

 ああ……シャル! お前さんの心の声が聞けるなんて……なんか嬉しいぜ!



 チュライズの妻と息子は平民へ格下げし、ロレンゾ侯爵家は取り潰した。


 中央神殿の統括神官には、侯爵家の全財産を没収して換金し、孤児院の運営費に充てるように命じておいた。ただし、侯爵邸については、孤児院として再利用することが決まっている。換金対象ではない。


 代官の妻、カミイラル・ジェイペズが起こした事件のようなことを起こさせないために、チュライズの妻と息子にはナノプローブを注入して、俺たちに危害を加えようとすると激痛を伴いながら死ぬようにプログラミングしてある。


 もちろん彼女たちにはその事実を告げてあり、真っ当に生きることを約束させてある。チュライズへの対応を目の前で見せられたんだ。俺たちに逆らおうとは思わないと信じたい。真っ当に生きて天寿を全うして欲しいものだ。


 ちなみに……チュライズの妻と息子については、"輪廻転生システム"のブラックリストには載せていない。


 あ、そうそう、一応チュライズの妻と息子には、獣人族をペット扱いすると死ぬことになると脅しておいてある。 実際は、そんなプログラミングはしていない。

 単なる脅しだ。


 贅沢三昧に暮らしてきた彼女等にとっては、これから、つらい日々が待っているであろう事は想像に難くない……。だが、だからどうした?……なんだけどね。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 チュライズ成敗に思った以上に手間取ってしまったので、このままでは夕食会が終わるのは深夜になってしまう。


 子供たちを、深夜まで起こしておくわけにはいかない!絶対にダメだ!


 『まだ眠たくない』とぐずる子供たちを説得して、俺は夕食の途中で、キャルとシャル、シェルリィ、ローラ、ラティを自分の部屋に連れて行って、寝かしつけることにする。元冒険者で現在は近衛騎士兼、嫁、獣人族のハニー、ラフも一緒だ。


 ラフは、子供たちが寝た後も、俺の部屋に残って、子供たちを見ていてくれると言ってくれている。優しくていい子だなぁ……。


「ハニー。いつもすまねぇな。助かるぜ。ラフは優しいなぁ。惚れ直すぜ」

「うふふ。まぁ、ダーリンたらっ!」


 かわいい! 思わずじっとラフの顔を見つめる。……見つめ合う二人……。

 いつしか、お互いに唇を求め合う……。ああ……ラフがたまらなく愛おしい。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 さすがに子供たちの寝ている横で、そういうことはしない。それに、獣人族の后候補と会う前に、獣人族のラフと情けを交わすことはできない。


 獣人族の中央神殿で待ってくれているだろう后候補のみんなの心情を察すれば、これは当然のけじめだと思う。


 なら、キスはいいのか?って事になるかも知れないが、それくらいは大目に見て欲しい……そうじゃないと俺を愛してくれているラフが余りにもかわいそうだ。


 け、決してご都合主義じゃないぞ! だ、断じて違う! うん、そうだとも!



「ラフ、それじゃ、頼むな」

「はい」


 子供たちを起こさないように小声で会話を交わし、夕食会の会場へと戻った。



 ◇◇◇◇◆◆◇



「ダーリン、すみません」

 ギクッ! よ、よよ、夜伽の話か!?


 夕食の団欒も終わりに近づいてきた頃、ソリテアから声を掛けられる。


「あのう……すみません。 夜伽のスケジュールの件なんですが……」


 きたぁ~、やはりそうかっ!

 う~ん、今夜は夕食が終わったらすぐに寝たいんだけどなぁ~。

 許されないんだろうなぁ……。とほほ。


 内容が内容だけに、ホールから厨房の方へと移動して話を続ける。


「急に人数が増えましたので……調整がうまくいかないのです。今夜は夜伽無しでお願いできませんでしょうか?本当に申し訳ございません!」


 ふぅ~。よかったぁ! 助かったぜ!


「ああ、それならしようがない。残念だが仕方ないさ。

 それに今夜はキャルたちと一緒に寝る約束をしているから、我慢するよ」


 が、がが、我慢するって言ってしまった!

 やりたくやりたくしようがないみたいじゃないか?

 せ、性欲大魔神と思われちまうぞ!


「あのう、もしたまっていらっしゃって我慢できないのでしたら、よろしければ、私がお相手しますが?」


 うわぁ~、やはり勘違いされているぅ!


「い、いや、我慢するというのはだなぁ、言葉のあやだから……。だ、大丈夫だ。それに……それに、ほら、お前さんとだけ房事ぼうじをすると、他のハニーたちから嫉妬されるといけねぇしな。スケジュールを作る意味がなくなるだろう?」


「はい……仰る通りですね。……残念です……ごにょごにょ……」


 ん?


「ハニー、ありがとうなっ!

 ハニーがそうやって調整してくれるお陰でみんながこうして円満に過ごすことができている。細やかな気配りのできるソリテアだからこそできることだよ。

 本当にありがとうな! 愛しているぜ! ハニーっ!」

「うふふ。はいっ!」


 ああ、この子もホント、かわいいなぁ。気配りができる良い嫁だ!

 ソリテアは頬を染め、うるうるした目で俺を見つめる。吸い込まれそうだ。

 暫くお互いに見つめ合っていたが、どちらともなく、唇を求め合う。愛おしくてたまらない。


 同時に複数の女性を愛することが……それもすべて真剣に、心から愛することができるんだということを、この時、俺は悟った。



 ◇◇◇◇◆◆◆



 夕食を片付けた後のマンション1階ホールに、エルフ族のハニーたち用の野営用テントを張って、その中で泊まってもらった。

 オークドゥは、マンション前の広場に、彼専用の野営用テントを設置し、そこで泊まってもらうことにしてある。


 みんなに手伝ってもらって、夕食の後片付けをした後、みんなが寝室へと向かうのを見届けてから、急に、ゆっくりと湯に浸かりたくなって大浴場にひとりで入ることにした。


「ふぅ~。疲れが取れるぜ」

「失礼するっす!」

「お邪魔しますぅ~」

「ダーリンと共に入浴することを希望します。抵抗は無意味だと告げます」

 …………………


 え、ええっ!?

 寝室に行ったはずのハニーたち全員が、大浴場に入ってくる!?

 あ、もちろん、子供たちはいない。だが……エリゼとルーナ、アニッサまでが?子供たちとラフ、管理助手のシオリとさゆり、シホを除く、他のマンション住人のすべてと、エルフ族のハニーたちのすべてがいる!?


 >>マスター。精力絶倫モードへ移行しますか?

 <<移行しなくていいっ!大きなお世話だっ!


 眼福であることは間違いない……だが、うーーーんっ!

 どうしたらいいんだこの状況は!?


 女性たちに囲まれて、湯船から出ることもできず……暫くするとのぼせてきた。

 それで、素早く脱衣所へと転移して服を着ると、転移で自分の部屋に戻った。

 自室への転移の直前に『あ! ダーリンが逃げたっす!』というウェルリの叫ぶ声が聞こえてきたが、そんなのは無視だ!



 ふ~ぅ、なんてドタバタした一日だったんだろう。もう寝よう……。

 キャルたちの横でラフも寝息を立てている。どうやら、眠ってしまったようだ。ラフの寝顔もかわいいな。もちろん、キャルたちの寝顔もかわいい!


 ああ……癒やされるぅ~。暫くして俺は意識を手放した。



 ◇◇◇◆◇◇◇



 翌朝。朝食は我々の方も、救出したエルフ女性たちの食堂の方もサンドイッチと各種飲み物を用意しておいた。

 サンドイッチの方も人それぞれに好みもあるだろうから数種類用意してある。


 エルフ女性たちにも大好評であったことは言うまでもないだろう。

 日本の食べ物って、ホント美味しいよね! うん、うん!



 今日は、昨日の問診にしたがって、完全浄化や完全修復、あるいは、その両方を希望したエルフ女性たちに対して、ハニーたちが神術を施すことになっている。


 86人が完全浄化と完全修復の両方を施されることを希望した。

 残りの5人は『春をひさぐ』仕事がしたいと言っている。


 売春が犯罪である時代の日本で生まれ育って死んだ俺は『春をひさぐ』仕事には心のどこかで引っかかりを覚える。仕事であるという考えを受け入れられない。


 ああ……こういった仕事にやりがいを感じる人もいるということは、頭では理解できるのだが……なんだか悲しくなってくる。


 いつまでも続けられる仕事ではないし、将来、一緒に添い遂げたいと思える人と出会えた時に、『春をひさぐ』仕事が足かせになるのでは?とか、そんなことが、大きなお世話かも知れないが、心配になってしまう。


 長命のエルフ族だから、人族よりは長く続けられるのだろが……なんだかなぁ。


 お節介は覚悟の上で素直に俺の考えを伝え、考え直すように言ってみたのだが、彼女たちを翻意させることは不可能だった。この神国では『春をひさぐ仕事』は、必要な仕事であると人々には認識されている。そして、合法だ。

 だから、彼女たちが望む以上、無理に引き留めることはできない。


 彼女たちはもうエルフの国へは帰りたくないという。春をひさぐのなら、人族を相手にしたいと言っている。まず知り合いには会わないだろうこの国の方が、気が楽だ…とも言っていた。やはり、心のどこかでは、なんとなく後ろめたさを感じているのかも知れない。


 この世界に来てから人族のクソ野郎ばかりを目にしてきた俺は、彼女たちを街の娼館で働かせるわけにはいかないと感じている。娼館の主に彼女たちの売り上げをピンハネさせるのもバカらしい。彼女たちが稼いだ金は、すべて彼女たちのものにしてやりたい。


 それに、クソ野郎どもがうじゃうじゃいる歓楽街なんぞで働かせようものなら、純真な心を持ち、世間知らずな彼女たちは、あっという間にクソ野郎どもの餌食にされてしまいそうで心配でしようがない。彼女たちの保護者のような気持ちでいる俺の勝手な思いなんだが……。


 肺肝を砕く……考えに考え抜いて、神殿敷地内に彼女たち5人のために、娼館を建てることにした。娼館の建物は、一見すると、普通の宿屋にしか見えないような木造3階建ての建物にした。


 娼館は、神殿の北東、神殿施設からは少し離れた場所、神殿背後に広がっている森の入り口付近に建てた。

 1階、2階には、"春をひさぐため"の部屋が各10部屋ある。3階は、住居用の部屋が5部屋作ってある。そこで彼女たちは暮らしていくことになる。


 俺を神として崇める神殿では『春をひさぐ仕事』に対して寛容である。娼婦も、男娼も、職業の内のひとつとして認めている。


 もちろん、男女を問わず、神官も含めて、神殿関係者が娼館を利用することには全く制限がない。各人の自由である。


 唯一の例外は、神殿神子である。彼女たちは俺に操を立てるという立場にあり、俺以外との房事は禁止というのが不文律となっている。


 "春をひさぐ仕事"に就くことを希望した女性たちには、神殿関係者のみを相手にすることを条件にしてある。

 せめて、できるだけ、妙な相手にかかわることがないようにしたかったからだ。


 料金は街の娼館よりも高めである。実際に運営してみてから、後から彼女たちの意思で料金は変更可能だし、ピンハネも一切ない。建物の賃貸料金も発生しない。


 売り上げのすべてが彼女たちのものとなる。


 代官屋敷の使用人と、ロレンゾ侯爵邸の使用人の中から、魂の色が綺麗な年配の女性に限定して希望者を募り、娼館で下働きする者たちも雇った。

 もちろん、下働きだから、彼女たちは"春をひさぐ仕事"は一切しない。


 そして、神殿騎士隊長のバルバラに依頼し、神殿騎士の巡回経路に、この娼館も入れるようにしてもらった。場所が場所だけに、何かとトラブルが発生することが予想されるからだ。



 奴隷にされていた女性たち全員に、精神支配耐性を付与して、加えて、魂の色を見られるレベルの神眼を授けることした。


 また、俺のハニーたち程ではないが、STRもオーク並みにしてある。男どもに無理矢理強いられることが無いようにしたかったからだ。

 彼女たちに客が力ずくで何かしようとしても、その客が、オークを超える強さでなければ彼女たちをどうすることもできないだろう。


 もう二度と奴隷にされるようなことがないようにと思ってのことだ。


 また、極薄シールドを展開可能な"指輪"もプレゼントした。この指輪には本来の所有者以外がシールドを展開できないように細工が施してある。

 魂のプライマリーキー情報を読み取ってシールド展開してもいい人物かどうかを判断する機能が付加されているのだ。


 そして、彼女たちの職業柄を考え、中級程度の"浄化神術"と"修復神術"も使えるようにしておいた。避妊と性病対策のためでもある。




 完全浄化と完全修復の両方を希望した女性たち86人は、ハニーたちによって、神術が施された。神術は成功し、86人は、16歳から18歳のピチピチギャルの生娘になっている。


 その中には、心のケアが必要な女性が20人程いることが分かった。

 大変つらい思いをしてきたからなぁ……かわいそうに。なんとかしてあげたい。


 そういったカウンセリングが必要な女性たちは、スケさんとノアハ、アニッサが親身になって話を聞いてくれている。

 自身も性暴力の被害者である彼女たちは、俺の心情を察して、自分たちから申し出てくれたのだ。カウンセリングが必要な女性たちの心に寄り添って、心のケアができるのは、やはり、同じようなつらい目に遭ったことがある3人だけだろう。

 これは予想していなかったことだが、カウンセラー役の3人の方も、彼女たちと話をすることで、逆に自分たちの心が癒やされていくのを感じているようだ。


 みんなが前向きに人生を歩み始めることを心から願う……。

 神なのに願う?? 細かいことは気にしない! 気にしない!?


 この20人程の女性たちは、居たいだけこの神殿に居てもらってもいいと言ってある。前を向いて歩き出したくなるまで、いくらでも時間を掛けてくれていい。


 彼女たちは、まだ、俺以外の男性と話をするのが苦痛のようだ……いや、苦痛というよりも恐怖心を覚えるらしい。そりゃそうだろうと思う。酷い目に遭わされてきたんだからなぁ……。

 だから、希望者には男性と接触する機会がほぼ無い、メイグズとキャロラインと同じ職場で働いてもらう。もちろん無理強いは一切しないし、するつもりもない。




 エルフの神殿ではなく、この神殿で神子としての修行をしたいと申し出た女性が16人いた。 いずれも魂の色は"スカイブルー"だ。神子候補としては合格だな。


 その神殿神子希望の全員が、将来は俺の嫁さんになりたいと言っている。

 うーーん。嬉しいけど、複雑な思いだ。そんなかわいいことを言ってくれた神子希望者のみんなを加護して、俺の庇護下に入れたのは言うまでもない。

 そして……シホがにんまりとしていたことも言うまでもない。


 シホは、『これで人族を数の上で逆転したぞ!』と鼻息が荒い。とほほ。




 その他の奴隷にされていたエルフ女性たちは、故郷へ帰ることを希望したので、俺とシホで彼女たちを、それぞれの家へと転移によって送り届けてきた。


 彼女たちの、家族との再会の場では、幾度となく"ほろっと"させられたなぁ。



 ◇◇◇◆◇◇◆



「それじゃあ、オークドゥ、行くぞ!」

「はっ!」


 故郷へ帰ることを希望したエルフ女性たちを送り届けた後、俺とオークドゥは、シェリー、ラフ、ラヴ、ミューイの案内で、冒険者ギルドへと向かうことにした。

 俺は正体がバレないように、認識阻害の神術を常時発動している。


 ノアハとザシャア、ウェルリ、ジー、ソニアルフェが同行を希望した。

 彼女たちも冒険者登録を希望しているらしい。……俺も登録しようっかなぁ。


 人族のハニーたちの中にも同行を希望した者が何人もいたのだが、この神都では彼女たちは有名人だ。シオン教徒がちょっかいを出してくることも考えられるのですぐに却下した。意思を尊重してあげたかったが、心を鬼にしての却下だった。


 今日、ハニーたちは、マンション1階ホールで親睦会を開くと言っていた。

 昨夜の夕食時の団欒のお陰なんだろう……種族の壁を越えて、みんなが、すごく仲良くなったようだ。女子会を開き、さらに嫁同士の絆を深めるつもりだと言う。


 女子会かぁ。楽しそうだなぁ。キャルたち子供もわくわくしていたもんなぁ。



 ◇◇◇◆◇◆◇



 ギルドの近くまで来ると、前方からなにやらニヤニヤしながら、むさい男どもが数人、俺たちに近づいてくる。嫌な予感しかしない。


「ひゅぅ~! すげぇ美人ばっかりだなぁ!

 おい、姉ちゃんたち、俺たちと一杯やろうぜ! かわいがってやるからさぁ。

 そんな野郎どもは放っておいて、こっちに来な!

 ひぃひぃ言わせてやるぜ! へへへっ!」

「おお~っ!? エルフの女もいるじゃねぇかぁ? たまんねぇ~。げへへっ!」


 ああ……出やがった。クソ野郎どもだ。

 異世界モノのラノベとかでよく出てくるテンプレパターンだな。




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