第0040話 卑劣漢

 1時間程すると、救出したエルフ女性たちが、入浴を終えて診療所テントの方にやって来た。皆がお揃いの格好、典型的なエルフ族の町娘の格好をしている。

 彼女たちはこれから診察を受けることになる。診察するのは俺のハニーたちだ。


 今日のところは、ハニーたちには、奴隷とされていたエルフ女性たちに対して、外傷の治療と『完全浄化』、『完全修復』を受けるつもりがあるかどうかの意思の確認を行ってもらうつもりだ。


 あ、そうだ。ハニーたちにも、シェリー、ザシャア、ノアハにした、隷従の首輪対策を施しておく必要があったな……。


 管理助手さえも拘束することができる隷従の首輪は厄介だ。今すぐ対策しておくことにした。リブートが不要っていうのは、こういうときは便利だ。


 まず、開発画面を表示させて、シェリーのイベントを表示させる。


 そして……耐性変化の際に呼び出されるイベントに割り当てられているイベントハンドラの中身を一旦コピーしておく。


 次に……まだ『隷従の首輪対策のための加護の強化』を行っていない俺の庇護下にある者たち全員をイベントハンドラ追加・編集のターゲットに指定する。

 それには、シオリたち管理助手も、当然含まれている。


 最後に……先ほどシェリーからコピーしたイベントハンドラの中身を、該当するイベントハンドラにペーストしてお終いだ。


 ……これで取り敢えずはOKだな。だが、マズいプログラミング手法だよなぁ。

 全員に同じコーディングをしている。1つのイベントハンドラを共有させているわけではない。


 だから、修正が生じたら、全員のイベントハンドラを、一々修正しなくてはならなくなる。悪手だ、アホだ! こんなのは気持ち悪くてしようがない!


 オブジェクト指向が台無しだ!


 そういえば日本人だった頃に、こんな感じでプログラミングされたプログラムの修正をやらされたことがあったっけなぁ……。あれは地獄だったなぁ。同じような処理をさせている箇所が100カ所以上あって、しかも、わけの分からない色んなメソッドに処理が飛んで行っているし、それぞれが、何人かの手で別々に作られたのか、ユニット毎に同じような処理を行わせているサブルーチンある上に、変数が全部異なっていたから、手で"ちまちま"と修正していったんだよなぁ……。


 我ながらよく修正できたものだ……今やれと言われてもとても無理だ。

 気が狂うだろうなぁ……。


 1つのクラスにカプセル化して記述しておけばいいものを……オブジェクト指向言語を使っているというのに、M○ーDOS時代初期のBASICで素人が作ったコードを見ているようだったなぁ。わけの分からないサブルーチンばっかりの……スパゲッティコードを見ているような感じだったんだよなぁ……。


 ああ、そうだ。あのプロジェクトの指揮を執っていたのも、あのクソ部長だったよなぁ、確か。なんか…あの人の尻拭いばっかりやらされていたんだなぁ……。



 クラス設計の段階であれば、『ハニークラス』なんてクラスを作成しておいて、それを継承してハニーたちを作成するんだがなぁ……。最初から嫁が決まっているわけではないしなぁ……。

 インスタンス化されてしまっているのに、今更、継承元クラスを変更するのは、リスクが大きすぎるし……。


 インスタンス化されている、つまり、既に生命体として、この世に存在している実体の継承元クラスを別のモノに変えてしまうと、別人格になってしまうかも知れないし、予想もできない大きな変化を生じてしまう危険性さえあるので、簡単にはそれができない。


 全ヒューマノイド種族の基本クラスに、耐性変化の際に呼び出されるイベントと互換性のあるプロテクトされたメソッドを追加しておき、それを参照させるようにすれば、修正も簡単になるだろうが……管理助手レベルの能力を持つシオン神聖国関係者にそれを利用されてしまう可能性が出てくる。


 簡単に思いつかないようなメソッド名にしておけば大丈夫だろうか?

 現在、クラス設計・変更権限と、そのコードを閲覧する権限は、俺だけが持っているから、パスワードプロパティを追加して、そのプロパティ値の正否を判定するようにコーディングするのはどうかなぁ?これら2つの合わせ技ならそう易々とは流用されることはないかも知れないな。


 >>ソースコード閲覧・編集に権限を付与することをお勧めします。


 <<ん?どういうことだ?


 >>通常は、開発環境画面でビルドされたオブジェクトのプロパティ値を編集する場合には、当該ソースコードが自動的に呼び出されるようになっていますが……

  ソースコードを呼び出すための権限を付加することで無権限者の閲覧、及び、修正を阻止できます。

  ただし、ビルド済のデータはシステム上、管理助手による閲覧が可能な状態に置かれているため、完全な解決策とはなり得ません。

  なお、ソースコード閲覧、編集を権限により制限した場合、プロパティ値等の修正の度に、リビルドとリブートが必要になります。

  なぜなら、システムのインタープリター機能が停止されるからです。


 なるほど……まっ、当然だわなぁ……。この3つの合わせ技を使うかぁ???

 管理助手たちも継承元はヒューマノイド種族の基本クラス……だな。よし!


 ヒューマノイド種族の基本クラスに、一見してそれが何をさせているのか分からないような名前を持つイベントハンドラを2つ用意する。


 1つは、攻撃神術のレベルアップを管理するためのイベントハンドラと互換性のあるメソッドで、もうひとつは、今回の加護の強化に使うためのメソッドだ。

 何をさせているのか後で分かるように、ソースコードにはコメントをしっかりと記述しておく。


 それぞれのメソッドに対するプログラミングはすぐに終わった。


 次に、パスワードを管理するためのプロパティを新規追加し、これも何のためのプロパティなのか分からないような名前をつける。こちらにもプロパティについて説明するコメントを、ちゃんと記述しておいた。


 今まであったクラスのメンバーを消したり、名前を変更したわけではないので、修正前のクラスから継承され、インスタンス化されている生命体とも完全に互換が保たれるはずだ。

 現在インスタンス化されている生命体に対し、仮にリビルドとリブートが必要になったとしても問題なく処理は成功するはずである。



 俺の庇護下のある者たちと、管理助手たちに念話を繋ぐ……。


『みんなぁ! 加護の強化を行うからリブートに備えてくれないか!

 一時的に意識を失っても大丈夫な体勢をとっておいてくれ!』

『おっけぇなのぉ~!』……


 キャルを始め、みんなから準備完了の念話が届く……。


 管理助手たちと普通のヒューマノイドでは継承方法が異なっているので、別々に処理を行う。そして、シオリだけは念のために、みんなとは異なり、ひとりだけで後から加護の強化をすることにした。シオリには、彼女だけに聞こえる念話回線をつなげて、その旨を伝えてある。

 彼女は、管理助手を統括する特別仕様の管理助手だから、事は慎重に行う必要があると考えたからだ。


 まずは管理助手たちだ……OK! 準備は完了だ!

 後はリビルドとリブートを残すだけだ!


 そして、俺の庇護下にある者たちの番だ。当然、ハニーたちも含まれる。

 ……OK! こちらも準備完了だ!


『それでは、みんな! リブートするよ!……リビルド&リブート!』


 みんなは慣れたものだ。経験済みだから、驚く様子もない。


『はい! 完了! ……では、もう普通にしてていいよ!』

『は~いなのっ!』……


『それじゃぁ、シオリ、お前さんの強化をする』

『では、こちらへお越し下さい』


 ん? 5階の一番左端の診察室で、シオリが手招きしている……。

 あそこの診察用ベッドでリブートに備えるようだな。来いと言っているのか?


 取り敢えず、シオリの待つ診察室へと転移する……。

 シオリのもとへと転移するや否やシオリが俺に抱きついてきた!

 目を潤ませて……


「ダーリン、寂しかったです」

「ああ、俺もだ。 お前さんが恋しかったぜ!」


 暫く見つめ合っていたが……どちらからともなく、お互いに唇を求め合う……。

 そのまま流れでベッドインとなろうかという時に……


『ダーリン。ダーリンたちも夕食はまだだよね?

 いつものようにバイキングを準備しようか?』


 さゆりからの念話が入った。


『あ、ああ……そうだな。マンション1階ホールで、みんなで一緒に食べることにするか? 俺もすぐに行くからホールで待っててくれ』

『はーい。シオリさんも一緒にね。うふっ! 邪魔してごめんね! うふふっ』


 んんんっ!? じゃ、邪魔してごめんね?……まさか……?

 俺とシオリは見つめ合い、苦笑した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 シオリの加護を強化してから、ホールで待つさゆりたちと合流した。

 後で、救出したエルフ女性たちにも食事を用意するので、エルフの料理に詳しいシホにも来てもらっている。

 4人で準備するため、ホールの準備はあっという間に終わる。


「よーし! 今度はエルフ女性たちの方を準備するかっ!

 彼女たちの方もバイキング形式でいいかな? どうだ、シホ?」


「はい。それでいいと思います。こちらに用意したものと同じでいいんじゃないでしょうか?ダーリンが生成する日本の料理は美味しいですから、彼女たちもきっと喜びますよ。うふふ」


 そうだな。自信がある。エルフ族のハニーたちにも大好評だからな。

 さあ、チャッチャと準備しますかっ!



 ◇◇◇◇◇◇◆



「お前さんたちを助け出すのが遅れてしまって本当に申し訳ない。この通りだ!」


 俺は深々と頭を下げる……。隣ではノアハも青い顔をして頭を下げている。


 今日の診察を終えた女性たち…奴隷にされていた女性たちを彼女たちが宿泊するテントの中の食堂へと案内してきたところだ。


 これから彼女たちには夕食を楽しんでもらおうと思っているのだが、その前に、今回の事件について詫びることにしたのだ。


 ざわざわざわざわ……

「う、上様のせいじゃありません。どうか頭をお上げ下さい……」

 ざわざわざわざわ……


「いや。俺の目が行き届かなかったばっかりに……

 お前さんたちにはつらい思いをさせちまった。本当にすまない」


 ざわざわざわざわ…… ざわざわざわざわ……


 俺とシオリ、ノアハ、シホが、暫くの間、頭を深く下げ続ける……。


「いえ、上様を責める気持ちなんて全くありません。むしろ私たちは感謝しているくらいです。お助け下さり、本当にありがとうございました……ううう……」


 ほぼ全員が大きく頷いている。涙を流している者も多い。


「みんないい子だなぁ…………

 お前さんたちは今後のことに不安があるかも知れねぇが俺は絶対にっ!お前さんたちを見捨てねぇっ! だから安心して欲しいっ!

 これからのことは一緒に、ゆっくり考えていこうな」


 女性たちは大きく頷く……。


「ささ! ここに色々な料理を用意したから、お前さんたちの好きなものを好きなだけ食べてくれ! 飲み物も色々あるからな!

 足りなくなったら、じゃんじゃん追加するから、遠慮するなよ」



 ◇◇◇◇◇◆◇



「……こうして俺の大切なみんなが一堂に会する機会を得たことにぃ~乾杯っ!」


 暫く救出したエルフ女性たちと歓談してから、マンション1階ホールに俺たちはやって来た。俺の乾杯の音頭で楽しい夕食会が始まる!

 人族、エルフ族、獣人族、そして、ドワーフ族のハニーたち。ハニーではないが大切な仲間たちが集まって、一緒に夕食を楽しむ。


 ロレンゾ侯爵邸を監視しているオークドゥと神殿騎士たちのもとへも夕食を差し入れてある。

 俺とシオリ、おエン、ノアハは夕食の途中で一旦抜け出して、オークドゥたちと合流する。そう…ロレンゾ侯爵を懲らしめるために合流するのだ。


 救出したエルフ族女性たちを、ずっと彼女たちだけにはしておけない。それで、シホとエルフ族のハニーたちには、二人一組で、順番に、彼女たちが夕食をとっているテントの方へ行ってもらって、交代で彼女たちに付き添ってもらう。

 乾杯を終えると早速、シホとシェリーが彼女たちのテントへと向かった。



 ◇◇◇◇◇◆◆



「さあ、チャッチャと片付けて、夕食に戻るぞ!」

「「「「はいっ!」」」」


 ロレンゾ侯爵邸前で、オークドゥと合流した。

 ロレンゾ侯爵を成敗しに行くのは、俺とシオリ、ノアハ、おエン、オークドゥの5人だ。転移により、ロレンゾ侯爵邸の門の中に入った。正面から堂々と乗り込むつもりだ。


 神殿騎士たちには引き続き、侯爵邸へと通じる道路を封鎖させている。



 しかし……大豪邸だなぁ。さすがは侯爵ってところか?

 あくどく儲けているんだろうなぁ……。


「ま、待て! 貴様ら何者だ!」


 門衛数人の中で、一番偉そうなヤツが吠える!


「無礼者! このお方は上様なるぞ! 頭が高い! 控えろ! 下郎がっ!」

「……えっ!?……ははぁーーーっ!」


 おエンが一喝すると門衛たちは俺の前にひれ伏した。


「てめぇらの主に用がある。案内しろ!」

「はっ!……ですが、どうか武器はここでお預け下さい」

「おいっ! 上様に向かって失礼だろうがっ! 上様に指図するつもりかっ!?

 そこへ直れ! 成敗してくれるっ!」


 おエンが、忍刀の切っ先を門衛のリーダー格の男の首に突きつける!


「も、ももも、申し訳ございません!」

「さっさと案内せい!」

「は、はいっ!」


 騒ぎを聞きつけたのか、屋敷の中から、身なりの良い中年男が出てくる。

 その男は俺たちの前へと来ると、サッと跪いた。


「これはこれは上様! ようこそ拙宅にお越し下さいました。恐悦に存じます」


 ん? この男がチュライズ・ロレンゾ侯爵なのか!?

 えーっ! がっかりだよぉ~。

 ぶよぶよの色白オーク野郎を想像していたのにぃ!


 チュライズ・ロレンゾ侯爵は、中肉中背。髪もふさふさ。顔は不細工じゃないがイケメンでもない……なんか特徴のない、印象の薄い顔だ。ぱっと見では悪人には見えない。しかも慇懃な態度だ……。思い描いていたイメージとは異なっていて、ちょっとがっかりしてしまった。


「このような場所で立ち話するのも恐縮ですので、どうぞ、応接室の方へ……」


 チュライズは、俺たちを先導して、建物の中へと入っていく。



 ◇◇◇◇◆◇◇



「それで……此度はどのようなご用件でお越しいただいたのでしょうか?」


 俺たちを出迎えた時から、チュライズは、ノアハのことをチラチラ見ている。


「ほおぅ? 俺がここに来た理由が分からねぇというのか?」

「はい。残念ながら……思い当たる節がないのですが?」

「お前さんの女性の好みは、ずいぶんと変わっているらしいなぁ?」


 チュライズがギクリとする。

 相変わらず、ノアハのことをチラチラ見ている。


『ノアハ、すまねぇが、これからお前さんにとっては不愉快なことを聞かせる事になるかも知れねぇ……。申し訳ねぇが、ちょっとだけ我慢してくれな』


『はい。ここに乗り込んだ時点で覚悟はできています。どうかご遠慮なさらずに、ダーリンの思ったようにして下さい』


『ああ……ごめんな。 先に謝っておくぜ。

 ……そして、これだけは言っておくぜ!

 どんなことがあっても、俺は絶対にお前さんを守るからな!

 必ず守ってみせる!』

『はいっ!』



「おいてめぇ、さっきから俺の嫁をチラチラ見やがって、どういうつもりだ?」

「こ、ここ、これは失礼致しました。まさか上様のお后様とはつゆ知らず、大変なご無礼を致しました。誠に申し訳ございません。余りにもお綺麗な方なので、つい目を奪われてしまいました」


 慇懃な態度だが、どうも腹に一物あるような感じだ。コイツの正体を知っているからかも知れないが……。


「おい! そこのお前さん! そうだ、お前さんだよ。

 俺は、ここにいるエルフの嫁に首ったけなんだがなぁ、お前さんも俺と一緒で、エルフ女性が好きなんだって?」


「え? どうしてご存じなんですか? そうなんですよ。

 エルフの性奴隷には…はっ! も、申し訳ありません。お、お忘れ下さい」


 チュライズの後ろに控えていた護衛らしき男に鎌をかけてみた。

 この男も先ほどからノアハを舐めるような視線を送っていたからだ。


 男は嬉しそうに話し出したが、チュライズに睨まれて口を閉ざした。


かみこのところしもこれよりもはなはだし……だなぁ」

「え? 申し訳ございません。仰っている意味が分かり兼ねるのですが……」

「ああ、上に立つ者が好む事は、その下の者たちも真似るっていう意味だ。

 お前、エルフの性奴隷じゃねぇと燃えねぇんだって?

 しかも、とっかえひっかえしているらしいじゃねぇか?」

「な、な、何を仰るんですか? な、何のことだか、い、意味が分かりませんよ」


 チュライズは狼狽した。

 誤魔化そうったってなぁ……。証拠は挙がっているんだけどな。


「てめぇが攫わせて奴隷にした女性たちはみんな俺が保護したぜ。もう言い逃れはできねぇよ。彼女たちがお前の犯罪の生きた証だ」

「ぐぬぬ……も、もはやこれまでか……。まさかお前が盗んだとはなぁ!」


 パチッ!

 チュライズが右手の親指と中指を合わせたかと思うと、指を鳴らした。

 すると、応接室の入り口のドアが開き、8歳くらいの獣人族の少女が現れた。


 隷従の首輪をしているっ!?


 その少女の顔には表情がない。腰にロープを巻き付けられていて、そのロープの端を、少女の後ろに立っているオークのような大男が握っている。

 この子をすぐに解放してやろう!


「おっと! 動くなよ!

 お前が動くと、この町の孤児たちが全員あの世行きだぜ?」


 チュライズが咳払いをすると、少女は無表情で左腕に嵌めていた腕輪を3度軽く叩いた。


「ぐはっ! ぐぐぐ……がぁぁぁぁぁっ!」


 突然、少女は苦しみだし、床に倒れてのたうち回る!


「な、何をしやがる! すぐに彼女を助けろ!」

「おーっと! 動くなと行っただろう? 面白いのはこれからだよ!

 黙って見てろ!」


 暫くすると少女は死んだように大人しくなる。だが、死んではいない。


「ぐがああああっ! ぐががぁぁぁぁぁっ!」


 突如少女は野獣のように、周りの人間に襲いかかる!

 俺たちの方にも向かってこようとしている!


 少女の後ろに立つ大男がロープを引っ張って、少女が人々を襲えないようにしているのだが……俺としては少女がこっちに来てくれた方がやり易い。

 襲われているふりをして彼女を助けることができるからだ。


 暫くすると少女は力尽きて絶命した。


「……な、なんと惨いことを! てめぇ、絶対に許さねぇからな!」

「あははははっ! 私を殺してみろ!

 その瞬間に、このエフデルファイ中の孤児院で今見たのと同じ事が一斉に起こるぞぉ~? あははははっ!」


 なんという卑劣漢だっ!


「さあ、お前が私から盗んだエルフの性奴隷たちを、大人しく返してもらおうか?

 だが……その前に、お前が大好きなエルフ妻を味見させてもらおうかなぁ~?

 お前の後ろに立っているエルフの嫁は綺麗だなぁ……そそられるぜ!

 今すぐ私の性奴隷として差し出してもらおうかっ! これは命令だっ!

 そうしないと孤児たちが皆殺しになるぜ?」


「お、おのれぇーーーーっ!」


「おっと! 何度も言わせるんじゃないっ! 

 孤児たちが皆殺しになってもいいのか? はははっ!

 ……さあてと、お前の嫁とお前の目の前で楽しませてもらおうかなぁ?

 考えるだけでぞくぞくするぜ! あははははははっ!」


 チュライズの魂の色は、先ほどまでは赤に近いオレンジ色だったのだが、少女が殺された瞬間に赤色に変わった。


 俺たちに暴言を吐く度にその赤い色がどんどんと黒ずんでくる……。

 神を冒涜する行為は、魂の色に変化をもたらすらしいな。


「そうだなぁ、先にお前を私の奴隷にしておいた方が安心か……」


 チュライズが、隷従の首輪を4つ、俺に放って寄越す……。


「今すぐ仲間たちの首に嵌めろ! そして、お前自身も嵌めるんだ!」

「嫌だと言ったら?」

「だから拒否権はお前にはない!

 神であるお前は孤児たちの命なんぞなんとも思わないっていうのなら話は別だがなぁ? 幼女好きのお前には見捨てられないよなぁ? あははははっ!」


 なに!? 俺は幼女好きだって噂でも立っているのか? 心外だなぁ!

 俺はロリコンじゃないってぇのっ!


 隷従の首輪かぁ、こんなので俺たちを奴隷にはできないんだけどなぁ。

 バカだなぁ……でも万が一って事もあるからな……


 <<全知師! ここにある4つの隷従の首輪を解析しろ!

  俺たちでも奴隷にされてしまうような代物か?


 >>お答えします。 ごく普通の隷従の首輪です。

  これらの首輪でマスターたちを奴隷にすることは不可能です。

  ただし、オークドゥのみ、奴隷にされてしまいます。


 俺はオークドゥのプロパティを修正して精神支配に対する耐性を付与した。


『オークドゥ、今からお前さんは一瞬だけ意識を失う。俺の肩に掴まれ』

『承知しました』

『リブート!』


 一瞬、俺の両肩にオークドゥの体重の一部がのしかかるが、すぐにオークドゥは意識を取り戻したようで、肩は軽くなった。


「どうした? 早く嵌めろ! これは命令だ!」


『みんな、悪ぃけど、首に俺が手渡す隷従の首輪を嵌めてくれ!

 こんな首輪じゃ、奴隷にはされねぇから安心してくれ!

 でも、それらしく演技してくれ、なっ?』

『『『はい』』』


 おエンはこの部屋のどこかに絶対に潜んでいるだろう。


『おエン、お前さんは俺が指示するまで何もするな。俺がやれと言ったら、大男を叩っ切って、少女の遺体を確保しろ! いいな?』

『ははっ!』


 <<全知師! 少女を殺したからくりを見つけ出せ! 急いで頼む!

 >>承知! 解析を始めます……。


 俺たちは全員、隷従の首輪を首に嵌めた。


「ひゃあーはははははははっ! これで私はこの世界の支配者だ!

 あははははっ!」


 全知師! 急いでくれっ!

 子供たちが人質に取られている以上、今は何もできない。

 もちろん殺されてしまった子供たちを蘇生することは可能だ。


 だが、できることなら、小さな子供たちには苦痛を味わわせたくはないからな。

 そんなかわいそうなことは絶対にさせない! 必ず阻止してみせるっ!


「さあ、そこのエルフの女! こっちへ来い!」


 ノアハがゆっくりとチュライズのもとへと歩き出す……。

 ノアハは奴隷にされていた頃のことを思い出したのだろうか、目にいっぱい涙を溜めている!


『ノアハ、すまねぇ! だが、安心しろっ! 俺が絶対に助けてやるからなっ!

 そんなクソ野郎の思い通りにはさせねぇからなっ!

 動作をなるべくゆっくりとしてくれ!

 頼む! 悪ぃが我慢して、少しだけ時間を稼いでくれ!』

『は……い……』


 ああ、ホント、申し訳ない! ノアハ!

 全知師! 急いでくれ! 頼む!


「ひゃあはっはっ! たまらんねぇ~その無表情なのに涙を流しているのを見ると興奮するぜっ! くーーっ! 思わぬ上玉が手に入ったなぁ!

 しかも、ただで手に入るなんて! なんてついているんだ!」


 チュライズがノアハの左腕を右手で掴み、彼女を自分の方へグッと引き寄せる!


 俺は気ばかりが焦る! 全知師! 早くしろ! 早く!


 <<全知師! 急げ! 急ぐんだ!



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