第0039話 黒幕の女
「よう! 待ちくたびれたぜ!」
「えっ!? な、なぜお前たちがここに!?……死ねっ! ウインドカッター!」
ヒュン! ヒュン! ヒュン! ……と、風切り音が!
ノアハを奴隷にした黒幕の女、サブリネ・グロウグルが"してやったり!"という顔をする。
…………だが、ウインドカッターが俺たちに到達すると、その表情は一変する!
「な、なにっ! さ、最大威力のウインドカッターを放ったのにっ!?」
「いや~、気を使ってくれたのかぁ? 暑いからちょうどよかったぜっ!
涼しい風をありがとうよ! ははは!」
俺もノアハも毛ほども傷を負っていない。ノアハは極薄シールドを展開しているのだが、多分シールドが無くても結果は同じだったであろう。
"見えざる神の手"で馬上のサブリネを引っ掴むと、地面へと引きずり下ろす!
次の瞬間、ノアハが攻撃を仕掛ける!
「ウインドカッターっ!」
「ははは! バカめっ……ぐはっ! ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ノアハのウインドカッターは、サブリネを守るシールドを物ともせず、容赦なく四肢を切り落とした!
サブリネは、俺たちを嘲るつもりだったのだろうが……発しかけた言葉は途中で絶叫に変わる!
ノアハの攻撃くらい、防御シールドで難無く防げると思っていたのだろう……。 だが、そうは問屋が卸さないっ!サブリネたちが使っているシールド周波数は、既に特定済であり、ノアハは、管理助手を除くハニーたちの中で唯一、シールドをすり抜けて攻撃を当てる術をマスターしているのだ!
サブリネたちが使用しているシールド周波数についての情報は、管理助手と俺の庇護下にある者たちすべてで共有している。
実は……シールド周波数に同期させて攻撃神術を放つ方法も、みんなで共有しているのだが、その方法で攻撃神術を放てるハニーは、管理助手たちを除けば、今のところノアハだけなのだ! 彼女には類い稀な神術の才能がある!
彼女は練習の際に、2度失敗したが、3度目で周波数同期法によって攻撃神術を放つことに成功してしまったのだ! 天才だ!
俺が彼女をどうしても近衛騎士にしたかった理由もそこにある。
ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ……
サブリネは激痛と大量の出血で意識を失ってしまった。
「修復!」
サブリネの身体が修復される。
ノアハは、回復系の神術も完璧に使いこなせている。さすがだ!
ノアハがサブリネのもとへと高速移動し、亜空間収納ポシェットから取り出した隷従の首輪をサブリネの首に、有無を言わせず巻きつける!
それは古代エジプトのファラオがしているような、ゴージャスなマルチビーズの首輪だ! 管理助手でさえも拘束できる特殊な首輪である!
直後にサブリネの顔からは表情が消える。この瞬間、サブリネはノアハの奴隷となったのだ。
>>マスター。
サブリネの肉体は、シオンが持ち出した管理助手仕様の強化人間の内の一体であることが確認できました。
サブリネ・グロウグルは地球、日本からの転生者である可能性があります。
なにっ!? 日本からの転生者なのか?
「ノアハ、そいつに尋問してぇ! 嘘をつかず、正直に話すように命令しろ!」
「はい、ダーリン!……サブリネ!ダーリンの質問にすべて正直に答えなさい!」
「は…い…」
「サブリネ。お前は日本からの転生者か?」
「はい。そうです」
「日本人だった頃の名前は?」
「
強化人間の肉体年齢は初期起動時、17歳にセットされている。現在サブリネの年齢は、ステータスで見る限り、22歳だ。この肉体は、起動後5年、この世界で生きてきたことになる。確認してみるか……。
「この世界にやって来たのはいつだ?」
「今からおおよそ5年前です」
サブリネから日本人だった頃の話を聞き出した……
念のために彼女の魂の履歴も見ている。
鬼坊主メリムは、日本では小学校の教師だった。担任をしていたクラスの生徒が酷いイジメに遭い、自殺する。
メリムはイジメを知りながら放置……いや逆にイジメの原因を作ったと言っても過言ではない。教育的指導という名目で、何かにつけて自殺した生徒を叱りつけてきた。理不尽とも言える一方的な暴力だ。その様子を見ていたクラスの生徒たちがいつしか自殺した生徒をいじめるようになったのだ! クソ教師だっ!
生徒の自殺後、暫くしてその事実が暴かれ、メリムは世間から徹底的に叩かれることになる。だが、そんなのどこ吹く風といった感じでふてぶてしく普通に教師を続ける……自分には全く非がないと思っていたようなのだ。自殺した生徒のことを迷惑にも程があると周囲に漏らしてもいたらしい。彼女からは死ぬまで反省の弁はなかった。遺族感情は逆なでされ続けた……。
そして……生徒が自殺して半年程経ったある日、彼女は、自殺した生徒の父親によって刺し殺されることになる……メリムは33歳で日本人としての生を終える。
その頃、シオン神聖国から地球の管理者に対して、転生者招喚要請がなされる。
シオン神聖国からの招喚要請が、メリムの死亡直後に入ったことから、メリムが偶然、転生者として選ばれることになった。
地球の管理者、いや日本担当者の方か?……が、面倒なので、メリムをこっちに押しつけやがったな!?
多分、メリムの魂は"刑期を終えられるほど浄化された"とは、判定されなかっただろうから、きっともう一度日本人としてリトライさせる必要あったに違いない。
メリムを再教育するには……つまり、もう一度日本人として再転生させるには、メリムの魂の履歴を解析して、その更生プログラムを作成する必要がある。それが面倒だったんだろう……。
多分……1日に3千人強は、日本人が死亡するだろう。その中の何パーセントが魂の再教育が必要となる"悪人"かは分からないのだが……その悪人ひとりひとりについて魂の履歴を分析して、各人にとって最も適切だと思われる更生プログラムを組み上げてから再転生させることになるであろうことは容易に推測できる。
その処理は、たったひとりの悪人に対してであってもかなり面倒なことであろうことは想像に難くない。
あの日本担当者のことだ。少しでも楽をしようと、絶対にこっちにメリムを押しつけたに違いない!
シオン神聖国は、俺が不在であったため、メリムを勇者としてではなく、各国の情報を探らせたり、各国を混乱に陥れたりする目的のために、つまり、間者として利用するために招喚したようだ。そうした活動に便利なようにプロパティ値が設定してあるように見える。
来たるべき勇者招喚に備えての"練習台"でもあったようだな……。
鬼坊主メリムは、サブリネ・グロウグルと名乗り、各地で暗躍することになる。
俺がこの世界に帰還することが分かってからは、サブリネはアウロルミア神国に対する嫌がらせを行う任務を帯びることになったようだ。
俺がこの世界に帰還した初日に起こった出来事、ハニーたちへのゴブリン襲撃、魔物溢れ、その後のナルゲン・ニムラによる、タチアナ誘拐も裏で糸を引いていたのは彼女であったのだ!
コイツを確保して手駒として使えるようにできたのは大きいな!
これでシオン神聖国は、大幅な戦力ダウンとなったはずだ!
しかし、日本では教師だったとはなぁ……。
◇◇◇◇◇◇◇
大多数の教師は、人々からの尊敬に値する人物なんだろうと思う。だが、俺は、クズ教師しか知らない。そんなクズ教師ばかりに習うことが、日本人としての俺の更生プログラムの一環だったのかも知れないが、酷い教師ばかりであった。
あ、そうそう……先生と言うことでひとつ思い出したことがある。
昔ある不動産会社のシステム開発を手がけた時の話である。
不動産購入客に対して、資金計画を提案するソフトウェアの開発も受注していたので、実際にソフトウェアを使うことになる不動産営業マンたちに、彼等が行っている資金計画立案方法についての聞き取り調査をしたのだが、あるとき、彼等との雑談の中でどんな客が厄介であるかという話になったことがある。
その会社の営業マンは口を揃えて『先生と呼ばれている人』と言ったのだ。
特に、学校の先生が厄介で、上から目線で無理な要求を通そうとする人が多いと本当に嫌そうな顔をしながら言っていたのが印象的であった。
営業マンたちは先生の多くが、学校を出てすぐにお山の大将になるから、それが問題だろう……と原因を分析している。
「少なくとも3年以上の社会人経験がある人に対してのみ教員資格を与えるようにした方がいいんじゃないかと私は思います……」
と言っている人がいて、なるほどなぁと思った記憶がある。それを思い出した。
大多数が良き教師だと信じたい。
だが……少なくとも俺が日本人だった頃に出会った教師はすべてがダメだった。
きっと日本担当管理助手が俺に与えた試練だったんだろう……。そういうことにしておこう。
◇◇◇◇◇◇◆
サブリネの魂の色は言うまでもなく黒だ。真っ黒だ。そう、極悪人である。
こんな人間を手駒とすると、自分の魂が穢されてしまうような気がして、とっととぶっ殺して、魂を"奈落システム"へとぶち込みたい衝動に駆られる。
「お前、よくも俺の大切なノアハを性奴隷のように扱いやがったな?
覚悟はできているのか?」
「その女が間抜けなだけだ!
男を知らない、いかず後家に男をあてがってやったんだ!
むしろ感謝して欲しいな! はははっ!」
正直に話すことを強要しているから、彼女の言葉に嘘はない。
ノアハは俺の横で怒りに打ち震えている。
「ほおぅ? お前にはノアハの怒り、苦しみ、悲しみがまったく分かってねぇようだなぁ? よぉぅし分かった! お前はオークの繁殖用孕み袋にしてやるよ。
ノアハが味わった同じ苦しみを味わわせてやる!」
「!!!」
サブリネはガタガタと震えだした。言葉を発することさえできない。
暫く震えていたが、漸く落ち着いたのか、口を開きだした……なんとしても俺の気持ちを変えたかったのであろう。
「ま、待って下さい!
な、な、なんでも言うことを聞きますから、それだけは勘弁して下さい!
お願いします! わ、私はまだ処女なんですぅ。ノアハと違って私はまだ若いんです。ゆ、行かず後家じゃないんです。オークの生け贄なんてあんまりです。
た、助けて下さい!」
サブリネは涙を流しながら叫ぶ……。
ん? 口調が変わりやがったなぁ……しかし、勝手な女だぜ!
人の痛いのは三年でも辛抱する……ってことわざがあるが、仮にも教師たる者、自分がされて嫌なことを、よくもまぁ平気でやらせられたもんだ!
こんなのが教師をしてたのか……教わった子供たちはかわいそうなもんだな。
「黙れ!……四肢粉砕!」
ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!
ノアハの怒りが爆発した!
女性じゃなけりゃ、こんなのは、絶対にアマゾネス・オークの餌食にするところなんだがな……。こんなクズでもオークの餌食にさせるのは忍びないからなぁ。
「修復。仮にも教師だったんだろ?
『己の欲せざる所は人に施す勿れ』って知っているだろう?」
「はぁはぁはぁ……し、知っていますとも。バカにしないで下さい」
「知っているんなら話が早え。お前はノアハを性奴隷扱いしたんだぜ?
お前自身が性奴隷にされても嫌じゃねぇからそうしたんだよなぁ?」
「ま、待って下さい! し、知っているのと、実践するのとは話が別です!
わ、私は性奴隷になんぞにはなりたくありません!」
ああ……最低最悪の人間だ。魂の色が真っ黒なのも納得できるってものだ。
ノアハ……頭の血管が切れそうなくらい、顔を真っ赤にしながら、怒りを押さえ込んでいるようだな。
「やっぱりオークのところへ送るとするかぁ?……転送!」
サブリネをオークドゥの集落へと転送した。オークが数匹いるそのど真ん中へと送ってやった。……数十秒後にこちらへと戻す。
「うわぁぁぁぁ! やめてぇ~! た、助けてぇーーっ!」
サブリネは大声で泣きわめきながら、必死に暴れている。今まさにオークたちの餌食にならんとしていたところだったのだろう……
危機一髪! といったところか?
だが、オークたちに凌辱されることなんぞ絶対に起こりえなかったのだよ!
なぜなら、俺が事前にオークたちに『これから送る女を、いつもしていたように襲う"ふり"をしろ!』と……
そして、『絶対に本当に襲うなよ!』と命じてやらせていたからだ!
そう……つまりこれはやらせだったのだ。
だから、サブリネは、着衣には多少の乱れはあったものの、全くの無傷だ。
サブリネは状況が分からず、暫くジタバタしていたが、俺たちの前に戻ってきたことに、今漸く気付いたようだ。『えっ? どうして?』という顔をしている。
「どうだ? ノアハがどんな思いをしたのか、ちょっとは分かったか?」
「わ、わ、分かりました! た、助けて下さい! 助けて下さい!
謝ります。謝りますから、どうかお助け下さい!」
「これからは俺たちの手足となって働くと誓うか?」
「ち、誓います! 誓います! で、ですから、お願いです!
どうかオークのもとへは送らないで下さい! お願いしますっ!」
サブリネは土下座をしながら懇願する。ノアハも少しは溜飲が下がったようだ。
「よし、ではまず……お前と取引のあった闇奴隷商人どもを一カ所に誘き出せ」
「アウロルミア神国にある私の隠れ家でもよろしいでしょうか?」
「ああ、そこでいい。後でその場所を教えろよ。では……次に、お前が売り捌いたエルフ女性たちを最終的に購入した者たちのリストを作成し、俺に提出しろ」
「あ、それでしたら購入者はただひとりだけです。神国の神都、エフデルファイの名門貴族、チュライズ・ロレンゾ侯爵がすべて購入しました。
この先もずっと彼に売る予定でした」
「なに!? そいつが全員を買ったのか!? 全部で何人だ!?」
「えーっと……100人弱といったところでしょうか。あなたのお膝元ですのに、ぷぷぷっ! 灯台下暗しですわねぇ~、ざまぁないですわねぇ~、はははっ!」
「黙れ! このアバズレがっ! ダーリンに対して無礼であろう!
……四肢粉砕!」
ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!
「修復!……今度減らず口をたたくと、私が許しませんよっ!
娼館に性奴隷として売り飛ばしてくれる!」
「はぁはぁはぁ……も、申し訳ございません。申し訳ございません」
「だが、ロレンゾ侯爵ってのは精力絶倫男なのか?
100人近い女性たちを一体、どうしているんだ?
ま、まさか、凌辱した挙げ句に嬲り殺しているのか!?」
「いえ、私も気になって聞いたことがあるのですが、ある程度玩んだ後、飽きると部下に褒美として下賜しているようです。
どうやら奴隷にされているエルフ女性にしか性的な興奮を覚えず……
しかも、かなりの飽き性のようなのです。
それで、常に新しいエルフ女性の性奴隷を求め続けているというわけです。
……ですが残虐な人間ではありませんので、これまで嬲り殺しにされた者はおりません」
「だがな……女性たちを凌辱していることには変わりはねぇ!
クソ腐れ外道がっ! 絶対に許さん!」
「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!」
いかん! 思わず強烈に威圧してしまった。
サブリネは恐ろしさの余り失禁してしまった。顔を真っ青にして震えている。
すぐに威圧をやめ、サブリネを浄化してやった。
んん? ノアハが暗い顔をしている……。
「ノアハ、お前さんのせいじゃねぇ。
お前さんは奴隷にされていて、どうしようもなかったんだ。
そんなに責任を感じる必要はねぇ!」
「ですが、ダーリン。私さえもっとしっかりしていれば、こんな女につけ込まれることもなかったでしょう……」
「『…たら。…れば』を今更言ってもしかたねぇことは分かるな?
起きちまったことは変えられねぇからな。だろ?」
「はい」
「今更どうしようもできねぇことを、いつまでも、くよくよと考えたってしようがねぇよな? 時間の無駄ってもんだろぅ?」
「はい。確かにそうですが……」
「もう二度とこの女みたいな輩に騙されねぇようにすればいいだけの話だ。
考えるだけ無駄なんだから、もう考えるな。
後ろを向くんじゃなくて、前を向こうぜ!」
「……ぐっすん……」
「これから被害者女性たちを助け出してロレンゾ侯爵を成敗しに行くぞ!
ハニー、お前さんも手伝ってくれるな?」
「はい。ぐっすん……喜んで!」
「ノアハ、サブリネに俺の命令に従うように命令しろ」
「はい。サブリネ、お前に命令する!
ダーリンの命令には絶対服従だ。いいな!」
「はい。承知しました」
「よおぅし、サブリネ。お前を神国まで連れてってやるから、お前と取引のあった闇奴隷商人どもを一カ所集めるための行動を始めろ!
それと……シオン神聖国から何らかの命令が出された場合には、すぐにノアハと俺に念話でその内容を知らせるようになっ!」
「はい。承知しました」
サブリネをターゲットとして指定する。まずはナノプローブを注入した。
そして、なんらかの行動を起こそうとした時に呼び出されるイベントにイベントハンドラを割り当てる。
そのイベントハンドラには、俺や俺のハニーたちに対して悪意ある行動をとろうとした場合に、体内のナノプローブが身体中を動き回り、激痛を与えながら細胞を破壊していき、最終的には絶命するようにプログラミングしておいた。
これは、なんらかの原因で彼女の隷従の首輪が外れてしまった場合の保険だ。
サブリネのプロパティ値、イベント等の編集権をロックした。俺以外はこれらに
アクセスすることすらできなくしておく。
そして、これらにアクセスしようとした際に表示されるメッセージも『アクセス権限がありません』から『プロパティ値格納領域が破損しています。編集は行えません』というものに変えておいた。これである程度はごまかせるだろう……。
「リブート!」
「はっ! プロパティ値を弄ったな! な、何をした!」
「四肢粉砕!」
ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!
「修復!……ダーリンに対する口の利き方に気をつけろ! このズベ公がっ!」
「はぁはぁはぁ……す、すみません。い、以後気をつけます」
「何をしたか教えてやるよ。俺やハニーたちに悪意ある行動をとろうとした瞬間、激痛を伴いながら絶命するようにプログラミングしておいたんだよ。
これでお前は絶対に俺たちを裏切れねぇ。裏切れば……死だ。
苦しみ、のたうちまわりながらの死が待っている。
その隷従の首輪が取れたとしても、もう俺たちを裏切れねぇ」
「えっ………………。そ、そんな……」
「ああ、言い忘れたがなぁ、女神シオンとやらに頼んで、助けてもらおうとしても無駄だぜ。神である俺の権限でロックしてあるからな。
もう俺以外だれも編集することはできねぇから。ははは」
「ううう……。く、くそう……」
「おーっと! そんなことを考えても大丈夫かなぁ~?
俺たちに悪意を向けると……死ぬぜ?」
「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!」
「さてと、それじゃぁお前を神都の入り口に転送してやる。しっかりと働けよ」
「しょ、承知しました」
「転送!」
サブリネを神都東門前へと転送してやった。
◇◇◇◇◇◆◇
『シオリ、おエン、聞こえるか?』
『まぁ、ダーリン、嬉しいです! なんでしょうか?』『はっ! 聞こえます!』
『今から、ロレンゾ侯爵を成敗しに行こうと思うんだが、同行可能か?』
『はい! もちろんです』『はっ! 可能です!』
『シオリ、ヤツの性奴隷にされているエルフ族の女性たちを助け出してぇんだが、彼女たちの居場所は掴んでいるか?』
『はい! 全員にマップ上でマークをつけてあります。
今のところ91名全員が無事です。転送はいつでも可能です。
今からマークデータをそちらに送信します』
ピロリン!
シオリからのデータを受信した。
どうやって被害女性たちの位置を特定するのか?……それが難問だと思っていたのだが、シオリが、あっさりと解決してくれた。俺が指示を出す前にちゃんと先を読んで手を打っていてくれる。 彼女は本当に優秀な子だ。頼りになる。
『ありがとうな、シオリ。助かるぜ!』
『いえ、おエンが、手の者と一緒にがんばってくれたからこそ入手できたのです。おエンを褒めてやって下さい』
『そうか。おエン、良くやった!大儀である!』
『ははっ!』
『ダ~リン……さみしいのぉ~。はやくかえってきてなのぉ~』
『ん? キャルか?』
『すみません。キャルがどうしてもダーリンとお話がしたいらしくて……』
『あ、側にいるんだな。分かった。……キャル、シャル。元気かい?』
『げんきじゃないよぉ~。さみしいよぉ。ダ~リンせいぶんがたりないよぉ』
『キャルとシャルと一緒にいられなくて、俺もすごく寂しいよ』
『かえってきてなのぉ。うわぁーーーん!』
『よしっ! 今夜は一緒に寝ようねっ! 必ずそっちへ行くから、シャルと一緒に俺の部屋で待っててくれるかな?』
『うん……いいともなのぉ……ぐっすん。ぜったいだよぉ~』
『ああ、もちろんだとも!』
『やくそくね?』
『ああ、約束だ!……ん? 今の声はシャル? シャルなのか!?
念話で話せるようになったのかい?』
『シャルねぇ~わかんないの。シャルのこえがきこえるのぉ?』
『ああ、聞こえるよ。良かったぁ! これからは念話で話ができるね!?』
『うん! うれしい! だ~りん! すきっ!』
ああ……良かったぁ。
シャルは言葉を発することはまだできないらしいが、念話で会話ができるようになったようだ。これは大きな一歩だ! こんなに嬉しいのは久々だ!
く~~~っ!! 嬉しいぃっ!
早いとこロレンゾ侯爵を成敗して、キャルとシャルの所へ行こう!
◇◇◇◇◇◆◆
シオリに頼んで、エフデルファイの中央神殿敷地内に、これから救助するエルフ女性たちに寝泊まりしてもらうための野営用テントを用意してもらった。
後でこちらのハニーたち、エルフ族のハニーたちも連れてエフデルファイに戻るつもりだ。俺のハニーたち全員に、助け出してきたエルフ女性たちの診察を行ってもらうつもりなのだ。
これは、ハニーたちの治癒系神術の練習もかねることになるだろう。
治療では、性奴隷となっていた女性たち、ひとりひとりの意思を確認して、完全浄化まで施すのか……、完全修復までをも希望するのかを聞き取ってもらう。
ハニーたちには診察と同時に、奴隷とされてきた彼女たちの要望を叶える役割を担ってもらうつもりだ。ハニーたちが、浄化神術、修復神術を施すことになる。
こういうことは同性の方が話しやすいだろうからな……。
エルフ族のハニーたちも連れて行くのは、同族じゃないと話したくない者もいるかも知れないからだ。なんせ、人族の男に凌辱されたんだから、人族を嫌悪しても不思議ではないからである。
シホには既に話をしてあり、エルフ族のハニーたちへの説明をお願いしてある。
ロレンゾ侯爵を成敗しに行くのは、俺とシオリ、おエン、ノアハ、オークドゥの5人である。
◇◇◇◇◆◇◇
グラッツィア辺境伯邸のみんなには、一緒に夕食を取れなくなった事を詫びた。
彼等をグラッツィア辺境伯邸へと送り届ける……。
せめてものお詫びとして……夕食用に用意した"バイキング用の料理と飲み物"を彼等には提供することにする。
みんなは喜んでくれているようだな……使用人たちは大喜びだ!
必ず近いうちに一緒に夕食を楽しむことを約束し、ハニーたちが待つ砂漠地帯、プレトザキスのテントへと戻る。
これから、エルフ族の全ハニーを連れて人族の中央神殿へと転移する予定だ。
もちろん、管理助手のシホにも同行してもらうつもりだ。
シェリーの姉たち、エリゼとルーナ、そして、ザシャアの母親、アニッサも回復系の神術が使えるので同行してもらうことにした。
「エリゼ、ルーナ、そして、アニッサ、3人も俺たちと一緒に、人族の中央神殿に行ってくれねぇかな? どうだろう?」
「はいっ! 喜んでお供致しますわっ!
……うふふふ。これで私たちも妻の仲間入りですわね……ごにょごにょ……」
エリゼが3人を代表して同行を快諾した。
他の二人は、エリゼの言葉に大きく、何度も頷いている。
つ、妻の仲間入りとか言ってなかったか!? き、気のせいだよな?
親子丼に、姉妹丼か?……いやいやいや、それはマズいだろっ!?
「ダーリン! 愛さえあれば親子丼だろうが、姉妹丼だろうが好きなだけいただいちゃって下さいませませ! これで人族を嫁の数では上回る! ふっふっふっ!」
し、シホ!? め、目がキラリと光ったぞ!? な~んか企んでいるなぁ!?
お前さんがけしかけているんじゃないだろうな??
そういえば、ハニーたちを全員人族の中央神殿に連れて行くと、神殿幹部会議のメンバーが"いちゃもん"をつけてくるかも知れないなぁ……。
だが! 人族を優遇しているだなんて誰にも言わせない!
大義名分ならあるぜっ!
そうだともっ! 無理矢理奴隷にされてしまったエルフ族の女性たちを救出するためなんだからなっ!
エルフ族の神官であろうが、他種族の神官であろうが、誰にも、そして、絶対に文句は言わせないっ!
◇◇◇◇◆◇◆
今、それぞれの自己紹介が終わったところだ。場所はエフデルファイの中央神殿敷地内の広場だ。そこにエルフ族のハニーたちを連れて転移して来た。
おや? ソリテアが何か難しい顔をして悩んでいるな? なんだろう……
げっ! 夜伽スケージュール表? うわぁ~、見なかったことにしよう……。
キャルにシャル、シェルリィ、そして、ローラまでが俺にベッタリとくっ付いて離れたがらない。……『ダ~リンエキスを吸収中!』とかなんとか言っているぞ?
俺の部屋で待っていてくれるはずだったんじゃぁ……って、俺の声が聞こえたら当然飛び出してくるわなぁ……。こうなることは当たり前か……は・は・は……。
キャルたちを身体に引っ付けたままシオリが用意してくれたテントに移動した。
これから救出する女性用の宿泊テントだ。
中は俺が野営用に作ったテントに似せてある。大浴場に、食堂まである。
寝室は全部で100部屋用意されている。1フロア10室で10階建てになっていた。テント入り口から入ってすぐのロビーは吹き抜けになっていて、正面には、エレベーターが2基設置されていた。
ロビーからは、各階の寝室へつながるドアが見える。エレベーターを中心として各階には、左右に5つずつ部屋があるようだ。
1階は、エレベーターを挟んで、左右に6部屋ずつあるように見える。
エレベーターの両脇に、他の階にはない扉があるからだ。向かって右が食堂への扉、左が大浴場への扉である。
まるで日本の有名温泉地にある巨大旅館のようだ!
それが、俺がロビーに入った際の第一印象である。
「「「「うわぁ~っ!」」」」
キャルたちが俺に引っ付いたまま、驚きの声を上げる。
目をぱちくりさせ、口をポカンと開けている……かわいいなぁ。
シオリは、このテントの横にもうひとつ、診療所として使うためのテントも用意してくれていた。彼女は本当に優秀だな。頼まなくてもちゃんと俺がしたいことを理解して、先に手を打っていてくれている。
そのテントの一階は病院の待合室のようになっている。テント入り口の正面にはこちらもエレベーターが2基設置されている。
診察室はそれぞれが個室で、全部で50室ある。患者のプライバシーが守られるように配慮されている。
この診療所テントの中は5階建てで、各階に診察室が10室ずつある。こちらもエレベーターを中心にして左右5部屋ずつに分かれている。ここでハニーたちには救出したエルフ女性たちを診察してもらうのである。
「シオリ、お前さんはやっぱり俺の最高のパートナーだぜ!
俺のしたかったことがすべてやってくれてあるじゃねぇか!
まるで、俺の心を読んでいるかのようだぜ! ありがとうなっ!」
「お
「さてと……シオリのお陰で準備万端整ったな!
では! 宿泊用テントに移動してエルフ女性たちをロビーに転送しますか?」
「はい。キャル、シャル、シェルリィ、ローラ。ダーリンはこれからお仕事なの。4人はマンションのダーリンのお部屋で待っててね。ラフちゃん、お願いね」
「はい。シオリ様。さ、かわいいハニーたち! ダーリンのお部屋にいくわよ!」
「はーいなのぉ!」「はい!」「はい」(こく!こく!)
かわいい天使たち4人は、満面の笑顔で、『ばいば~いっ!』といった感じで、左右に大きく手を振りながら去っていた。今回も、獣人族のハニー、ラフが面倒を見てくれるようだ。
『ラフ、いつもありがとうな! 助かるぜ!』
『はーい。かわいい天使たちのお世話は、うちにお任せ下さい! うふふ』
ラフは子供にも好かれる本当にいい子だな。いつもありがとうな、ラフ!
◇◇◇◇◆◆◇
ハニーたちには診療所テントの各診察室で待機してもらっている。
俺とシオリとノアハは、救出したエルフ女性たちに泊まってもらうための宿泊用テントのロビーに移動してきた。ここに女性たちを転送するつもりだからだ。
ロレンゾ侯爵邸方面には神殿騎士を派遣し、侯爵邸へと通じる道路を封鎖させている。その騎士たち一行にオークドゥも同行し、彼等の補佐をする。
オークドゥとは、後でロレンゾ侯爵邸の前で落ち合うことにした。
「シオリ、多分女性たちは全裸か半裸にされていると思う。だから……」
「はい。着替えは大浴場の方に人数分用意してあります」
「うーん! 愛しているぜ! シオリ! ホント、お前さんは気が利くなぁ!」
ここまで予測して動いてくれていたとは!
感動するなぁ~、いい嫁をもらったぜ!
ん? ノアハが羨ましそうな顔をしている??
「ありがとうな! シオリ! それじゃぁ、女性たちを救うぞ!」
「はい!」
マップ画面を表示させ、シオリからもらったデータに基づき、エルフ女性たちをターゲット指定する。
「転送!」
宿泊用のテントのロビーに、全裸の女性が91人、転送されてきた。
彼女たちはみんな無表情である。が、目に涙を浮かべているものが多い……
つらかったよなぁ。
中には男どもに凌辱されている最中だった者もいたようだ。かわいそうに……
目のやり場に困り、後ろを向く。
マップ画面を見ながら、ここに転送されてきた91人、そのすべてがターゲット指定されていることをもう一度確認してから……
「神である我が権限において、この者たちの奴隷契約を強制的に破棄する!
……加えて隷従の首輪の除去と消滅を命ずる!」
これで多分、全員の隷従の首輪が外れて、床に落ちる前に粉々になりながら消え去ったはずだ。
俺の横に立っているシオリに視線を送る。
シオリは、口元に笑みを浮かべながら大きく頷いた。どうやら成功したようだ。
そう思った直後、女性たちのすすり泣く声が聞こえてきた。
シオリたちから、クソ野郎どもの魔の手から救い出されたことを告げられると、
号泣する者たちも出てくる。安堵のため息をつく者、礼の言葉を述べる者……。
ついさっきまでは、みんなが無言で無表情であったのだが……
静かだったこのロビーがざわざわとし出したことが、彼女たちが確かに奴隷から解放されたことを如実に表している。
後ろ向きでいるために、彼女たちの表情が見られない……。
全員が喜びの表情を浮かべているのだろうか?
正気を失ってしまった者はいないだろうか?……心配だ。
俺は一旦この場を離れることにした。
やはり男の俺が、全裸の女性たちの世話をするわけにはいかないからだ。
「シオリ、ノアハ、彼女たちを風呂に入れてやってくれっ!
それと……部屋割りも決めてやってくれねぇかな?
俺は診療所テントで待つことにするから、頼むな」
「はい。承知しました」「お任せ下さいませ」
『上様、オークドゥです』
『ん? どうした? 何かあったか?』
『はい。ロレンゾ侯爵邸が大騒ぎです。どうも奴隷が突然消えたと言っているようなんですが……』
『ああ、今、こっちに転送したからな。そのせいだろうな。報告ありがとうな!』
『はっ!また何か動きがありましたらすぐにお知らせ致します』
『ああ、頼んだ。頼りにしているぜ、オークドゥ!』
『ははっ!』
<<全知師!
ロレンゾ侯爵邸をシールドで包み込んで、誰も逃げ出せねぇようにしろ!
>>承知!
ロレンゾ侯爵邸の中心位置の地下にシールド発生装置を転送しました。
これよりシールドを展開します。……シールドの展開が完了しました。
さ~てとっ! こっちがひと息ついたらロレンゾのクソ野郎をぶっ殺しに行くとするかっ! 多くの女性たちを凌辱してきたことを絶対に後悔させてやる!
最後はアマゾネス・オークの生け贄にしてやる! だが、その前に……たっぷりとかわいがってやるからな! ふっふっふ!
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