第0038話 箆増しは果報持ち

「い、痛い!痛い!……ああ、目の前に星が……キラキラします……」


 俺はノアハを庇ってやる事ができなかった!

 俺たちが転移して来た時、俺は身動きが取れないような状態になっていたのだ!


 俺の正面からはシェリーが、そして、後ろからはザシャアがそれぞれ抱きついていて、ノアハは俺の左横にいたのだが、彼女は、俺の左腕に自分の右腕を絡ませていた。そう、まるで、恋人同士が腕を組んでいるかのような格好だった!

 更には、俺の右腕はオークドゥにがっちりと掴まれてしまっていた。この状態で転移して来たのだ。だから、咄嗟に動く事は不可能であったのだ!


 ノアハはケロッとしている。殴られたのに怪我を負うこともなく、それどころか恐らく痛みさえもないのだろう……不思議そうに目をぱちくりさせている。


 そうなのだ、痛がっていたのはノアハを殴ったケイロルの方であった。

 ノアハの左頬を殴ったケイロルの右拳が砕けてしまったのだ。彼は真っ青な顔をしている。


「大丈夫か!?自業自得だぜ!……修復!」


 ケイロルの右拳は見る見るうちに修復されていく……。


「女性をいきなり殴るとは、感心せんなぁ!鬼畜の所行だぜっ!ったく!」

「そうですっ!お兄様! しかも、顔を殴るだなんてっ!最低ですっ!」

「そうっすよっ!顔は女の命なんっすからねっ!最低っす!」

「鬼畜であると断定します!」

「い、いい、いけずぅーーっ!」

 ……………………


 ケイロルは女性たちから責められまくって、地面で土下座しながら、小っちゃくなってしまった。肩を落としてしょんぼりとしている。


「ケイロル義兄さん、気持ちは分かるがノアハも被害者だぜ。彼女も奴隷にされていたんだ。それも、お前さんよりもずっとずっと酷ぇ目に遭っているんだぜ」

「……」

「お前さんの親父さんが国境警備隊の隊長に選んだ程の人物なんだぜ?まず最初に何か裏があると考えるのが普通だろう?彼女がエルフ女性たちを人族に売り飛ばすはずがねぇと、まずは考えるんじゃねぇのか?」


「ノアハ……も、申し訳ない。いきなり顔を殴ったりして悪かった。どうか許してくれ。君の事を心底信じ切れていなかった……本当に申し訳ない!」

「ケイロル様、どうか頭をお上げ下さい。操られていた身であったとはいえ、私がしてきた事を思えば、お怒りになって当然です。ですからどうか……」

「す、すまん。本当に……すまない」


「まぁノアハには怪我もなかったことだし、これでこの件はお終いだな。でもな、みんなも覚えておきな!短気は損気だぜ!心は広く気は長く!なっ!?」


 みんなが大きく何度も頷いている。

 『お前が言うな!』って突っ込まれることを覚悟していたんだが……よかった。


 それにしても……ノアハを加護しておいてよかったぁ~!


 俺の加護は強力だ。たとえドラゴンの尾で顔をぶん殴られても、質量差によって身体は吹っ飛ばされるかも知れないが、無傷でいられるはずだ。物理攻撃に対する耐性も完璧なのだ!


 ん?


「シェリーちゃん、ザシャアさん、ずるいっすよ!ダーリン、あたしも抱きしめて欲しいっす!」

「当然の権利。抱きしめる事を要求する。抵抗は無意味だと宣言します」


 そうなるのかっ!?

 結局、ハニーたち全員をハグすることになる。ん?エリゼとルーナがしれーっとした顔で紛れ込んでいる!?えーっ!?アニッサさんもか?


 ザシャアが『正面からハグされたい!』と主張する。いいぜ。ハグしてやるぜ!


 ソニアルフェが勢いよく俺に抱きつこうとしたがバランスを崩したっ!?

 彼女を支えようとしたが、こちらもバランスを崩してしまった!……気が付くと俺は地面の上に仰向けになっていて、俺の上にソニアルフェが覆い被さっている。

 そして、二人の唇は重なっていた。じ、事故だと……しゅ、主張する!

 ふぅ~ソニアルフェに怪我がなくて良かったぁ!って彼女も加護されているから転んだぐらいでは怪我なんかしないか……これくらいは平気なんだよな。


 んんっ?ハニーたちの目が……ジト目だ!?


「あーーっ!ずるいっすよ!どさくさに紛れて、き、き、キスしたっす!あたしもしたいっす!ダーリン!!」


 とほほ……というべきか、うほほーいっ!って喜ぶべきか……ハニーたち全員とキスする事になった。

 まぁ、悪い気はしないんだけどね……ただ、ムードもへったくれもないっていうのがどうもねぇ……やっつけ仕事みたいにするキスなんてさあ、やっぱり、とほほだよね……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ノアハ隊長の方から誘ってきたんだ!私は悪くない!据え膳食わぬは男の恥って言うでしょう?抱いて下さいと言われれば男として断れないですよ」


 この世界でも『据え膳食わぬは男の恥』なんて言うのか?驚きだな。


 俺だけがノアハの屋敷に戻ってきた。彼女の執務室にいる。

 そして、彼女を抱いた町の有力者7人と話をしているところだ。


 今回は単純に制裁を加えられるような問題ではない。外形上は、ノアハの方から色仕掛けで彼等を誘惑して、彼女の主に対して便宜を図らせようとしたことになるからだ。

 ノアハがその時、精神支配されていたことを知っていたのなら話は変わってくるだろうが、たとえそうであったとしても、それを立証する事は困難である。

 双方合意の上だと言われれば、どうすることもできないであろう。


「あの女、ちょっと変じゃなかったですか?」

「そうそう!自分から誘ってきたのに、いざという時なると、目から涙をボロボロ流して……」

「そうですよね?そのくせ、表情は無表情で、気乗りしませんでしたよ」

「まるで人形みたいだったよな?興ざめだったよ」

「あんな態度で"枕営業"とか、笑わせるよな。ははは」


「てめぇら……彼女はな、無理矢理に奴隷にされて、無理矢理にてめぇらのようなひひ爺の相手をさせられていたんだっ!

 そのつらさ、悲しみ、苦痛……どんな気持ちだったか想像してみろ!」


「そんなの分かるわけないじゃないかっ! そんなこと知るか!

 そっちの問題だろ? 俺たちが奴隷にして無理矢理犯したわけじゃないんだ!

 彼女が抱いてくれと言ったから抱いてやっただけの話だ!

 ボランティアみたいなものだよ! 違うか?」


 "その通りだ!"


 男どもは口々に自分たちの正当性を訴えている。


 カッチーーーン!!

 ノアハの事を、気の毒だとか、かわいそうだとか、あるいは、知らなかったけど申し訳ないことをした……とでも言っていたら許していただろう……。

 だが、コイツらの態度ときたら……。


 コイツらは、合意があるものと信じ込み、ノアハを知らず知らずの内に凌辱してしまっていたという事になるのだろう。ノアハの心を傷つけていたなんてことは、これっぽちも思っていなかったのかも知れない。


 本来ならばノアハを操っていた黒幕の女を処断すれば、コイツらの事は許すべきなのかも知れないのだが、どうも釈然としない。


 そんな事を考えていると……


「だいたいあの女のせいで、俺たち……いやこの町の住民のすべてが奴隷にされて酷い目に遭わされたんだ、逆に謝って欲しいくらいだ」


「そうだ! そうだとも! だから、ハーフエルフなんかじゃ国境警備隊の隊長は務まらないってグラッツィア辺境伯に抗議したのに……

 あの女のせいで、この町はめちゃくちゃにされたんだ!

 あの女の方こそ罰するべきなんだ」


「国境警備隊長が抱いてくれと言うから、仕方なく抱いてやったのに……

 そうじゃなけりゃ、誰が好き好んでハーフエルフを抱くもんか!」


「ああ、そうだ。しかもろくに奉仕もできない人形みたいな女を抱いてやったのに文句を言われる筋合いはない!

 抱いてやっただけありがたいと思って欲しいよ!」


 ブチッ!……堪忍袋の緒が切れた!


 俺がこれからしようとすることは理不尽な事かも知れない……だが、もう知ったこっちゃない!


「てめぇら、俺のノアハを侮辱するつもりか?」

「あ、貴方のノアハですって?」


「ああ、彼女はなぁ、俺の庇護下にあるんだ。俺が目を掛けている女性だ。

 それをてめぇたちゃぁ、よくもまぁぼろかすに言ってくれたもんだなぁ?

 いい度胸だぜ! 覚悟はできているんだろうなぁ?」


「じょ、冗談はよして下さい!

 あんな誰にでも股を開くような女を上様が庇護下に置かれているだなんて……。

 年だってかなり上じゃないですか?

 あんな年増を嫁にするだなんて……信じられませんよ」


 ん? 嫁? 庇護下に置いている……って言っているだけなんだが??


 しかし、なんにしてもノアハをこいつらになんぞに貶められていいわけがない!

 そんなことを言われる筋合いはない!

 彼女は清廉潔白で身も心も美しい女性だ!


 かなり年上だとぉ?……『箆増へらましは果報持かほうもち』だぜ!

 思いやりの深い年上の妻を持つ事以上に幸せな事はない…って日本じゃ言われているんだぜ!


 ……はっ! つい、つられてノアハを嫁にする気になってしまったじゃねぇか!

 いかん! いかん!

 『惚れっぽい人仕様の基本システム』が組み込まれているせいなのか、ちょっと美人で性格がいい女性を見ると、どうもすぐに惚れてしまうし、ついつい口説いてしまう……。 ああ、なんという無節操な男になってしまったんだ、俺は!



 『庇護下、イコール、嫁にする』と思われているんなら、もうそれでいいや!

 強烈に威圧する!


「誰にでも股を開くだとぉ? 俺の嫁をよくも侮辱してくれたなぁ?

 いい度胸してんじゃねぇか? てめぇ殺されてぇんだな?」

「ひいいいぃぃぃぃぃっ! す、すみません。つい口が滑って……」


「四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 ギロリとその他の6人を睨み付ける……

「てめぇたちもそう思っているんだな?……四肢粉砕!」


 "ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!"


「修復!」


 全員を治療してやった。


「彼女はなぁ、奴隷にされて、性奴隷のように、無理矢理男どもの相手をさせられ続けてきたんだ。それがどんな気持ちだか分かるか?」


 7人は首をブルブルと横に激しく振る。


「てめぇたちは言ったよなぁ? 『据え膳食わぬは男の恥』って。

 女性から求められたら断らねぇんだよな?」

「そ、そうです。それが男ってものです。 だから、ノアハさんを抱いたのです」

「よ~く分かった!……それじゃあ、てめぇらに相手して欲しくってしようがない女性たちのもとへ今から送ってやるよ」


『もしもし、クイーン、聞こえるか?』

『はい。上様。またクソ野郎ですか?』


『おう。エルフのオスを7匹そっちへ送りてぇんだが、大丈夫か?』

『はい。もちろんです。嬉しいです。それで、今回も子種を搾り取ったら、最後は食べてしまってもよろしいのですか?』


『ああ…すまん。今回は生かしておいて欲しいんだ。子種を搾り取ったら、どこか適当な町の門前にでも、素っ裸のままでいいから放り出しておいてくれ』


『承知しました。それでは、いつものように部下を待機させておきます』

『いつもすまんな。すぐにそっちへ送るから頼むな』

『はい。お待ちしております』


「てめぇたちを今から、アマゾネス・オークのレディーたちのもとへ送ってやる。てめぇたちに是非とも抱かれたいと言って彼女たちは待っているぜ。たっぷりと、かわいがってやってくれよな……いや、抱かれるのはてめぇらの方か?ははは」


 アマゾネス・オークと聞いて、みんな顔色が真っ青になった。

 子種を搾り取られた挙げ句、喰われてしまう事は知っているようだな?


「お、お待ち下さい! ノアハさんに謝らせて下さい。

 私たちが間違っていました。どうかお許し下さい」

「いやなこった! てめぇらの汚ぇ顔なんざ彼女には二度と見せたくねぇしな。

 それに、てめぇらは、俺の嫁を凌辱した上に侮辱までしたんだぜ?

 許せるわけねぇだろ?……心配するな。命を奪うのだけは勘弁してやる。

 まぁ、だがな、いつもは最後に喰わせているからなぁ、オーク・レディースが、勘違いして喰っちまうかも知れねぇがな?

 ははは。そんときは勘弁しろよな? ははは」


 男どもの顔色は、青を通り越して真っ白になっている。

 ガタガタと震えが止まらないようだ。


「ま、待って下さい。ノアハ様の事を悪く言って大変申し訳ございませんでした。どうか、どうかお慈悲を……」

「あ・ば・よっ!……転送!」

 ぎゃっ……


 叫び声を上げる前に男どもは転送されていった。ノアハがどんな思いで抱かれていたのか、これで少しは分かるだろう。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 プレトザキスのバーベキューパーティー会場へと転移で戻ってきた。


 すぐにグラッツィア辺境伯のもとへ向かう。彼には話しておかなければならないことがあるからだ。ノアハもグラッツィア辺境伯の側にいたのだが、彼女はまるで辺境伯の護衛のように、無表情で突っ立っている。


 二人を連れてみんなからは2km程離れた場所に転移してきた。

 その場所に、新たにテントを一張り生成して設置する。中は応接室のようにするつもりだ。

 ……生成はすぐに完了した。念のためにテントの周りにシールドを展開しておくことにする。

 二人をテントの中に案内し、ソファーに腰掛けてもらう。テーブルには、冷たい紅茶とお茶菓子が用意してある。


「グラッツィア辺境伯。悪ぃが、ノアハを俺にくれねぇかな?」

「「えっ?」」


 二人が驚いている。


「わ、私を嫁に欲しいと仰るのですか?」

「いや、そうなったら最高に嬉しいってのが本音なんだがなぁ、そうじゃなくて、俺の部下になって欲しいんだよ。どうだろうな?」


 ああ……自分が信じられない。

 こんな言い方したら、嫁にしたいと言ってしまったようなものじゃないか!

 惚れっぽいだけならまだしも、俺にはパッシブスキル"魅了"があるから質が悪いからなぁ……。


 グラッツィア辺境伯は暫く思案した後……


「実は……彼女をこれからどうしようかと悩んでいたところでした。

 奴隷にされて操られてやった事とはいえ、彼女の名の下に町の人々や周辺の村の人々に酷い事をしてしまった以上は、もう国境警備隊長を続けさせるわけにはいけませんし、かと言って、彼女程の優秀な人材を下野させるのも忍びなく……

 妙案が浮かばず、困り果てておりましたところなのです。

 上様のもとでしたら、私も安心して彼女を送り出せます。

 どうかお願いします。 彼女の面倒を見てやって下さい!」


「わ、私は穢れてしまった女です。 う、上様のお后様になる事はできません」


 ああ、やっぱり……『嫁』にしたいと受け止められたのか?

 ああ……ダメだ! 俺の基本システムが彼女を欲している!?

 もう既に俺は彼女に惚れてしまったようだ。

 基本システムからの命令には抗えない……。


「ああ……そうか、悲しいな。俺は振られちまったんだな。ああ~ショックだ!」

「い、いえいえそうじゃないんですっ! 私はふさわしくない女なんです。

 男どもに穢されてしまった以上、上様の后となる事は……できません」


 ノアハは涙を滲ませて俯く……。


「本心を聞かせてくんねぇかな?

 四の五の理屈をつけて断ろうとしているって事は俺の嫁にはなりたくねぇと理解していいんだな? だとしたらスパッと諦めるぜ!」

「いえいえいえ、したいですっ! 結婚したいですっ! でも私なんかが……」


 ああ……ノアハ、お前さんも俺のパッシブスキル"魅了"にやられてしまったか。

 ある意味、隷従の首輪以上に酷い精神支配じゃないだろうか?


 >>否! 精神支配は行っていません。あくまでも本人が望んでいる事です。

  "魅了"は万能ではありません。強制力も全くありません。

  敬意値、好感度値が低い場合には全く機能しないこともあり、場合によってはヘイト値を上昇させる事すらあります。

 <<う~ん、なんか釈然としないんだが……。取り敢えず解説、ありがとう。


「俺が望んでいて、お前さんも望んでくれている……。

 だったら、それだけで十分じゃねぇのか?

 その他の事はどうでもいい瑣末な事じゃねぇのかなぁ?」

「…………」


「俺はお前さんの過去もひっくるめて、すべてが好きだぜ!」

「でも年上ですし……穢れて……」


「年上ってなぁ、今のお前さんはピチピチの16歳だ。

 しかも、生娘じゃねぇか? 穢れてなんかねぇよ!

 酷い目に遭わされた記憶は消してやれねぇけど……どうか、悪夢だったと……

 いや運悪く事故にでもあったとでも思って忘れて、前を向いて俺と一緒に歩んで行かねぇか? 俺が絶対にお前さんを幸せにする!」

「う、上様……」


 ノアハは真っ赤になって俯いて、もじもじしている。困っているように見える。


 こりゃ脈はないな……ダメだな。とほほ、失恋だな……。

 神から急に嫁になって欲しいって言われてもなぁ……困るわなぁ、そりゃぁ。

 なんとか俺を傷つけないように断ろうとしてくれたんだな。優しい子だなぁ。


「うん。悪かった。嫁の件は忘れてくれ。

 でも、お前さんにはどうしても俺の近衛騎士になって欲しいんだよ。

 お前さんは練習もせず簡単に『四肢粉砕』が使えるようになるくらいの逸材だ。

 他にやるのが惜しいんだよ。 俺の側で俺たちを支えてくれねぇかな?

 もう嫁になれとは金輪際……一切言わねぇからさ、その事は忘れて、どうか俺とハニーたちを守ってくれ。 頼む!」


 ノアハは、ハッとしたように顔を上げて俺を見つめた。目には溜め涙。

 先ほどまでの赤い顔とは打って変わって青い顔になった。


「こ、ここ、金輪際仰らない!?……いえいえいえいえいえっ!

 わ、忘れろなんて悲しい事は仰らないでっ! 好きです! 好きなんです!

 お嫁さんになりたいんです! どうかお嫁さんにして下さいっ!

 ……ううう……」


 ノアハは大きな声でそう言うと、よよと泣き伏した。

 へっ?


「よ、よしっ! こ、これで決まりだな! 改めて申し込むぜ!

 どうか俺の嫁になってくれ! よろしくなっ! ハニー!」

「……は、はい。よろしくお願いします。上様。うえさまぁ~~~~っ!」


 ノアハは、おいおいと泣きだした。

 それを見て俺は思わず彼女の側へと行き、彼女をグッと抱きしめて頭を撫でた。


「よしよし。お前さんはかわいいなぁ。これからは『ダーリン』と呼んでな!」

「はい! ダーリン! 大好きですぅ~。でへへぇ~」


 ん? ノアハさん、なんかキャラ、変わってない? 実は甘えん坊?

 愛いやつじゃ!


 この場にはグラッツィア辺境伯がいることも忘れて、暫くノアハとイチャイチャしてしまった……。な~んか視線を感じるなぁと思ったら、グラッツィア辺境伯が生暖かい目で見ている!? こ、これは気まずいな……。

 ノアハも気付いたようだ。俺とノアハは共に真っ赤な顔をして見つめ合い、苦笑した。


 辺境伯は『口から砂糖を吐きそうだぜ!』とでも言いたそうな顔をしている。

 は・は・は……ふぅ~、やっちまった……。


「いやぁよかったぁ!

 実はさっき、ノアハのことを『俺の嫁』って言っちまったんだよ。

 お前さんに振られたらどうしようかと思ったぜ! はっはっはっ!」

「まあ、ダーリンたらっ! うふふ」


 グラッツィア辺境伯は、やれやれといった感じで肩をすくめている。

 目を閉じ、ゆっくりと首を振っている。しかも半笑いで、呆れているようだ。


 グラッツィア辺境伯からは釘を刺されてしまう……


「上様……どうか娘のこともちゃんとかわいがってやって下さいね!?」

「お、おうっ! も、もちろんだともっ!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



「まぁ、そうなるんじゃないかと思ってたっす! あたしは大歓迎っすよ!」

「問題ない。エルフ族第9嫁として承認。よろしく」

「あはは! ダーリン、これでまた人族との人数差が縮まりましたね!

 そうですっ! その調子でガンガン行きましょう! ははは!

 最低でもあと二人ですね!?」


 をゐをゐ! シホさん!

 んんんっ? エリゼとルーナがウィンクしたぞ!? えっ? アニッサも?


 ノアハとグラッツィア辺境伯と共にみんなのもとへ戻り、ノアハを俺の嫁にすることを伝えたのだが、ハニーたち全員が、ノアハの加入を喜んでくれている。


 ハーレムはどんどん膨らんでいく……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 グラッツィア辺境伯邸は異常なしだ。

 グラッツィア辺境伯邸のみんなに、このまま夕食も一緒に楽しもうと誘ってみたところ、みんなが快諾してくれた。


 今宵の団欒のひとときが楽しみでしようがない。

 この国に来てからは、なんかバタバタしてて、ゆっくりと食事を楽しんでいないような気がする。気のせいかな?いや気のせいじゃないな。色々あったからなぁ。


 バーベキューパーティー会場のバーベキューセットをみんなで片付けて、夕食は

バイキング形式の立食パーティーにするための準備を整えてある。


 ハニーたちのたっての希望で、夕食までの間、ハニーたちは、またまたまた攻撃神術の練習をしている。ノアハにもちゃんと練習させてやろうというのであろう。優しい子たちだ。風呂と着替えを準備しておいてやろう。


 今回の攻撃対象となるゴーレムは、魔導士風が500体、レッサードラゴン風が500体、うさぎそっくりの一角獣、ユニコーンラビットを100体を用意した。

 このうさぎそっくりの一角獣が厄介だと思う。かわいい見た目に騙されて攻撃を躊躇すると、身体にしがみついてきてくすぐり攻撃をしてくる。そして、最後には自爆するのだ。


「にゃははははははははっ! だめっす! そ、そこは……にゃははははっ!

 やめてぇ~くすぐらないでぇ~!!」


 ズガーーーーンッ!


 ああ……ウェルリ。優しい子だからなぁ。

 見た目に騙されて攻撃ができなかったようだなぁ。

 うわぁっ! ススで真っ黒になった!


 ユニコーンラビットの自爆でダメージは受けない。

 大きな音がして、ススをまき散らすだけなのだ。


「浄化っす!……うりゃぁっ! 今度は容赦しないっすよ! てぇーーーいっ!」


 おっ!? ウェルリ、浄化魔法も上達したな!


「抵抗は無意味です。お逝きなさい」


 ジーは相変わらずクールでかっこいいなぁ。

 『お逝きなさい』か……声を張り上げないのがクールだ!


 おおっ!?……シンディの攻撃は百発百中だな! すごいっ! 天才的だな!

 んっ!? 天才と言えば……ノアハっ! す、すごい!

 火属性と風属性を同時に発動しているじゃないか? 炎の竜巻か!?


 あ、シェリーがノアハの攻撃を見て、なんか悔しそうだなぁ。ノアハの攻撃は、ちょっと他の者じゃ真似できないだろうからなぁ。


 ふと横を見るとオークドゥが自分も戦いたいと目で訴えている?

 オークドゥをハニーたちからちょっと離れた場所に連れて行く。そこにオーガ風ゴーレムを2体生成してやる。


「さあ、存分に戦え! 魔法攻撃はしてこないが2体は連係攻撃をするようにしてあるから注意しろよ!」

「ははっ! ありがとうございますっ! 腕が鳴ります!」


 そういうとオークドゥは喜喜としてオーガ風ゴーレムに切り込んでいった。

 彼の武器はシェリーを攫ったクソ野郎ども、デルダルムたちを成敗しに行く前に俺が作ってやったオリハルコン製のロングソードだ。


 さすがはオークの王だな。 剣の腕前は相当なものだ。

 かなり強敵に仕上げたつもりのオーガ風ゴーレムと互角に渡り合っている。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 >>マスター。

  ミニヨンによってマイクロアンカーを撃ち込まれた対象が、こちらに接近しています。グラッツィア辺境伯邸に忍び込もうとした族のようです。


 ミニヨン自体は亜空間内に潜んでいるので、この空間の座標でミニヨンの位置を表す事は不可能である。

 しかし、ミニヨンが貼り付けたマイクロアンカーは、この空間に存在する対象に撃ち込まれるため、この空間の座標系で位置を表すことができる。そのアンカーの位置情報がこの惑星を周回している人工衛星に常に送られてきているのだ。


 そして、このマイクロアンカーは、亜空間内に潜むミニヨンと見えないケーブルでつながっている。だから、ミニヨンはいつでも亜空間から抜け出し、この空間に存在する対象にアクションを起こすことができるのだ。


 どうやら族は俺たちがいる場所の横を走る街道を通って、アウロルミア神国へと向かっているようだ。ミニヨンから送られてきている情報を見てみたところ、この族こそが、ザイエの町を牛耳っていた黒幕の女だった!


 ザイエの町の人々を奴隷から解放した直後に町全体にシールドを張ったのだが、その少し前に、この女はザイエの町から離れている。


 女は防御シールドを自分の周りに展開しているようだが、全くの無意味だ。既にシールド周波数は特定済だから、ミニヨンが女の肩に貼り付けたマイクロアンカーからの情報もシールドに邪魔されることなく入手可能である。筒抜け状態だ。


 ははは。そんなんで俺の目をごまかせると思っているとはなぁ。大間抜けだ。



 ハニーたちに念話回線を繋いで、練習を切り上げさせた。派手にドンパチやっていると黒幕の女がこちらに気付いてしまうかも知れないから練習を中断させたのである。


 ハニーたちが風呂で汗を流している間に女を片付けるか……。


 シホに頼んでテントの周囲にシールドを展開してもらい、彼女にはみんなを守るように頼んである。オークドゥにはシホのサポートを頼んだ。


 黒幕の女には、俺とノアハで対処するつもりだ。


「ノアハ、悪ぃな。ひとっ風呂浴びてぇところだろうがなぁ、どうやらお前さんを操っていた黒幕の女がこっちへ向かっているようなんだ。

 ちょっと懲らしめるのに付き合ってくれ」

「はい、ダーリン。喜んでお供します! 彼女には恨みもありますし……」


 黒幕の女をどうしてやろうかなぁ……オークの繁殖用孕み袋にでもしてやるか?

 いや、それだけはダメだな、俺は嫌だ。たとえ非道い女であっても、凌辱されるような目には遭わせたくはない。

 『オークの繁殖用孕み袋にしてやる!』と言って脅すだけにしよう。


 なんとか女をうまく利用できないものかなぁ……

 そうだ! シェリーが嵌められたような強力な隷従の首輪を嵌めてやり、シオン神聖国にスパイとして送り込むのもいいかも知れないな。


 これは名案かも知れないな!


 古代エジプトの王族が身につけていたようなマルチビーズの首輪を模した隷従の首輪を生成しておく。もちろん、管理助手ですら拘束可能なタイプの首輪である。




 俺とノアハは街道を歩いている。拠点となっているテントから離れ、こちらへと向かってくる黒幕の女のいる方へと近づいているのだ。


「後5分ほどで出会うと思うから、指輪のシールドを展開しておいてくれ」

「はい。ああ……緊張します。ダーリン、彼女は言葉を巧みに操りますのでどうかお気をつけ下さい」

「そうか。分かった。気をつけるよ。ありがとうな、ハニー」

「うふふ。どういたしまして、ダ~リン!」



 ◇◇◇◇◆◇◆



 馬が一頭、こちらへと向かってくる。馬上には黒い人影がある。

 今夜の夕食はみんなとゆっくりと楽しみたい。さっさと片付けるとするかっ!


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