第0037話 油断

 俺たちに押し寄せていた人垣が割れ、一人の女性がこちらへとやって来る。

 ノアハ・ロバート・ヴェリエか?……ん?目からは涙が溢れ出ている?

 魂の色は……"スカイブルー"!?あれ!?やはり、首輪は隷従の首輪だ!彼女も

奴隷にされているのか?


 <<全知師、町人の持っている壺というか瓶というか……それだけを、どこかに転送する事は可能か?

 >>可能です。

  あの陶器の瓶の中には、火属性の爆裂魔法が封じ込められていますので、ヒューマノイド近傍に存在する火属性爆裂魔法エネルギーを検索対象として転送ターゲットの指定ができます。

 <<よしっ。では、早速準備してくれ。転送先は砂漠地帯、プレトザギスの中央にでもしておいてくれ。それと……転送後は、全町民をターゲット指定し、奴隷契約の強制破棄を実行し、加えて、隷従の首輪の除去と消滅を実行しろ。実行権限が必要なら、その権限をお前さんに付与する。

 >>承知!爆裂瓶の転送まで約30秒必要です。

 <<分かった。俺は時間を稼ぐ!ターゲット指定を急げ!そして準備ができ次第、ただちに転送を実行してくれ!

 >>承知!転送準備開始!ターゲット指定完了後、ただちに転送を開始します。


「ちょ、ちょっと待ってくれねぇか!いきなり『奴隷になれ』と言われてもなぁ。俺たちはさっきこの町に来たばかりだぜ。ここの誰がどうなろうと知ったこっちゃねぇんだがな?」


 ノアハは、涙を流しながら、右手を挙げようとする。多分それが自爆命令だ。


「待て!分かった!分かったから、コイツらを吹っ飛ばすのはやめてくれ!」

「よし!ではこの結界を解除しろ!」

「分かったよ。だがな、その前に俺たちの主人となるお前さんの名前くらい教えてもらえねぇかなぁ?」

「お前たちがグラッツィア辺境伯の手の者だという事は分かっている。私が誰かは知っているだろう?」

「お前さんが……」


 >>転送開始!


 町の者たちが抱えていた爆裂瓶が一瞬で消え、その直後に、人々のうつろだった目に光が宿る。隷従の首輪は消滅した。奴隷契約が破棄されたのだ。

 即座にこの町全体を覆うドーム状の防御シールドを展開して、この町から何者も逃げ出せなくする……。


 うわあああああぁーーーっ!


 突如、ノアハが大声を出しながら泣き崩れる。

 ノアハに奴隷にされていた者たちの目には怒りの炎!ノアハに制裁を加えようと思ったのか、罵声を浴びせながらにじり寄る……。


「待て!その女に手を出す事は禁ずる!そいつもお前さんたちと同じ被害者だ!」


 ……と言っても、怒りに支配された人々の気持ちは収まらないだろうから、言い終える前にノアハを我々のシールドの中に転送した。彼女は一瞬の出来事に泣いていた事も忘れて驚いている。


「みんな、よく見ろ!俺はこういう者だ!」


 眉間の"印"を輝かせる!

 俺が何者か気付いた人たちが跪いて頭を垂れる。俺が何者なのか分からなかった者たちも、周りの人たちに聞いたのか跪く……。


 ざわざわざわ……

「か、神様……神様がお助け下さったんだ!」

 ざわざわざわ……

「神様?あんな若造がか?」

「馬鹿野郎!あの眉間の御印が分からんのかっ!口を慎め!罰が当たるぞ!」

 ざわざわざわ……


「ちょっと悪ぃな、俺たちから離れてくんねぇかな?さっき爆死した子供と女性を蘇生してぇからな」


 人々は俺たちから距離を置く……。

「そ、蘇生だってさ!本当に生き返らせる事ができるのか?バラバラだぞ?」

 ざわざわざわざわ……


 えーっと……この魂と、この魂だな?よしっ!


「まずは……修復!」


 淡い緑色をした半透明な光のベールが大小二つ、人の形をして俺の前に現れる。

 そして、そのベールの中に、見る見るうちに身体が再生されていく。小さな男の子と、その母親らしき女性の身体だ。

 おっと、いけない!全裸だ。すぐに服を着せなくては……。


「衣服等装着!」


 周りの町民の服装を参考に、生成して着せた。この手の作業は何度もやっているので、以前のように、長々と口に出して神術を施す必要もなく、ほとんどイメージするだけで実行できるようになってきている。だから、『衣服等装着!』じゃなく他の言葉でも……たとえ『ほげっ!』であっても、結果は同じことになる。

 神術の実行は、基本的に念ずる事で可能なのだ。


「な、何もないところに身体が現れたぞ!き、奇跡だ!」

「で、でも……二人とも息をしてねぇぞ?失敗じゃねぇのか?」

「バカッ!失礼にも程があるぞ!これから生き返るに決まってるだろ!ボケっ!」


「蘇生!」


 俺の目の前の二体の死体が一瞬、眩しくて目が開けていられないくらいに光り、すぐに何事もなかったかのようにその光は消える。


「……ん…ん……んん?」「んーーんん……」


 "おおーーーっ!"

「い、生き返ったぞっ!ま、まさに奇跡だっ!」

 "わーーーっ!""わーーっ!""わーーーっ!"


 人々から大歓声が上がる!

 生き返った当の二人は何事かと驚いている。二人は辺りをきょろきょろ見回していたが、お互いの視線が合うと我に返ったのか、ひっしと抱き合って泣き出した。


「「うわぁーーーん!」」

「坊や!良かった!……良かったっ!」


 確か、俺たちの後ろでも爆発があったな……。

 あ、あった、あった!この魂か!?……ん?魂の色は赤黒いぞ!?コイツはこのままにしておこう。


「か、神様!ありがとうございますっ!」


 生き返った母親が、大粒の涙を流しながら俺に礼を言う。


「酷ぇ目に遭ったなぁ、そのかわいい坊やはお前さんの子かい?」

「はい。そうです。ありがとうございました。本当になんとお礼を……」

「礼なんて要らねぇよ。気にするな」


 お祭り騒ぎになってしまった。これから黒幕を退治しなくてはならないのに。


「シェリー!」


 ん?ああ、さっきの門衛か?やはりシェリーの知り合いだったか。


「デルダルムなの?やっぱりそうだったんですね?」

「ああ、さっきはごめん!奴隷にされてしまって、何も話さないように命じられていたんだ。折角君がぼくなんかの事を覚えてくれていたのに、何も話せなくてつらかったよ」

「怪我とかしていない?治してあげるわよ?」

「ちょっと首輪を嵌めていたところが擦れていたから赤くなっているくらいかな?他は大丈夫だよ。……それよりも折角再会したんだ、こんなところで立ち話もなんだし、近くの喫茶店にでも行かない?その店はね、君と仲が良かったミーシェルが働いている店なんだよ。どう?彼女にも会いたいでしょ?」

「ちょっと待っててね、許可をもらうから」

「ああ、いいよ」


「ダーリン、お聞きの通りなんですが……ちょっとそこまで行ってきてもよろしいでしょうか?すぐに戻りますから」

「ああ、いいぜ。旧交をあたためてくるといい」

「ありがとうございます!ダーリン、大好き!」

「おう。あ、そうだ。俺たちはノアハの屋敷に行っているからな。そこで合流する事にしよう」

「はい。では……我が儘を申しましてすみません。行ってきます」


 シェリーとデルダルムは街中へと消えていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ノアハ、どうしてこんなことになっちまったんだ?」

「はい。数週間前にある門衛が人族の女性をひとり連れて来まして、その女性は、盗賊が大挙してこの国へ押し寄せて来るから、早くそれに備えるべきだ……という警告をするために私に会いに来たと言うのです。彼女を連れて来た門衛の話では、女性は門衛の知り合いで、信頼できる人物という事でしたが……」


 ノアハは震えている……。

 念のために、ノアハの魂の履歴に記録されている映像を見ながら、ノアハの話を聞いている。俺たちはノアハの屋敷内の執務室にいる。


 ノアハの話と記録映像から分かったのは……


 情報を持ってきた女性は、この件にはこの国のある高い身分の者が関係していると言い、スパイが潜り込んでいるかも知れないと耳打ちし、ノアハに人払いをするように要求する。

 ノアハは、この女性の意見を容れて、側近を含むすべての部下を執務室の外へと出す。そして、情報を持ってきた女性の方を振り返ろうとした時!ノアハの口には何やらきつい臭いのする布が押し当てられ……直後、ノアハは意識を手放すことになってしまうのだった。


 ノアハが目を覚ますと、首にはデザインがおしゃれな、隷従の首輪が嵌められており、全く自由が利かなくなってしまっていた。

 奴隷とされてしまったノアハ。主人となった女性、盗賊の情報を持ってきた女の言うなりになるだけの存在に成り果てた。女の命令をただただ忠実にこなすだけの操り人形と化したのである。


 女の命令によって人族の闇奴隷商人の慰み者にもされていた。

 そればかりか、彼女は性奴隷のように扱われた。女がこの町の有力者に取り入るために、彼女、ノアハの身体が利用されたのだ!絶対に許せんっ!


 さぞや悔しくて、悲しくて……つらかった事だろう……。彼女の心情を察するに余りある。思わず込み上げてくるものがある……。

 彼女を抱いたこの町の有力者をすべてリストアップした。ひひ爺どもには制裁を加える必要がある。


 女は、ノアハの影に隠れて悪事を重ねる……。

 ノアハの部下、国境警備隊の隊員の全員をノアハの奴隷にし、ノアハを通じて、彼等を操り、悪事を重ねるための手駒にしている。

 ついには、ノアハの権限でこの町の全員に隷従の首輪を装着させ、町全体を意のままに操るようになるのだ。


 この町や周辺の村々の美女たちを、片っ端から奴隷化して、人族の闇奴隷商人に売り払っていった。すべてはノアハの指示で行われていることにされていた。

 ノアハがハーフエルフである事を利用して、いじめられたきた事への復讐というもっともらしいストーリーまででっち上げて吹聴している。


 俺が砂漠地帯で盗賊のリーダーから聞いた話に一致するな……。


 しかし、女の顔が全く見えないな……いつも黒いローブにフードを目深に被っている。魂の履歴に記録されている映像からは顔が全く分からないのだ。


 ノアハは自由にならないながらも、なんとかしてグラッツィア辺境伯にこの事を知らせようとずっと考え続けていた。

 そして、奴隷にされてから数週間して、漸くそのチャンスが来る事になる。


 グラッツィア辺境伯の息子、ケイロルがこの町を視察するために訪れたのだ。


 ノアハは考えた。ケイロルを隷属させる際、主である女には気付かれないように注意しながら、ケイロルに、自分たちが何をしているのか、これから何をしようとしているのかを必要以上にべらべらと話して聞かせることにしたのだ。

 彼女はケイロルを通じて、この地に問題が生じている事をグラッツィア辺境伯に伝えたかった。


 彼女は気丈な人だ。酷い目に遭わされ続けていたのに……。目頭が熱くなる。

 俺がシェリーと共にグラッツィア辺境伯邸を訪れていなかったとしたらと考えると肝が冷える……。助けられて本当によかった。


 ん?暫く関係ない映像が流れていたが、女がぼそぼそと何か呟いているところが映し出された。ノアハが完全に自分の意思に従う奴隷だからと安心したんだろう。

この一連の悪事の根本目的を話していたのだ。

 つまりそれは、エルフ族に対して、人族に対する、それも、アウロルミア神国に対する根深い恨みを植え付ける事である。国民感情を誘導して、ゆくゆくは両国を戦争へと導こうとしていたのだ!

 黒いローブ、アウロルミア神国を敵視?……この女はシオン神聖国の間者か?


 事件の全貌は分かった。


「ノアハ、それでその女は今どこに?」

「はい。上様のお顔を見るなり慌てて、門の方へと走っていきました。私には町の人たちを人質に、上様たちを奴隷にするようにと命令していきました」


 しまった!もう少し早く町全体をシールドで覆うべきだった!取り逃がしたか!

 ん?門?……今ふと、なんか嫌なイメージが頭を過ったんだが……。


 そういえば……

「そうそう、最初に女を連れて来たヤツがいるだろう?そいつは今どこにいる?」

「ああ、門衛のデルダルムでしたら、先ほど、上様のお供の方と……」

「なにっ!?デルダルムだと!?しまったっ!シェリー!聞こえるか!?」


 …………シェリーに念話を送るが返事がない!焦る!焦る!焦る!焦る!

 マップ上でもシェリーの生命反応が見つけられない!


 <<全知師!シェリーを捜せ!見つけ次第ここへ転送しろ!

 >>承知!……検索しています……


 考えろ!考えろ!考えろ!……落ち着け!落ち着け!落ち着くんだ!

 マップに反応しない?はっ!


 <<全知師、検索を中止して、今すぐ、この町に展開されている、俺以外が張ったシールド反応を捜せ!

 >>承知!……ここより北東500mにある建物の中にシールド反応を確認!

  シェルリィ誘拐に使われたものと同じテクノロジーです。周波数も同じです。

  内部をスキャンします……シェリーの生命反応を確認。こちらへ転送します!


「シェリー!」

「……」


 転送されてきたシェリーを、慌てて空中でお姫様抱っこする。彼女が、仰向けの状態で転送されてきたからだ。シェリーの服はビリビリに破かれて、下着が見えてしまっている!


 なにっ!?彼女の首には隷従の首輪が嵌められている! 彼女は無表情で、目はうつろだが涙がポタポタと溢れ落ちている!


 くっそうっ!くっそうっ!おーーのれぇーーっ!デルダルムめっ!ぶっ殺す!!


 <<全知師!その建物をシールドで覆え!誰もそこから逃がすな!

 >>承知!シールドを展開しました。


 全知師は、小型シールド発生装置をデルダルムたちがいる建物の地下に転送し、シールドを展開させた。建物は兵舎のようだ。デルダルムたち衛兵が寝起きする場所のようである。建物の中には、デルダルムたち以外、誰もいない。

 デルダルムたちクソ野郎どもは、ラウンジのような部屋だたむろしている。その場所でシェリーを慰み者にしようとしていたのだ!



「我が権限においてこの者の奴隷契約を強制的に破棄する!加えて"隷従の首輪"の除去と消滅を命ずる!」


 隷従の首輪が外れ、床に落ちる前に粉々になりながら消え去る……


「うわぁーーーん!ダーリン!こ、怖かったですぅ。うわぁーーーん!」

「よし!よし!もう大丈夫だよ、ハニー。もう大丈夫だ。酷い目に遭ったね」


 シェリーが声を上げて泣くなんて……余程怖かったんだろうな。

 激しい怒りがふつふつと湧きあがってくるのを覚えた!ヤツは絶対にぶっ殺す!


 デルダルムたちに念話をつなぐ……。

『おい!てめぇら!よくも俺の大事なシェリーを手込めにしようとしやがったな!てめぇらクソ野郎どもは絶対に!絶対に!生かしてはおかねぇっ!必ずぶっ殺してやるっ!俺がそこへ行くまで大人しくそこで待っていろっ!!』


『だ、誰だ!貴様は!?』『あ、頭の中に直接声が……なんなんだ?』

『ざわざわざわざわ……』


『俺か?俺はこの世界の神だっ!てめぇらは、俺の大切な后に手を出したんだっ!まさか、このまま無事で済むたぁ~思っちゃいねぇよなぁ~?てめぇたちはなぁ、神の逆鱗に触れちまったんだよ!"どうか殺して下さい"と懇願するくれぇにボッコボコにしてからぶっ殺してやるから、覚悟してそこで待っていろっ!』


 ミニヨンを数体ヤツらのもとへと転送し、亜空間内に潜ませて監視させている。


 クソ野郎どもは、慌てて建物から逃げ出そうとしている。だが、当然の事だが、逃げ出す事は不可能である。暫く足掻いていたようだが、結局は、どうすることもできないと悟り、元いた場所、ラウンジのような部屋へと戻ってきた。

 何やら言い争いが始まったようだ……口々にデルダルムを罵っている。



 念話を切った後、シェリーの着衣を修復し、怪我がないかを確かめる……。

 シェリーは加護されているため、怪我などはしていないようだが、強く握られたのか手首や足首には手でつかまれたような痕が残っている。うっすらと赤くなっているのだ。


 シェリーをお姫様抱っこの状態からゆっくりと立たせ……ぎゅっと抱きしめる!

 それに反応して、シェリーも俺に強く抱きつく……。シェリーはガタガタ震えている……。 良かった!無事で本当に良かった!



 ◇◇◇◇◇◇◆



 シェリ-の震えが収まるまで、ずっと俺は彼女を抱きしめていた。


「落ち着いたかい?」

「はい。ダーリン。ぐっすん」

「何があったのか話せる?」


 シェリーの話では……


 デルダルムに連れられ、学生時代にシェリーと仲が良かった友人のミーシェルが働いているという喫茶店へと入ったのだが、中はがらんどうであったとの事だ。


 潰れた喫茶店に連れ込まれたのか?


 シェリーがどういうことかと、デルダルムに問い質そうと、彼の方を振り向いた瞬間に、シェリーはデルダルムに隷従の首輪を嵌められてしまったのだ。

 そのまま、シェリーはどこか分からない場所へと連れ込まれ、デルダルムとその仲間たちに凌辱されそうになったところをここへ転送されたということだった。

 危機一髪であった。


『俺はなんて迂闊だったんだっ!シェリーの友人と聞いて、デルダルムを善人だと勝手に思いこんじまった!神眼でよく確認すべきだった!クソぉ~』


 ザシャアとノアハが涙を流している……。

 オークドゥは両手の拳をグッと握りしめ、ワナワナと怒りに震えている。


 全員まとめて絶対にぶっ殺す!たっぷりと苦痛を味わわせてからなっ!!


「上様、上様が仰っていた意味が分かったような気がします」


 オークドゥがそんなことを言い出した。


「ん?何のことだ?意味?」

「はい。お后様がクソ野郎どもに無理矢理……と考えただけで、強烈な怒りが湧き上がってきて、クソ野郎どもをぶっ殺してやりたくなるのです。怒りを禁じ得ないのです。このことだったんですね?私たちオークが他種族の女性に対してしてきた事がどう受け止められてきたのかが、今回の事で分かったような気がします」

「そうか!オークドゥ、ちょっとかがめ!」

「はい。こうでしょうか?」


 かがんで頭を下げたオークドゥの頭をやさしく労るように撫でる。


「偉いぞ!よく気が付いたな!そうなんだよ。その気持ちを忘れるなよ!?自分がされて嫌な事は人にしちゃぁいけねぇんだぜ!分かったな?」

「はい」


 オークドゥははにかんでいる……。



 しかし、精神支配に対する耐性も持っているのに、なぜシェリーに隷従の首輪と奴隷契約が有効になったんだ?

 この謎を解決しねぇと、迂闊にヤツらのもとに踏み込めねぇな……。

 しまったな、シェリーに嵌められていた隷従の首輪を消去しなけりゃよかった。


「ノアハ、隷従の首輪を持ってねぇか?」

「あ、ございます」


 俺たちは今、ノアハの執務室にいる。

 その奥にある隠し小部屋から、ノアハは2つの首輪を持ってきた。


「こちらの首輪が一般的な隷従の首輪で、そして、こちらは加護持ちでさえも支配可能な隷従の首輪という事でした。この2種類を女から渡されました」

「ちょっと借りるぜ。全知師!分析しろ!」


 >>承知しました。

  分析します…………………………分析が完了しました!

  この加護持ちさえも支配可能な隷従の首輪は、管理助手用の拘束具です。

  レプリケーターによって生成された可能性が高いです。


「管理助手用の拘束具?どういうものなんだ?」


 >>お答えします。

  管理者助手等、特殊な権限を持つ者たちを拘束するために作られた特別な拘束具です。精神支配耐性を無効にして隷属させることが可能です。

 これによって支配できないのはマスターだけです。


「おいおい、物騒なものがあるんだなぁ。生成できねぇようにはできねぇのか?」


「ダーリン、どなたとお話になっていらっしゃるの?」

「あ、ザシャア、なに……俺の部下とちょっとな。あっちの話は念話だから聞こえねぇから、妙に思えるだろうがな」

「そうでしたか。すみません、ちょっと気になったものですから」


 そういえば……みんな不思議そうにしているな。


 >>レプリケーターデータへのアクセス権は現在、マスターが許可した者のみが有しますので、マスターと管理助手以外は、このタイプの拘束具を現在は生成できないようになっています。

  ここにある拘束具は、管理権限に対するセキュリティ強化前に生成されたものと思われます。


 <<なるほど。いくつ作られたのか分からねぇからな、ハニーたちにも気をつけてもらわねぇといけねぇなぁ。何か手はねぇかなぁ?

 >>この拘束具が精神支配耐性を無効化するのは、装着直後のみです。

  したがって、耐性変化の際に呼び出されるイベントにイベントハンドラを割り当て、耐性無効化を解除するようにプログラミングされることをお勧めします。

  また、このイベントハンドラの編集権限を、マスターのみに限定される事も併せてお勧めします。

  なお、このイベントハンドラの割り当て時にリブートは不要です。


 <<ありがとうな。全知師。


 デルダルムたちが使っていたシールドといい、こんな特殊な"隷従の首輪"を作る事ができたということだけでも、シオン神聖国が裏で糸を引いていることは間違いないだろう。

 ……これも元人族担当管理助手のシオンに作らせたんだろうな。シオンの権限を剥奪しておいて正解だったな。シオリのお陰だなぁ……。


 この場にいるシェリーとザシャアについては、今すぐ加護の強化ができるが……他のハニーたちをどう守ったらいいんだろうなぁ……。


『シオリ、聞こえるか?』

『はい。ダーリン、念話をいただけて嬉しいです』

『そっちはどうだ?問題はねぇか?』

『はい。こちらは平穏無事です。そちらは何かあったんでしょうか?』

『ああ、実はな……』


 シオリには、ここで起こった事をすべて話して聞かせた。


『……というわけでな、精神支配耐性が無効にされる隷従の首輪があるから、気をつけて欲しいんだよ。そっちへ戻ったらすぐみんなの耐性強化を行うつもりだが、それまでが心配でなぁ……。シオリ、お前さんですら奴隷にできちまう首輪だから気をつけて欲しいんだよ。みんなには外出せず、できればずっとマンションの中にいて欲しいくらいだ』

『それでは……定期的に状態を確認して、精神支配耐性が無効化されていることを検知した場合に、無効化を解除するようなアイテムは作れないでしょうか?』

『なるほど……全知師、今シオリが言ったような機能を持たせた腕時計は作れねぇだろうか?』


 どうせ定期的に状態をチェックするんだから、時計の機能も持たせたらどうかと考えたというわけだ。

 全知師とのやり取りは、シオリにも分かるようにしてある。


 >>お答えします。可能です。作成しますか?


『ああ、頼む。人族マンション住人、全員分32個と、エルフの国に来てから俺が加護した者たちの分13個と管理助手の分4個も合わせて作成してくれ。

 計49個だが、今後の事もあるから予備も入れて100個作成してくれ』


 >>承知!作成します……………………作成は完了しました。マスターの亜空間倉庫に保管しました。


『ありがとう、全知師』


 ハニーたちにつけてもらえば、取り敢えず、隷従の首輪で無理矢理奴隷にされることは避けられそうだ。


『シオリ、それじゃぁ、シェリーはこっちにいるから、33個……いや念のために40個そっちに転送する。すぐにみんなにつけさせてくれ。もちろん、お前さんの分もあるから、お前さんもちゃんと身につけてくれよ。おギンとおエンにも渡してやってくれな。頼む』

『はい。承りました。ありがとうございます』

『転送!』


 シオリとの念話を終えた。今度はシホに念話をつなぐ……。


『シホ、聞こえるか?』

『はい、ダーリン。どうされましたか?』

『実はな……』


 シホにもすべてを話した。


『……だからな、今からそっちに腕時計を転送するから、お前さんと俺が加護した者たち全員につけてもらってくれ。悪ぃけどエルガラズガット村まで行って村長のミィミィにも渡してやってくんねぇかな?』

『承りました』

『頼むな!……転送!』


 シホとの念話を終了した。これでエルフの国の方も取り敢えずは安心かな?


 もちろん他の種族の担当者たち、シオリ、さゆり、シホ以外の管理助手4人にも事情を説明して腕時計を送ったことは言うまでもない。


 さてと……それでは、ここにいる者たちの加護を強化するか……。


「ザシャア、ちょっとこっちに来てくれ!」

「はいっ!」


 ザシャアが抱きしめ合っている俺とシェリーに抱きついてきた。

 く、苦しい……。


「あ、これからお前さんたちの加護を強化しようと思うから……そこのソファーに腰掛けてくれねぇかなぁ」

「「はいっ!」」


 ノアハの執務室にあるソファーに二人は腰掛けた。


「どんな強化を行うかを説明すると……早い話が、今回シェリーに嵌められた隷従の首輪では、お前さんたちを支配できねぇようにする!」

「「はいっ!」」

「よし!ちょっとそのままそこでじっとしててくれ!」

「「はいっ!」」


 自由に動き回っていてもらっても、今回はリブートが必要ないから問題ないんだけどね。しかし、こんな簡単な手で防げるとはなぁ……。

 二人をターゲット指定して、チャッチャとプログラミングした。


「はい、終わったぞ!」

「「えっ?」」

「ん?どうした?」

「今回は目の前が真っ暗になりませんでしたが……これでいいのでしょうか?」

「一瞬意識が飛ばないと加護された気がしないと申しますか……」

「ははは。そういうことかぁ。それじゃ一応やっておくか?ひとりずつ順番に行うから……まずはシェリー、ソファーに横になってくれ!」

「はい!」

「リブート!」

「はっ!?こ、これです。この感覚です」

「ははは。それじゃぁ、今度はザシャアの番だ!ソファーに横になってくれ!」

「はい」

「リブート!」

「はっ!そ、そうです。この、一瞬自分がこの世からいなくなってしまったような感覚です。これがないとどうも加護された気分になりませんわ」

「な、なるほど。どうだい?これで満足かな?」

「「はいっ!」」


 そうだ!ノアハも望むのなら、完全浄化と完全修復を施してやらねばな……。

 彼女は……現在36歳か。女盛り真っ只中だな。それにしても美しい女性だな。


「ところで、ノアハ。お前さんが望むのならだが、お前さんの身体を"綺麗"にしてやれるがどうする?」


「綺麗ですか?申し訳ありません、どういう意味でしょうか?」

「つまりだな……身体の内外を完全に浄化して、お前さんを最盛期の状態に戻してやれるんだ。多分、16、7歳くらいに戻ると思う。副作用として、生娘に戻っちまうんだが……どうだろう?」


「えっ!?そ、そんな事がお出来になるんですか?」

「ああ、一応神だからな、俺は。それと……もしも、現在体内に男の痕跡があったとしても、綺麗さっぱり浄化される……心までは治してやれねぇが、身体は完全に男どもに凌辱される前の状態に戻る。

 ただ……妊娠していると胎児まで消されちまうからその点は注意が必要だ」


「あ……ありがとうございます。お願いしたいです。身体が元に戻るだなんて夢のようです」

「あ、もう一度確認するけど、16、7歳に戻るのと、生娘に戻っちまう副作用があるが、それでもいいか?」

「はい……闇奴隷商人に凌辱されるまで男性を知りませんでした。恥ずかしながら一度も男性とお付き合いした事がありません……。ですから、男どもにおもちゃにされる前の身体に戻れるんでしたら……う、嬉しいです。ううう……」


 初めての男がクソ野郎で、無理矢理だったとは……かわいそうで泣けてくる。

 ハーフエルフに対する差別、この国では大きなハンデを乗り越えて、男性社会の中で国境警備隊の隊長にまでなったんだから、きっと、遮二無二がんばってきたんだろうなぁ……ハーフエルフである事に対する差別だって酷かっただろうしなぁ、色恋なんて考えていられなかったのかも知れない。すごい美女なのになぁ……。


「お前さんのようなすげぇ美人で、心が綺麗な女性を放っておくなんて、エルフの男どもはバカばっかりだな。……よし!それじゃぁ若返らせてやるぞ?いいな?」

「はいっ!お願いします!」


「あ、そうそう、お前さんも俺のハニーたちと同じ加護を授けてあげようかな?」

「え!よろしいのでしょうか!?私のような者でも……」

「『のような者』ってなんだ!?自分を卑下するなよ。お前さんだから加護するんだぜ?」

「ううう……、あ、ありがとうございます……」


「よーし!それじゃあ、そこのソファーに横になって、目を瞑っていてくれ!」

「はい」


「身体内外の完全浄化!そして……完全修復!からの……」


 これは……これからも何度も行う必要がありそうだな。ハニーが増える度に行う必要があるからなぁ……マクロを組んでおくか。

 処理を自動記録させるモードへと移行し、その状態でチャッチャとプロパティ値等を変更する。先ほどの隷従の首輪対策も当然のことだが施してある。


 ……よしっと!自動記録モードを終了して、マクロを保存っと……。

 さてそれじゃぁ、加護を有効にしますか。


「リブート!」


 一瞬意識を手放したノアハは、暫くして意識を取り戻す。


「は~い、終わったよ。お疲れ様」

「え?もう加護していただけたのでしょうか?」

「ああ、それに"生娘"に戻ったぜ。おおっ!お前さんは16歳が最盛期らしいな?16歳になってるぞ」


 彼女はソファーから飛び起きて、鏡を見に行く……。

 シェリーも、ザシャアも、にこにこしながらその様子を見ている。


「うわぁぁぁぁ!若返っていますっ!う、嬉しいぃ!」

「さっきまでのお前さんも大人の魅力に満ち溢れていてとても美しかったが……、今のお前さんもピチピチですごく綺麗だぜ!惚れちまいそうだぜ!ははは」


 ん?シェリーとザシャアがジト目をしている??なんでだ?

 あ、ノアハがこちらを俯き加減に、上目遣いに見ながら真っ赤になっている?


 彼女たちは加護の強化がなされたのだが、他のハニーたちが腕時計を身につけているのに彼女たちにはないというのではかわいそうだ。彼女たちにも、念のために腕時計をプレゼントしておこう。

 腕時計をもらった、シェリー、ザシャア、ノアハはすごく嬉しそうだ。

 ん?オークドゥが羨ましそうにしている?……悪いがこれはハニー限定なんだ。諦めてくれ!



 ◇◇◇◇◇◆◇



「よしっ!準備はできたな!」


 これから、シェリー、ザシャア、ノアハ、オークドゥと俺で、デルダルムたちをぶち殺しに行くところだ!

 4人にはオリハルコン製のロングソードを生成して渡してある。あ、そうそう、ノアハにも亜空間収納ポシェットと指輪を渡してある。極薄シールドは、今からの戦いに必要だからな。ポシェットは……おまけだ。

 ん?やはりノアハも指輪を左手の薬指に嵌めたぞ?そして、にこにこしている。


「いいか、みんな!これからクソ野郎どもの巣に転移するぞ!ヤツらは俺の大切なシェリーにちょっかいを出しやがった!だから、遠慮は要らねぇ!徹底的にやれ!

 最後はアマゾネス・オークの生け贄にするが、蘇生できるからな、手加減なしにぶっ殺してやれ!容赦は無用だ!いいなっ!?」

「「「「はいっ!」」」」

「よしっ!それじゃぁ行くぜ!俺に掴まりな!」


 シェリーが俺の正面から抱きつき、ザシャアは後ろから抱きついた。

 ノアハは俺の左腕に自身の右腕を絡める……け、結構、巨乳だ。

 オークドゥは俺右肩に左手で軽く触れている。


「転移!」


「デルダルムっ!てめぇ、俺の大切な嫁にちょっかいを出しやがって!」


 転移後すぐ目の前には、俺たちが突然現れた事にぎょっとしているデルダルムがいた……。その顔を見た瞬間、俺は怒りに我を忘れた……

 俺はヤツの首を左手で掴み、そのまま正面の壁へと高速移動する!

 そのままの勢いで、ヤツを背中から壁へと叩き付け、壁をぶち抜き隣の部屋へと抜ける……隣の部屋でも同じようにして壁をぶち抜くっ!次から次へと、ガンガン部屋をぶち抜き、最後は建物の外壁を突き破って全知師がこの建物の周りに張ったシールドにぶつかってようやく止まった!


 当然、デルダルムは絶命した。だが、こんなに簡単に死んでもらっちゃぁ困る!

 デルダルムの首を掴んだまま……


「修復!……蘇生!」


「な、何をする!は、離せ!」

「クソ野郎がっ!てめぇ、よくも俺の大事なシェリーにちょっかいを出しやがったなぁ?キッチリと落とし前は付けさせてもらうから覚悟しろよ!……四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「この程度で済むと思うなよ?……修復!」

「わ、悪かった!あ、謝るから……どうか許してくれ!」

「いや、ダメだな。俺の大切な嫁を凌辱しようとしたんだからなぁ、『もう殺して下さい』と懇願するくらいたっぷりと痛めつけてからぶっ殺す!……四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「修復!」

「はぁはぁはぁ……」

「シェリーにも恨みを晴らさせてやるとするか……」


 デルダルムの首を掴んだまま、ぶち抜いた壁の穴を潜りながらみんなのところへ戻る。途中、ちゃんと壊れた壁は神術で修復している。


 最初転移した部屋に戻るとそこは血の海であった。10人ほどいたデルダルムの仲間はすべて身体を両断されて果てていた。


「ダーリン、お帰りなさい。こっちは見ての通りです。オークドゥが大暴れして、私たちは何もできませんでしたわ!たっぷりとお仕置きして差し上げようと思っておりましたのに」

「大丈夫だ。……修復!……蘇生!」


 10人のクソ野郎どもが息を吹き返す。


「ほら、シェリー、恨みを晴らしなっ!」


 デルダルムをシェリーの目の前に放り投げる……

「四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「おっ!?シェリー、いつの間に覚えたんだ?」

「ダーリンがなさっているのを見よう見まねで……初めて使ってみましたがうまくできましたっ!」

「おお、見事だ!」

「はいっ!……デルダルム!よくもっ!」


 グサッ!……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 うわっ!思わず身体をくの字に曲げて、股間を押さえそうになった!

 シェリーが、あまりの激痛に気絶していたデルダルムの股間に、剣を突き刺したからだ!

 デルダルムはのたうち回っている……。


「修復!……私にはダーリンという大切な人がいるのよっ!あなたのようなクズに身体を触られたかと思うと……四肢粉砕!……汚らわしいっ!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!……グサッ!


 うわぁぁぁぁ!しぇ、シェリーさん……。


「ししふんさい?ですか?私もやってみますわ!……四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁあ!!……グサッ!


「それでは私もっ!……四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!……グサッ!


 シェリーに続いて、ザシャア、ノアハまでもが『四肢粉砕』と剣の股間への突き刺しを行っている。クソ野郎どもは恐怖したが……逃げ場はない!順に彼女たちの餌食となっていく!


 俺とオークドゥは身体をくの字に曲げて股間を押さえて、その光景を呆然として見ている。


 しかし、ノアハは天才なのかも知れないな。攻撃神術の練習さえしたことがないのに、『四肢粉砕』を使いこなしている!この子も俺の側に置いておきたいなぁ。



 彼女たちはそれを5セット程繰り返すと、溜飲が下がったのか、制裁をやめた。


「思い知ったかゲス野郎ども!ですわっ!」


 俺の影響なんだろうかなぁ、なんかハニーたちの性格が変わってきてないか?


 クソ野郎どもは心がへし折れ、もう抗う気力も失って、無言でガタガタと震えている。……だが、これで許してやるほど俺は甘くはない。


『もしもし、クイーン、聞こえるか?俺だ!』

『はい。もしもし。上様、お久しぶりです。またクソ野郎がいましたか?』

『ああ、そうなんだよ、俺の嫁にちょっかい出したヤツらがいてな……そいつらをまたそっちで懲らしめてやって欲しいんだ。可能か?』

『はい。もちろん。いつでもどうぞ!それで何人でしょうか?』

『エルフ族の男が11人だ。多すぎるなら、こっちで間引きするが?』

『いえ、大丈夫です。しかし、今回はエルフですか?楽しみですね。それで今回も子種を搾り尽くしたら、食べてしまってもよろしいのでしょうか?ちょっと最近は食料が不足気味ですので、そうできたら、嬉しいのですが……』

『ああ、いいぜ!喰っちまってくれ!不味いかも知れねぇがな』

『ありがとうございます。それでは……部下を待機させておきますので、いつでもお送り下さい。お待ちしております』

『いつもすまねぇな。よろしく頼むな!』

『はい!』


 デルダルムの魂の履歴は調査済だ。ノアハを奴隷にした女と知り合いだと聞いていたので、女の素性が分かることを期待したんだが、デルダルムは酒場で女に声を掛けられただけで、知り合いというのは嘘であることが分かった。デルダルムは、女からノアハと引き合わせてくれたら金をやると言われてノアハに取り次いだだけだったのだ。ホント、使えねぇクズ野郎だ!


 黒幕の女は俺たちが町へ入る時の様子を見て、デルダルムがシェリーの知り合いだと知ったらしい。

 町の人々が俺に救われるの見て、デルダルムたちを使って、シェリーを誘拐して奴隷にし、彼女をグラッツィア辺境伯を脅して操るための道具にすることを考えたようだ。


 この黒幕と思われる女は、俺たちの事をよく知っているようだな……シェリーがグラッツィア辺境伯の娘である事も知っていたくらいだからな。


 女は、俺から加護されているシェリーさえも拘束できるようにと、強力な隷従の首輪を渡し、しかもご丁寧に、犯行を俺に見つからないようにするためのシールド発生装置までもデルダルムたちに与えていたのだ。


 俺が爆殺された母子を蘇生させ、町中がお祭り騒ぎをし始めた頃のようだな。


「おい!デルダルム!てめぇらが、絶対に手を出しちゃいけねぇ相手に手を出した事が、身に染みてよーく分かっただろう?」


 デルダルムたちはすごい勢いで頷いている。

 コイツらの魂の色は、全員が赤黒い。だから、容赦なんぞは無用だ!


「は、はいっ! も、申し訳ございませんでした。どうかお許し下さい!」

 "申し訳ございませんでした!"


 クソ野郎どもが皆、口々に詫びの言葉を言う。だが……


「いや、許さねぇよ!絶対になっ!俺のハニーにちょっかいを出そうとした瞬間にもうアウト確定だ!……さてと、それじゃぁ、判決を言い渡すぜ!

 主文!……てめぇらをアマゾネス・オークへの生け贄の刑に処する!!

 判決理由は……めんどくせぇ!省略だ! 抵抗は無意味だ!!

 凌辱される側の気持ちを、た~っぷり味わいながら、生きたまま食われて死んでこい!! 以上だ!


「お、お待ち下さい!もう二度としませんから!どうかお許しを!どうか……」

「転送!」


 クソ野郎どもは謝罪の言葉を述べながら消えた。

 ヤツら全員のプライマリキー情報は"輪廻転生システム"のブラックリストに登録済である。地獄で後悔するがいいっ!


 黒幕の女を捜す……だが、名前も何も分からない。

 この町を覆うように防御シールドを展開してからこの町を出て行こうとした者は誰もいない。お手上げだ!

 ミニヨンを100体ほど起動して、この町の防壁に沿うように配置しておいて、取り敢えず俺たちは、他のハニーたちが待っているバーベキューパーティー会場に戻る事にした。なお、ミニヨンは亜空間内に潜ませ、この町を出ていく怪しい者がいないかを監視させている。


「さぁ、みんな!ちょっと遅くなっちまったが、バーベキューパーティーに戻るとするか!?……ノアハ!グラッツィア辺境伯もいるから、お前さんも一緒について来な!色々と報告することがあるだろうからな?」

「はい」

「それじゃあ、みんな、転移するから、俺に触れろ!……よしっ!転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◆



 ザイエの町が防御シールドに覆われる数十秒前に、ザイエの町から慌てて離れていく黒いローブを着て、フードを目深に被った人物がいた。


「チッ!クソッ!またもや失敗かっ! シンめっ!いつもいつも私の邪魔をする!

 デルダルムじゃあシンには敵わないでしょうけどね、シェリー誘拐のどさくさに紛れて私がここから逃げ延びるくらいの時間は稼いでくれるでしょう。

 シンがこの国にいる以上、このままエルフの国にいるのはマズいわね。ひとまずアウロルミア神国にでも逃げようかしら……」


 どうやらこの人物が、今回の黒幕の女のようだ。

 女は足早にザイエの町から離れていく……。だが、女は知らない。彼女の肩には透明な小さなアンカー、マイクロアンカーが貼り付けられている事を……。



 ◇◇◇◇◆◇◇



「ノアハっ!おのれぇーーーーっ!」

 バキッ!ゴキッ!……ぎゃっ!


 俺と一緒にバーベキューパーティー会場に転移して来たノアハの顔を見るなり、グラッツィア辺境伯の息子、ケイロルがいきなりノアハの顔を右の拳で思いっきり殴ったのだった!



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