第0033話 鼬の無き間の貂誇り

 宴が始まり、まず俺の后となる者たちがお披露目された。


 エルフ族で俺の后となる者は計6人。ザシャア・ヴェレビア、ウェルリ、ジーの3人に、エルガラズガット村のバーセア・ガアイゼレ、そして、シホが連れてきた后候補最終選考落選者の2名、ソニアルフェとスフィリア……である。

 全員がとにかくすごい美人だ。魂の色は全員が"スカイブルー"である。


 美人と一括りに言ってしまっているが、当然それぞれの美しさには個性がある。

 前の世界にいた時には、ただひとりの女性しか俺の眼中にはなかった。だから、全く意識さえもしていなかったことなのだが、美人にも色々なタイプがあるものだということを、この世界に来て初めて認識した。正直言って心底驚いている。



 神殿幹部会議のメンバーたちが皆、渋い顔をしているな……。

 ふるい落としたはずの后候補者が皆、俺の后として壇上にいるんだからなぁ。

 神殿での権勢を誇示するためにふるい落としたはずなのになぜだっ!ってところだろうな?ははは。


 俺が、『落選した神子たちも后にするぜ!』と宣言した時のヤツらの驚きようと言ったら……ははは。まるで『そんなバカな!』と言った文字が顔に書かれているかのようだったなぁ。

 表情から感情が丸わかりで、笑いを堪えるのにホント苦労したぜ。



 シェリーとは、午後8時半頃にここを抜け出して、グラッツィア辺境伯のもとに行こうと示し合わせてある。

 まだ宴は始まったばかり。今は、ハニーたちと一緒に宴に参加している人たちと歓談しているところだ。


 飲み物を取りに行き、みんなのもとへと戻ってくると、ザシャアだけがみんなと離れて、身なりの良い男性二人と何やら話している。


 ザシャアは俯き加減で暗い顔をしているな……トラブルかな?


「役立たずで、我が一族のお荷物だったお前も、ようやくヴェレビア家の役に立つことができたな。取り敢えずおめでとうと言ってやる、我が妹よ。ははは」

「ああ、本当だな。政略結婚の手駒にしようと考えていたお前が、神託を受けて、突然神子になった時には、正直、頭にきたんだがなぁ。

 お前をめちゃくちゃにしてから殺してやろうか……とも考えたが、今思うと思い止まって良かったよ。ははは。しかし、まさかこうなるとはな、まぁ結果オーライだな。お前を認知してやって良かったよ。ははは」


 どうやら、父親と第一王子のようだな。……でもこんなヤツらがこの国を治めているのか?大丈夫なのか?


「メイドだったお前の母親が、勝手に私に隠れて産んで育ててきたお前が、まさかこんなに役に立つとはなぁ……。お前の存在を知った時にお前の母親から無理矢理奪い取って来て正解だったな。ははは」

「……だが、少しだけ残念だなぁ。お前が后候補から落選したら、私の側女にして毎晩その身体を楽しんでやろうと思っていたのになぁ……」

「バカ者!そうなった時の利用方法は、私の方でちゃんと考えておったわっ!

 だれが息子のお前になんかやるかっ!やるわけがないだろうがっ!

 ザシャアは器量がいいからな、まずは私が存分に楽しんでから……政略の道具に利用するつもりだったんだからな!……しかし、后に選ばれるとはなぁ、一番いい形に落ち着いたな、ははは。お前を抱けないのが少々残念だがな、ははは」


 自分の妹を側女にする?自分の娘を抱く? ゲス野郎どもがっ!

 だが、この世界ではかつての地球でもそうであったように、近親婚が認められているのか?大丈夫なのか?遺伝的に??


「いいか、ザシャア!上様をその美貌と肉体で、必ずたらし込むんだぞ!

 それが、育ててやった私たちに対する恩返しだと思え!いいな!?」


 ザシャアはずっと俯き、震えている。

 ザシャアに助け船を出したい気持ちを必死に堪えて我慢してきた甲斐があった。

 このクソ野郎どもの本心が直接聞けたからだ。後から、魂の履歴で確認しようとしていたのだが、その手間が省けた。


「ザシャア、こちらの二人は?」

「は、はい……この国の王である父、カイゼルン・ガグルド・ヴェレビアと、第一王子の兄、テイライプ・エル・ヴェレビアです」

「上様、ご尊顔を拝し、この上ない喜びにございます。どうか娘をよろしくお願い致します」

「上様、お初にお目にかかります。ザシャアの兄で、継承権第一位のテイライプと申します。どうぞご高誼の程、よろしくお願い申し上げます」


 いたち貂誇てんほこりり……ってやつだな。

『ザシャアへの暴言を聞いただけでも分かるが、こいつらちょっと調子ぶっこいているな。灸を据えるか……』


「お前たちが、俺が留守にしている間に勝手にこの国の王を名乗っている輩か?」

「か、勝手にとは……いくら上様だからとて許せぬ事もありますぞ!?」

「ほおう?俺がエルフ族の面倒を見させている"シホ"の許可を得ているとでも言うのか?俺は聞いてねぇぞ?」

「きょ、許可はいただいておりません。ですが、武力によってこの国を統べたのは私たち一族なのは事実ですので……勝手にと仰っても……そもそも許可がいるとは知りませんでしたし……」


「知らなければ何をやってもいいとでも言うのか?」

「い、いえ、そういうわけじゃ……」


 コイツら二人の魂の色は赤い……。ザシャアへの侮辱的な暴言を聞いた以上は、コイツらを成敗してやりたいところだが、一応ザシャアの身内だからなぁ……。


「まぁ、暫くはお前たちがどんな政を行うのかを見てみることにするわ。だがな、ダメだと思ったら即座に王の座から引きずり下ろすからな?いいか?ちゃんと民の暮らしを第一に考えて政を行うんだぞ?」

「「……」」

「分かったのかっ!?返事ぐらいはしろよっ!なんなら、今すぐ王座から引きずり下ろしてやってもいいんだぜ?」

「も、申し訳ございません。上様のお言葉を肝に銘じ、これからの政を行っていきます」


 王と王子は逃げるようにしてその場から離れた。


「ザシャア、お前さんのお母さんは今どこにいるんだ?」

「はい。この街の外れの方にある食堂で下働きをしています」

「王女の母親なのにかっ!?なんでだっ!?」

「母は、宮廷でメイドをしていたのですが、父に……父に手込めにされて……」


 ザシャアの母親はアニッサという名で、かつて宮廷でメイドをしていたらしい。

 ザシャアはアニッサのこと、自らの生い立ちのことについて語り出した……


 王に手込めにされたアニッサは、それからは、毎夜のごとく、王から性的暴行を受け続けていたということだった。クソひひ爺がっ!

 それを見かねた執事長が、命懸けで、アニッサを宮廷外に逃がし……

 アニッサは、執事長の親戚にあたる食堂で、住み込みで働きながら、ひっそりと暮らし始めたのだが、宮廷から逃げ出して暫くすると、ザシャアを身籠もっている事を知る。

 アニッサは悩みに悩んだ……。そして、出産を決意する。

 生まれてきたのはかわいい女の子。アニッサは、その子が生き甲斐になった。

 がんばって、がんばって、女手一つで生まれてきたザシャアを育ててきたのだ。

 周りは優しい人たちばかりであった。その人たちの協力があったからこそ育てることができたのだと、周りの人々への感謝の気持ちを決して忘れてはならないと、アニッサはザシャアに言い聞かせて育ててきたらしい。……いい母親だ。


 そして、歳月は流れ……ザシャアが9歳の頃。街でも美少女として有名になっていたザシャアの噂を聞きつけた王が、自らザシャアを見に来ることで、アニッサの居場所とザシャアの生い立ちが、王の知るところとなってしまう。


 王はザシャアの美しさに惹かれて、ゆくゆくは成長したザシャアを自分のモノにした後、政略の道具に使おうと考え、泣き叫ぶアニッサを足蹴にして、アニッサのもとからザシャアを奪い去ったということだ。

 王が、ザシャアを自分のモノにした後、政略の道具にしようと考えていた事を、ザシャアは、先ほどの王と王子との会話で初めて知ったらしい。

 ……ったく!ゲス野郎めっ!


 ザシャアは、他の兄弟たちから酷いイジメを受けながら、宮廷で第7王女として育てられたのだが、彼女が12歳の時に神託が下り、中央神殿で神子として務めることになる。

 ザシャアは、とても酷いイジメを受けてきたのだ。だから、心が闇に向かっても不思議ではないのだが……、幸いなことに、彼女に同情した宮廷に勤める者たちの支えと優しさにより、奇跡的にもザシャアは清い心のまま成長して行ったのだ。


 神殿の力は絶対である。王はゆくゆくは自分の女にしようとしていたザシャアを神殿に取られてしまうことに強く反発し、抵抗したのだが、強大な神殿の力の前に屈せざるを得ず、ザシャアは無事に神殿に神子として務められるようになる。


 よかった!神殿権力もたまにはいいことをするもんだな。


 そして、やがて成長して17歳になったザシャアは、俺の后となり、もはやクソ野郎ども、王族どもの魔の手から完全に逃れられたのである。

 完全に逃れられた?……いや、クソ野郎どもをこのまま生かしておいてはダメなような気がする。ヤツらもしっかりとマークしておこう。


「なるほど。苦労したんだなぁ。ありがとう、闇に落ちずによくがんばったな」

「……は・い」

「そうだっ!ザシャアのお母さんさえ良けりゃぁなんだが、俺たちの近くに住んでもらわねぇか?どうだろう?」

「母に聞いてみないと分かりませんが、私は嬉しいです」


 ……まだシェリーとの約束の時間までにはちょっとあるな……。


「今から一緒にお義母さんのところに行って、誘ってみねぇか?どうだ?」

「はい。ダーリンさえよろしければ……」

「よし、決まりだ!場所を教えてくれ」


 マップを空中に映し出し、ザシャアにアニッサの居場所を示してもらう。


「よしっ、場所は分かった!おいで!……転移!」


 俺はザシャアの腰に左腕を回し、グッと自分の方に引き寄せると、転移によって

アニッサの居場所へと向かう。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 アニッサのところに来て良かった。

 アニッサは体調を崩しており、病床に伏していたのだ。

 風邪なのか?病状は思わしくない。


「お、お母さん!……ああ、なんてこと!病気だったなんて……」

「修復!」


 アニッサの身体が淡い緑色をした半透明な光のベールに包み込まれた。そして、その光はすぐに消える。

 アニッサの顔色が見る見るうちに良くなっていき、荒かった息も正常に戻る。


 アニッサの寝間着は汗でぐしょぐしょだ。

 俺は"見えざる神の手"を出して、アニッサを優しく空中に浮かせるように掴み、

今あるベッドを消滅させて、新品のベッドと寝具を生成し、設置する。

 アニッサをベッドには寝かせず、そのまま空中に浮遊しているような状態にしておいて、俺は目を閉じる。さすがにお義母さんの裸を見るわけにはいかない……


「衣服類消去!浄化!……衣服類を生成して装着!」

「うわっ!」


 ん?お義母さんの意識が戻ったようだ。

 急に裸にされたかと思うと、瞬時に下着や服を装着させられたんだからな、驚くのも無理はない。

 俺は"見えざる神の手"を操作し、お義母さんをゆっくりとベッドへと寝かせる。


「ダーリン、ありがとう!ううう……」

「ダーリン?ザシャア、この方は……?」

「うう…、わ、私のダーリン。上様よ。私、お后に選ばれたの」

「まあっ!素敵っ!夢が叶ったのね!?」

「うん!そうよ!」

「よかったわね。うふふ」

「それより……どうして病気だって知らせてくれなかったの!?」

「ごめんね。軽い風邪だと思っていたんだけど……なんか急に悪化してね。誰かを呼ぶこともできなくなってしまって……もうダメかと思っていたんだよ」


「ああ、ダーリン!私をここへ連れてきて下さり本当にありがとうございます!」

「いや、まさかこんなことになっているとはな。来て正解だったな?」

「はい」

「上様、娘がお世話になります。私はこの子の母親で、アニッサと申します」

「お義母さん、こちらこそよろしくお願いします」


 俺とザシャアは、アニッサに、俺たちの側で一緒に暮らしてもらいたいと考えていることを伝えると、彼女はちょっと考えたようだが、すぐに俺たちの側で暮らすことを了承してくれた!内心ではそれを望んでいてくれたのかも知れない。


「お義母さん、多分何も食ってねぇだろう?俺たちと一緒に宴に行こうぜ!」

「でも……そんな華やかな場所に着ていく服が……」


 さっきまでいた宴を思い出す。出席者のご婦人たちがどんな衣装を着てきていたのかを思い出し、アニッサに似合いそうなものを、レプリケーターのデータの中から検索して生成してみる。


「これはどうだ?お義母さんに似合いそうだが、良かったら着てくれ」

「まぁ!素敵!……でも、よろしいのでしょうか?」

「ああ、もちろんだとも!よく似合うと思うぜ!」

「あ、ありがとうございますっ!」

「うわぁ、素敵!これを着て一緒に宴に行きましょうよ!?ねっ?」

「うん!そうするわ……………………んん、ん!」


 ん?ああ、後ろを向いていて欲しいのか。なるほど。気が付かずごめん。

 俺は彼女の着替を見ないように後ろを向く。


「よし!これでいいか?着替は見えないからいいよな?」

「はい。す、すみません」


 お義母さんといっても、早くにザシャアを生んでいるので、まだまだ34歳だ。

 女盛りの真っ只中だからな。乙女心は失ってはいない。当然だ。

 ん?エルフの女盛りって……???


「ダーリン、お待たせ!もうこっちを見てもいいですわよ」

「おおっ!綺麗だ!すげぇ似合っているな!」

「あ、ありがとうございますっ!」


 アニッサが頬を染める。か、かわいいなぁ。

 中身がオッサンである俺は、妙に30代の女性に心惹かれてしまう。

 アニッサの母親だけあって、ものすごい美人だ。


 こうして、ザシャアの母親、アニッサと一緒に宴の会場へと転移で戻ってきた。

 俺たちが突然転移して来た事への驚きと、俺たちと一緒に現れた素敵なドレスに身を包んだすごい美人であるアニッサの美貌に会場にいた人々が一瞬、息を呑み、固まる。会場は水を打ったようになる。


「ダーリン!すごい美人じゃないっすか!ちょっと見ないと思ったら、またどっかから新しい嫁を見つけてきたんっすか?やるっすねぇ!?うふふっ!」

「ば、バカなことを言うなっ!この人はザシャアのお母さんのアニッサさんだ」

「初めまして。ザシャアがいつもお世話になっています」

「い、いえ!は、初めまして!あ、あたしも、ザシャアさんと同じくダーリンの嫁のウェルリです、よろしくお願いします!」


「ささ、お義母さん、何か食べませんか?」

「あの……すみません、上様。できれば……私のことは、アニッサと呼んで下さいませんか?お義母さんですと、どうも自分がすごい年寄りのような気がして、気が滅入ってしまいますの。お願いできませんか?」


 そうだよね。乙女心、分かるよ。


「分かった、アニッサ、さあ一緒に飯を食おうぜ!」

「はい!」



 ◇◇◇◇◇◇◆



 俺とハニーたち、アニッサ、エルガラズガットの村長のミィミィ・ガアイゼレ、宴に参加しているハニーたちの両親たち、オークから助け出した女性たちと一緒に談笑している。いつしかみんな、気が置けない仲間といった感じになっている。

 まだそんなに時間が経っていないのに不思議だ。もともと相性が良かったのかも知れない。ムードメーカーのウェルリがいてくれるから会話も弾む。彼女の存在も大きいな。

 それにしても、ホント、ずっと昔からの親友のようだ。なんて楽しいんだ!

 後で今夜の宿泊先に招いて2次会を開こうかな……。


 俺たちが仲間内だけでゆっくりと話ができるのは、オークドゥのお陰でもある。

 俺たちを守るかのように、2mを超す長身のオークドゥが睨み付けるため、他の宴参加者は俺たちに近づきたくとも近づけない雰囲気になっている。

 俺たちにすり寄ってこようとする、妙な輩が近づいてこないのはありがたい。

 彼は、オークに攫われた女性たちが彼を怖がるので気を使って、我々からは少し離れたところで護衛を務めてくれているのだ。


 みんなは楽しんでいる。みんなの顔を改めて見直してみる……

 ……つらい経験をしてきた者たちにも笑顔の花が咲いている。正気を失った子も楽しそうに、にこにこしている。その笑顔を見た瞬間、胸が締め付けられる……

 なんとかしてやりてぇなぁ……。




 神殿関係者に呼ばれて一旦席を外し、野暮用を済ませて帰ってくると……


「どうかやめて下さい!」


 俺が席を外している間に、どうやら問題が発生したようだ。アニッサの声か?


「どうした、アニッサ?」

「ああ、上様!助けて下さい。国王様がまた……」


 国王、カイゼルンの手を振りほどき、アニッサが俺の胸へと飛び込んできた。

 アニッサはガタガタ震えながら嗚咽を漏らす。かわいそうに。


 どうやら国王がアニッサに気付いてちょっかいを出してきたらしい。

 ドレスアップして美しさに磨きがかかったアニッサの、その美しさに惹かれて、再び自分のモノにしようと考えたらしいのだ! 許せんな!クソ王めっ!


 アニッサは俺のことを男とは見なしてないのか、こうして俺の胸に飛び込んでもなんともないようなのだが、実は彼女は、王に凌辱されてからというもの、極度の男性嫌いになってしまっている。

 その元凶が彼女の手を掴み、連れ去ろうとしたのだから、彼女の恐怖といったら計り知れない!


 このクソ野郎が、ザシャアの父親じゃなければ、絶対に、アマゾネス・オークの生け贄にしているところだっ!……しかし、こんなヤツが国王とはなぁ……。


 なぜか、シホはこの場にいなかった。他のハニーたちは、相手が国王なので為す術がないというように、ただただ身構えているだけである。


 ザシャアは唇を真一文字に結び、その目は国王を睨み付けている!


 ハニーたちはみんな、この状況をなんとかできるだけの力を持っている。だが、相手が国王ということで手出しができないのだ!さぞや悔しかろう!


 カッチーーーン!頭にきた!

 ぺしっ!……ぐべっ!ぐはっ!ドサッ!ズサッ!…………


 無意識のうちに王にデコピンを喰らわせていた……

 だから、そう!いつものあれだ。あれが起こっている!

 王は強制的にバック転をさせられて、地面を何度もバウンドしながら吹っ飛んで行ったのだ。


「き、貴様っ!我が君に何をする!そこになお……」

「無礼者はどっちだ!上様に対して不敬だろう!」


 国王の側近が俺に斬りかかろうとした時、オークドゥが素早く立ち塞がり、王の側近のみぞおちに、極極、"かるーく"パンチを入れた。


 ぐはっ!…………ズザンッ!


 極極"かるーく"に見えたんだが……肺の中の空気をすべて吐き出したかのような声を出したかと思うと、王の側近は身体を"くの字"に曲げて、10m程吹っ飛んで行き、地面を転がる……


 あらら、白目を剥いて伸びちまったか。うわっ!口から泡を吹いているぞ!

 いやぁ~凄まじきかな!ロイヤル・オークのパンチ力!


 王の側近ごときでは、俺をどうこうすることはできないのだがなぁ……。

 俺を庇ってくれたんだから、一応、オークドゥには礼を言っておこうかな。


「ありがとうな、オークドゥ!」

「ははっ!」


 国王、カイゼルンが部下を数名連れて、よろけながらこちらへと来る。


「おいっ!カイゼルン!てめぇ、よくも俺の大事なアニッサにちょっかいを出してくれたなぁ?覚悟はできてるんだろうなぁ?」

「あ、アニッサは私のものだっ!私が先にツバをつけたんだ!

 アレを女にしたのは私だぞっ!だから、当然、私のものなのだっ!

 いくら神だからといって横取りは許さないっ!こちらへ渡してもらおうかっ!」


 あーあ、ダメだなこりゃ……。

 折角、生かしておいてやろうと思っていたのになぁ……やっぱり、アマゾネス・オークの生け贄にしてやるかぁ……。


 だがなぁ、ザシャアが悲しむかなぁ?もうちょっとだけ猶予をやるかぁ……。

 ま、取り敢えず……懲らしめるかっ!


「てめぇ誰に向かって偉そうな口を利いている?……四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「したくねぇけど……修復!」

「はぁはぁはぁ……」


「何が『私のものだ』だぁ? クソ野郎がっ!てめぇのせいで、彼女の心には深い傷が残っちまっただろうが!?てめぇは王なんかじゃねぇっ!ただの"ひひ爺"だ!性犯罪者のクソ野郎だ!ボケっ!……四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 こうしている間に全知師に依頼して、衛星を首都上空に待機させてある。

 フェイザー砲の発射準備も完了しており、後は俺の発射命令を待つだけだ。

 王城の塔を1つ消し去ることになっている。


「あーあ、したくねぇんだけどなぁ、一応ザシャアの父親だからなぁ……修復!」

「はぁはぁはぁはぁ……」


「いいか、これは最終警告だ!二度とアニッサとザシャア、俺の大切な仲間たちにちょっかいを出すな!さもないと……ぶっ殺す! 全知師!発射!」


 天空よりオレンジ色の光が差し込む。綺麗だ。

 その光は真っ直ぐに王城にある1つの塔へと向かう。直後、塔は跡形もなく消え去った。光が確認できてから、1秒にも満たない間のできごとであった。一瞬だ!


「あの塔のように、てめぇの一族を全部まとめて一瞬で消し去っちまうことなんか俺には訳ねぇことなんだぜ? なんなら今すぐまとめて地獄へ送ってやろうか?」

「ひいいいぃぃぃぃぃいっ!!」


「さあ、どうするよ?俺の仲間に二度とちょっかいを出さねぇと約束できるか?」

「し、します、します!約束します!だ、だから……い、命ばかりは!」


 国王に、ナノプローブを注入する。そして、王のイベントを修正してやる。

 行動を起こすと呼び出されるイベントにイベントハンドラを割り当て……

 そのイベントハンドラに、俺たちの仲間に悪意を抱いた瞬間に、ナノプローブが体内を暴れ回り、激痛を与えながら細胞を破壊し尽くすようにプログラミングしてやった。


 だが、こうしてしまうとなぁ……アマゾネス・オークの生け贄にはできなくなるからなぁ……つまらんなぁ~。


「リブート!」

「はっ!な、なんだぁ?」

「てめぇの身体を細工してやったんだよ!俺の仲間にちょっとでも悪意を抱くと、激痛を伴いながら死ぬことになるぜ!民のことを考えねぇ政もNGだ。

 いいか、これは嘘じゃねぇぞ?分かったか?」


 政の件は嘘だ。ちょっと盛ってやった。


「わ、分かりました。ち、誓います!」

「いいか?これがお前にとっての最後のチャンスだ。命を大切にしろよ?

 俺との約束を違えると、手足の骨がバラバラになるよりも痛ぇぞぉ~。

 その痛みをた~っぷりと味わいながら死んでいくことになるからな」

「わ、わわ、分かりました。約束を守ります」


 王を解放してやった。王と側近は這這の体で逃げていく。



 あんなやつが国王をしているような国だ……心配だから、まだ加護を授けてないハニーたちを早急に加護してやらないとな。

 シェリーの実家に向かう前に加護の付与を済ませておいた方がいいな!

 後悔だけはしたくないからな!


 新しくハーレムメンバーに加わったハニーたちに加えて、ミィミィとアニッサも加護することにした。


 つまり……


  ・バーセア・ガアイゼレ(神子)

  ・ソニアルフェ(神子)

  ・スフィリア(神子)

  ・ミィミィ・ガアイゼレ(バーセアの母親)

  ・アニッサ(ザシャアの母親)


 以上が、今回加護を付与するメンバーだ。


 早速今夜の宿泊先である屋敷内の寝所へとみんなで移動しようとした時、国王がアニッサに絡んできた時にはいなかったシホがどこからか戻ってきた。


 どうやら、国王がアニッサを攫っていく際、シホに邪魔されないように、ヤツは従者に命じて、シホを足止めさせていたらしい。

 それで、何をしていたのかと尋ねると……エルガラズガット村でのオーク退治についてうんざりするくらい説明させられたということであった。


 まぁシホをどうこうできるヤツがいるとは思えないが、シホが無事で良かった。


 シホも一緒に今夜の宿舎となる屋敷へと向かい、寝所の中に加護を授ける人々を

案内し、横になってもらうためのベッドを人数分生成した。

 みんなには、そこに寝転がってもらう。


 加護を有効にするためのリブート時に、加護を付与された者はどうしても意識を一瞬失ってしまう。だから、その時に倒れたりして怪我をしたりしないようにとの配慮からベッドの上に寝転がってもらったのである。安全を確保するためだ。


 加護を付与する作業をしている間、その他の仲間には、今夜の宿舎となる屋敷の別室で待機してもらうことにした。

 加護の付与はすぐに終わると思うが、一応、念のためにサンドイッチ等の軽食と各種飲み物を用意しておいてある。

 みんなは喜んでくれた。美味しそうに軽食類を食べている。一番人気は照り焼きチキンサンドのようだな……。


 宴に出てきた料理をちゃんと食べられなかった人や料理に満足できなかった人もいるようだから、バイキング料理を出してやった方が良かったのかも知れない。


 これから加護を受ける子たちが、羨ましそうに見ている。

 だから、加護を受ける子たちにも、加護の付与が終わったら彼女たちが食べたいものを出してあげることを約束した。やはり、バイキング料理を出してやった方が良いのかも知れない。宴の2次会をここでやるかぁ?



「リブート!」


 加護の付与は無事に終わった。もう慣れたものである。

 忘れないうちに、亜空間収納ポシェットと、ハニー仕様の極薄シールド発生装置内蔵指輪もプレゼントしておいた。

 これで、彼女たちも、その辺にいるクソ野郎ごときでは手出しできないくらいに強くなったのだ!STRもオーガ並みだ!


 先に加護したハニーたちも含めて加護を与えた者たち全員を俺の庇護下に置いている。だから、通常状態の魔物は俺の庇護下にある者たちを攻撃できなくなった。


 そう、"通常状態の魔物"は……だ。


 精神支配を受けていたり、招喚術士によって招喚された魔物や、群集心理に駆られた魔物、今日殲滅したオークたちのように、戦闘時の強烈なストレスにさられているような場合には俺の庇護は通用しない。

 また、魔物以外には通用しない。人は平気で攻撃してくるから気をつける必要がある。


 俺の加護がどういうものなのかとか、俺の庇護下に置かれるとはどういうことかとかを彼女たちには丁寧に説明したのだが、力加減については、もう一度念を押すことにした……


「明日にでも、時間が許せば、攻撃神術等の使い方を訓練してもらうつもりだが、念のためにもう一度言う!STR値がかなり大きくなっているので、慣れるまでは力加減が非常に難しいぞ。十分注意してくれよっ!

 例えば、相手の顔を、自分では、ほんのちょっとだけ叩いたつもりでも、相手の頭がグッチャグチャになっちまったり、頭だけが引きちぎれて吹っ飛んでっちまったりするからな!気をつけてくれよ!」


 "はいっ!"


 みんなは頷いた。だが、何となく顔は緊張しており、やや青い顔をしている。

 まぁ、こういう反応をしてくれるのだったら、能力に溺れてしまうようなことはないだろう……。



 今夜の宿舎となるこの屋敷には部屋がたくさんある。


 今ここにいる俺の仲間たちが全員宿泊できるくらいの部屋数はあるのだが、古い日本家屋のような建物である。まるで、平安時代の寝殿造りのような建物なので、防犯なんてことは全く考慮されていない。各部屋には鍵さえも掛けられないのだ。


 だから、この屋敷の庭に、部屋数は異なるが、人族のために生成したものと全く同じ仕様の新しい野営用のテントを1つと、新しくハニーになった女性の家族たちのためのテントが2つ。そして、オークドゥ専用の野営用テントを1つ生成して、設置することにした。

 外見はどちらも大人二人が泊まれるくらいの大きさのテントである。

 だが、中は亜空間へとつながっているから広い。


 俺たちが泊まるテントの方は……

 テントの入り口を入ると大ホテルクラスのロビーが広がっている。

 そのロビーの左右には各人の寝室へとつながるドアが20箇所設置されている。

 そして、それら寝室はバストイレ付きの洋室で、飲み物が入った冷蔵庫もある。


 もちろん、トイレはシャワートイレだ!当然だ!

 ……ふっふっふ!ここのトイレを体験してしまったら、もうこの世界の標準的なトイレは使いたくなくなるだろう!はっはっはっ!


 ロビーの中、テントの入り口とは反対側には2つのドアがあり、1つは食堂へとつながり、もう1つは脱衣所へとつながっている。

 そう、脱衣所の向こうには例によって大浴場が広がっている。もちろん高級旅館並の洗い場も用意されている……いつものやつだ!

 このテントの中には、まるで有名温泉街の高級ホテル並の宿泊施設が用意されているのである。

 この中には、俺とシホ、シェリー、神子たち6人と、アニッサ、ミィミィ村長、オークに酷い目に遭わされた女性9人が宿泊する予定だ。


 ハニーの家族用のテントは……

 入り口を入ってすぐにドアがあって、その向こうがすぐに部屋となっている。

 だが、その部屋の造りは俺たちのものと異なっていて、自分で料理できるようにダイニングキッチンがあり、そこで食事を作り、食べることができるのだ。

 日本での建物にたとえるのであれば、中級グレードの1DKの賃貸マンションのような造りにしてある。

 そして、この2つのテントには、后候補最終選考落選者でシホに連れられてきたハニー、ソニアルフェとスフィリアの両親にそれぞれ泊まってもらうつもりだ。

 ソニアルフェとスフィリアも家族と一緒に泊まりたがるかも知れないので部屋は大きめに作ってある。


 一方、オークドゥ専用テントの方は……

 テントの入り口を入ってすぐにドアがあって、その向こうがすぐに部屋となっている。そして、この部屋にも、自分で料理して、すぐ食べられるようにダイニングキッチンが用意してある。

 部屋の大きさや備え付けの設備等々は、オークの身体に合わせて、少し大きめに作られている。それが他のテントとの大きな違いだ。ロイヤル・オークはでかい!

 こちらも家族用テントと同じ、中級グレードの1DKの賃貸マンションのような造りになっている。この世界では、貴族さえもびっくりするような仕様だろう。


 オークに捕らわれていた女性たちが皆、オークドゥを怖がっていることもあるのだが、オークドゥは魔物であるし、男であるから、テントは別にした。

 後からハニーとなった二人の両親もいる。

 だが、たとえ父親といえども男であることに変わりはない。父親たちを、すごい美人たちの寝室がある俺たちのテントの中に、一緒に宿泊させるわけにいかない。

 リスクマネジメントだ。これが、家族用のテントをわざわざ別に用意した理由である。


 テントの準備とその利用方法等の説明を終えてから、庭には食堂用の建物を建設して、その中に、各種料理と各種飲み物をバイキング形式で提供しておいた。

 俺とシェリーがいない間に、みんなには、ここで宴の2次会を行ってもらおうと思っている。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 俺とシェリーは今、門の前にいる。シェリーの実家であるグラッツィア辺境伯の屋敷の門だ。その前に転移して来たのだ。当初予定した時間よりも、ちょっと遅くなってしまった。

 さすがに夜分にいきなり屋敷の中に転移するのは憚られたので、ちゃんと門から入っていくことにしたのである。


 門がある辺りは夜だというのにかなり明るい。


 門衛に話しかけようとすると、門が開き、中から1台の幌馬車が出てきた。

 御者はこちらをチラッと見ると何やら薄ら笑いを浮かべた。どう見てもまともなヤツには思えない。辺境伯の使用人にしては品がなさ過ぎる。


 幌馬車の行く手を邪魔しないように避ける。

 馬車は俺たちの横を通り過ぎようとした、その瞬間……


『助けてっ!……か、神様、助けてっ!』『ああ、神様……お助けを……』


 どこからか俺に助けを求める声が聞こえてきた!念話が聞こえてきたのだ!

 どうやらたった今俺たちの横を通り過ぎた幌馬車の中から発せられたようだ!


「おいっ!待てっ!その馬車、止まれっ!」


 "見えざる神の手"で幌馬車の行く手を遮り、強引に馬車を止めた!


「な、なんだ?う、動かねぇ!どうしちまったんだ!?」


 俺とシェリーは強引に止められている幌馬車、急に動かなくなったことに驚いている御者のもとへと行く。


「おいっ!悪ぃが荷物を改めさせてもらうぜ!抵抗は無意味だ!終わるまでそこで大人しくじっとしていろ!いいな?」

「てめぇ、何しやがるっ!こ、この荷は辺境伯様からお預かりした大切な荷物だ!てめぇのような、どこの馬の骨とも分からねぇようなガキに、荷を見せるわけには行かねぇ!……おいっ!衛兵!衛兵!盗賊だ!た、助けてくれっ!」


 衛兵がわらわらと集まってきた。だが、そいつらの魂の色は赤黒い!?

 辺境伯の部下らしからぬ者たちだ。


 俺たちはあっという間に囲まれてしまった。


「シェリー、妙だっ!指輪のシールドを展開して自身を守れっ!コイツらはどうも辺境伯の手の者ではないようだ!気をつけろ!

 後で蘇生できるからな、構うこたぁねぇ!遠慮せずぶった切っちまえ!」

「はいっ!」


 御者の魂の色は、ほぼ黒色だ!

 コイツがここでじっとしているわけがない。何かされる前にデコピンをかるーくお見舞いした!


 ぺちっ!ブシューーーッ!


「げっ!またやっちまったぁ~」


 バック転をさせてやろうと思ったのだが……頭が吹っ飛んでしまった!

 ハニーたちに偉そうに注意しておいてこのざまか!……力加減、難しいなぁ!


 そうこうしている間にも、シェリーは、俺たちを取り囲んでいる者たちをバッタバッタと斬り倒していく!

 スケさん、カクさんを彷彿とさせる見事な太刀さばきだ!ん?剣さばきか?

 見る見るうちに、一刀のもとに両断された屍の山が築かれていく!当然、辺りは血の海だ!


 殲滅には5分もかからなかった。


 俺とシェリーは幌馬車の後ろへと向かう。中を確認するためだ。

 幌で覆われた荷台を見る……暗くてよく見えない。

 ミニヨンを1体起動して、サーチライトで中を照らすように指示する……


「な、なんてことなのっ!」


 シェリーが大声をあげた!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る